現在取り組んでいるプロジェクトでのサウンドメイキングのためにApprehension Engineと呼ばれる完全ハンドメイドのホラーサウンド生成楽器を導入しました。この楽器については昨年のGDCに参加した際にCalisto Protocolというホラーゲームの音楽制作で知られるコンポーザーチーム、Finishing Move Inc.のBrian Lee White氏にインタビューを行った際のブログに詳しく書きました。以来入手する機会をうかがってきており、今回ついに入手することができました。
元々この楽器は映画「Cube」の音楽を担当したカナダの作曲家Mark Korven氏が考案したものですが、自分はネットを介してポーランドのビルダーと交渉して購入しました。中にはスプリングリヴァーブ、4個のピエゾピックアップと2台のプリアンプ、そしてギターにもピックアップがあり、このマシンから出せる全ての音はノイズレスのスーパークリーンな状態でアウトプットできます。また追加のピエゾを入力できるインプットも2箇所設置されています。演奏はヤスリで削ったスーパーボール、バイオリンの弓、E-Bow、音叉、スライドバーなどなど工夫次第で驚くほど多様なサウンドが作れます。現在、独自のサウンドを作り出すために積極的に実験を行っています。
画像は昨年見に行った森美術館の「STARS展」より
メルボルンに続いて先日はロサンゼルスで近年開催されているGameSoundConというゲーム業界のオーディオセクションに特化したカンファレンスに参加してきました。GDCに比べると分野が特化されているために規模は小さいですが、その代わりにどのセッションも全てサウンド関連のものなので二日間の開催期間中息つく暇もなくセッションに参加しました。今回はその中からCall of Duty WW2やMortal Kombat 11と言ったAAAゲーム作品の音楽も手掛けたWilbert Roget, II氏のレクチャー"Playing the Long Game: My 25-Year Journey to Mortal Kombat 11"をレポートします。
このレクチャーのメインテーマは音楽のことよりもズバリ「長期的な信頼関係」でした。彼のキャリアの中でいかに友人、知人との長期的な信頼関係が自分のピンチを救い、チャンスを生かし、さらには新しい事へのチャレンジと学習に繋がったかという話でした。そして彼の現在の成功こそがその証明であると。
例えばかつてLucas Artsにインハウスコンポーザーとして在籍していた時代に最もご自身が多くの貢献をしたStar Wars: First Assaultというタイトルでは制作途中でディズニーによるLucas Artsの買収によってプロジェクト自体がキャンセルされてしまい全てのスタッフが解雇されてしまったそうです。プロジェクトはアビーロードスタジオでオーケストラレコーディングを終え、完成まであと一ヶ月のところだったとのこと。しかしこの事がきっかけでフリーランスになった彼はのちにこのプロジェクトの時の同僚を介してCall of Dutyの制作会社であるSledgehammer Gamesに紹介してもらい、COD WW2のコンポーザーとして起用されることになりました。(前回のブログで書いた打楽器を全く使わせてもらえなかったコンポーザーとは彼のことです)さらにCall of Dutyのサウンドデザイナーの1人がMortal Kombat 11の制作に関わってると知り、その彼に自分をディレクターに紹介してもらえるか頼んでみたそうです。そのディレクターは彼の過去の仕事をあまり知りませんでしたが2016年に彼が登壇したGDCでのレクチャーに参加していたことで軽い面識があり、またタイミングがよく彼らは次のコンポーザーをリサーチしていたところでした。そこでオーディションとしてテーマ楽曲のデモをプレゼンする機会を得た彼は楽曲を仕上げたのち、曲のテーマを演奏する楽器のソリスト達を雇い、彼らのレコーディング時の演奏シーンを撮影してデモ楽曲に当てはめたムービーを作成し、それをディレクターにプレゼンしてメインコンポーザーの地位を勝ち取ったとのことです。
また新しい出会いが未来の次の出会いに繋がるのと同様に、目前に立ちふさがった困難やチャレンジの機会が新しい知識を学習するきっかけになり、さらにはその知識が次の機会につながっているという話も大変興味深いものでした。
16歳でFinal Fantasy 7の音楽に感銘を受けてゲームコンポーザーを目指す様になった彼はまず様々な楽曲のmidiへの書き起こしをひたすら続けることで作曲の基礎を学んだそうです。そしてイェール大学を出た後に入ったLucas Artsではインハウスコンポーザーの立場から音楽のインタラクティブシステムを1から作り上げる経験を経たことで、後にフリーランスになってから彼自身がLucas Artsで作ったシステムに影響された他のタイトルに今度はメインコンポーザーとして呼ばれることになったと。この際にはディベロッパーからゲームエンジンとデベロッパーツールが全てインストールされたPCを渡されてまるで新しく雇われたインハウスのスタッフのように扱われることでさらなるインプリメンテーションの知識と経験を得ることになったそうです。
またCall of Duty WW2の制作時にそれまではCODシリーズで必須とされていたシンセサイザーのサウンドメイキングをU-he Zebraを使って徹底的に学んだにも関わらず実際にはシンセサウンドを全く使わない方向性が決まってしまったのですが、その後その際の知識を使ってDensity 2 Forsakenというタイトルではアナログシンセのサウンドを作曲に取り入れ、Mortal Kombatではむしろオーケストラをバックにしてシンセをシグネイチャーサウンドとして使うアプローチを活用し、さらにはCOD WW2で使われていた兵器や乗り物の機械音をシンセサイズ加工してスタンダードなオーケストラパーカッションの代わりに使ってたりもしているそうです。こんな感じで彼のキャリアはチャレンジと学習の連続、そして出会った人との信頼関係が新しい機会に巡り合うきっかけになり、その機会がさらに新たな学習の機会を生み、そこで得た知識が後年の新たな出会いのきっかけになってます。
自分がこのセッションに特に感銘を受けたのは彼が重視する「長期的な信頼関係」と同様に自分が今年参加した日本国外のゲーム業界のカンファレンスでは出会う人達がみな人との出会いに対して長期的視点で投資するマインドを持っていると感じ、Willさんのキャリアはそれを象徴する様なものだったからです。自分がかつて日本国内のイベントや懇談会に時おり参加してた際には肩書きや「誰それと知り合い」などの後ろ盾がなかったからか、なかなか単純に人対人として打ち解けて話をするきっかけが作れず悪戦苦闘していました。それに対してGDCやPAXでもそうでしたが、今回のGSCでは特にWillさん自身から声をかけていただいたり、Finishing Move inc.のお二人から「GDCのときに会ったよね」と声をかけてもらったり、かたや日本のゲームにあこがれてコンポーザーを目指しているという現地の学生の方からも連絡をもらって実際に会ったりと本当に互いの現時点での立場に関係なく話して打ち解けることができました。(日本人の方ではHaloシリーズのメインコンポーザで米在住の陣内一真さん、Platinum Games所属コンポーザーの原田尚文さんや同行されていたサウンドチームの方達と食事する時間を作っていただきました。)このマインドの背景には「長期的視点」つまり今お互いに仕事でつながる関係ではなくても5年後、10年後に実際に協力しあえるタイミングが来るかもしれないという考え方と、肩書きでなく人のファンダメンタルに対して自分の時間を投資するという意識があるんだろうということを感じました。いま実際に自分自身のキャリアを考えるとそれなりにターニングポイントになっているプロジェクトに繋がったきっかけが知り合って10年以上経って初めて実際に一緒に仕事をする方だったなんてこともあります。そしてまた出会う方がみな「いかに自分が持ってるものを他人とシェアできるか」という姿勢でコミュニケーションしてくるんです。「自分はこういう仕事をしてるからこういう情報だったらまかせてくれ」とか自分の住んでる国や街のローカルな事情をシェアしてくれたり、「こういう人だったら紹介できるよ」など。これもシェアすることが回り回って最終的には自分を含む全てのひとの財産になりうるという考え方が根底にあるからなんだろうなと感じました。自分も含めてのことではありますが、もし海外でネットワーキングすることを考えていらっしゃるようでしたら「自分が何をシェアできるか」という準備をしておくと確実にうまくいくと思いますよ。
最後にWillさんがレクチャーの中で紹介していたオリジナルのKontakt用ストリングスサンプルのダウンロードリンクをこのブログに貼る許可を、ご本人からいただいたので下に載せておきますね。
https://www.dropbox.com/s/p3t932rwyubn1si/StringsOverpressurePatch.rar
これはMortal Konbat 11の制作の際にブダペストで行ったオーケストラのレコーディングセッションの最後の残り2分間で急いで録音したものだそうです。non vibratoとover pressure(弓を弦に強く押さえつけてノイズっぽいサウンド混じりにする奏法)の切り替えをモジュレーションホイールでシームレスに切り替えられるパッチです。これをWillさんはご自身でプログラムしたそうです。それとWillさんは自分がほしいサウンドを追求するために立ち上げたImpact Soundworksというサンプルライブラリーのブランド共同設立者でもあります。
Games Weekレポートの最後にPAXで参加したオーディオ系のセッションの中からSledgehammer GamesのサウンドチームによるCall of Dutyシリーズに関するプレゼンテーションの内容を紹介します。
前回のブログで書いたようにPAXではGDCスタイルの様々なゲーム関連のセッション行われていたのですが、その中でもこのセッションは目玉でかなり多くのゲームオーディオに関わっていると思われる人たちが開場前から列をなしていました。
Sledgehammerサウンドチームの哲学はスタートアップ企業の精神で常に前回とは違う新しいことにチャレンジすることで、プロジェクトごとに個別の成果を出すために決まりきったやり方から脱却して積極的に実験してみること。また即興的にアイデアを試してみること。そしてそういうった試みの中からこそ、それまでとは異なる結果がもたらされるということでした。
