Takahiro Izutani

2022年4月

海外での楽曲使用を収益にしていくには?

イタリアの伝統的な古楽器を演奏するグループEcovanavoceとのコラボレーション作品をまとめたアルバム"Mother Moon"がリリースされました。Ecovanavoceについてはこのサイトで何回か紹介しましたが、実はもう最初にやりとりを始めてから10年近くも経っています。"Mother Moon"に収録されている曲はすでにRaiというイタリアの国営放送局の傘下にあるRai Publicationという音楽出版社で管理されていてEU圏内の国の放送局のテレビ番組などで割と頻繁に使用されています。今回はその楽曲群を各種ストリーミングサービスに使う権利の整理ができたのでアルバムとしてお届けできる運びとなった次第です。
Rai Unesco 19 - Portovenere, Cinque Terre e le Isole Palmaria, Tino e Tinetto

Palermo Renaissance - Documentary - Arté and Rai 1 - Trailer from Andrea Rovetta on Vimeo.

少し前にはDugoのファーストアルバム"Lingua Franca"がドイツの国営放送のドキュメンタリー内で使用されたことをお伝えしましたが、過去に色んな形で出版管理を委託してその後ほったらかしにしてある楽曲たちがあるので、そろそろ統括して正当な権利報酬を得るための行動をしていかねばと考えています。

また他方で先日はゲーム音楽関係の出版管理をしている米国のとあるベンチャー企業から楽曲の管理を申し出たいという旨のオファーを受けたのですが、いまEU圏内ではPlayStation Networkで配信されているタイトルに関して、それが制作時に作曲家が完全買い取りの権利譲渡契約で制作した音楽に対しても著作権管理団体やゲーム制作会社とは関係なくSIE (Sony Interactive Entertainment Inc.) が独自に負担して音楽制作者に報酬を分配する枠組みができているそうです。ゲーム音楽に関しては基本的に制作時の完全買い取り契約が今でも慣例なんですが、最終的にユーザに届く形が音楽サービス同様にストリーミングになってきたりと時代の変化によって従来の法体系の枠におさまらなくなってきた結果、そういった新しい報酬システムができているみたいです。

またドイツの著作権管理団体GEMAでは著作者がたとえ非会員であってもその著作者が信託を与えたドイツの音楽出版社が代理で全世界からロイヤリティを回収できる制度ができたとのことです。これも買い取り契約が基本ゆえに著作権管理団体の会員になれないゲームコンポーザーには画期的な朗報です。これはちょっと専門的過ぎるトピックではありますが、色んなところに網を張っておいてこういう情報にもキャッチアップしていくことが後々の収益に大きな差を生んでくるのかと思います。

どこの放送局でどんな風に自分の音楽が使用されたかを確認するのには自分の場合TuneSatというウェブサービスを使っています。ここで自分が音楽出版会社に委託をしてある楽曲のmp3をアップロードしておくと、それが世界中のどこかの放送局で使用された時に自動検索で探知して実際の使用部分の音と放送局名、番組名、日付けなどが一括で確認出来るんです。あまり知られてないかも知れないですが非常に便利で、音楽出版社側でも調査確認のために使ってると聞きました。また楽曲が使用されたということは、それを気に入って取り上げてくれた人間がいるわけなので、番組名などからたどってLinkedInやFacebookで探しだした担当者に直接アプローチして売り込みをかけることも可能です。自分はまだそこまではできていませんがこういう売り込み方のTipsは洋書の「音楽業界サバイブ方法」みたいな本には頻繁にでてきますw

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TuneSatの画面。こんな風に実際の使用部分の音を再生して確認できます。

話を戻すと"Mother Moon"はEcovanavoceの楽曲を自分がリミックスする形で新しく生まれ変わらせた作品です。こちらの原曲と比べて聞いてみるのも楽しいと思いますのでよろしかったら是非。Ecovanavoceというのは造語だそうですが、回文になっていて「古い文化と新しい文化」「西洋と東洋」などが鏡写しの様に融合したハイブリッドな音楽を目指すというコンセプトで名付けたそうです。このネーミングの粋な感じに共感したのがコラボのきっかけでした。