Takahiro Izutani

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Let It Roll 2024

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プラハで毎年開催されている世界最大のドラムンベースフェスティバル「Let It Roll 2024」に行ってきました。日本ではドラムンベースのシーンはあまり盛り上がっていないため、プラハまで行ってようやく大音量の重低音と高速ブレイクビーツの快感に浸ることができ貴重な体験となりました。

会場はプラハ市内から車で約1時間の距離にあるMiloviceと呼ばれる場所の空港跡地で、広大な土地のほとんどがフェスのイベントスペースになっています。入り口からメインステージまで歩いて約3キロほどの距離がありました。ステージは4つのメインステージを中心に、そのほかにも至るところに小さなDJブースやフロアがあり、どこからでもドラムンベースの音楽が流れてきます。その時々の気分やDJに合わせて、音楽を楽しみながら会場を歩き回るといった感じでした。

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自分の場合いろいろなステージを移動しながら楽しんでいたため、iPhoneの万歩計を確認すると、一日の移動距離は4万4千歩、約41キロにもなっていました。来場者は20代30代と見られる若い人が多いのですが、映画「Mad Max」の様なファッションだったり、女性はほぼ半裸のようなコスチュームで踊っている人も多く非常に開放感があり、またとてもフレンドリーで気軽に声をかけあって話ができるような雰囲気でした。

ヨーロッパではオランダやドイツに突出した才能あるドラムンベースプロデューサーが多く、シーンが活性化しています。もともとはUKから発生した音楽ではありますが、特にオランダには大御所のNoisiaや今回Let It Rollに出演していたMefjus, Imanuなど、斬新で複雑かつ緻密なトラックを作るプロデューサーが多く、今のダンスミュージックシーンの中でも最先端を走っているのが、これらのオランダのドラムンベースプロデューサーたちの音楽です。

ドラムンベースの楽しさは複雑で独創的なビートに身体をどう合わせて踊るかという、感覚的な面でのチャレンジにあります。そのビートに合わせて自由に身体を動かすことで自分の創造性が活性化され、頭の中で新たな発想が生まれ、それが後のアウトプットに繋がっていく感覚があります。これが自分がドラムンベースを特に好きな理由です。

一番のお目当てだったCamo & Krooked & Mefjus

90sから活躍してるレジェンド、ED Rush

唯一のライブ演奏だったkimyan law

Netsky 聴きやすくポップで知名度も高いですが割と皆静観してる感じでした。

これも大御所のA.M.C。なんだかんだで一番踊りやすかったです。最終日の一番いい時間帯で実質的なトリです。

女性DJのMandidextrous。ロックっぽいトラックを多くプレイしていて、これもメチャクチャ踊れました。

若手のDisrupta。数小節ごとにトラックが変化する変わったスタイルで常に予想を裏切るおもしろいプレイでした。

Dugoのニューシングル"Embrace"がリリースされました。

約一年ぶりにDugoの新曲「Embrace」をリリースしました。歳を重ねるごとに自分の中の悪い完璧主義が強まっており、一曲を完成まで持っていけるスピードが落ちています(実は制作途中の膨大なストックがあります)もともとDugoはアコースティックギターのリフとブレイクビーツ、エレクトロニックなサウンドを融合させた音楽スタイルをコンセプトとして始めたプロジェクトですが、そういったことにばかりこだわっているとなかなか面白いものが生まれず、今後はもっと色々な形で自分の頭の中に浮かんだ音のスケッチのようなものを発信できるようにしていこうと考えています。

トレーラーのビデオに写っている自分は、昨年夏、日本最北端の島、利尻島の標高1700メートルの利尻山に登ったときの映像です。この時も新しい音楽のアイデアがなかなか浮かばず、ふと思い立って10日ほど、利尻島と礼文島にフィールドレコーディングの旅に出かけたときに録画した映像です。登り6時間、下り5時間の合計11時間に及ぶ登山時の記憶やイメージ、また実際に録音したフィールドレコーディングのサウンドも楽曲に含めながら、ようやく今の時期になって結実したという感じです。

以前のDugoに比べるとエレクトロニックなサウンドの比率が増え、また曲調もかなり明るくポジティブな感じになりました。こんな感じで自分が経験したことに対するその時々の記憶を楽曲にまとめていくのが楽しくなってきました。皆さんにも同様に楽しんでいただけたら幸いです。

P.S.
今回のブログの文章は全てiPhoneの音声入力で書き、ChatGPTで校正して作りました。作成時間数分ほど。今後の文章作成は全部これでいけそうです。

ホラーサウンド制作用の特殊楽器(Apprehension Engine)を導入しました。

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現在取り組んでいるプロジェクトでのサウンドメイキングのためにApprehension Engineと呼ばれる完全ハンドメイドのホラーサウンド生成楽器を導入しました。この楽器については昨年のGDCに参加した際にCalisto Protocolというホラーゲームの音楽制作で知られるコンポーザーチーム、Finishing Move Inc.のBrian Lee White氏にインタビューを行った際のブログに詳しく書きました。以来入手する機会をうかがってきており、今回ついに入手することができました。

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元々この楽器は映画「Cube」の音楽を担当したカナダの作曲家Mark Korven氏が考案したものですが、自分はネットを介してポーランドのビルダーと交渉して購入しました。中にはスプリングリヴァーブ、4個のピエゾピックアップと2台のプリアンプ、そしてギターにもピックアップがあり、このマシンから出せる全ての音はノイズレスのスーパークリーンな状態でアウトプットできます。また追加のピエゾを入力できるインプットも2箇所設置されています。演奏はヤスリで削ったスーパーボール、バイオリンの弓、E-Bow、音叉、スライドバーなどなど工夫次第で驚くほど多様なサウンドが作れます。現在、独自のサウンドを作り出すために積極的に実験を行っています。



まだまだ練習中ですが動画を撮ってみました。

サンレコフェス2023

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サウンド&レコーディング・マガジン主催のサンレコフェス2023に行ってきました。今回の注目イベントはSonyが開発した360 Virtual Mixing Environment(360VME)を直に体験できる特設ルームで、これは複数のスピーカーで構成された立体音響スタジオの音場を、独自の測定技術によりヘッドホンで正確に再現する技術です。一度スタジオで測定すると、立体音響制作に最適な環境をヘッドホンと360VMEソフトウェアでどこへでも持ち運ぶことが可能になるとのことです。

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早速受付をすませ、特設ルームで説明を受けながら測定をしていきます。ワイヤーが渦巻き上になった形状の小型マイクを耳に仕込み、まずはその状態で各スピーカーから個別にピンクノイズとスウィープ音を出して、その聞こえ方を測定していきます。そして次に今度がその上からヘッドフォンSONY MDR-MV1を装着して同様に測定します。各スピーカーからの再生は一回だけで、測定にかかった時間は装着まで入れても5分程度でした。

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そして今度はリファレンス用の音楽をスピーカーとヘッドフォンの両方から再生していきその違いを比べるのですが、正直自分の聴覚が麻痺してしまったのかと思うくらいに違いがわからなかったです。最初にヘッドフォンをした状態で音楽を再生された時のなんとも言えない違和感、ヘッドフォンで聴いているのに完全にサラウンドで広い空間で聴いているかの様な錯覚は衝撃的でした。MDR-MV1が開放型のヘッドフォンというのもこの感覚を作るのにかなり大きく貢献していると思います。このあとMDR-MV1を普通の再生環境で視聴することもできたのですが、非常にバランスの良い、色付けのないヘッドフォンでした。悪く言ってしまうと特徴がないということになってしまうんですが、立体音響でのリスニングを前提とした製品ということでしょうね。

そのあとは「IK Multimedia × UNIVERSAL AUDIOで組む"手が届く"イマーシブ環境」というセミナーに参加しました。こちらはIK MultimediモニタースピーカーiLoud MTMを11本セットにしたImmersive Bundleと、イマーシブ用のモニターコントロール機能をアップデートで追加したUniversal Audio Apollo x16を併せて構築した環境で体験リスニングができ、またエンジニアのニラジ・カジャンチ氏によるお話も聞くことができました。ニラジさんのお話はレクチャーと言うより「いかにAtmosにハマっていったか」の雑談でメチャメチャおもしろく、あっという間に30分以上が過ぎてしまいました。自分が特に気になったポイントは

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・5.1に見向きもしなかったUSのエンジニア達が、最近は会う度にスピーカーの数を増やしている
・Atmosミックスの正式に依頼をされるようになるまでUSのエンジニアは5年間無償でAtmosミックスをクライアントにサプライズで聞かせ続けてきた。
・Atmosミックスされた作品を分析しまくる際に最重要なのは各スピーカーを個別にミュートできること。
・今はちょっと聞くだけでAtmos作品がヘッドフォンミックス、スピーカーミックスどちらなのか識別できるようになった。
・USではエンジニアが通常のステレオミックスに加えてAtmosミックスをあわせて納品するのがデフォルト化している。

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などなど、他にも興味深いお話がたくさんありました。セミナーのあとニラジさんと直接少しだけ歓談させていただき、その際にソニーの360VMEについてどう思われているかをお聞きしたのですが、ニラジさんにとってはイマーシブ環境はAtmos一択で、なぜならこの趨勢はかつてのビデオカセットのプラットフォーム競争の様なもので、現在音楽シーンに限って言えばDolby Atmos+Apple MusicでAtmosミックスがこれほどまでに手軽に楽しめる状況は圧倒的に強力だからだとのことでした。ニラジさんはすでに242曲ものAtmosミックスを手掛けているそうですが、かつての5.1サラウンドでは担当された曲は一曲だけしかないとのことです。お金をかけてわざわざ5.1のリスニング環境を作らないと楽しめない状況には未来はないと思ったんだそうです。






追悼:坂本龍一氏の楽曲を振り返ってみました。

教授がお隠れになったとのことですので、あらためて自分にとって重要な意味を持っていた教授の曲を振り返ってみました。

Happy End (Orchestral version)
これは中学生の時発売日に学校をサボってまでレコード店の開店時間にあわせて買いに行った"BGM"に収録されていたバージョンを聴いたのが最初でした。BGMはYMOがバカ売れして以降初のフルオリジナル・アルバムで奇妙なテレビCMもバンバン流されていて、誰もがソリッド・ステイト・サヴァイヴァーを超えるインテリかつヤンキーにもわかるポップなテクノミュージックを期待されている中リリースされた激コアなインダストリアルテクノのアルバムでした。この曲はその中でもひときわ異様なトラックで最初から最後までフランジャーがかかっていてなんだかわからず、聞きながらポカーンとしつつガッカリを通り越して怒りすら湧いたのを思い出します。実はこのバージョンは教授が中二病を発症して細野さんへのあてつけでそもそも素晴らしかった楽曲をグチャグチャにしたものでした。後に様々なアレンジで再発されたりライブで披露されましたが、自分はこのオーケストラバージョンを聴いて初めてこの曲の全貌を知り、救われたと同時に「今さら!」という感情を抑えきれなかったといういわくつきの曲です。

20210310 (from "12")


教授のラストアルバムより。日記のごとく思いつくままに晩年の記録として制作されたそうですが、どの曲もシンプルなサウンドとアレンジながら丁寧に創られていることが一聴してわかります。なかでもこのアルバム一曲目はアンビエント・ミュージックとしてのひとつの完成形、到達点とすら思えるもので、シンプルなストーリー性にも関わらず何度聴いても発見があります。

The Revenant Main Theme (from "The Revenant OST")

シェルタリング・スカイ系の教授の映画音楽の発展型ですが、The Revenantのサントラはどの曲も実に教授らしく、それでいて奇をてらうことなく作品性とクォリティを一段上に押し上げた様な出来になっています。個人的にはミックスの方向性がもっとワイドな定位で仕上がっていたらもっと聞き込みたいと思える作品でした。

Technopolis (from "Solid State Survivor")


自分はYMOといったらテクノポリス、YMOの教授といったらテクノポリスというくらいこの曲の持つレトロフューチャー的な世界観が大好きなのですが、実は教授本人は売れる曲を作るために筒美京平の曲を研究してピンクレディーのウォンテッドのカウンターとして作ったとのことです。よく比べて聴いてみると確かに曲展開やベースラインなど共通する部分が多々あります。手弾きのアルペジオフレーズとブレイクで解決するところのコード進行のかっこよさは教授が天才であることを確信させてくれます。

Difference (from "B2-Unit")

デニス・ボーヴェルによるミックスやXTCのアンディ・パートリッジが参加したということで有名なアルバムの一曲目です。リアルタイムで聴いた時はなんともつまらんトラックだなと全く興味がわかなかったのですが、後にXTCを知り「Go 2」を聴いてこのアルバムのコンセプトを理解したり、またさらにその後に90年代にテクノが再ブームになった時にリズムとミックスの観点から再評価するきっかけになったりと、シンプルなサウンドながら奥の深い音楽性でした。ちなみにこの曲のドラムは教授本人が叩いているとか。BGMのCueでも教授は自分でドラムを叩いてライブでも披露していましたが、この曲を叩いてる教授の姿を見てみたかったですね。

GDC 2023 - Sound Production for "The Callisto Protocol"

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GDC 2023 - Sound production for "The Callisto Protocol"
 Interview with Brian Lee White (Finishing Move Inc.) @ 3/23 Moscone West 3F

The Callisto Protocol is a horror game developed by US-based Striking Distance. At the GDC 2023 awards ceremony for sound-related categories, G.A.N.G Award, the game was nominated in several categories and won Best New Original IP Audio. While there was no audio-related session for the game at this year's GDC, I had the opportunity to interview Brian Lee White, the founder who was present at the event, as I have had some interaction with the composer team Finishing Move since 2019.