まずは適切なリファレンス環境を共有するためにオーディオチームが作業する全てのスタジオをキャリブレートして同一のモニタリングができるようにしたとのことです。これはチームのメンバー間でデータのやり取りを行っている際にそれぞれのモニタリング環境が異なっていると足りないものを補おうとして徐々に音圧をあげていくような音圧競争(Arms Races)が起こってしまうからだそうです。一見音響の技術的な側面での調整に見えることですが実際は属人的な側面から起こり得る問題を避けるための施策になっているのが実にクレバーです。
またゲームのユーザは今の時代は様々なスピーカー、もしくはヘッドフォンでサウンドを再生することが予想されるのでダイナミックレンジの違いが再生環境でどう変わるかを確認することが必須であると。特にCODの様なゲームの場合は環境音と銃声のバランスが臨場感を演出するのに非常に重要なのでレンジ幅の設定は入念に考慮して決めていったそうです。これは上に書いた音圧競争回避とも密接に関わってくるテーマです。
このバランスを維持して臨場感を演出するためにCall of Duty: WWII ではコンポーザーに対して「楽曲内でドラムとパーカッションを一切使わない様に」との指示をしたそうです。
「事前にサウンドチームがすべての状況を実際に経験するというコンセプトの元に録音を進めていったのですが、例えば誰かが銃を撃つのをそばで聞いているのと自分で実際に撃つのは全く違う経験です。オーディオチームというのはゲームオーディエンスに対して唯一物理的に接触できる存在で、例えばユーザがプレイの際にサブウーファーを使っていれば、ゲームサウンドがそれをキックすることでオーディエンスは単にサウンドを聞くだけでなく、物理的にそれを体感することができるんです。そこでオーディオチームは実際に音が発生する状況に身をおいて、どう聞こえるかではなくどう感じるかを体験することが必要だったんです」
自分自身で実際の銃を撃ってみるだけでなく、頭上15フィートでヘリコプターが通り過ぎるのを体験するのはどんなものか、ヘリの飛行時に空いているドアから外に身を乗り出すのはどんな感覚か、これらの危険なことはCall of Dutyの世界の中では頻繁に起こる状況なので全て実際に体験してみたとのことです。
そして「Recording Small, Designing Big」という考え方を心がけ、例えば周囲で常に爆発が起こっている様なゲームプレイのシーンではプレイヤーの頭上からヘルメットに降ってくる砂の音を環境音の最下層にレイヤーしておくことで臨場感の演出にとって絶大な効果を生み出すことができたんだそうです。
また森の中の戦闘では爆弾の破片よりも爆発によって飛び散る木片のほうが実際は遥かに危険なので、オーディエンスにそれをリアルに認識してもらうためにあえて爆音に対して実際よりも大きめの音量で樹木が破裂して木片が飛び散る音をレイヤーしたそうです。そのために近くの森にハンマーを持っていって枝を揺らして折ったり、家族とハイキングに行くときにもレコーダーを持っていったりと常に素材集めの機会をうかがっていたと言っていました。
Call of Duty Avanced Warfare 3ではフォーリーの録音についてもそれまでの慣習を捨ててスタジオからでて、より実際の状況に近いロケーションで録音したそうです。例えば川を歩く音を録りに浅瀬のプールに行って、その音をスタジオで聞いてみたらやっぱりプールで歩いている音になっていたとw プールの壁の反響音があるうえに、川では川底の深さは一歩一歩すべて違い、それゆえ水の音も一歩一歩全てランダムに異なるものになるからです。
そんな風に日々「いかにリアルな音を探すか」に熱中していたら、ある日、自宅の外で戦車の音がするので驚いて外に飛び出したらゴミ収集車がマシンアームでゴミバケツを掴んで持ち上げてる音だったとw 結局その音はWater Tankのサウンドとして使うことになったとww
最後に実際に撮ってきた動画をアップしてみました。Call of Duty WW2のクライマックスシーンのひとつに実際の録音状況を重ねて参照したプレゼン動画です。
前回に引き続きGames Weekのレポートです。Games Weekでは期間中に様々な団体によるイベントがメルボルン市内で開催されますが、その中でもPAX AUS (Penny Arcade Expo)というシアトル発のゲーム関連のコンベンション、エキジビションイベントが最大の目玉です。今回はスケジュールの手違いでここでの自分のスピーチは決まらなかったのですが、High Scoreのスピーチを見に来ていたオーディエンスがPAX会場で頻繁に声をかけてきてくれたおかげで多くの交流が持てました。今年3月のサンフランシスコのGDCに参加した時には何もつてがない状態でひとりで飛び込んだ様な形だったのでネットワーキングするにも苦労しましたが、今回は得るものが多かったです。前回のブログにも書きましたがシドニーやオーストラリアの他の街や他国から来ているひとの割合が意外に多く、ここでもゲーム産業のハブとしてのメルボルンの価値がこれから上がっていく可能性を実感しました。
PAXでは正式な形でのビジネスミーティングの様なものはスケジュールに組み込んでなかったので会うひと会うひとと楽しく雑談してまわっていたのですが、ネットワーキングする上で外国の方と最初に打ち解けるにはお互いの国の文化のあるあるネタで盛り上がるのがとても有効です。例えばある人に「何で日本では店先に水を撒いたりするのか」と聞かれ「あれは道が舗装されてなかった時代に飲食店が衛生上行ってた事が慣習化したんだ」と説明したらとても府に落ちた様でした。オーストラリアは昔から水が貴重なのでなぜ日本みたいに街が清潔な国がわざわざ水を無駄にするのか理解不能だったとのことです。
また自分が驚いたのは現地の方がある会話の中で「オーストラリアではカンガルーはペストなんだ」と言ったことです。ペストとはまさに病原菌のペストで、つまりほっとくと増え過ぎて収拾がつかなくなる困った存在というほとんどゴキブリの様な意味で言っていて、さらには「どんどん獲って食べた方がいいけど肉が筋肉質で硬いので食べにくいんだよ」とのことで何とも意外な話でした。せっかくセンシティブな話題が出たのであえて「捕鯨のこととかはどう考えてるの?」と聞いてみたところ「一部の反捕鯨組織みたいな考えのひとはほとんどいないし捕鯨が日本の文化だってことも知ってるよ」と、しかし「でも以前に知り合いの日本人に鯨っておいしいの?って聞いたら特別に美味しいものってわけではないって言ってたんだ、だったらあえて捕る必要があるのかなとは思う」と言われてしまいました。その彼が言いたいのはつまり鯨料理が抜群に美味しければ勝手に広まっていって反対意見なんてねじ伏せてしまうだろうということでした。これには自分も参りましたが「反捕鯨活動は日本人の伝統文化に対するアイデンティティ・クライシスを誘発して逆に捕鯨文化を下支えしてる面もあるんだよ」とも伝えておきました。
High ScoreとPAXの間に二日間オーストラリア最東端のバイロンベイという美しい海辺の街にも休暇で行ったのですが、そこで高台から沖の海をみると鯨やイルカの群れを見ることができて、それはまさにこの世のものとも思えない程の美しい光景でした。こんなものを日常的にみていたら感情的に反捕鯨に向かう感覚もわからんでもない気がしました。カンガルーの件も含めて感情的にもつれた文化的なコンフリクトは実際に現地で体験しないと実情は伝わらないなと思いました。
PAX最終日にはCD販売の特設会場を用意していただいたので自ら売り子として精力的に自分のアルバムや他のBrave Waveからのリリース作品を売っていきました。こういう場所ではまだフィジカルの製品は強いのですが、自分が一通り商品内容を説明したあとで実際の音を自分のスマホからSpotifyで試聴して確認してからどれを買うか決める人が多く、今の時代の複雑な音楽業界事情を反映したおもしろい現象だと思いました。購入後は早速パッケージを開けてインナースリーブにサインをするのですが「何か日本語を書いて欲しい」というお客さんには即興でその方の名前を当て字で漢字にして書いてあげてその漢字名の意味を説明してあげました。これは外国では鉄板でウケるんです。
次回、最後はPAXで参加したオーディオ系のセッションについて。
今回は先日参加したメルボルンでのGames Weekのレポートになります。まずはKeynote Speakerとして登壇し、パネルディスカッションにも参加したHigh Score 2019というゲームオーディオに特化したイベントから。High Scoreは近年メルボルンの中で新興のゲームデベロッパーが集積するThe Arcadeという非営利目的で組織されたワークプレイスで開催される交流イベントです。The ArcadeのコンセプトはボストンのCambridge Innovation Center(CIC)のやロンドンのLevel39にも似たベンチャービジネス間の容易で頻繁な交流を可能にするための環境ということです。
This is a report of Games Week in Melbourne the other day. First of all, I'd write about the event called High Score 2019 that specializes in game audio, which I took part as a Keynote Speaker and participated in the panel discussion. High Score is a networking and presentation event held at a non-commercial workplace called The Arcade, which is a collective of emerging game developers in Melbourne. The concept of The Arcade is to make an environment that allows easy and frequent exchanges between venture businesses similar to the Cambridge Innovation Center (CIC) in Boston and Level 39 in London.
