Takahiro Izutani

サンレコフェス2023

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サウンド&レコーディング・マガジン主催のサンレコフェス2023に行ってきました。今回の注目イベントはSonyが開発した360 Virtual Mixing Environment(360VME)を直に体験できる特設ルームで、これは複数のスピーカーで構成された立体音響スタジオの音場を、独自の測定技術によりヘッドホンで正確に再現する技術です。一度スタジオで測定すると、立体音響制作に最適な環境をヘッドホンと360VMEソフトウェアでどこへでも持ち運ぶことが可能になるとのことです。

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早速受付をすませ、特設ルームで説明を受けながら測定をしていきます。ワイヤーが渦巻き上になった形状の小型マイクを耳に仕込み、まずはその状態で各スピーカーから個別にピンクノイズとスウィープ音を出して、その聞こえ方を測定していきます。そして次に今度がその上からヘッドフォンSONY MDR-MV1を装着して同様に測定します。各スピーカーからの再生は一回だけで、測定にかかった時間は装着まで入れても5分程度でした。

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そして今度はリファレンス用の音楽をスピーカーとヘッドフォンの両方から再生していきその違いを比べるのですが、正直自分の聴覚が麻痺してしまったのかと思うくらいに違いがわからなかったです。最初にヘッドフォンをした状態で音楽を再生された時のなんとも言えない違和感、ヘッドフォンで聴いているのに完全にサラウンドで広い空間で聴いているかの様な錯覚は衝撃的でした。MDR-MV1が開放型のヘッドフォンというのもこの感覚を作るのにかなり大きく貢献していると思います。このあとMDR-MV1を普通の再生環境で視聴することもできたのですが、非常にバランスの良い、色付けのないヘッドフォンでした。悪く言ってしまうと特徴がないということになってしまうんですが、立体音響でのリスニングを前提とした製品ということでしょうね。

そのあとは「IK Multimedia × UNIVERSAL AUDIOで組む"手が届く"イマーシブ環境」というセミナーに参加しました。こちらはIK MultimediモニタースピーカーiLoud MTMを11本セットにしたImmersive Bundleと、イマーシブ用のモニターコントロール機能をアップデートで追加したUniversal Audio Apollo x16を併せて構築した環境で体験リスニングができ、またエンジニアのニラジ・カジャンチ氏によるお話も聞くことができました。ニラジさんのお話はレクチャーと言うより「いかにAtmosにハマっていったか」の雑談でメチャメチャおもしろく、あっという間に30分以上が過ぎてしまいました。自分が特に気になったポイントは

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・5.1に見向きもしなかったUSのエンジニア達が、最近は会う度にスピーカーの数を増やしている
・Atmosミックスの正式に依頼をされるようになるまでUSのエンジニアは5年間無償でAtmosミックスをクライアントにサプライズで聞かせ続けてきた。
・Atmosミックスされた作品を分析しまくる際に最重要なのは各スピーカーを個別にミュートできること。
・今はちょっと聞くだけでAtmos作品がヘッドフォンミックス、スピーカーミックスどちらなのか識別できるようになった。
・USではエンジニアが通常のステレオミックスに加えてAtmosミックスをあわせて納品するのがデフォルト化している。

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などなど、他にも興味深いお話がたくさんありました。セミナーのあとニラジさんと直接少しだけ歓談させていただき、その際にソニーの360VMEについてどう思われているかをお聞きしたのですが、ニラジさんにとってはイマーシブ環境はAtmos一択で、なぜならこの趨勢はかつてのビデオカセットのプラットフォーム競争の様なもので、現在音楽シーンに限って言えばDolby Atmos+Apple MusicでAtmosミックスがこれほどまでに手軽に楽しめる状況は圧倒的に強力だからだとのことでした。ニラジさんはすでに242曲ものAtmosミックスを手掛けているそうですが、かつての5.1サラウンドでは担当された曲は一曲だけしかないとのことです。お金をかけてわざわざ5.1のリスニング環境を作らないと楽しめない状況には未来はないと思ったんだそうです。