Q: First, I'd like to ask about the basic sound concept of The Callisto Protocol. I think there is a deep connection between the sound concept and the image or visual impact of the title and story, but how did you construct it?

BW: One of the big elements we drew inspiration from was the idea of "infection" or "disease". In the game, people are tested with some kind of mysterious "Goo Injection" and become infected with a zombie-like disease, leading to a chaotic situation. Initially, Glen (Glen A. Schofield, Director, CEO) wanted to create a very organic orchestral sound, but at the same time, it had to be a "super scary sound". So, we started to think about how much we could bend, break, twist, and distort the original sound source to the point where it couldn't be recognized. We tried the idea of gradually developing "infected organic sounds" into rough and dissonant ones.

Q: The Apprehension Engine, which was introduced in a video on YouTube and is used to create sound effects that stimulate fear, was very unique and interesting.

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Making of - The Callisto Protocol [Behind the Scenes]

BW: Well, yes, but I wanted another one of those special sounds that could be a big feature apart from the Apprehension Engine, so I used a lot of magic to create them. I can make a lot of different sounds with what's inside that box, and the sounds that come out are different every time. However, they're not actually ready to be used as materials. Even if I stand next to it and play it, it just sounds like I'm hitting things in a tool shed, so I have to process them. Actually, I got a lot of sources from there and processed them a lot.

BW: In the end, we created a lot of one-shots and sound kits and used them to create a world of sound. We also produced a lot of music cues, which amounted to about four hours, but we also provided a lot of small one-shots for jump scares and such. Every time I played the Apprehension Engine, I tried it in a different way. It's fun to figure out how to play it by actually playing it. No one knows how to play it, so you don't know until you actually pick it up and try it. You have to handle it experimentally. We also made some other instruments. One of them is the Daxophone.

Q: What is that instrument?

BW: Hmm, it's hard to explain. It's a small wooden one, let me show you a picture.

BW: This is a rather unusual instrument, you play it with a bow and it's quite difficult to play, especially if you want to get consistent pitches out of it. Depending on where you play the bow and how you move it, the pitch changes and it sounds like a monkey's voice or sometimes even a human voice. It's a very interesting instrument, however, it required a lot of post processing to make something useful for a horror context.


Q: Is this a traditional instrument or something you made yourself?

BW: These are actually existing instruments made by instrument makers. You can also call them experimental instruments. I don't really want to do it myself, haha.

Q: Can I take a picture of that screen?

BW: Sure.

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Q: Thank you very much.

BW: We also made sculptures of metal wings. We cut out large metal plates at a metal workshop and inserted different lengths of wire into them, which could produce different pitches when played with a bow. And when closed, it produced a very metallic sound. We were inspired by the way Hans Zimmer created some instruments using metal spheres in "Man of Steel". We thought, "Oh, this is really cool," and decided to do the same thing. We found a shop that worked with metal and had them make it for us.

Sculptural Percussion by Chas Smith

BW: So we sampled multiple times, and we brought in a double bass player from Germany who was very experimental in terms of extended techniques, microphone placement, instrument setups, and very experienced. We basically gave him a list of articulations, one-shots, bends, etc., that we wanted him to play and gave him the freedom to interpret them. That's because much of the music in this piece is kind of alien-like that we couldn't notate effectively. We're not great at orchestrating aleatoric music on paper, so it was more like, "Try bending it this way, this is the reference audio."

Q: So, did you also have a score to explain "How to Play" to the double bass player?

BW: Yes, we gave a lot of specific examples of the audio we were looking for. We also provided a lot of texts, like John Cage's writings, that were kind of like explanations of how to play. And during the pandemic, he recorded his playing remotely and sent it back to us. When you put it under the MIDI virtual orchestra, the double bass breathes, and the bow makes really good sound, so it feels like it's alive. There are also textural elements.

Q: And sometimes, unexpected sounds can happen, like mistakes or something?

BW: Exactly! Another big event was that we were initially supposed to record in Vienna, but due to the pandemic and the game's schedule, plans changed and it was canceled.

Q: So, something that could have had an impact on the whole music production was canceled?

BW: Yes.

Q: It's strange to say, but thanks to that, were you able to conduct various experiments in your own studio?

BW: Yes, that's exactly what we did. There were four of us working on the finishing process. We were all in our own studios a lot, and we asked people who could work remotely to do experimental sessions for us. We gathered everything we could play with different instruments such as cello and double bass, and selected only those that might be used. In other words...

Q: Um, wait a minute. You said there were four people, but isn't Finishing Move a duo? But in a video on YouTube, I saw three people on stage with the Apprehension Engine. How many members are in the team actually?

BW: Brian Trifon and I are the team founders. And two team members, J and Alex, who are assistants, are also composing with us full-time.

Q: That's a powerful team, isn't it?

BW: Yes, and also, the so-called standard Apprehension Engine was invented by composer Mark Korven (known for composing the music for the movie Cube). He's known as a horror movie composer (most recently for Netflix's The Witch) and he invented this instrument, came up with the concept and had a luthier (stringed instrument maker) in Canada build it. We commissioned the same luthier for our version, but ours was very expensive and cost around $10,000. It took about 6-8 months to complete, I think. The project team really wanted to do this and was very open to doing strange and experimental things.

Q: In the video of the Apprehension Engine uploaded on YouTube, there is another interesting thing, the reverb sound is distinctive and sounds great. Did you add any plugin reverb or something like that?

BW: Are you talking about the footage of us playing?

Q: Yes.

BW: I don't know exactly how the people who uploaded it to YouTube edited it or what they did, but originally it was from a data patch programmed into a pedal reverb. That particular reverb, what was it called again...?

Q: What was the color and shape like?

BW: It's a dual reverb, which means you can layer two of them together. So you can go from a Hall to a Shimmer, create crazy pitches, or shift the line to something else using pitch shift. When I get home, I'll message you the exact panel. Basically, it's a combination of several signals. (A later message from him said it was a Ventris Reverb from Source Audio.) I'm not really fond of the sound of spring reverb. I prefer the type of sound that has a more complex resonance, so I don't use spring reverb that is immediately recognizable as such.

BW: Much of our sound is heavily processed with things like reverb, distortion, delay, EQ, and so on. It's not necessarily something that's incredibly interesting or ear-piercing, and in fact, even the louder sounds aren't that big. The apprehension engine uses a piezo pickup and we connect that through guitar pedals to create more interesting sounds. That's what we usually do. Alternatively, we also record the Apprehension Engine with a microphone and process them using a lot of plugins on the computer.

Q: I see, that's very interesting. It seems like a tremendous amount of terrifying sounds were created that way, but they are basically sound effects, right? However, in The Callisto Protocol, it seems like music also functions to achieve a similar texture and effect as those sound effects. How does the team differentiate between the two?

BW: Actually, Glenn, who is the studio head, didn't want us to make a distinction between "is this music or sound design?" It was more like giving us the freedom to "design non-musical music." It's music that doesn't sound like music and pushes the boundaries of "is this music?" Apart from cutscenes, there isn't much consonant harmony material. So it's about what sound design is and what we really wanted to do in music. For example, when you're experiencing some unusual exploration, you might hear something around the corner. At that moment, we wanted to create a feeling of uncertainty, like "Huh? Is that creature-like sound coming from behind or around the corner a part of the sound of the space I'm in, or is it music?"

BW: The impact and emotions that it gives to the player, regardless of whether the sound is music or sound effect, is very important. What Glenn has always been saying is that when a cue is made, "No, this sounds too much like music." So his feedback was not like what composers usually receive, such as "This sound has too many notes." It was very experimental. In horror, people are looking for those otherworldly things. In music, horror is one of the few genres where sound design can push its limits.

BW: So, in this game, you won't be able to distinguish between music and sound effects. It's like this - you're living in a world where you're just feeling scared. The protagonist isn't a superhero. They don't have any superpowers. They're just someone who's in really bad circumstances. And they're just trying to survive. Trying to prove that they exist. They've been put in prison. They're thinking, "How did I end up like this?" Suddenly, they're in this situation and they're feeling anxious and desperate. We want to make the players feel suffocated and anxious. This game isn't a fun "Campy Horror" game, so be aware.

Q: So, how much time did it actually take for the real-life performance and editing? And I assume you had to try and learn a lot to create good sound using this complex Apprehension engine, so it must have taken a considerable amount of time, right?

BW: This is something we do for all projects, but we like to do the toolkit work upfront. That means we imagine what projects we'll be working on in the future. We create custom sound libraries, custom instrument libraries, like Kontakt instruments or UVI Falcon instruments, and make a lot of fully designed sources that we can quickly pull out when making cues. So, it's like concept art where we do a lot of work upfront and get ideas. We don't know exactly how we'll use it, but we prepare for a custom music sound library for the project. So instead of pulling from existing commercial libraries, we made custom sounds for the IP (Intellectual Property) ourselves. It's common in games, and we always do it, but sometimes something goes online very late, and we need to finish it quickly. Especially for cinematic ones. So, we do a lot of R&D (Research and Development) and make a lot of content and materials to work with, so we can combine them and work more quickly. It's like doing prep work for cooking at the beginning of the week, so you can just cook the food with fire for the rest of the week, right? That's how it is.

Q: I see. If The Callisto Protocol were a dish, it would be very difficult to choose the ingredients. It seems like it could result in a somewhat grotesque dish. (laughs)

BW: Hahaha! Yeah, that's right. Anyway, I've spent a lot of time just experimenting. Takahiro, you've probably done a tremendous amount of sound experiments too, right? Some of them you just have to throw away because they're terrible. That's why you need time to play. Not all sounds you come up with on a whim will sound cool, and not all sounds from an instrument you don't know how to play will sound cool either. So, you just have to play around, record a lot, process it, and you need to give and take even more. For example, let's say you just sit down and write an orchestral piece. This is the template and this is the melody. You already know that, right? Well, what if you do this? What if you try that? Oh, but what if you process it this way? Oh, this is really cool, and that's how you come up with experimental and wild sounds. You might even forget what you were originally thinking and just want to do cool things.

Q: I see, it's a really passionate story. By the way, I think there was experimental electronic music in your early career background, does that lead to that challenging attitude?

Q: Trifonic (a separate project from Finishing Move that releases original electronic music) - you know about them, right? They are deeply influenced by sound design, custom-made sound tweaking through sampling, and other sound design techniques. We are not classically trained musicians, so our values and spirit are more like those of electronic musicians who can pull from various sources instead of saying, "this is the orchestra, and this is our instrument."

Q: I see. Even guitarists these days experiment with plugins or other methods to create memorable sounds. Can you tell me about the interactive music in The Callisto Protocol?

BW: We tried various approaches for that as well. Interestingly, what we thought would work well ended up changing as we played and experienced the game. One of the concepts for combat was to use very heavy sounds like blocks or percussion. We made some mockups, and they were cool and well-received. Then, sound design was added, including bones, blood, and crushing, and five enemies attacked simultaneously. The cues, which were initially heavy, became too heavy because too much was happening. So we temporarily put the intense combat on hold.

BW: Then we came up with a system based on very introspective drone sounds. We incorporated a few elements with high tension and gradually increased the sense of tension. We also avoided too many overly floaty and passive sound effects that would fill up the entire soundscape, so it wouldn't become overwhelming. We wanted to express fear and give the audience a strong sense of unease. We used a lot of Shepard Tone, which is a sound technique that creates the illusion of constantly rising sound.

Q: Did you use Shepard Tone subliminally?

BW: Yes, that's right. We created the sounds using very slow movements at a very small level. We made a lot of custom chapters for Shepard Tone. We created a script in UVI Falcon that would essentially make any material sound like a Shepard Tone. We then modified the script to make it more realistic.

Q: So, did you create the samples from scratch to load them for Shepard Tone, using UVI Falcon?

A: Yes, that's right. We used a variety of materials as samples, not just high-pitched strings with high tension. We captured the samples and loaded them into Falcon to create Shepard Tone from there.

Q: That's really interesting! It reminds me of using granular synthesis with Omnisphere to do similar things.

A: I've tried various things with granular synthesis too. It's really interesting.

Q: Moving on to the next question, the sound that impressed me the most in The Callisto Protocol was actually the soundtrack. It's very different from typical movie sounds or other soundtracks that mimic electronic music. It features deep, complex reverbs and sounds that sometimes cross from left to right, as well as impactful hits and piercing stingers that are so great that I've never heard them before. How were these sounds created? Are they different from the sounds in the game, or were they made using the sounds in the game?