The Arcadeの位置するメルボルンの南側エリアは中心地の雰囲気とはかなり異なり、いわゆる高層ビルなどはなく明らかな観光目的のための建物や店もなく、落ち着いていながらも新しくビジネスが立ち上がる雰囲気を彷彿させる新興エリアという感じです。というのもオーストラリアの中ではシドニーに比べてまだこちらは不動産価格の高騰がなく、家賃が安く抑えられており、さらにはヴィクトリア州からゲーム産業に対して成長産業としての助成金が投入されていることもあって、オーストラリア中から多くのスタートアップとさらにはそれに付随してビジネスチャンスを求めるゲーム関連のクリエイターも多く移り住んで来ているとのことで、まさに街の雰囲気だけでなく、ビジネス環境的にもかつてのブルックリンやベルリンにとても近いという、今後の成長を予感させる街です。
Melbourne's south area, where The Arcade is located, is quite different from the central Melbourne's atmosphere, there are no so-called high-rise buildings, no obvious constructions or shops for tourist purposes. It feels like an emerging area that is reminiscent of a new business startup atmosphere. This is because there is still no real estate price rise in Melbourne compared to Sydney, the rent is kept cheap, and further, a certain amount of subsidy has been put in from Victorian Government to the game industry. As a result, many startups from all over Australia and many games related creators seeking business opportunities have also moved in. Not only the atmosphere of the city, but also the business environment is very close to former Brooklyn and Berlin. It is a city that gives you a sense of future growth.
自分のKeynote Speechの内容は前回のブログを参考にしてもらうとして、High Score全体の雰囲気はオーディオに特化したアットホームな縮小版GDCという感じです。ただし自分がスピーチやディスカッションの最初にオーディエンスに尋ねてみたところゲーム業界志望の学生の方の割合が多く、さらに登壇後の質問や立ち話で実際に話してみると多くの学生の方は大学で作曲の専攻をとっているだけでなく、デジタル・オーディオの技術的な専門知識や業界のマーケティングまで含めて学習されている方が多く、さらには自身の楽曲を発表するYouTubeチャンネルですでに万単位のサブスクライバーを獲得しているひとまでいました。しかしそれでもなお「どうやったらゲーム業界でコンポーザーとしてのチャンスを得られるのか」を試行錯誤しるようです。またアメリカやカナダなどから参加している方も少なからずいて、近年のゲーム業界の競争の激しさを実感しました。
As for the contents of my Keynote Speech, refer to the previous blog, anyway, I think the overall atmosphere of High Score is like a cozy compact version of GDC specialized in audio. However, when I asked what kind of people was coming there at the beginning of the speech and discussion, there were a large percentage of students who wanted to be in the game industry. In addition to being majored in this field, many of them are studying technical expertise in digital audio and marketing in the industry as well, and some of the YouTube channels where they uploaded their songs already have had over 10,000 of subscribers. However, they still seem to try and error "how to get a chance as a composer in the game industry". In addition, there were a few participants from the United States and Canada, and I realized the intense competition in the game industry in recent years.
High Score期間中の3日間は2回の登壇、ゲーム関連のウェブラジオにABC(オーストラリア放送協会)の番組の計2回、またイベント後のネットワーキングパーティ以外にも主催者宅でのホームパーティや船上パーティなどにもお呼ばれされて色々と興味深い意見交換ができました。中でもホームパーティではアメリカから来ていたゲーム音楽の権利ビジネスのストラテジスト、某超大手オンラインゲームデベロッパーのオーディオコーディネーター(肩書だけではふたりとも具体的に何をやってるのかいまいちわかりませんが^^;)との話は非常に興味深かったです。ゲーム音楽の権利に関してはアメリカの著作権管理団体であるASCAPでは著作者単位ではなく楽曲単位での登録が条件次第では可能になっていることなど、また日本のゲームコンポーザーもすでにJASRACを避けて国外のPROに加盟することによって上手く自曲の管理と従来の日本での譲渡契約の受注を両立させているケースを聞きました(これは個別の条件によって複雑に権利の範囲が変わるので今なお難しい問題だとは思いましたが)またオーディオコーディネーター氏からはプロジェクト内の分業および効果的、効率的な情報のシェアに関する戦略を。また彼らおよび今回自分を招聘してくれたホームパーティの主催者(彼はゲーム音楽のレーベルと制作会社2つのオーナー)は皆もともとはコンポーザー出身ということもあって音楽に対する愛情はもとより、実際の制作環境を理解した上で現在の専門分野のスキルをうまく構築してる点が素晴らしいと感じました。
During the High Score period, I gave two presentations, appeared on game-related web radios and ABC (Australian Broadcasting Corporation) program. In addition to the networking party after the event, I was invited to the home party at the organizer's house and exchanged various interesting opinions. I was particularly interested in talking with the game music rights business strategist who came from the US and the audio coordinator who works at a certain major online game developer. Regarding game music rights, ASCAP, a copyright management organization in the United States, allows registration in units of music instead of authors, depending on the conditions, etc. I also heard that some Japanese game composers have already successfully managed their songs and received orders for transfer contracts in Japan by avoiding JASRAC and joining a foreign PRO. I think that it is still a difficult problem because the range of rights changes depending on the case. The audio coordinator also spoke about the division of work within the project and strategies for sharing information effectively and efficiently. In addition, they and the home party organizer (He manages game music label and game audio production company) were originally composers, so they love music and have built their current specialized skills well after understanding the actual production environment. I felt that it was wonderful.
