Takahiro Izutani

2021年4月

大量のアウトプットを生むための過去ストック活用法



Dugoのニューシングル"Gleam In The Deep Sea"が4/29にSpotifyでリリースになります。

こちらはSpotifyリリース前のプリセーブ用のリンクになります。

今回のトラックは実は10年以上前にとある映像作家の方とのコラボレーション用に制作したものが元になっていて、それを今のツールと今の音楽性で大きく刷新して再構築しています。かつては昔の素材やアイデアを使い回すようなことには抵抗があったのですが、いまは自分が何らかの形で制作してきたものは未完成のもの、断片、音色のデータまで含めて全て資産だととらえているので今後も積極的に活用していこうと考えています。

かつて聞いた話では、スティール・パン奏者で前衛音楽家のヤン富田さんは数万枚のレコード、CDコレクションから任意の楽曲がどこに収録されていてどこに収納されているかを瞬時に見つけ出せるようにして「使える知識」として管理していたそうです。同様に制作に関しては過去のアイデアの断片を瞬時に引っ張り出してきて再構築できるように脳内とストレージ内を管理しておくことが大量にアウトプットしていくために必須だと考える様になりました。若さを失うのと引き換えに得た「積み上げた知識と経験の資産」こそが自分のオリジナリティの源泉として強力な武器になると実感しているからです。

過去の資産の有効活用ということで言えば、近年では音楽活動上も同様の変化が起こっています。現代の音楽活動の主流がCDなどのフィジカルなリリースからストリーミングサービスやソーシャルメディアでの投稿によるネット上のプレゼンスに重きが置かれるようになってから、パッケージ製作、流通、プロモーションなどにかかるコストは激減、もしくは限界費用ゼロにまで下がりました。そんな誰でもが同等に音楽活動ができる状況下ではアーティストはとにかく潜在的なオーディエンスの目に触れる機会が重要であり、リリース量や制作物の質、その方向性を制限して管理する意味がなくなっています。いわゆるロングテールの戦略をとって過去の資産も最新のものと同等に扱い、いつどんな作品がバイラルになってもいいようにしておけばいいのです。

また音楽ジャンルの多様化や、古いものと新しいものが完全に同じプラットフォームで同居できるようになったことで、何が最新の音楽で何が時代遅れなのかという区分けが消滅し、最新の音楽を知っているということに対するスノッブな選民思想も過去のものになり、個々のアーティストがクールかダサいのかはその活動スタイルに大きく依存するようになっていると感じます。

その指標となるもののひとつに作品の発表の場として何を重視するかということがあります。ライブをメインにするというのはCOVID-19以降はほぼ不可能になりつつありますし、事態が終息したあとでも何かしらの制限がついてまわるはずです。ヴァイナルの販売やマーチャンダイズがメインというのもひとつの手でしょう。自分の場合はInstagramの各種投稿とSpotifyでのリリースを圧倒的に重視しています。Instagramでは短い動画付きでちょっとしたサウンドロゴや数十秒の楽曲をアップしていますが、それもオーディエンス獲得のためのゲートウェイとして注力し、手間と時間をかけて制作しています。そして見せ方を変えたりしつつ段階的に尺の長いコンテンツにつなげていき、最後にSpotifyがランディングページとなるようなイメージで導線を作っています。ここの個人ウェブサイトを作ったときに実はその様な用途で色々なコンテンツの発信の場として機能するようにするプランもあったのですが、当時はまだそのような考え方は一般的ではありませんでした。今の様にユーザが共通のプラットフォームでコミュニケーションをとれるようになって初めてワークするアイデアだったかもしれません。

さて、昨年の10月にDugoの活動再開となる"Recluse EP"をリリースして以来ほぼ7ヶ月が経過してようやくSpotifyの月間ユニークリスナーが15000人を超えるところまできました。まったく先が見えないままでひたすら制作を続けて可能性を探るのはなかなかきつかったのですが、あと少しでデータを見ながら戦略をうてるくらいの数字に達することができると考えています。またもうすでに次回リリース予定のEPの制作が佳境に入っているので、近いうちにそのこともお知らせできそうです。どうぞご期待下さいませ!