BW: Actually, almost all of it is made up of in-game materials, but we arranged it quite skillfully. In other words, you could say that we re-recorded almost everything. I wrote four hours of music for the game, but I couldn't include it all in the soundtrack. A soundtrack that's too long isn't desirable, and I felt that way myself. I wanted to provide a concise experience that wouldn't become monotonous. We didn't need a soundtrack that lasted six minutes with drone music. So we arranged it linearly, just like the in-game experience, and compiled it into a best-of the in-game music. We wanted listeners to feel like they were progressing through the game, and above all, we didn't want to bore them. We focused on the sonic elements of cinematic moments, tension, fear, and anxiety, and created an 80-minute experience from a 10-hour game. In other words, we edited and reconstructed the music. We composed 24 tracks from hundreds of music materials, but each track is sometimes composed of four to five, or even six, different cues from the game. We also wrote transitions to connect them. Instead of including all the tracks from the game in the soundtrack, we selected the tracks that we liked and were suitable for the showcase, and constructed them to provide a tighter experience. The soundtrack is our perfect opportunity to express ourselves with music.

Q: Was the orchestral sound recorded live, or was a library used?

BW: It's a combination of solo performances that we played ourselves or had others play, and Kontakt. We didn't have 80 people in the room. Unfortunately, due to pandemic-related cancellations, we couldn't have the full orchestral recording session we wanted. So for the larger ensembles, we used Kontakt in addition to individual instrument performances. And we thought of ways to combine the terrifying Apprehension Engine sound with the orchestra using some hooks. I don't think it would be possible to do that with live performance. Because we're reconstructing many cues for the soundtrack, it's almost impossible to record them while trying out combinations by researching the asset history. And it was much more reasonable to have a lot of control at our fingertips. I've done recordings with large orchestras before, but there were so many unpredictable elements.

Q: Who was responsible for the mixing itself?

BW: We always deliver a fully mixed product in our projects, I have a background as a professional mix engineer, so I handle that for the team. For The Callisto Protocol, we provided quad assets and I was responsible for some of the early implementation work in Wwise and Unreal, however, due to the scheduling, I had to step back from implementation and pass that off to Striking Distance Studios. Generally speaking, we handle implementation around 25% of the time (using Wwise and Unreal) and the remaining 75% of projects we send completed mix assets or stems to the game studio to do the implementation.

Thank you Brian!
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GDC 2023 The Callisto Protocol のサウンドメイキング

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GDC 2023 The Callisto Protocol のサウンドメイキング
Brian White (Finishing Move Inc.)インタビュー 3/23 Moscone West 3F

The Callisto Protocol は日本では発売禁止となった米Striking Distance開発のホラーゲームです。GDCのサウンド関連の授賞式G.A.N.G Award 2023でも数部門でノミネートされ、Best New Original IP Audioを受賞しました。今回のGDCでは本作のオーディオに関するセッションは無かったのですが、コンポーザーチームFinishing Moveとは自分は2019年以来の交流があり、GDC会場に来ていた創立者のBrian White氏とアポが取れたので本作のサウンド制作についてインタビューを敢行しました。

Q: まず基本的なThe Callisto Protocol のサウンドコンセプトについて聞こうと思います。タイトルやストーリーのイメージや視覚的なインパクトは、基本的にサウンドのコンセプトと深い結びつきがあると思いますが、どの様にそれを構築していったのでしょうか?

BW: 私たちがインスピレーションを得た大きな要素の1つは「感染症」や「病気」という考え方です。ゲーム作品の中で人々はある種の神秘的な「Goo Injection」でテストされ、ゾンビのような病気が蔓延して狂気的な状況になります。そしてグレン(Glen A. Schofield, Director, CEO)は非常に有機的なオーケストラサウンドを作りたいと当初思っていましたが、同時にそれは"超恐ろしいサウンド"でなければなりませんでした。そこで、私たちは、どの程度まで音を曲げたり、壊したり、ねじったり、歪めたりして元の音源を認識できなくすることができるかという考えを始めました。"感染した有機的な音"を徐々に荒々しく、不協和音的に進展させるアイデアを試しました。

Q: Youtubeの動画で紹介されていたApprehention Engine(恐怖を駆り立てるようなサウンドエフェクトを作るための特注楽器)はとてもユニークで興味深かったです。


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Making of - The Callisto Protocol [Behind the Scenes]

BW: そうですね、ですがApprehension Engine以外でも大きな特徴となる特殊サウンドの1つが欲しかったのでそこからたくさんの魔法を使っています。あの箱に入っているものでたくさんの異なる音を作ることができ、また出てくる音は毎回異なります。それらは実際に素材として使う準備ができているわけではありません。もし横に立って演奏したとしても、道具小屋から道具を叩いているような音がするだけで、それらを処理していく必要があります。実際そこからたくさんのソースを得て大量に処理しています。

BW: 私たちは結局、多くのワンショットとサウンドキットを作って、それらを使って音の世界を作り上げました。キュー用にも多くの音楽を制作しており、それは4時間ほどにも及ぶのですが、ジャンプスケアなどのために小さなワンショットもたくさん提供しました。Apprehension Engineを演奏するたびに異なる方法を試してみました。実際に演奏することによってあなたはどのように演奏すればいいかがわかりそれが面白いのです。誰もそれを演奏する方法を知らないため、実際に手に取って試してみるまでわかりません。それを実験的に扱う必要があるんです。他にもいくつか楽器を作りました。その中にはDaxophoneもあります。

Q: それはどんな楽器ですか?

BW: うーん、説明するのが難しいですね、小さな木製のものです、写真で見せましょう。

BW: これは少し変わった楽器で、弓で演奏します。一定のピッチを出すのが特に難しく、演奏するには相当な技量が必要です。弓をどこで演奏し、どのように動かすかによってピッチが変化し、猿の声や時には人間の声のように聞こえます。非常に興味深い楽器ですがホラーの文脈で有用なものにするには多くの加工が必要でした。

Q: これは伝統的な楽器?それとも自作したものなんですか?

BW: これらは実際に存在する楽器で楽器製作者が作ってくれます。実験的な楽器と呼ぶこともできます。自分でそれをやりたいとは思わないです 笑

Q: ちょっとその画面の写真をとってもいいですか?

BW: いいですよ。
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Q: ありがとうございます。

BW: 私たちはまた、金属製の翼の彫刻も作りました。金属工場で大きな鉄板を切り出し、それに異なる長さの針金を差し込んで弓で弾いて異なる音程を出すことができるんです。そしてそれを閉じると非常に金属的な音色が出るようになりました。私たちはHans ZimmerがMan of Steelでやったような感じにインスパイアされたと思います。金属製の球体を使って彼はいくつかの楽器を作ったように記憶しています。それで私たちは「おー!これは本当にクールだ」と思ったんです。それで、私たちも同じことをしました。金属を扱う店を見つけてこれを作ってもらったんです。

Sculptural Percussion by Chas Smith

BW: それで何度もサンプリングしました。またドイツからコントラバス奏者を連れてきました。彼はとても実験的で、エクステンデッドテクニックやマイクの使い方、楽器のセッティングの仕方などとても経験豊富で、私たちは基本的に彼に演奏してほしいアーティキュレーションやワンショット、ベンドなどのリストを渡して「これは私たちが求めている音だ」と、彼に自由を与えたんです。というのもこの曲の多くは、私たちがうまく楽譜にできないようなエイリアンのようなものだからです。偶然性の音楽(Aleatoric)を紙の上でオーケストレーションするのは、あまり得意ではないので「こんな風に曲げてみて、これがリファレンスのオーディオです」という感じでした。

Q: ではコントラバス奏者に「How to Play」を説明するためのスコアもあるのでは?

BW: はい。私たちは基本的に求めているオーディオの具体例をたくさんあげます。そしてジョン・ケージのようなテキストをたくさん用意するんです。ちょうど演奏の仕方の説明のようなものです。そしてこれはパンデミックの時ですが彼は遠隔操作で自分の演奏を録音し、それを私たちに送り返してきました。MIDIバーチャル・オーケストラの下に置くとコントラバスが呼吸をし、弓がとてもいい音を出すのでまるで生きているように感じることができます。テクスチャー的な要素もあります。

Q: そして時にはミスや何かの拍子に予想外の音が出ることもありますよね?

BW: その通り!もうひとつ大きかった出来事として、当初ウィーンでレコーディングを行う予定だったのですが、パンデミックとゲームのスケジュールの関係でその後計画が変更になりキャンセルされたんです。

Q: 音楽制作全体に影響を与えるようなことがキャンセルされたのですね?

BW: そうです。

Q: そのおかげと言っては変ですが、結果的に自分のスタジオであらゆる実験ができたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

BW: ええ、私たちがやったことはまさにそれです。私たちは合計4人で仕上げの作業をしています。みんな自分のスタジオにいることが多く、そして自分たちの周りに何があるか?何を作ればいいのか?遠隔操作をしてくれる人に連絡する。それで何人かの友人に実験的なセッションをやってもらったんだ。チェロやダブルベースなど、さまざまな楽器を使って何を演奏できるのか?変な話だけどそういうのを全部集めてみたんだ。そして使用する可能性のあるものだけを選んでいます。つまり・・・

Q: ん、ちょっと待って。4人と言いましたがFinishing Moveは2人組のチームですよね?でもYoutubeの動画で見たのはApprehension Engineのあるステージに3人が立っているものでした。実際は何人編成のチームなんですか?

BW: Brian Trifonと私自身はチームのファウンダーです。そしてチームメンバーであるJとAlexの2人のアシスタントがフルタイムで一緒にいて作曲もしてくれるんです。

Q: それは強力なチームですね。

BW: はい。それと、そうそう、いわゆる標準的なApprehention Engeneは作曲家のMark Korven (映画Cubeの作曲家)によって発明されたものなんです。彼はホラー映画の作曲家として知られています(最近だとNetflixのWitch)彼はこの楽器を発明してコンセプトを決めてカナダのルシアー(弦楽器職人)に作らせたんだ。それで今回その同じ職人に製作を依頼したんですが、僕らのものはのはすごく高くて1万ドルくらいしました。完成までに6~8ヶ月はかかったと思う。プロジェクトチームは本当にこれをやりたがっていたし、奇妙で実験的なことをすることにとてもオープンでした。

Q: YouTubeにアップされているApprehention Engineの動画でもう一つ興味深いことがあるんですが、リバーブサウンドが特徴的で素晴らしいサウンドでした。何らかのプラグインリバーブなどを追加したのでしょうか?

BW: 私たちが演奏している映像のことですか?

Q: はいそうです。

BW: YouTubeに実際にアップロードした担当者たちがどのように編集をし、何をしたかはわかりませんが、元々それはペダルリバーブにプログラムしたデータパッチのものです。その特定のリバーブは、ええと、なんていう名前だったかなあ。

Q: 色や形などはどんなだったでしょうか?

BW: それはデュアルリバーブで、つまり2つを重ねることができるんです。だからHallからShimmerにしたり、クレイジーなピッチにしたり、ピッチシフトでラインを別のものにしたりできるんだ。家に帰ったらメッセージを送って正確なパネルを教えてあげるよ。そうだね。基本的にあれは数個の信号を組み合わせたものです。(後日届いた彼からのメッセージによるとSource AudioのVentris Reverbだったそうです。)私はあまりスプリングリヴァーブの音が好きではないんです。もっと複雑な響きをするタイプの音の方が重要なので、すぐにそれとわかってしまう様なスプリングリヴァーブは使用しませんでした。

BW: 私たちのサウンドの多くはリバーブ、ディストーション、ディレイ、EQなどのエフェクトで大幅に加工されています。それは必ずしもすごく面白い音ということでもないし、耳をつんざくようなものでもない。実際にはあまり大きな音ということですらないんです。Apprehension Engineにはピエゾピックアップを使用し、ギターペダルを接続することでよりおもしろい音を作り出していきます。通常はその様なプロセスで制作していきました。またマイクでApprehension Engineを録音してコンピュータ上の多数のプラグインで加工することもありました。

Q: なるほど、とても興味深いですね。膨大な量の恐ろしいサウンドがそうやって作られていったと思いますが、それらは基本的にサウンドエフェクトですよね?でもThe Callisto Protocolでは音楽もそのようなサウンドエフェクトと同様の質感や効果を得るために機能しているように思えます。チームの中でそのふたつはどのように差別化しているのでしょうか?