さて、今回High Scoreでは日本からはファミコン時代からゲーム業界で活躍されている作曲家の松前真奈美さんと自分が招待されていたのですが、自分がKeynoteを使ったプレゼン形式のスピーチを行ったのとは対象的に松前さんは実にシンプルにご自身の偉大なキャリアを用意したテキストを読み上げていきながら要所要所のみ参考音源で説明するというスタイルでした。まず日本語で話しながら通訳を入れて英語にしていくという形で、ともすると単調になってしまい大丈夫かなと思って聞いていましたが、聴衆は実に真剣に食い入るように松前さんの一言一言に聞き入っていたんです。多くの聴衆の方が学生やまだ若いコンポーザーであり、ゲームの創世記から音楽を提供している松前さんの言葉は、ある種「神の言葉」と彼らには聞こえていたのではないかと思います。これだけゲーム業界への参入が難しく競争率の高い状況で若い彼らは「神の言葉」からなにかヒントを得ようとしているようにも見えました。と同時にゲーム創世記を作った日本のゲーム業界の歴史の重みと、今なお強い影響力を持つ資産としての強みを実感する光景でした。
By the way, I was invited to the event with composer Manami Matsumae, who has been active in the game industry since the Nintendo era. In contrast to what I gave a presentation-style speech using Keynote, Manami took the style of explaining only necessary points with a reference sound source while reading a prepared text. Firstly, she spoke in Japanese and then Interpreter spoke it in English. I thought it could be monotonous, but the audience seriously listened to Manami's speaking. Many attendees are students and still young composers, and I think the words of Manami, who provided music from the genesis of the game industry, were heard by them as a kind of "word of God". Nowadays It is so difficult to enter the game industry, and the young people seemed trying to get some hints from the words of God. At the same time, I realized the significance of the history of the Japanese game industry that created the genesis of the game and the strength as an asset that still has a big influence.
つづく
Bayonetta composer Takahiro Izutani tells us how the game music industry has evolved
・ あなたはキャリアの中でいくつかの人気ゲームタイトルを担当していますが、今日の新しいゲームと2000年代中頃の作品とで作曲に関しての違いはなんだと思いますか?
一番大きな違いはデジタルオーディオやサンプリング音源の発展、進化です。2000年代中頃は現在に比べると一般的なゲームコンポーザーの制作環境はかなり貧弱でした。私の環境も同様でしたが、貧弱な制作環境ながらも、それをなんとか工夫していく過程でオリジナルなサウンドを作ることができたように思っています。
当時は誰もがハリウッドのコンポーザーの様なクォリティの高い楽曲を作るにはどうすればいいのかを模索していた時代で、私もその中のひとりでした。またYouTubeがまだなかった頃にはトップレベルのコンポーザーやレコーディングエンジニアが使ってる機材やソフトウェアの情報もなかなか入手できず、皆が試行錯誤していましたが、逆にその状況が日本のゲーム音楽をおもしろいものにしていた側面もあると思います。
現代はYouTubeやSNSによる情報の共有とソフトウェアやサンプル音源の低価格化によってプロ、アマチュアを問わずコンポーザーの使用するツールは均質化していて、それだけではコンポーザーごとの音楽の差別化につながらなくなっています。その結果ハリウッドのトップレベルのコンポーザーを中心に増々物量的に巨大な制作システムを構築して他のコンポーザーとの差別化をはかる風潮がうまれています。つまりだれでもある程度のクォリティの音楽を作れるようになったので、持っている選択肢の多さや、制作環境と高級機材への投資額で抜きん出ようとしているということです。
私がゲームコンポーザーとして活動するようになったのは2006年からですが、その頃からすでにゲーム音楽の制作方法がハリウッドの映画音楽の制作プロセスを後追いする傾向がずっと続いていると思います。
他方、この7,8年ほどはビデオゲーム創世記のゲーム音楽を再評価する動きが出てきたのが印象的です。これは子供のころに影響を受けたゲーマーがいま成長してゲーム業界で活躍するようになったからという側面と、上記で述べた物量主義型のハリウッド的音楽制作へのアンチテーゼの側面があると思います。また日本のゲーム創世記は音楽制作に関して発音数、サウンドのビットレートの厳しい限界があり、その厳しい状況ゆえに飾りを排除したピュアかつコアな楽曲が多く生まれ、その価値が改めて現在見直されているとも感じます。
私が提携しているBrave Wave Productionsではそういったレジェンドゲームのコンポーザーの作品のリリースや活動のサポートをしていますが、日に日にオーディエンスの反響は大きくなっていると実感します。
私のゲームコンポーザーとしての立場はどちらの部類にも属さないのですが、今は自身の作品をリリースすることによって新しいマーケットの開拓をめざしているところです。2017年にBrave Waveからリリースした私のソロプロジェクトDugoのアルバムLingua Francaがきっかけでヨーロッパのメディアや音楽出版社と新しい事業契約を結ぶことになりました。
・ あなたはいくつかのプロジェクトにおいて日本のゲームコンポーザーとコラボレートしてきていますが、コラボレーションでの作曲についてどう考えていますか?またアプローチを決定する際にどうやって合意に至りますか?
私は元々はアヴァンギャルド系ロックバンドのギタリストで、エレクトロニックミュージックのクリエイターでもあるので、仕事の依頼に関しては「普通のゲームコンポーザーにはないsomething else」を求められることが多いのですが、コラボレーションワークの際もその様な場合が多いです。例えばオーソドックスなオーケストレーションサウンドを作るコンポーザーの曲に、私が電子音や風変わりで複雑なリズムを加えたり、斬新なアプローチのミックスをしたりという形です。私は元々それほどコラボレーションに積極的なタイプの人間ではないのですが、楽曲に何かが足りないと他のコンポーザーやプロデューサーが感じたときに私に声がかかるので、それはとても嬉しいですし充実感と責任を感じます。
「どういうアプローチをとるかについての同意」に関して、私は常にゲーム自体に必要だと思われる楽曲の方向性、サウンドを追求するので、その点で同意できれば問題はありません。まれにですが、具体的な方向性が見えず、特定のイメージもなく、ただ漠然と時間を埋めるだけの楽曲やサウンドを作るようなディレクションをされることもあるので、そういう時にはアプローチの最終的な同意にいたるまでに時間がかかることがあります。
・ Bayonettaシリーズでは大変多くのコンポーザーがプロジェクトに関わっていますが、これはどういう経緯からなのでしょうか?
当時PlatinumGamesの社内コンポーザーチームにカットシーンの作曲に必要なフィルムスコアリングの豊富な知識と経験を持つ人材が少なかったのがその理由の一つだと聞いています。私はBayonetta、Bayonetta2と、ともに多くのカットシーンでの音楽制作を担当していますが、どういった音楽をつけるかが特に難しいと思われるシーンが集中的に私に割り振られました。これは私には量をこなすよりも重要かつ難しいシーンに集中的にリソースをつぎ込んで欲しいという狙いがあったからとのことです。
PlatinumGamesから送られてきた資料には各シーンのカットごとに分と秒を指定して音楽でどういうことを表現してほしいかが詳細に書かれていました。また使用楽器の指定もあり、エレキギターの使用は基本的に禁止でした。これは女性メインキャラクターのイメージにエレキギターのサウンドがマッチしないからというのが理由だったのですが、エレキギターを自分のシグネイチャーサウンドとしている私にとってはちょっと厳しい状況でした。
・ Metal Gear Solidシリーズでの作曲の経験について述べていただけますか?