BW: 実はスタジオの責任者であるグレンから「これは音楽か、サウンドデザインか」というような区別はしてほしくないと言われていたんだ。いわば「音楽ではない音楽をデザインする自由」を大いに与えられたんですよ。音楽らしくない音楽、そして「これは音楽なのか」という境界線を押し広げるような。カットシーン以外では子音調和的な素材はあまりありません。なのサウンドデザインとは何か、音楽で本当にやりたかったことは何かということですが、例えば、非日常的ないくつかの探検を体験しているとき、角を曲がったところで何かが聞こえるとしますよね。その時プレイヤーは「あれ?後ろから、あるいは角を曲がったところから聞こえてくる生き物のような音は自分がいる空間の音の一部なのだろうか?それとも音楽なのか?」というような不安な気持ちを作りたかったんです。

BW: その音が音楽か効果音かどうかに関わらず、プレイヤーに与えるインパクトや感情がとても重要なんだ。グレンがずっと言っていたのは、あるキューを作ると「いやこれは音楽っぽすぎる」と。だから彼からのフィードバックは作曲家が通常受けるような「このサウンドは音数が多すぎるね」というようなものではなかったんだ。それはとても実験的なことだった。ホラーでは人々はそのような異世界のものを求めています。音楽においてはホラーはサウンドデザインの限界に挑戦できる数少ないジャンルです。

BW: だから音楽も効果音も、どの音も区別がつかないんです。そうだこんな感じ。あなたはこの世界に生きていてただ恐怖を感じている。主人公はスーパーヒーローではありません。スーパーパワーを持っているわけでもない。ただ本当に悪い状況に置かれている人なんです。そして彼はただ生き残ろうとしている。自分が存在することを証明しようとして。彼は刑務所に入れられた。彼はどうしてこんなことになったんだ?って。突然こんな状況に置かれて不安と途方に暮れているんだ。僕らはプレイヤーに息苦しさや不安を感じさせたいんです。このゲームは楽しい"Campy Horror"ではないからね。笑

Q: いや本当に興味深い話が多いですが、それでは次の質問です。実際のリアルな演奏やエディティングにはどれくらいの時間がかかったんでしょうか?それとこの複雑なApprehention engeneを使って良い音を作る方法については何度もトライしたり学んだりもしなければならないと思いますが、これにも相当な時間がかかったのではないですか?

BW: これは全てのプロジェクトで行っていることなんですが、私たちはツールキット的な作業を前倒しで行うのが好きなんです。つまり、これからどんなプロジェクトに取り掛かるのかを想像するんです。そしてカスタムサウンドライブラリー、カスタムインストゥルメントライブラリー、例えばKontaktインストゥルメントやUVI Falconインストゥルメントを自作して完全にデザインされた多くのソースを作り、それをキューを作るときに素早く引き出すことができたらどんな感じになるだろうか?ですからコンセプト・アートのように前もって多くの作業を行いアイデアを得ることができるのです。そしてそれをどのような場面で使用するかはわかりません。でもプロジェクト用のカスタムミュージックサウンドライブラリーということで準備だけはしておくんです。だから既存の商用ライブラリから引っ張ってくるのではなく、そのIP(Intellectual Property)のために自分たちでカスタムサウンドを作りました。ゲームではよくあることで私たちはいつもそうなのですが、あるものがオンラインになるのがとても遅くて、とても速く完成させる必要があるのです。特にシネマティックなどはそうです。そのためR&D(Research and development)をたくさん行ってたくさんのコンテンツを作り、作業するための材料を用意しておくと組み合わせて作ることによってよりスピーディに作業が進むのです。週の初めに料理の下ごしらえをしておけばその週は単に火を通すだけで食事が作れるだろ?そんなようなことだよ 笑

Q: なるほど。The Callisto Protocol が料理だとしたら食材をどのように選択するかが非常に難しいですね。ちょっとグロテスクな料理が出来上がりそうな気もしますが。笑

BW: あはは!そうだね。とにかく私は多くの時間をただただ実験に費やしてきたんだ。タカヒロ、君もおそらく膨大な量の音の実験をしたことがあるでしょう?そのうちのいくつかはただ最悪で捨てるしかないんだ。だから演奏する時間が必要なんです。そして思いつきで作った音がすべてカッコよく聞こえるとは限らないし、弾き方のわからない楽器の音がすべてカッコよく聞こえるとは限らない。だからとにかく遊んで、たくさん録音して、それを加工して、何がどう違うのか、もっともっとギブ・アンド・テイクで行き来する必要があるんだ。例えば君がただ座ってオーケストラ曲を書くとする。これがテンプレートでこれがメロディです。これはすでに知っているもので、ではそれは「ああ、こうしたらどうだろう?あれをやったらどうだろう?ああ、でも、こうやって加工したらどうだろう?ああ、これは本当にクールだって、そうやって実験的でワイルドなサウンドを思いつくんだ。まるで頭の中に何を思いつこうとしているのかさえもわからなくなって、ただ「クールなことをやりたい!」と思うんだよ。

Q: なるほど実にアツい話ですね。ところであなたたちのキャリアの初期のバックグラウンドに実験的なエレクトロニック・ミュージックがあると思いますが、それがその様な挑戦する姿勢につながっているんでしょうか?

BW: Trifonic (Finishing Moveの別プロジェクト。オリジナルなエレクトロニック・ミュージックをリリースしている) は知ってるよね?そこではサウンドデザインや、サンプリングして微調整したカスタムメイドのサウンドなど、多くのサウンドデザインに深く影響を受けているんだ。私たちは古典的な訓練を受けている音楽家ではない。だから「これがオーケストラで、これが私たちの楽器です」というような領域から来たわけではなく「ここなら全部まとめていろんなところから引っ張ってくることができる」というような電子音楽家のような価値観と精神がルーツなんだ。

Q: なるほどそうですね。最近ではギタリストですら何か印象に残る良い音を作るためにプラグインを使ったり、何らかの形で実験したりしますよね。では次はThe Callisto Protocolのインタラクティブ・ミュージックの関して話していただけませんか?

BW: それに関してもさまざまなアプローチを試みました。面白いことに私たちがうまくいくと思ったものは ゲームをプレイし、体験していくうちに最終的には変化していきました。当初コンバットのコンセプトの1つはブロックやパーカッションなどとても重たいものを使うというものでした。そしていくつかモックアップを作ってみたのですが、これがまたカッコよくてみんなに好評でした。そして、サウンドデザインが追加され、骨や血や破砕が加わり、さらに5人の敵が同時に襲ってくるようになったんです。そしてそもそも重たかったキューがほとんど重くなりすぎてしまったんです。あまりに多くのことが起こりすぎたんです。なのでひとまず激しい戦闘の作業は引っ込めました。

BW: それから非常に内向的なドローン音を基盤としたシステムを考え出しました。高いテンションを持つ要素をいくつか取り入れ、徐々に緊張感を高めていきました。また過度に浮ついたパッシブな音響効果が全体を埋め尽くすのを避け、押し寄せるような音響デザインにならないように心掛けました。私たちは怖さを表現し聴衆に強い不安感を与えたかったのです。Shepard Toneもたくさん使いました。常に上昇しているような錯覚をもたらす手法の音です。

Q: Shepard Toneはサブリミナル的な意味合いで使ったのでしょうか?

BW: ええ、その通りです。すごく小さなレベルで本当にゆっくりとした動きで作ったんです。Shepard Toneのカスタムチャプターをたくさん作りました。UVI Falconでスクリプトを作り、どんな素材でも基本的にShepard Toneとして鳴るようなプログラムです。そしてそのスクリプトを改変していくことでよりリアルなものとなるようにしたんだ。

Q: UVI Falconを使ったということはShepard Tone用にロードするサンプルもいちから作ったのですか?

BW: そうですね、全部違う素材から作りました。テンションの高いハイピッチのストリングスを置いたりせずに。本当にあらゆる素材をサンプルとして使っているんです。私たちはサンプルをキャプチャーして、そしてそれをFalconに読み込ませて、そこからShepard Toneを作るんです。

Q: すごくおもしろいです!自分もOmnisphereのグラニュラーシンセシスを使って似たようなことをやるのでそのことを思い出しました。

BW: グラニュラーシンセシスも色々試したよ。すごくおもしろいよね。

Q: それでは次の質問ですがThe Callisto Prorocolに関する音の中で自分が最も印象的だったのは実はサウンドトラックなんです。映画の類型的なサウンドや電子音楽を模した他のサウンドトラックとは全く違う音になっていますよね。とても深く複雑なリバーブや、時には音が左右へ流れていくようにクロスしたり、またインパクトのあるヒット音や突き刺すようなスティンガーの生々しさが他では聞いたことが無いほど素晴らしいです。そういった音はどのように作られたのでしょうか?ゲーム内のサウンドとは違うのか、それともゲーム内のものからそのまま構成されているのか。

BW: 実はほとんどすべてがゲーム内の素材で構成されているんだけど、かなり巧妙に配置したんだ。つまりほとんど再録音したと言ってもいいくらい。ゲームのために4時間分の音楽を書いたけど全てをサウンドトラックに収録するわけにはいかなかった。長すぎるサウンドトラックは望まれていなかったし自分自身でもそう思っていた。単調にならないように簡潔な体験を提供したかった。ドローン音楽が6分も続くようなサウンドトラックは不要だった。だからゲーム内での体験と同じように直線的に配置したんだけど、ゲーム内の音楽のベスト・オブ的なものにまとめたんだ。リスナーにはゲームを進めているような感覚になってもらいたかったし、何より飽きさせないようにしたかった。シネマティックな瞬間や緊張感、恐怖、不安など、音響的な要素に重点を置いて10時間のゲームから80分の体験を提供するようにした。つまり音楽の編集と再構築をしたんだ。数百の音楽素材から24のトラックを構成したけど、各トラックはゲーム内の4〜5個、多い時は6個の異なるキューから構成されていることもある。それらをつなぎ合わせるためのトランジションも書いた。ゲーム内の全トラックを収録するのではなく、私たちが好きでショーケースに適しているトラックだけを選んで、より緊密な体験を提供するために構成したんだ。サウンドトラックは音楽だけで表現する私たちの絶好の機会だからね。

Q: オーケストラのサウンドは生演奏なのでしょうか?それともライブラリを使用したのでしょうか?

BW: それは私たち自身が演奏したり、他の人に演奏してもらったりしたソロ演奏とKontaktの組み合わせです。部屋に80人がいるわけではなかったですね。パンデミックによるキャンセルで残念ながら私たちはやりたかったような完全なオーケストラの録音セッションを行うことができませんでした。だから個々の楽器の演奏に加えて、大きな編成のものに関してはKontaktを使用したという感じです。そして私たちはいくつかのフックを使って、恐ろしいApprehention Engineの音とオーケストラを組み合わせる方法を考えました。恐らく生演奏でそれを行うことはできないと思います。なぜならサウンドトラックではキューの多くを組み合わせて再構成しているので、そのアセットのヒストリーを調べて組み合わせを試しながら録音するのはほとんど不可能だからです。そしてすべてを私たちの指先の下に置くことで多くのコントロールが可能になることの方が遥かに合理的でした。以前大編成のオーケストラの録音を行ったことがありますが、それは予測不可能な要素が非常に多かったんです。

Q: ではミキシングそのものは誰が担当されたのですか?

BW: 私たちは常にプロジェクトに完全にミックスされた製品を提供しています。私はプロのミックスエンジニアとしてのバックグラウンドを持っているため、チームの担当者としてその作業を行っています。『The Callisto Protocol』ではクアッドアセットを提供し、WwiseとUnrealでの初期の実装作業の一部を担当しましたが、スケジュールの都合により、実装作業から退いてStriking Distance Studiosに引き継がれました。一般的に私たちは25%程度のプロジェクトで実装作業を行います。(WwiseとUnrealを使用して)残りの75%のプロジェクトでは完成したミックスアセットまたはステムをゲームスタジオに送り実装作業を行ってもらいます。

ありがとうございました!