当時Konamiの社内コンポーザーだった日比野則彦氏はKonamiを退社して自分の制作会社を設立し、その会社によって組織する数人のコンポーザーチームでMetal Gearシリーズの音楽制作を担当することを計画しており、そのチームのメンバーとして数千人もの応募から選ばれた3人のコンポーザーのうちのひとりが私でした。そしてこれが私がゲーム業界に関わることになったきっかけでもあります。
Metal GearシリーズにはKonamiの非常に優秀な社内コンポーザーの方達やHarry Gregson-Williams氏も参加しており、部分的にではありましたが彼らの制作プロセスを知ることができましたし、日比野氏による的確なディレクションによって私はゲーム音楽制作の基本的なスキルを得ることができました。私は最初に関わったMetal Gear Solid Potable OPSにおいていきなりボスステージの曲を数曲担当することになったのですが、日比野氏のディレクション無しでは私には不可能な仕事だったと思います。
そしてこの頃のMetal Gearの制作チームは私の様な新参者を受け入れてプロジェクトを活性化しようというチャレンジ精神に溢れていたと思います。今回私が講演者として参加するメルボルンのHigh Score 2019ではMGS4での私の仕事をマテリアルのひとつとして取り上げます。
・ コンポーザーとしてMetal Gear Solidの制作上において小島秀夫監督と直接関わる機会はありましたか?
残念ながら小島監督と直接関わる機会はありませんでした。Metal Gearの制作チームにはいくつかの階層があり、サウンドチームを統括していたKonamiのサウンドディレクターの方が基本的には小島監督との日常的なコミュニケーションを行う形になっていたようです。
MGS4の制作時、小島氏はメキシコ映画の「Crónicas」という作品の音楽をとても気に入っていたとのことだったのですが、まさに当時私もこの映画を見て、コンポーザーのAntonio Pintoの大ファンになったばかりだったので小島氏の音楽面での情報感度の高さに驚いたことを覚えています。外部コンポーザーとして制作することはある意味プロジェクトから部分的に切り離されている側面もありますが、Konamiのサウンドチームとしては社外コンポーザーをチームに巻き込むことによってプロジェクト内部の政治的な確執にとらわれず自由に制作ができるポジションを作るという狙いがあったようです。
・ 音楽作りの際のあなたの個人的な創作プロセスを教えていただけますか?(いつ作り始めるか、どんなテクノロジーを使うかなど)
私はもともとはポップミュージックのリミックス制作をメインにして日本の音楽業界に関わっていたので、以前はまずリズムループやシンセのコードループを作り、ループを延々と再生しながら頭に浮かぶアイデアを加えていくという作曲プロセスをとっていましたが、いまでは普段から日常的にメロディやコードが頭に浮かんだときにサウンドメモを録音しておきアイデアのストックにしています。
自宅には音響的な改築を施工したプライベートスタジオがあり、そこではそれらのアイデアからメロディやコードを発展させていき、シンプルなピアノの音で全てのノートを書いて曲の基本的構造を完成させます。その後個別のトラックの音を様々な楽器の音に差し替えていきます。
私も他のコンポーザー同様に一応膨大な量のコンピュータソフトウェア、プラグイン、サンプル音源を所有していますが、もはや特殊な制作プロセスや特殊なテクノロジーなどはなく、アイデアの源泉となる自分の脳をどうやって活性化させるかということが私の日常的な課題です。そのために食事、睡眠、運動の質に常に配慮し、世界の最新医学の情報をリサーチして肉体的、精神的なパフォーマンスが最大になるように試行錯誤しています。
強いて楽器や機材の面で私が重要視しているものをあげるとすれば、モニタースピーカーのBarefoot Sound MicroMain27とアコースティックギターのGibson J-50です。この2つの機材が私の音楽制作にとってインスピレーションを得るための核となるような重要な役割を担っています。
・ Bayonetta 3の制作が発表されましたが、私達はあなたが新作にコンポーザーとして参加することを期待してよいですか?
これはNDA (Non-disclosure agreement : 秘密保持契約書)に関わることなので私の口からはイエスともノーとも言えません(笑) ですがBayonetta3が素晴らしい作品になることを私もとても期待しています!
High Score 2019 expands to a two-day event exploring music in games
Dugoのアルバム制作が遅れながらもようやく終盤にさしかかってきたので、ここでより正確なミックスチェックの環境を作ってみたいと思いメインのモニタースピーカーとして新たにBarefoot Sound Micromain 27を、サブとしてKSdigital C5-Coaxを導入してみました。自分でミックスまでやって完結するプロジェクトの場合にいつも悩みになっていたのが低音の処理でした。散々綿密にチェックしたつもりでもマスタリングスタジオにいって確認すると自宅スタジオでは見つけられなかった低音のピークがわかったりすることがあったからです。ラージモニターでないと把握できないような低音域の状況を、ミッドフィールドクラスなのにもかかわらずこのBarefootのスピーカーではかなり正確にチェックできます。しかもかなり小さな音量で聴いても帯域のバランスが変わらないので作業スペースの防音や吸音をさほど気にしなくても十分その機能の恩恵が受けられるのが素晴らしいです。
新しいモニター環境になったので慣れるために色々な曲をリファレンスで聴いてみましたが、今までに何百回ときいてきたような曲でも全く異なる印象に変わるものもありました。うまく説明できないんですが一般的なモニタースピーカーの上位互換として機能するチェックマシンの様な感じです。本質的にバランスの良いミックスのものは以前と同じ様に聴けるんですが、突出した部分があったりバランスのおかしいものに関してはそれまでは気が付かなかった問題点をハッキリと提示してくれます。それと30hz近辺の帯域で何が起こっているのかは一般的なニアフィールドのモニターではほとんど確認できてないんだなということが良くわかりました。
また色々な曲をリファレンスで聴いているとその辺りの超低域でミックスの工夫を凝らしている曲は全体としても素晴らしいミックスになっている曲がとても多いです。特に最近気に入っているAdele「25」とJustin Bieber「Purpose」 は音の全体像の作り方のアイデアとテクニックの素晴らしさを確認でき、あらためて得られるものが多々ありました。この2枚はまさに「2016年の最新の音」と言うにふさわしい驚異的な作品だと思います。(リリースされたのは去年でしたっけ?)
また今回DAコンバータのLavry DA11からのケーブルもいくつか試してみた後に今まで使用していたBelden 8412から今回はGotham GAC-4/1にしてみました。これまではさほど気になっていなかったケーブルごとの音質の差も今はかなりはっきりとわかってしまいます。様々な楽曲をリファレンスする際に8412ではかなり下の帯域で突然持ち上がるピークがあってそこだけが分離したように聞こえてしまうということがありました。以前にギターのケーブルで試した際にもこの感じが肌にあわずに止めたことがあります。Gothamケーブルだとローミッドからサブベースまでが素直に繋がっているように聞こえます。
KSdigitalの方は迷った時の確認用のサブとしての用途です。長いこと同軸のTannoy Precisionををメインにしてきたので、同軸のニアフィールドで比較的新しい製品の中からこれを選んでみました。こちらもスピーカーのサイズの割にはかなりワイドレンジで奥行きもよく見えます。Barefootで大きな全体像を確認してKSDigitalでもっと近寄った状況での音像を確認する感じです。ただこちらはなぜか電源を入れてからしばらくは低音の出方が暴れて落ち着かないのでちょっとまだ戸惑っていますw まだまだどちらとも設置の仕方から試行錯誤中ですが今のところとてもいい感触がつかめています
スピーカー両サイドにサブウーファーがあり、全部で5ドライブユニットという個性的なコンセプトです。
両機種とも国内電圧向けのローカライズがされていないので117vに変換するステップアップトランスのCSE ST-500もついでに組み込んでみました。
The other day, I changed the sub monitor speaker to Neumann KH 80 DSP. I liked the clearness and resolution of KS Digital's high frequencies, but there was a case where only the low sound was heard separated and the reference was lost. The advantage of the Neumann KH 80 DSP is that you can finely configure the speaker settings via the network from the dedicated iPad app Neumann Control. Also, when actually used, the crossover for each frequency band is connected very smoothly, so you can make a very neutral reference as a monitor. Compared with Barefoot as the main monitor, it is clear that the low mid (the band that is easy to mow in the bass range) is easy to recognize. On the other hand, Barefoot can do super-low frequency monitoring with overwhelming accuracy, but I noticed that it sounds like the band above it is sinking. After all, I thought again that monitor speakers are not just high-end ones, but they need to be used under different evaluation standards.