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映画「モリコーネ」が2時間37分使っても伝えきれない部分

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今日は敬愛するモリコーネ大先生のドキュメンタリー映画を見にBunkamura ル・シネマに行ってきました。実はこの作品(原題 Ennio)はネットのストリーミングサービスで頑張って英語字幕で既に見ていたのですが、せっかくの劇場公開なのでじっくりと2時間37分の再見です。

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この作品のクライマックス部分、例えば、ボツ曲だったものが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に「デボラのテーマ」として採用された経緯や、「ウエスタン」の冒頭20分がミュージックコンクレートだけで構築されている話、「ミッション」がカバー曲ばかり使ってる「ラウンド・ミッドナイト」に負けてオスカーを取れなかった逸話、などはかなり有名なので当然とりあげあれていたのですが、残念だったのは自分にとってのフェイバリット作品「マレーナ」「オルカ」「遊星からの物体X」がことごとく無視されていた件ですw

 「マレーナ」はジュゼッペ・トルナトーレとの黄金コンビでモニカ・ベルッチ主演でグローバルにもヒットして、かつオスカーにもノミネートされていたのに、なぜかこの手のモリコーネの作品紹介のときにはガン無視されます。いつものメチャクチャ感傷的なメロディが「大人の女に恋い焦がれる童貞の中2の思い」を実に的確に表現している素晴らしい楽曲なのにw です。

「オルカ」はディノ・デ・ラウレンティスの動物パニック映画にも関わらず、ヨーロッパ的な陰りのある実に美しい旋律で密かにモリコーネファンの間でも支持が多い作品ですが、作品が地味で「ジョーズ」の二番煎じの印象が拭えないのか、やはりこういうドキュメンタリーやインタビューなどではことごとく無視されがちです。

「遊星からの物体X」はせっかく先生が作曲されたにも関わらず、映画完成前の作曲だったために、完成後にジョン・カーペンターが再録して差し替えになったことで極々一部にカルト的な人気を博している作品です。また一部はタランティーノの「ヘイトフル・エイト」にもスコアが流用されていたりと、ドキュメンタリーとしては盛り沢山の逸話があるにも関わらず、半ばリジェクト作品の様なネガティブな印象も拭えないからか、まず取り上げられることがありません。

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あとこのドキュメンタリーではハンス・ジマーのコメントが頻繁にでてくるのがとても印象的です。ハンス・ジマーの音楽には明らかにモリコーネ先生に通底するものがありますし、彼の実験精神や新しい楽器使用へのチャレンジは先生に倣っているところが大きいと思います。そのジマー作品の中で自分が特に好きな「ホリデイ」ではジャック・ブラック演じる映画作曲家がモリコーネファンで、いかにモリコーネが天才で神なのかを語るシーンがあったり、劇中にでてくる往年の名脚本家が映画協会からの招待を拗ねて拒んでいる描写は'モリコーネがアカデミー賞に対して取ってきた態度とそっくりです。またジマーのテーマ曲はまさにニュー・シネマ・パラダイス的なモリコーネ節全開w いまや大巨匠のジマーがこんなあからさまなオマージュを作るほどモリコーネ先生には傾倒していたということかと。

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最後に、ひとつ映画の中で浮きまくっていたシーンがありオリバー・ストーンだけは「モリコーネ大先生に過去の焼き直しでカートゥーンミュージックを作らせようとしたアホ」として断罪されるような描写がされてましたw

最近増えつつある超高品質ヘッドフォン、イヤホンについて

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このところDolby Atmosミックスされたトラックにハマっていたこともあってイヤホン、ヘッドフォンでの作業にメキメキと興味が湧き上がってきています。そこでまず今まで使ってきたAirPods Proに加えてイヤホンを2つ購入して見ました。

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まずはSony WF-1000XM4。こちらは現在市場にあるものの中で最高評価という触れ込みの製品です。実際に音質のまとまり方とノイズキャンセリング機能は大変素晴らしいです。しかし音楽のまとまり方が実に面白くない。主観的な表現ではありますがスペック的に数値を揃えてまとめたようなキレイな音で、いわゆる「カッコいい音」と呼びたくならない感じです。また専用のスマートフォン用アプリもあまり使い勝手が良いとは思えませんでした。もしかしたら志向する音楽のジャンルによってはドンピシャな製品なのかもしれません。クラシックには合いそうです。

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次にSennheiser Momentum True Wireless 3を購入。聞いたところしばらく続いたSonyの牙城を脅かしつつあるのが、マイクの品質で高名なこのドイツの超老舗メーカーとのこと。聴いてみると確かに音質の良さ、というよりサブベースのグリップ感と全体的な解像度、それにともなって生まれる音楽の躍動感は素晴らしいもので、これに比べるとAirPods Proの音質は少し滲んで奥まったところでわずかにぼやけた感じに聞こえるのが認識できます。ただ筐体の大きさとフィット感はAirPods Proに軍配があがります。何かを聞こうとしたときにサッと手が伸びるのはAirPods Proになりそうです。ですがこのTrue Wireless 3はミックス作業時のモニタリングの最終チェックとしてでも使えると思いました。

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そんなおり本日はフジヤエービック主催の「秋のヘッドフォン祭2022」があったので足を運んでみました。

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ヘッドフォンだといま自分が注目してるのは南カリフォルニアの新興メーカーAudezeなのですが、同社がエンジニアのManny Marroquinとの共同開発でリリースした初のプロオーディオユースの新製品MM-500が最大のお目当てでした。試聴してみると開放型ということもあり、音場の枠を取っ払ったような開放感と広がりを感じてミックス全体を聴きながら個別の楽器や音の要素にフォーカスしてその質感を確認することができます。広い自由な空間に音のファクターが整然と並べられるという感じです。それでいて適度に奥行きも感じられて、あまりにドライすぎない様な演出がされています。

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つぎはDan Clark AudioStealthです。こちらは密閉型でサウンドの方はいわゆるモニターライクで、カミソリの様な切れ味の精密な測定器タイプです。が、それでいて聴き疲れしないようなザラつきのない柔らかさもあります。リファレンスしたNorah Jonesの「Seven Years」という曲のアコギの一音一音のトランジェントのニュアンスの違いまで認識できてゾットする程の精密さです。こちらは自分にとってはリラックスして楽しんで聞くよりは緻密にミックスの最終的な形状とバランスを決めていくのに使うツールとして有用に感じます。Dan Clark氏はエレクトロニカ好きだとのことで、以外にその手の音楽の制作者との親和性が高いかもしれません。代理店の方と話したところ、CanJamという世界最大規模のヘッドフォン展示会で今年NY、Londonなどで最も評価が高かった3つのメーカーAudeze、Dan Clark Audio、Meze Audioの三社をフジヤエービックからの推薦もあって全て取り扱うようになったとのことでした。

音楽制作のプロジェクトが今後もどんどんグローバル化し、リモートワークが増えていくとなると共通のモニタリング環境を持つことの意味や、移動しながらの作業も考慮してこの分野はさらに需要が高まるように思えます、もはやユーザ自体がかなり高音質のイヤホンで音楽を楽しんでいるのが現状ですしね。スピーカーをメインにしての制作がなくなるとは思いませんがMomentum True Wireless 3で聴くローエンドの再現性を体験するとスタジオのラージスピーカーで爆音を出してローの把握をしていたのが遠い遠い昔の様に感じられるのでした。


ニューシングル "Refractive Error" がリリースされました。


まもなくリリースされるDugoの5曲入りEP"Exploration"からの1stカットシングル"Refractive Error"がリリースされました。
Dugo's first single "Refractive Error" from the upcoming five-track EP "Exploration" is OUT on Spotify. 

OTAKON 2022 その2

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初日の個人パネルを終え、そのあとはメディアの取材を4件ほどこなしました。全てゲーム業界向けのウェブメディアだったのですが、中には自分の父親が南米ラテン音楽のマニアで自分が子供の頃から日々そういう音楽を聞かされて育ったことを調べてきて、そのことと今制作しているゲーム音楽にはなにか関連性が生まれているかという質問をしてきたインタビュワーの方もいました。その事自体は事実なのですがどこで知ったのか、実に入念な下調べだなと感心することしきり。

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さらにその後は同行したもうひとりのゲスト藤田晴海さんのパネルへ。藤田さんは元CAPCOMの作曲家でファミコン時代のロックマンシリーズの作曲をされてきた方で、いまやレトロゲームブームの立役者として世界中で大人気のレジェンドです。このパネルでは軽く自己紹介や近況報告などをされたのちにすぐQ&Aがはじめられましたが、一時間ひっきりなしに質問用のマイクの前に立つオーディエンスが途切れませんでした。藤田さんいわく、海外のファンイベントではどこでもファンの方からの質問が絶えないのであえてQ&Aに特化した形式にしているそうです。それにしてもファミコン創世記のゲーム業界の話、3音ポリで制作していた頃のゲーム音楽の話、PlayStation1の登場によってそれまで仕事の付き合いがあった8社のゲーム制作会社が全て倒産した話など、興味深い話が満載で、これは得られる情報が少ないアメリカのファンには垂涎の話なのだろうなと納得する次第でした。OTAKONの会場ではオーディエンスだけでなくスタッフの方々や取材メディアの方まで藤田さんと打ち合わせしたあとに「あの実は私ロックマン2の〜ステージの曲の大ファンです」などとカミングアウトさながらに声がけする方が多いのがとても印象的でした。初日はこのあとサイン会を行って終了。

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パネル2日目は自分と藤田さん二人並んでのコンポーザーズパネルを行いました。前日のゲームファン向けの内容からは少し音楽制作よりに突っ込んだ内容で行うという触れ込みにしてあったのですが、ここの会場に集まっていただいた方々は挙手による調査だと7割ほどが何らかの形で音楽活動をしているミュージシャン、うち3割ほどが作曲家、1割弱ほどがサウンドデザイナーとのことでなかなか音楽的に突っ込んだQ&Aセッションになりました。皆さん非常に熱心でこちらも質問の列が途切れることがなく60分強のパネルを終えました。

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このあとさらに2回目のサイン会を行って今回の全ての任務終了となりましたが、日本から来た他のゲストにはファンの方々は「さん付け」でうやうやしく呼ぶことが大半なのになぜか自分にはみんな「Hey! Takahiro!」とメッチャ軽く入ってくるひとばかりなのは何なんだろうと思いましたw

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今回のOTAKONではゲストの一人一人に通訳と称してアテンドがつけられていて待ち時間やフリーの時間にどこかへ出掛けるとしても常にお付きとして帯同してもらい、交通費、美術館の入場費、レストランの代金などを全て払ってもらえるというシステムになっていました。イベントの運営資金は基本的に入場料が最も大きい割合を占めているとのことですが、3年ぶりのリアル会場での開催ということもあってか35000枚のチケットが売れ、さらにはマーチャンダイズやスポンサーからの収入で運営規模は数億円にも登るそうです。もはやこのレベルだと企業経営みたいなものですね。

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通訳の方は基本ボランティアですが、皆さん優秀な方ばかりで普段の仕事はMeta (Facebook)でWhat's App部門の課長をされてたり、大学卒業後すぐ製薬会社のコンサルをされてたり、イベントの統括をされてた方はJohnson&Johnsonでワクチン開発部門のトップとして働かれてたりと、皆さんそうそうたるキャリアの持ち主でした。こう言ったボランティアの方々と専従で働いているスタッフで一年かけてこの様な巨大なイベントを作り上げてるのかと納得した次第です。ちなみにこのあと観光で訪れた美術館にもMetaの課長さんに帯同していただき全ての面倒を見ていただきました。ちょっとひとりで気軽に行動したいなと思っても「これが仕事ですので」と言われると断ることも出来ず、皇族の方々のお気持ちはこんな感じなのかなとふと感じました。

OTAKON 2022 その1

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7月29日から7月30一日までアメリカワシントンDCで開催された東アジアのポップカルチャーファンイベント、OTAKON 2022に参加してきました。

今回はゲームコンポーザーとして1時間半のパネルの枠をいただいたので、 過去に携わったゲームタイトルの中からいくつかをピックアップし、またゲーム音楽のリミックスワークなども紹介して、 それぞれのゲームのファンの方々に自分が普段どんな作業をしているのかを紹介させていただきました。

特に自分のキャリアの中でも思い入れの深い作品だったMetal Gear Solid 4のクライマックスシーンにつけた音楽についての深く掘り下げた解説をメインにパネルを構成しました。

I participated in OTAKON 2022, an East Asian pop culture fan event held in Washington DC from July 29th to July 30th.

I was given an hour and a half panel slot as a game composer, so I picked up some of the game titles I have worked on in the past and introduced my remix work of game music and what I usually do as a game composer to the fans of each game showing what I usually do.

The panel consisted mainly of an in-depth explanation of the music for the climactic scene of Metal Gear Solid 4, which was one of the most memorable games in my career.

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自分が多く関わる様なゲーム音楽ではインプレイ中の音楽とムービーシーンにつける音楽があります。ムービーシーンはゲームの用語ではカットシーンと呼ばれていて、自分はこちらの音楽を担当するケースが比較的多いんです。映画やドラマにつける音楽と違うところとして、カットシーンは短ければ数十秒長ければ数分のムービーの中でゲームの展開や物語の説明に必要な音楽を当てはめて状況を的確に説明し、プレイヤーの気分を盛り上げるというのが役割です。今回取り上げたシーンはクライマックスでメインキャラクター二人が素手で闘うシーンの演出です。MGS4は複雑な国際政治や近未来に登場しうる兵器や技術の描写が特徴的ですが、今回取り上げた作品のクライマックスはそういったクールな描写を全部すっとばして、主人公とその敵役が無骨にも素手で殴り合うだけのシーンですw 

In the kind of game music that I am often involved with, there is music for in-play music and music for movie scenes. Movie scenes are called "cutscenes" in game terminology, and I am often in charge of music for these scenes. Unlike music for movies or TV dramas, the role of cutscenes is to explain the game's development and story in a short movie, which can be several dozen seconds or several minutes long, and to explain the situation precisely to the player and to lift his or her spirits. The scene featured here is the climax of a bare-knuckle fight between the two main characters, and while MGS4 is known for its complex international politics and depiction of weapons and technology that could appear in the near future, the climax of the piece featured here skips over all of those cool elements to show the protagonist and his antagonist in a bare-knuckle fight.

そして監督から与えられた唯一のリスエストは、番長同士が河原で殴り合ったあと土手で大の字にひっくり返り、夕日をバックにして「おまえなかなかやるな」「おまえもな」「ハハハ」とやり合う昭和のアレを演出してほしいということでしたw そして渡されてきたのは未完成の男同士が殴り合うだけの絵コンテの様な映像のみ。

この様な難題が降り掛かった時に自分が頼りにしているのはマインドマップを作成して必要な要素と与えられた状況を全て書き出して、そこから段階を経て具体的なサウンドと使用楽器の選択に落とし込んで行く手法です。このときは数分の映像を4つのシークエンスに分割してそれぞれに役割を与えて最終的に「おまえもな」のところまで感情と状況の変化を演出する流れを構築していきました。

And the only request the director gave me was to direct a Showa-era scene in which the two gang leaders beat each other up on a riverbank, then turn over on their backs on the bank, with the setting sun in the background and say, "You're pretty good," "You too," and "Ha ha ha ha". And all I was given was a storyboard-like image of two men punching each other.

When I am faced with such a difficult task, I rely on the technique of creating a mind map, writing down all the necessary elements and the given situation, and from there, step by step, I put them into specific sounds and instruments to be used. In this case, I divided the several-minute video into four sequences and gave each of them a role, eventually building a flow to produce changes in emotion and situation up to the point of "You too".

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自分の場合、アイデア出しに困ったときは他にも色々な対処法を持っているのですが、特にマインドマップから落とし込んでいくやり方は自分の思考のプロセスの記録が取れるので、途中でとっちらかっても元に戻ってやり直すのが簡単ですし、中間のプロセスで浮かんだアイデアを他のプロジェクトに転用できたりもします。また実は最近気がついたのですが、Dugoの楽曲制作時にもこのやり方でアイデアをまとめていたところ、思考の記録を残しておくと、例えばミュージックビデオや制作ストーリーのテキスト、別ミックスバージョンなどの派生物としてのコンテンツを作るときなどに非常に役に立つとわかりました。

In my case, when I have trouble coming up with ideas, I have a variety of other ways to deal with it, but in particular, the method of mind-mapping my thinking process makes it easy to go back and start over if I get lost in the middle of the process. I can also use the ideas that come to me in the middle of the process for other projects. I have also recently realized that this way of organizing my ideas when creating music for Dugo is very useful for creating derivative content, such as music videos, production story texts, and alternate mix versions.

以前からここのブログではどうやって様々なコンテンツを最速で大量に生み出して、それらを関連づけていくかというテーマで色々と書いてきましたが、ゲーム音楽制作時に取り入れたこういった手法もとても役に立っています。

I have written a lot in the past on this blog about how to create a large amount of different content as fast as possible and relate them to each other, and these methods that I adopted when creating game music have been very useful.

さて、OTAKONパネルの方は一時間半程の長丁場でしたが、今回は二人のモデレーターの方とのカジュアルな雑談を交えての進行だったので、たくさん集まっていただいたゲームファンの方々にも気軽に楽しんでもらえたのではないかと自負しています。そして最後に、MGS4のパネルで使用したシーンの音楽のリミックスとして今回のOTAKONのために制作したトラック"A Perfect Circle"をライブで演奏して締めくくりました。

The OTAKON panel lasted about an hour and a half, but I am proud to say that it was a casual chat with the two moderators, and I think that the many game fans who gathered for the panel were able to enjoy itl in a relaxed atmosphere. 

The panel concluded with a live performance of "A Perfect Circle," a remix of the music used in the MGS4 panel, which was created just for OTAKON 2022.



その2につづく

海外での楽曲使用を収益にしていくには?

イタリアの伝統的な古楽器を演奏するグループEcovanavoceとのコラボレーション作品をまとめたアルバム"Mother Moon"がリリースされました。Ecovanavoceについてはこのサイトで何回か紹介しましたが、実はもう最初にやりとりを始めてから10年近くも経っています。"Mother Moon"に収録されている曲はすでにRaiというイタリアの国営放送局の傘下にあるRai Publicationという音楽出版社で管理されていてEU圏内の国の放送局のテレビ番組などで割と頻繁に使用されています。今回はその楽曲群を各種ストリーミングサービスに使う権利の整理ができたのでアルバムとしてお届けできる運びとなった次第です。
Rai Unesco 19 - Portovenere, Cinque Terre e le Isole Palmaria, Tino e Tinetto

Palermo Renaissance - Documentary - Arté and Rai 1 - Trailer from Andrea Rovetta on Vimeo.

少し前にはDugoのファーストアルバム"Lingua Franca"がドイツの国営放送のドキュメンタリー内で使用されたことをお伝えしましたが、過去に色んな形で出版管理を委託してその後ほったらかしにしてある楽曲たちがあるので、そろそろ統括して正当な権利報酬を得るための行動をしていかねばと考えています。

また他方で先日はゲーム音楽関係の出版管理をしている米国のとあるベンチャー企業から楽曲の管理を申し出たいという旨のオファーを受けたのですが、いまEU圏内ではPlayStation Networkで配信されているタイトルに関して、それが制作時に作曲家が完全買い取りの権利譲渡契約で制作した音楽に対しても著作権管理団体やゲーム制作会社とは関係なくSIE (Sony Interactive Entertainment Inc.) が独自に負担して音楽制作者に報酬を分配する枠組みができているそうです。ゲーム音楽に関しては基本的に制作時の完全買い取り契約が今でも慣例なんですが、最終的にユーザに届く形が音楽サービス同様にストリーミングになってきたりと時代の変化によって従来の法体系の枠におさまらなくなってきた結果、そういった新しい報酬システムができているみたいです。

またドイツの著作権管理団体GEMAでは著作者がたとえ非会員であってもその著作者が信託を与えたドイツの音楽出版社が代理で全世界からロイヤリティを回収できる制度ができたとのことです。これも買い取り契約が基本ゆえに著作権管理団体の会員になれないゲームコンポーザーには画期的な朗報です。これはちょっと専門的過ぎるトピックではありますが、色んなところに網を張っておいてこういう情報にもキャッチアップしていくことが後々の収益に大きな差を生んでくるのかと思います。

どこの放送局でどんな風に自分の音楽が使用されたかを確認するのには自分の場合TuneSatというウェブサービスを使っています。ここで自分が音楽出版会社に委託をしてある楽曲のmp3をアップロードしておくと、それが世界中のどこかの放送局で使用された時に自動検索で探知して実際の使用部分の音と放送局名、番組名、日付けなどが一括で確認出来るんです。あまり知られてないかも知れないですが非常に便利で、音楽出版社側でも調査確認のために使ってると聞きました。また楽曲が使用されたということは、それを気に入って取り上げてくれた人間がいるわけなので、番組名などからたどってLinkedInやFacebookで探しだした担当者に直接アプローチして売り込みをかけることも可能です。自分はまだそこまではできていませんがこういう売り込み方のTipsは洋書の「音楽業界サバイブ方法」みたいな本には頻繁にでてきますw

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TuneSatの画面。こんな風に実際の使用部分の音を再生して確認できます。

話を戻すと"Mother Moon"はEcovanavoceの楽曲を自分がリミックスする形で新しく生まれ変わらせた作品です。こちらの原曲と比べて聞いてみるのも楽しいと思いますのでよろしかったら是非。Ecovanavoceというのは造語だそうですが、回文になっていて「古い文化と新しい文化」「西洋と東洋」などが鏡写しの様に融合したハイブリッドな音楽を目指すというコンセプトで名付けたそうです。このネーミングの粋な感じに共感したのがコラボのきっかけでした。

NFTはじめました。

NFTマーケットプレイスの最大手、OpenSeaにてDugoのNFT作品の販売をはじめました。

最初の作品はPrism Remix Collectionという3トラックのセルフリミックスです。Prismというトラックは昨年、緊急事態宣言下に京都の龍安寺金閣寺を訪れた時の体験を元に制作したもので、Dugoのここ一年半の間にリリースされたものの中で最もSpotifyで再生されているものです。今回はこのPrismのテーマとなっている旋律を元にそのバリエーションをリミックスとして制作し、さらにNFTコレクションとしています。

さてその前にNFTとはなんぞやと思われる方、聞いたことはあるけど具体的にはよくわからないという方も多いかと思います。一般的な語義、定義としてはNon-fungible tokenの略で(非代替性トークン)ということですが、要するにブロックチェーンの技術を使うことでデジタルデータの不正なコピーや改ざんができなくなり、データのトレーサビリティも格段に上がったことで、その唯一性が担保されたことにより、物理的な芸術作品などと同等に扱って売買できるようになったデジタルアートなどの総称、ということになります(あってるかな?)

一般的にはジャック・ドーシーのツイートが3億円で売れただの、子供が書いた絵が160万ドルで売れただの、一攫千金的な投機ツールだと見られがちですが、自分はもっと芸術作品にとって本質的に重要な価値と可能性を内包しているものだと考えています。

以前に現代美術家の村上隆さんの著作「芸術起業論」を読んでの感想を本ブログに書いたのですが、その中で語られていたテーマに「芸術のコンテキストに沿っていかに作品のストーリーを組み込むか」というものがありました。例えばアンディ・ウォーホルの「キャンベルスープの缶」はただのスープ缶を作品とすることで当時の抽象主義をアンチテーゼとして揶揄した事がコンセプトの骨子だった様に、NFTも作品は単なるデジタルデータであっても、そこにどんなコンテキストとストーリーを紐付けるかで作品の必然性と価値が決まってくるものです。そしてその思想的な価値やアイデアに対しての共感の証として作品を購入することが購入者の自己顕示欲を満たすものでもあると思います。物理の実体が存在しないデジタルデータの作品であればそれだけコンテキストとストーリー性をいかに作品に色濃く反映させるかが重要になります。今回NFTを始めた一番の理由は自分の創作活動において、その部分にさらに注力していくいい機会になると考えたからです。

かつて、巷では意外なくらい多くのグループ名やユニット名、曲名までもが単なる言葉遊びや語感の響きの面白さで安易につけられていることに違和感を感じていた自分はユニット名に関してかなり真剣に考え、重層的な意味付けを与えながらDugoと名付けました。また曲名とそれに紐づく表現方法についても常にユニークであるように試行錯誤する時間を多くとっています。NFTというフォーマットはそんな自分にとって作品のコンセプト作りをより深く考える必要にせまられるという点でとてもチャレンジのしがいのある新しい場所だと感じています。

他のアーティストの例などをあげると、自分が常日頃から現代のエレクトロニック系ミュージシャンのあるべき形の好例として非常に注目しているMax Cooperも最近、最新アルバムのリード曲のミュージックビデオから切り出したデジタルアートをNFTとしてリリースしています。これはアルバム、ミュージックビデオ、NFTをそれぞれ関連付けて段階的にリリースしてオーディエンスの興味をひくようにするというとても上手いプロモーションの戦略も組み込んでいます。

またMax Cooperと同じレーベルMeshのLlyrというアーティストはフィールドレコーディングのためにボルネオ島に行き、そこで録音したコウモリの鳴き声や鍾乳洞の水滴や水流の音などを大量に集めてデジタルプロセシングしたものを音素材として斬新なエレクトロニック・ミュージックを制作しています。これもまた現代美術的な文脈としてとても訴求力のあるコンセプトだと思います。彼のインスタグラムではボルネオ紀行の際の写真や体験談がシェアされています。それらのサイドストーリーなどを含めて全体として作品が成立しているのがとても現代的でスマートです。彼もまたボルネオ紀行にちなんだ音と画像を組み合わせて映像にしたNFT作品をリリースしています。

さらにJon hopkinsは同様に2016年にエクアドルに訪れてフィールドレコーディングした際のデータを用いて、昨年Music for Psychedelic Therapyというタイトルで最高に素晴らしいアンビエント作品をリリースしていました。コロナ以前に収録した素材にもかからわず、2021年にこのタイトルでアンビエント作品を出してくるというのが実にタイムリーです。

これはドイツのエレクトロニック系ピアニストNils Frahmの2018年の作品ですが、録音は旧東ベルリンの1950年代のレコーディング施設「Funkhaus」で行われ、特注のミキシングデスクに至るまで彼が2年がかりで理想の部屋を作り上げたとのことです。一度録音されたピアノはFunkhausのナチュラル・リバーブ・チャンバー(音を投影して再録音するためのコンクリート製の部屋)を利用して再録音したり、またスペインのマヨルカ島にある友人宅の枯れ井戸を利用して自分自身で実験的に再録音して作ったバージョンもあるそうです。今の時代、単にそれっぽい音を作るためだけならコンピュータ上でシミュレートできるソフトウェアが山ほどあるにもかかわらず、膨大なリソースを割いてあえて唯一無二のサウンドを求めるこういった姿勢も歴史的に西欧の美術界、芸術界に通底している、作品のストーリー性を重んじる考え方の発露なんじゃなかろうかと強く思います。

あっ、それとPrism Remix Collectionのコンセプトについてはリンク先のDescriptionに説明してあります。英語記載ではありますがよろしかったらこちらもご覧になってみて下さい(DeepLコピペ推奨)

こちらはPrismオリジナルミックスのミュージックビデオです。

楽曲の完成にどのくらいの期間、時間をかけるべきか?