NOPA SF_WEB_4K from Nopasf on Vimeo.
先週はサンフランシスコで開催されたGDC (game developers conference) というゲーム業界の開発者会議に参加してきました。今回はオーディオ、サウンド関連の様々なセッションに参加してゲームオーディオやコンポーザーのソングメイキングについて吸収してきましたので、中でも特に興味深かったセッションを紹介しようと思います。
I attended at a game developer conference called GDC in San Francisco Last week, and then participated in various audio and sound related sessions where the attendee can dive into the profoundness of game audio and composer's song making approach, so I'd like to introduce some of the interesting sessions among them.
The Gangs Bite Back: Music and Sound of 'Crackdown 3'
Brian Trifon (Composer, Finishing Move, Inc.)
Brian White (Composer, Finishing Move, Inc.)
Kristofor Mellroth (Head of Audio, Microsoft Studios Global Publishing)
Crackdown 3 is a game where machine-equipped agents control a city covered with mayhem and destruction. Music is basically a hybrid of cinematic and dubstep. The music alone is also great, but Finishing Moves, which is the name of the composer team, emphasizes that both the head of audio and the composers have to be on stage to comment, because all the sounds have been completely combined and converged. For example, they completed the song of each enemy's boss character first and then disassemble the parts to extract impressive sounds, melody fragments, and themes to scatter them in the open world gameplay scene as iconic sound effects. On the other hand, they emphasize even the scene where the music doesn't sound during play, and described how to integrate them in such a way as to make sense on the world view of the game while presenting the transition from a scene without music to a scene with music on the screen.
Regarding the pieces of the songs scattered as a sound effect, some of the final song forms seem to be something that the player can't hear until the end credit. These approaches are also important for interaction with the audio director, and those were completed as songs at first to explain what the composers' intentions were when they wanted to use fractional sound effects. They said that it was the easiest way to get buy-in from directors or sound designers. Also, they were able to use Wwise to embed their own music themselves, so they were confident that it would be a great advantage for the reduced time of collaboration and the accuracy of the sound that is actually reflected during gameplay.
オーディオの責任者Kristoforさんのプレゼンではそれらの曲と環境音との整合性を保つために例えば「環境音が鳴った時にその音の周波数をトリガーとして楽曲の音量レベルを下げるようなプログラムを山程作って組み込んだ」とか、実際の環境音とシチュエーションごとにそれに付随して変化する反響音、初期反射音をDry/Wetで切り替えながら聞かせてくれたりとゲームオーディオが専門でない自分にとってもとても興味深いプレゼンでした。
In the presentation of the person in charge of audio, Mr. Kristofor, He said that in order to maintain the consistency between the song and the environmental sound, for example, "We built and incorporates tons of complicated program to lower the volume level of the music triggered by the frequency of the ambient sound when it sounds." It is very interesting even for me who doesn't specialize in game audio, then he showed us the difference by switching between the actual environmental sound and the echo sound or the early reflection sound that varies along with the situation where the playing character is standing.
セッション終了後には登壇者三人と立ち話ができたのですが、Finishing Moveの二人は自分たちのメディアコンポーザーとしてのポジションや音楽性においてかなりNoisiaを意識していると言っていました。事前に聴き込んでおいた彼らのゲーム音楽ではないアーティストとしてのアルバムはこれまた凄まじくソリッドなノイズや現実音をパーカッシブに使った音楽で、ある意味Noisiaを超えてるとも思いました。「モニスピは何を使ってる?」とのユルい質問には「Amphionが最高!」とのことでした。ちなみにNoisiaほどのハイパースタジオではなく自宅を改造したホームスタジオで共同作業してるとのことです。
I was able to talk with the three speakers after the session, then the two of Finishing Moves said that they feel some sympathy with Noisia in their position of media composer and musicality. Since I've actually listened to their albums as an artist (not for any video game) in advance, I also knew that they transcend Noisia in a sense, which is a music that uses meticulously tweaked percussive solid noise and even self-recorded real sounds, too. Finally, I asked an easy question "What do you use for monitor speakers?" then "Amphion is the best!" was the answer. They said they are working together at home studio, which remodeled by themselves. I was very impressed that their strong sound doesn't depend on a hyper super studio like spaceship that Noisia owns.
長くなったので他のセッションについてはまた次回書きます・・・
先日、普段使用しているイヤホンをEtymotic ER4Sから、昨年同社が11年ぶりに新しくフラッグシップとして販売開始したER4SRに変えてみました。イヤホンに関しては以前に二子玉川の蔦屋家電の視聴コーナーでほとんどの製品を試してみても自分にとっては荒々しすぎる音のものしかなく、EtymoticかSonyのMDR-EX800ST以外の選択肢は考えられなかったのですが、MDR-EX800STはすでに普段から使用している定番スタジオヘッドフォンのMDR-CD900STと同傾向ということで、最終的には今回もエティモを選んでみました。ER4SとER4SRは似たような製品名にもかかわらず音の印象としてはかなり異なります。個々の楽器の定位と奥行きをハッキリと把握できながらも極めてクールで地味、録音された音をただただ測定器の様にシンプルに再現していたER4Sに比べてER4SRはグッと前にせりでた音で広がりもあり、ちょっとしたバウンシーで躍動的な色付けすらも感じるという、いわゆる「カッコいい洋楽のミックス」の音になります。普段音楽を楽しむなら断然ER4SRかなと思いますが、全く色付けのないリファレンス用に使えるイヤホンとしてER4Sの価値もさらに高まったと思います。
Dugo / Lingua Francaではイタリアの古楽器奏者アーティストEcovanavoceとも2曲コラボレートしています。彼らとの共同制作は以前にもブログで紹介したことがありますが。今回のDugoのアルバムに収録されたのはそのうちの1曲と、もう1曲はDugoの旧曲を彼らとリアレンジして新しい曲として再構築したものです。
Ecovanavoceというのはいわゆる回文の造語で、彼らいわく古代と現代、西洋と東洋など全く異なる文化の接点になるような音楽性を模索していくプロジェクトだとのことです。ゆえに今では現存しないイタリア及び地中海周辺の古楽器をリイシューし、コンセプトはそのままに現代の楽器として生まれ変わらせ、音楽スタイルも伝統的なスタイルを踏襲しつつ現代的なサウンドアプローチで再現することを目的としています。モダンな音楽を志向する日本人でありながらも欧州の伝統的な音楽への強い興味を持つ自分とは実に波長が合う関係で、彼らにしてみたらまさに自分は彼らの足りないピースにピタッとはまる存在だったのかも知れません。彼らとはLingua Francaの完成後も地道に共同制作を続けており、今年はその成果がイタリアのかなりメジャーなフィールドで形にできるという勝負どころの段階になってきています。彼らとの最初の接点はSoundcouldでしたが、そんなネット上のただの偶然によって生まれた関係性が後々にお互いのキャリアに大きく影響していく時代なんですね。
彼女は自分への英語のレッスンでは、例えばまず全く違うジャンルの好きな曲を5曲あげさせてそのどこが好きなのかを説明させ、かつその5曲に共通する要素をあげて説明させるという様な、なかなか自分のレベルでは難しい出題形式で訓練してくれました。ですがSkypeを通じて互いに呑みながらの雑談ではお互いの学生時代のバカ話などで盛り上がり、そのうち自然に一緒に1曲作ろうということになったのでした。彼女の人物像に対して持っている自分のイメージをテーマのメロディで具現化した曲、それがSol Ponienteという曲です。これはスペイン語ですが、英語だとSetting Sun、日本語だと「暮れゆく太陽」という意味です。
Kafe Kult - putting munich back on the map since '99 from mpeG on Vimeo.
ライブ終了後はハーバートさんやお店のスタッフ、常連さんと飲んでマニアックな音楽談義。次の朝も車で市内を少し案内してもらいました。先日のDugoのパーティの際に久しぶりにお会いできたシンセサイザープログラマー、プロデューサーの中山信彦さんから、最近モジュラーシンセサイザーの人気がとても高まっているという話をうかがいました。中山さん自身も電子海面というモジュラーシンセザーザーのみを使って即興的なセッションのライブを行うというユニットで活動されているとのことです。そんなおり、唐突にモジュラーシンセの見本市の様なイベントが行われるということを知り、西麻布のSuper Deluxeに行ってきました。
おくればせながら新年のご挨拶になります。昨年はひたすら、再開したバンドのアルバム制作とそれにまつわる事務的な業務と交渉ごとに終始する年になりました。なぜこの期に及んでまだバンド活動などしているのか?自分でも時々不思議に思っていたのですが、一枚アルバムを形にして世に出してようやく気付いたのは「もし今の自分のスキルで、かつて志半ばで挫折したバンド活動を試したらどこまでできるか」という好奇心が自分を動かしていたということです。
自分は最初から職業音楽家をめざしていたわけではなく、ただ漠然と自分の好きな音を作りながら細々と生きていけたらいいとだけ思っていました。そしてどの社会にもうまく適合できなかったからという理由で必死に音楽を作って生き延びているだけの人間です。そしていま、ありがたくも多くの方から頻繁に仕事をいただけているおかげでこんなに自由きままな音楽活動もできる状況にいます。
昨年の具体的な成果として、かつて20代の時に夢見ていたヨーロッパでのライブツアーが今年できることになり、若き日の夢の再現はこれでひとつの帰結をむかえることになります。バンドの活動に関してはこのツアーの後に新たにどういった方向に向かうべきかを決断することになります。
仕事に関しては「どうにか踏みとどまった」という状況です。ですが昨年は多くの新たなビジネスパートナーとも知り合うことができ今年への希望をつなぐことができました。
そして今年はいまさらながら決定的に自分に足りないスキルをいくつか克服したいと考えています。最近本当に痛切に思うのですが、この歳になってもまだ学習しなくてはならないことが多く、また幸か不幸か今それができる状況にあることに呆れながらも心から感謝しています。
この時代に音楽を作る仕事で生き残っていくことはとてつもなく困難なことで、まだまだ自分にはサバイバルするためのツールが不足しています。いままだこのありがたい状況が保てているうちに今年はスキルアップの年にしようと考えています。
皆様本年もなにとぞよろしくお願い致します。
イズタニタカヒロ
メインで制作に使っているMacProを新調しました。今まで使っていたマシンはEarly2009モデルなので約5年ぶりになります。長いこと新しいモデルがでなかったMacProも去年の暮れにようやく斬新なゴミ箱スタイルで登場したのですぐに買おうかと考えていたのですが、全ての環境の互換性を保つには費用がかかり過ぎることでずっと先送りしていました。ところが最近普段から頻繁に使っているプラグインシステム、UAD-2のThunderbolt仕様モデルとなるUAD-2 Satellite Thunderboltが出たことにより一気に移行が現実的でシンプルにできる状況になりました。
で、さっそく待ちに待ったゴミ箱Macを購入してセッティングしてみました。
まず問題になるのはデフォルトでインストールされているOSのYosemiteを消して一つ前のMavericksをインストールしなければならないことです。Yosemiteはまだリリースされたばかりで各ソフト、ハードなどの互換性が確認されておらず、基本動作もそれまでのMacOSXとはかなり異なるからです。そこで問題なのはMacは基本的に購入時にインストールされていたものより前のOSをインストール出来ないことになっている事です。おそらく自分が購入したマシンもYosemiteをインストールした状態で動作確認検証などを行っているはずです。
まずは今までよく行っていたOS復元作業のやり方である、Time MachineというOSXのバックアップシステムから復元するやり方を試してみました。普段、致命的なOSのクラッシュが起こった時にはいつもこのTime Machineを使ったバックアップヴォリュームから戻すことで完全に元に戻せていました。同じやり方でMavericksのバックアップをゴミ箱Macに復元することはできたのですが起動ができません。起動しようとするとディスプレイに禁止のマークが出てきてそれっきりです。
色々と調べて次に試したのは、外部ストレージにMavericksのインストール用イメージを作ってOSをクリーンインストールしてから今までのデータを移行するやりかたです。
OS X YosemiteからダウングレードしてMavericksに戻す方法
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これを見て参考にして試してみたところ、今度は無事に今までのシステムを再現できましたが、OSの動作が不安定な上にLogic Pro用にインストールしているプラグインのオーサライゼーションの多くが消えてしまっています。さらにはMac自体の起動も緩慢になってしまいました。
最後に試したのは、旧マシンをターゲットディスクモードで立ち上げ→FirewireケーブルとFirewire-Thunderbolt変換プラグを使ってゴミ箱と接続→ゴミ箱をリカバリーモードで立ち上げた状態からDisk Utilityを使って旧システムのヴォリュームをダイレクトにゴミ箱のストレージに復元するやり方です。
これが見事に大当たりで、復元されたヴォリュームはあっという間に起動し、Logicのオーサライゼーションも全て旧システムと同じ状態。さらにLogic自体の起動もまさに爆速で立ち上がるようになりました。(Iさん何から何までありがとう!)Time Machineを使った復元とDisk Utilityを使った復元では復元されるヴォリューム自体は全く同じだと思っていたのですが完全に同じではないようですね。
ちなみに調子に乗ってSnow LeopardとMountain Lionもこのやり方で立ち上げられるか試してみました。こちらは復元まではできても起動できずでした。
このやり方は最も合理的で、しかも最もシンプルなやり方だと思うのですがなぜか検索しても見つからなかったのでブログに書いてみました。今後ゴミ箱MacProを購入予定の方のお役に立てれば幸いです。
また次回この続きを書こうかと思います。
電源ケーブルはこんな感じで梱包されてました。
2015/02/16 追記
Time Machineのバックアップからのレストアしたヴォリュームでも一度Macをセーフブートさせると、その後普通に起動できることがわかりました。ただしこのやり方だとDisk UtilityでRepair Disk Permissionをかけるとよくわからないエラーが沢山でるのでやはりダイレクトにレストアするのとでは何かが違っているようです。
Star Trek Into Darkness 109シネマズ川崎 3D IMAX
こちらは前作がむちゃくちゃ面白かったので期待大でした。冒頭シーンの赤い木の林を駆けまわるシーンが特に臨場感があって良かったです。緻密な描写が3D効果によってうまく強調されてます。アバターでも確か似たようなシーンがありましたが。音楽はオーソドックスというか今の時代にしては古めかしいくらいの正統派のスコアです。この作品は音より映像のおもしろさの方が楽しめました。
宇宙戦艦ヤマト2199 第7章 新宿ピカデリー
昔から宮川泰先生の音楽が大好きな作品です。1章から見続けてきて最終章でようやく劇場に行くことにしてみました。ご子息の宮川彬良さんによるオリジナル楽曲のほぼ完全リメイクがとても素晴らしく、現代的なサウンドで名曲の数々をシネコンの音響で聴けるのがとても貴重な体験でした。作品とは関係ないですが平日の昼過ぎだったにも関わらず観客の95%ほどがぱっと見で40代後半と思われる方でした。あとは連れて来られていた子どもで、いわゆる若者っぽいひとはこの回は皆無。うっすらとは予測してましたがちょっと複雑な気分でした
Man of Steel 109シネマズ川崎 3D IMAX