12/30にDugoの"Early Works"EPがリリースになりました。以下のSpotifyリンクからお聴きになってみてください。

"Early Works"EP by Dugo

今回のEPはファーストアルバムの"Lingua Franca"以前に制作した未発表曲を集めたもので、最終的な完成の時期はまちまちなのですが、最初のデモが完成したのはもう15年ほど前になります。これほど古い音源をまさか2021年にリリースすることになるとは思いませんでしたが、リリースの限界費用が限りなくゼロになったストリーミングの時代、かつロングテール戦略が当たり前になった今やカタログに加えない理由は何もないので多少のマスタリング的なお化粧直しとカバーフォトを加えて今回リリースすることにしました。

当時の自分はJ-Popのアレンジャー、トラックメーカーとしての仕事がメインで、歌ものへのアプローチが上手くできず苦心していたおり、基礎研究的に自分自身のための音楽制作も同時並行しようと思いDugoという名前をつけてトラック制作を始めたのでした。中にはMac OS9から書き出して完成させたトラックもありますが、意外なほどにさほど音質的な隔世感はないと感じています。完成の時期はまちまちと書きましたが、これらの中には3日程度で完成させたものから、一年以上かけて完成したものまであります。

自分は楽曲制作を「ゴールを探してさまよう旅」の様なものだととらえています。それはある曲では最初のアイデアがどんどん変化していき、全く予想もつかなかった形で完成したり、一瞬で思いついたアイデアを集中して一気に短時間で完成させたり、はたまた数週間、数ヶ月おきに制作して数年かけて完成したりと、完成までの道のりやその間のトラブルはその時々、曲ごとに全く異なる経過を辿るからです。そして旅のさなかに出会うひとや初めて見る風景に影響を受けたり、その旅路で自分自身との対話を経てクリエイターとして成長できることもあります。またこれら完成したものの裏では旅の途中で行き止まりにハマって戻れなくなってしまい頓挫した楽曲が山のように積み上がっています。

"Early Works"の楽曲達は相当以前に形にはなっていましたが、結局は今回のリリースによってようやく長い長い旅を終えたことになります。以前に自分のデモ音源として頻繁に配っていた時期もあるので、もうすでにお聴きになられた方もいらっしゃるかも知れません。自分にとっては今回のリリースはそんな風にしてデモ音源を受け取っていただきお世話になった方々のことを思い出す様な懐かしい機会にもなっています。

最近の自分の制作プロセスは多くの複数の楽曲を同時に進めておいて、それぞれに対してふと閃いたアイデアをその時々で加えていくというものです。上でも書いた様にとにかくリリースの限界費用がほぼゼロなので例え80%の出来でも試しにどんどんリリースしたりして、多くの人の耳に触れる機会を増やすのが重要です。またSpotifyのアルゴリズム的にもこの「チャレンジする回数」というのは大きく関わってきます。もちろん一曲に対してドップリと集中して取り掛かるのもそれはそれで必要な時がありますが、今の時代はまずは楽曲数を増やしていくのが良いと思います。

また場合によっては後々それらをアップデートしたものに差し替えるようなことすら可能です。例えば今回のEarly Works EPの中ではSugar Roadというトラックはかつてひとまずは完成した後に、イタリアの古楽器で現代的な楽曲を制作して活動しているEcovanavoceというクラシックの音楽家集団とのコラボレーションを経てDugoのファーストアルバムにGliding Birdというタイトルでアップデートバージョンとして収録されています。とにかくまずは初期段階のアイデアを大量に集めておいて同時進行で進めていき、決定的な閃きが降りてくる「その時」まで手を変え品を変えて創作の手を動かし続けるのが良いと思います。

そんなこともあってDugoは何とか新曲制作の方も完成したものが積み上がってきています。次回のリリースはまだどういう形にするか検討しているところなのですが、できればアルバムとしてまとまった分量でお聴きいただける形を目指しています。

来年も聴いていただける皆さんにポジティブな貢献できるような音楽を精一杯お届けしていこうと思います!

それではよいお年を。

超初心者に戻ったつもりで勉強し直してます。

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いま恥ずかしながら超初心者に戻ったつもりでAbleton Liveをいちから勉強してます。実は自分はLIve 3からのユーザで以前からライブパフォーマンス用には使っていたんですが、今後は制作用のメインDAWにしようと考えています。長年Logic Proで作曲してStudio Oneでミックスするというスタイルを続けていましたが、Logicはもうコンセプトが古過ぎる上に追加されていく機能が建て増しの温泉旅館の様な非効率なもので、作曲時に新しい発想を喚起するには全く向いていません。ジワジワとLogicへのストレスが溜まっていたおり、いま自分が注目しているエレクトロニック系アーティストはほとんどがAbleton Liveユーザだと知ったので、試しに制作用として久々に使ってみたところ、色々と昔は使いづらいと思っていたところがほとんど改善されている上に、直感的に曲作りするという点において圧倒的に柔軟性が確立されているとわかってしまいました。

一般的なDAWが横スクロールでリージョンを置いていきながらオートメーションデータを書いて行くことを前提とした思考を求めてくるのに対して、Ableton Liveではセッションビューとアレンジビューの連携ができることによってその縛りがないことと、Audio To MIDI機能の進化によってMIDデータ、サンプル、録音した演奏データの境界線もなくなっています。全ての選択肢から最適なものを直感的に選べるようになり、素材の種類の境界線がなくなったことで、逆に制作者に極度に思考力、選択力、決断力を求めるDAWに進化しています。オリジナルなアイデアを積み上げていくにはもってこいでしょう。これはもはやいわゆるDAWと言うよりも超高性能な単体のサンプラーとすら言えると思います。

そしてJon Hopkinsの以前のインタビュー記事での言葉がダメ押しになりました。
"[Logic is] like working in a very small courtyard, whereas Ableton is like this big massive playing field. It's almost as if you can't see the boundaries. 

このMax CooperのライブではAbleton Liveを立ちあげたラップトップからのサウンドを演奏しながら、Max for LiveからはResolume(VJソフトウェア)が立ちあげられた2台の別のラップトップにMIDIメッセージを送って制御しています。

Dugo - 'Dawn' (Official Video)


芸術? ビジネス? 村上隆氏の「芸術起業論」を読んで。

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6月に入りましたが今月は久々となるDugoの新作EPのリリースがあります。来週にもお知らせできると思いますので是非ともご期待ください!

さて最近はあえて日常的に読書する時間を習慣的に作るようにしているのですが、色々と読んだものの中でも特に10年に一度と言っていいくらいの感銘を受けた村上隆さんの「芸術起業論」とその続編の「芸術闘争論」それと「想像力なき日本」についての書評を書いてみようと思います。

まず第一に世界の現代美術業界においては村上氏は数少ない日本人として評価されている作家であり、なぜ自分がそのような状況を築けているのかというと「欧米の現代美術界のゲームのルールに沿って闘っているから」だというのです。

「芸術にルールなんてあるの?心の思うままに自由に表現するのが芸術なんじゃないの?」と素人は思いがちですが、西洋美術界には括弧とした歴史と、それに準じた芸術のコンテキストとルールがあり、それを踏まえた上で批評性、ルール破り、そして新しいゲームの提案があるかどうかが評価の対象になっているというのです。そして作品の価格の推移はマーケットの意向次第であり、作品の出来不出来には全く関係ないというのです。マーケットの思惑次第である以上、作品に紐付いた何かしらの複合的なコンテキストであったり、ストーリーであったり、単にサプライズや意外性ですらも価格に反映していきます。

そして日本の現代美術界は全くこのようなことを理解しようともせずに、自国内での美術予備校、美大や芸大の権威、その権威に迎合して授業料を納める学生、つまり次世代の権威予備軍、それらの循環によるエコシステムであり、門外から西洋美術をパクったり、批判したり、憧れていたりするだけのものだと断罪しているのです。

自分が特にこの話に興味を持ったのはこれが音楽業界にもそっくりそのままあてはまると思ったからです。インターネットのストリーミングが音楽産業のメインになって以来実質的にCDやダウンロード販売がメインだった時代とは競争や評価基準のルールが根本的に変わっています。システム上のルールが変わったことで音楽家の活動形態や評価基準も変わったのですが、世界中の同業者と全く同じSpotifyというフォーマットで闘うことになって初めて西欧諸国の実態が見えてきたのです。

以前は日本語で書かれたメディアか日本語に翻訳されたメディアの情報だけを踏まえて世界の音楽事情だと思っていたものが、ほとんど氷山の一角でしかなかったとわかってしまいました。そして彼ら西欧のアーティストのプレゼンテーションスキル、そしてその方法の多彩さと誠実さを知り、以前はうっすらと日本とも繋がっていると思っていた世界が完全に隔絶したものだと知りました。

加速度的に日本国内市場がシュリンクしていく今の状況においては自分の様な零細音楽家も今後はグローバルのマーケットで幾分かのシェアを獲得すべくゲームのルールを知った上で闘う必要があります。実際にグローバルな戦場で勝ち残ってきた村上氏の一言一言が凄まじい説得力と重みをともない、1ページごとにうんうんと強く頷きながら読み進めていきました。


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画像は昨年見に行った森美術館の「STARS展」より


こちらの動画では森美術館と関わることになったきっかけの話が特に興味深かったです。

大量のアウトプットを生むための過去ストック活用法



Dugoのニューシングル"Gleam In The Deep Sea"が4/29にSpotifyでリリースになります。

こちらはSpotifyリリース前のプリセーブ用のリンクになります。

今回のトラックは実は10年以上前にとある映像作家の方とのコラボレーション用に制作したものが元になっていて、それを今のツールと今の音楽性で大きく刷新して再構築しています。かつては昔の素材やアイデアを使い回すようなことには抵抗があったのですが、いまは自分が何らかの形で制作してきたものは未完成のもの、断片、音色のデータまで含めて全て資産だととらえているので今後も積極的に活用していこうと考えています。

かつて聞いた話では、スティール・パン奏者で前衛音楽家のヤン富田さんは数万枚のレコード、CDコレクションから任意の楽曲がどこに収録されていてどこに収納されているかを瞬時に見つけ出せるようにして「使える知識」として管理していたそうです。同様に制作に関しては過去のアイデアの断片を瞬時に引っ張り出してきて再構築できるように脳内とストレージ内を管理しておくことが大量にアウトプットしていくために必須だと考える様になりました。若さを失うのと引き換えに得た「積み上げた知識と経験の資産」こそが自分のオリジナリティの源泉として強力な武器になると実感しているからです。

過去の資産の有効活用ということで言えば、近年では音楽活動上も同様の変化が起こっています。現代の音楽活動の主流がCDなどのフィジカルなリリースからストリーミングサービスやソーシャルメディアでの投稿によるネット上のプレゼンスに重きが置かれるようになってから、パッケージ製作、流通、プロモーションなどにかかるコストは激減、もしくは限界費用ゼロにまで下がりました。そんな誰でもが同等に音楽活動ができる状況下ではアーティストはとにかく潜在的なオーディエンスの目に触れる機会が重要であり、リリース量や制作物の質、その方向性を制限して管理する意味がなくなっています。いわゆるロングテールの戦略をとって過去の資産も最新のものと同等に扱い、いつどんな作品がバイラルになってもいいようにしておけばいいのです。

また音楽ジャンルの多様化や、古いものと新しいものが完全に同じプラットフォームで同居できるようになったことで、何が最新の音楽で何が時代遅れなのかという区分けが消滅し、最新の音楽を知っているということに対するスノッブな選民思想も過去のものになり、個々のアーティストがクールかダサいのかはその活動スタイルに大きく依存するようになっていると感じます。

その指標となるもののひとつに作品の発表の場として何を重視するかということがあります。ライブをメインにするというのはCOVID-19以降はほぼ不可能になりつつありますし、事態が終息したあとでも何かしらの制限がついてまわるはずです。ヴァイナルの販売やマーチャンダイズがメインというのもひとつの手でしょう。自分の場合はInstagramの各種投稿とSpotifyでのリリースを圧倒的に重視しています。Instagramでは短い動画付きでちょっとしたサウンドロゴや数十秒の楽曲をアップしていますが、それもオーディエンス獲得のためのゲートウェイとして注力し、手間と時間をかけて制作しています。そして見せ方を変えたりしつつ段階的に尺の長いコンテンツにつなげていき、最後にSpotifyがランディングページとなるようなイメージで導線を作っています。ここの個人ウェブサイトを作ったときに実はその様な用途で色々なコンテンツの発信の場として機能するようにするプランもあったのですが、当時はまだそのような考え方は一般的ではありませんでした。今の様にユーザが共通のプラットフォームでコミュニケーションをとれるようになって初めてワークするアイデアだったかもしれません。

さて、昨年の10月にDugoの活動再開となる"Recluse EP"をリリースして以来ほぼ7ヶ月が経過してようやくSpotifyの月間ユニークリスナーが15000人を超えるところまできました。まったく先が見えないままでひたすら制作を続けて可能性を探るのはなかなかきつかったのですが、あと少しでデータを見ながら戦略をうてるくらいの数字に達することができると考えています。またもうすでに次回リリース予定のEPの制作が佳境に入っているので、近いうちにそのこともお知らせできそうです。どうぞご期待下さいませ!