クリストファー・ノーラン監督絡みの作品なので外すわけにはいかないという事でこちらも3D IMAXでの鑑賞。ですが今回は脚本も監督もつとめていなかったからか、あまりノーランぽくない作品でした。それと要所要所に派手なシーンをぶちかましてあるわりには3Dの効果もStar Trekほどではなかったように思います。
むしろこちらは恒例のハンス・ジマーの音楽がまた強烈で、こちらを体感しに行ったようなものでした。Dark Knight ( 以前にブログでレビューしました)あたりから続くオーケストラでの音響実験的な作風がもはや定番になってますが、もうここまでくると音響兵器ですな。ハッキリとしたテーマはあるもののメロディや楽器での演奏表現によるスコアリングではなく反復するフレーズを音響デザインとダイナミクスで変化させつつ映像にあわせている感じ。そして劇場の大音響で聴いてるにも関わらず、完全にリミッティングされて張り付いたような音でも全く耳が痛くなるような不快さがなかったです。IMAX用のミックスってどうやってるんですかね~。
それと例のドラムオーケストラは作品を見てる間は特にどこで使われてるのは気づかなかったです。技術や音楽性と関係なく著名ドラマーを集めてユニゾンで叩かせるという結構成金趣味的な企画だと思いますが、作品の宣伝やブランディングという意味合いもあるんでしょかね。でもメイキング映像は見応えあります。全員共通のワンタムのセットがカッコいいです。
次回は日本で唯一の3Dサウンドが体験できる平和島シネマサンシャインの Imm 3D sound シアターに行ってみようかと思います。
このサイトからもご覧にになれますようにいくつかの楽曲をSoundcloudにアップしていますが、最近このSoundcloud経由で海外のProduction Music Libraryの会社から楽曲を委託しないかという勧誘のメールが頻繁にくるようになりました。というわけでまずはコンポーザーとして個別にプロモーションを提供してくれるという一社と契約してみました。
いわゆる著作権フリーの楽曲を期間を決めて使用料をとってレンタルするというものですが、最近では規模、システムともにかなり多様化しているようです。たとえばドラマやドキュメンタリーの音楽をつける際に重要なシーンやテーマ曲に関してはカスタムメイドで音楽を発注してもらい、さほど重要度の高くないシーンやちょっとした絵合わせにはライブラリーにアップされている同じ作家の既存曲から使用してもらうというパターンもあるようです。(尺変更のみ対応するようです)この様な作曲の受注とレンタルの組み合わせでバジェットを圧縮して対応するシステムは実にうまいと思いました。さらにこのシステムの中にはMusical Supervisorが介入して自社の楽曲群から対象のプロジェクトに対してどの作風がマッチするかをアドバイスしたり、既存の有名楽曲の使用許諾を得る手続きを行う代行サービスまで含まれているようです。作曲、編曲、選曲、コーディネートの複合的なサービスとして展開してるんですね。欧米人らしい究極の効率化だと思います。
自分の様にゲームやメディア・コンテンツ系のインスト曲を作っているコンポーザーだと各プロジェクトごとの制作過程で結構大量の不採用曲が生まれてしまうのですが、これらは品質的に劣っているというわけではなくても単にクライアントのテイストにあわなかっただけのものもあるので何とかブラッシュアップして再利用できないかと思ってたんですね。楽曲制作は時間との勝負でもあり、また時間をかけて作った楽曲はそのままコンポーザーにとっての資産でもあります。単なるボツ曲を利益を生み出す資産として活用できるならそれに越した事はないという事です。
大手の会社だとこんな人達も提携してるようです
Bill Bruford Nik Kershaw Evelyn Glennie
Extreme Music 超最大手で超有名人がごろごろ。ハンス・ジマーやらブライアン・タイラーやらまで。
Nitin Sawhneyのインタビューです。90年代にテクノシーンで一旗あげたひと達は現在結構このテリトリーに進出してるようです。
↑ 左上から順に(クリックで大きな画像)
Redwitch Fuzz God II (Fuzz)
Strymon El Capistan (Tape Echo Emulator)
Voodoo Lab Pedal Power 2 Plus (Power Supply)
Okko Dominator (Distortion)
Loop-Master Pedal Custom (Loop Switcher)
Sonic Research ST-200 (Tuner)
Strymon Lex (Rotary Speaker Emulator)
Keeler Designs Stretch (Wah Pedal)
色々と調べたり試奏してみた結果この様な組み合わせのコンパクトなセットになりました。自分がここ10年以上もPCのソフトやプラグインの方面に没頭していた間にエフェクターの流行りや性能も随分変わったと思いました。
まず思ったのはヴィンテージペダルのレプリカや復刻版の隆盛です。自分のセットの中だとKeeler Designs StretchはVOX V846(ジミヘンがウッドストックで使ってるやつ)をモデルにしたレプリカです。ギターでもそうなんですがヴィンテージのものは発売当時の電気事情やPAとアンプの音量や性能にマッチングして設計されている面があるために今の時代に使うとバランスが悪い所が色々とでてきます。レプリカものはそういった弱点を克服しながらヴィンテージのサウンドを再現できるという利点から重宝されてるんだと思います。
また、高性能のCPUをこんな小さな箱に納めて尚且つ省電力でアナログ機材のシミュレートサウンドを出すStrymonの様なメーカーがでてきたのも驚異的です。デジタルエフェクターというと高品質な音色を出すためでなく多機能や利便性のためのものという常識は完全に過去のものだと感じます。特にEl Capistanについては自分が今まで使ったことのあるディレイの中では最高だったMaxon AD-900に匹敵する滑らかな音の減衰を表現できるエコーマシンです。しかもルーパーとしても使えたり外付けフットスイッチでプリセットを呼び出せたりとデジタルのいいところもしっかりおさえてます。
そしてネットでの発注が一般的になったことにより、世界中の無数のハンドメイド工房によるペダルが気軽に買えるようになりました。試奏やクーリングオフはできませんが、そういった工房のサイトにはほとんどYouTubeのリンクが貼ってあってペダルの基本性能や音色についての詳細が見られるようになっています。自分のセットでは特にLoop-Master Pedalのループスイッチャーが受注生産品で工房から直送されたものです。スイッチャーやセレクターに関してはセット全体の完成形をどういう物にするかによって規模や必要なIN/OUTの種類が変わってくるので既成品だとなかなかこれっ!というものが見つからずに困っていたところ、とあるこの手の情報に詳しい知り合いの方にこれを教えていただきました。Loop-Master Pedalは日本には代理店も全くないようですが、実際に製品を受け取って試してみても非常に満足のいくサウンドだったので自分からもオススメできます。(発注から受け取りまで2ヶ月もかかったのが少しだけ難点ですが)
と、ここでふと思ったのは選んだものに日本製のペダルがひとつもなかった事です。自分がギターを弾きだして以来エフェクターのシェアは断然国産メーカーのものが多かったのですが、もはやここもグローバル化してきてるようです。(自分のセットだとOkko=ドイツ Redwitch=ニュージーランド 残りはアメリカ)もちろん今の国産にも素晴らしい製品がたくさんあるのは調べたのでわかっており、サウンド、個性、機能性、デザイン、価格など全ての要素で考慮したところで抜きん出るものがたまたまなかったという事なんですが。
先に書いたレプリカものにおいては実はかつての国産エフェクターの名器、Boss OD-1、Ibanez Tube Screamerなどの設計を元にした高級ペダルがたくさんあり、完全に研究しつくされた結果もはやギターでいうGibsonやFenderのようなポジションになっている感すらあるんですが・・・こういうところでも時代が変わったんだなということを強く感じました。
↓ こういう人達にものすごくシンパシーを感じます。
Fuzz: The Sound That Changed The World