予算をかけずに個人でもできるオンライン音楽マーケティング

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Interview on Indie Top 39 by Emma MIller
こちらはUK発のレビューウェブサイトIndie Top 39に掲載された最新のインタビュー記事です。


久々となったDugoの新作EP Recluseのリリース後、もろもろのプロモーション活動も一段落したのでここで総括してみようと思います。

今回はレーベルからでなく完全に自主でのリリースとプロモーションになるのでまずは自分のマーケティングに関するリテラシーを高めることと、いかに予算をかけずに各所にとりあげてもらうかということにポイントをしぼって進めました。

オンラインでのパブリシティというのは紙媒体と違って一度アップされると理論上は半永久的にでもネット上に存在しえることが可能です。なので今後も活動を続けていく上で認知を広げていく際には必ず誰かに過去情報が検索されることになるので、しっかりとした中身のあるものを提示しておく必要があります。一回こっきりアップした時にだけ周知をして読まれれば良いというものではなくロングテール的な姿勢で少しづつコンテンツとして積み上げていくことで目に留まる頻度を高めていくべきです。

個人からでも請け負ってもらえるプロモーション会社は色々とありますが、今回は費用がさほどかからず手軽に使えるウェブ上のサービスを試してみましたのでいくつかご紹介します。今回掲載された記事の中から主要なものは https://dugo.tokyo/ に引用してありますのでご覧になってみて下さい。

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これは巷では最も知られたサービスだと思いますが、元々はGoogleで働いていたプログラマーが独立して立ち上げたという如何にもドラマ「シリコンバレー」に出てきそうな会社で、最初にポイントを購入したのちサイトのリスト上に掲載されているメディアの中から自分が気に入ったものにオファーを送り先方が楽曲の内容に対して気に入ってくれれば記事やインタビューとして掲載されることになります。ここの特徴としては音楽のジャンル、影響力の評価、採用率、抱えているオーディエンスの総量など様々なパラメータが比較できるように数値化されていて、それをフィルタリングして自分にとって最適と思えるメディアを選べるところです。またレビューサイトだけでなく、個人ブロガーやInstagramのインフルエンサー、Spotifyのプレイリスター、果てはSoundCloudでのリポストなど様々なツールを介してのメデイアがあり、今回自分が取り上げてもらったものの中では世界中の山岳地帯を旅している冒険家のInstagram Storiesの映像のBGMとして取り上げてもらったりというものもありました。おそらくTikTokからみでのインフルエンサーなども多いでしょうし、昨今は数年前までは思いもつかなかったような場所ですら大きな影響力を発揮しているひとがいることがわかりました。

あとSubmitHubは採用率がなかなか厳しかったのと、自分の場合は試聴してもらうのと同時に不採用の場合も必ずその理由をレビューしてもらえるコースで提出していたのですが、これは最初はメンタルがやられそうになりました。普段仕事で制作している楽曲であれば、どんな理不尽な不採用や意味不明なリテイクであっても何の動揺もなく機械的に対処できるのですが、いざ自分の音楽として作った楽曲によくわからない理由でダメ出しされることがこんなに精神的にこたえるとは思わなかったです。これはとてもいい経験になりました。

こちらもシステムとしてはSubmitHubと同じ形式ですがリリースする楽曲を提出してパブリシティとして扱ってくれるメディアを募るという一種のお見合い的なプラットフォームです。こちらの方がおそらく新しくできたサービスで、それゆえか比較的個人ブログなどを含む小規模のメディアからかなり多くのオファーをもらいました。またここはリリース期間内に全くオファーがもらえなかったとしてもここのサービスからの紹介で必ずいくつかは記事が掲載されるという最低保障の様な制度があるようです。

こちらは少し名が通ったメディアやレーベルをメインにしたサービスです。ジャンルや国別のフィルタリングがとても使いやすいのと、自分が気に入ったものをみつけたら個別にアプローチできますが、名が通ったものに関しては楽曲を聴いてもらうだけで$10〜$15ほどの費用がかかります。今回ここでは2社だけ試しにオファーしてみましたが採用はされませんでした。


今度はサブミッション系のサービスではなくロンドン発のコンサルティングを含むマーケティング会社です。ここはYouTubeに多くの音楽マーケティング戦略の動画をアップしているので、それを見るだけでも相当な知識と情報を得られますが、個別にサービスを依頼することでアーティストの現状に特化したアドバイスと戦略のドキュメントを作成してくれます。またその際に必ず30分ほどのオンラインミーティングを行います。自分の場合は活動全体の指針と各ソーシャルメディアのアカウント上のどこを直した方がいいかなど具体的な部分についてまで詳細にアドバイスをもらいました。今回はここでは£500を使いましたが、これを高いとみるか安いとみるかはちょっと判断が難しいところです。まずはYouTubeの動画を見まくった後で判断してみればよいと思います。

フォーマット化されたサービス以外ではMuck Rackというジャーナリストのデータベースサイトを活用してみました。ここではDugoに近いジャンルの音楽記事を書いているジャーナリストを調べて直接連絡をとってみたところ二人のジャーナリストに記事として取り上げてもらうことができました。また当然ながら他にもPitckforkなどの超主要メデイア計200件ほどにプレスリリースを作って送りましたが、こちらはリアクションが無かったです。レーベル経由、プロモーション会社経由でないと受け付けないというメディアもありましたし、このやり方はまだ突破口が見えませんが色々と手法を変えて継続していこうと思っています。

あとアーティスト別のオンラインの影響力やプラットフォームごとのデモグラフィックなど、あらゆる指標をみることができるサービスとして

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があります。ここはプレミアムに登録すると月額$140と少し高額ですが初回登録で無料期間がついてくるので、この間に色々と調べまくって現状世界のリアルな音楽事情がどうなっているのかを数値で把握してみるのもいいかもしれません。現実的な使い方としては自分と音楽性が似ていてロールモデルとしたいアーティストを検索してみてどのプラットフォームで大きくオーディエンスを獲得できているか把握したり、どの国や都市での影響力が大きいかを調べて自分がリソースを投下する際の参考にしたりといったところです。とにかくありとあらゆる膨大なデータが数値化されているので他にもアイデア次第では画期的なプロモーション方法を確立できるかも知れません。

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色々と試してみましたが肝心のSpotifyの再生数は数千程度でまだまだ停滞しています。これらの活動で少しづつネット上のプレゼンスを上げていくことが全てSpotifyのアルゴリズムに影響していると公式にアナウンスされているので当然おろそかにはできないのですが、どこかでSpotifyのエディトリアルプレイリストに取り上げられたり、主要なメディアにピックアップされたりなどして多くのオーディエンスに聴かれるようなターニングポイントがあって初めて次のフェーズに移れるのかも知れません。ただし上述のBurstimoの動画で何度も説明されているのですがInstagramやSpotifyのアルゴリズムは、それを正しいやり方でコンテンツをアップして刺激し続けていれば一定の数値を超えた時に必ず露出が増えるモードに変わるのでそれまでは暗闇の中をひたすらトンネルを掘り続けるように耐えていくしかありません。また自分に関してはまだリリースの総量も少なすぎるのでとにかくいい曲をどんどんリリースしていくことが必要ですね。

今回はなんか音楽とは全く関係ないことばかりを書きましたが、InstagramやTikTokを見ればどんなアーティストも今や独自に音楽とは関係ないコンテンツをバンバンアップしています。特にTikTokではJason DeruloThe Chainsmokersなどがちょっとした小芝居をするジョークの動画を頻繁にアップしていたりしていて驚きます。従来型のパッケージ販売やマスメディア中心のプロモーションが完全に過去のものになっていることを痛感します。

さてDugoに関してはとりあえずいまは次回のリリースに向けて鋭意製作中です。近いうちにまたここでリリースのお知らせをすることになると思いますので是非ともご期待下さいませ。

どうやってSpotifyを攻略していくべきなのか。


Dugo "Recluse (edit mix)"のフルサイズミュージックビデオを公開しました。ここのところDugoの新作EP関連で色々と書いて来ましたが、ようやく明日10/9リリースとなります。以下はトラックリストとSpotifyのリンクになります。

Recluse EP
/ Dugo

さて、今回は初めてセルフリリースという形を取り、制作からディストリビューションの手配、マーケティングから広報までをすべて自分ひとりでやってみてどこまで成果をだせるのかというチャレンジでした。実は今年初頭には以前契約したドイツの音楽出版社からの紹介でロンドンを拠点とするエレクトロニック・ミュージックの老舗レーベルとリリースに向けての話し合いに入っていました。ですが最早音楽の中身だけで無名のアジア人の作品を取り上げるというのが難しいのは当然な上に、今まで自分自身でDugoのファンベースを育てる努力をないがしろにしてきたこともあり、遅々としてなかなか具体的な話が進まないままにCOVIT-19で全ての状況が変わってしまいました。

件の音楽出版社からも常々言われていたことですが、今はどんなレーベルやレコード会社もまずはSpotifyの数字を見てからでないと音を聴こうともしません。ですが色々とSpotifyをハックするためのTipsやソーシャルメディアadsの上手いまわしかたを調べていくと、オンライン上での活動や露出、存在感は全てSpotifyのアルゴリズムに反映されるようになりつつあることがわかり、ソーシャルメディアとのプラットフォーム間でのデータの連携すら行われているようです。ですのでいまライブはまだ難しい状況ではありますが、それ以外の活動に関しては以前と変わらず続けていけばファンベースを拡大してSpotifyの数字に繋げていくことは不可能ではありません。

オンライン上で存在感を増していくには楽曲以外にも活動自体に共感してもらえるような大小様々なコンテンツを提供していきオーディエンスとのエンゲージメントを増やしていく必要があります。それと自らの音楽活動の日常を見せることを通してゴールまでの長い道のりを共有してもらうことで楽曲や音楽性の深い部分にまで共感してもらえるという側面もあります。

自分の様な人間のあまりにも地味すぎる日常などに果たして共感などしてもらえるのだろうかとも思ったのですが、無名なアーティストには無名なりの見せ方や自分だけが見せることができるコンテンツがあるはずので、メジャーなアーティストの発信の仕方などは過度には参考にせず自分自身に向き合った方がいいと思います。自分の場合では今更ながら映像制作をはじめてみたり、その素材撮影のために色々な場所にでかけて行った時の様子をお見せしてみたりというのもそのひとつの手段です。

また昨今はそういった音楽ストリーミングのプラットフォームで存在感を維持するために驚くほど短いサイクルで"そこそこ"の作品を出し続ける戦略が主流になってきていますが、そこだけは自分は"そこそこ"でなくじっくりとアイデアを煮詰めて凝縮した作品を出していきたいと考えています。自分にとってDugoの楽曲は我が子の様なものなので"ちぎっては捨て"るようにひらめきでポンポン作れるものではないんです。ですので長い時間と労力をかけて厳しく鍛えて出来上がった楽曲は、世に送り出す際には目いっぱい手をかけて色んな方々に喜ばれて聴いてもらえるようにしてあげたいというのが親心ですw

というわけでひとまず初めてのセルフリリースが完了ということで一区切りになりますが、引き続きDugoは定期的にリリースしていきますのでご期待いただけると大変光栄に思います。次回はまた違った音楽スタイルやマーケティング戦略にもトライしてみようと画策しています。

By the way, this time it was the first time for me to release my work by myself, and the challenge was how well I could achieve results by doing everything from production, distribution arrangements, marketing strategy to publication on my own.

In fact, earlier this year, the German music publisher that I had previously signed referred me to some long-established London-based electronic music label, then actually I was in talks with them about the releasing. However, it is no wonder that it is difficult for them to take up an unknown Asian artist like me only by the content of the music, and moreover I have neglected the effort to grow Dugo's fan base until now. As a result, all the situations have changed with COVIT-19 before we talk actual things.

As I had always been told from the music publisher, nowadays no label or record company will listen to a song of the artists who haven't acquired some amount of figures on Spotify.

However, as I researched various tips on how to hack Spotify and how to use social media ads, online activities, exposure, and presence are all being reflected in Spotify's algorithms. It turns out that data is even being linked between platforms of social media and Spotify. So while live performances are still difficult, it's not impossible to expand the fan base and connect it to the numbers of play on Spotify if we continue to do other activities as before.

In order to increase presence online, it is necessary to increase engagement with the audience by providing various types of content that people can be interested in. Also, the audience can be sympathized with you even in the deep part of the music and musicality by showing the daily life of your own musical activities and sharing the long way journey as an artist.

I wonder if the audience really can be sympathized with the everyday life of such an ordinary person like me, but even unknown artists definitely have content that can be shown only by themselves, so it is better to face yourself, not to refer to the way of major artists overly.  For me that was to start making a video, or to show how it was like when I visited various places to shoot the material for the video.

Also, in recent years, in order to maintain its presence on such music streaming platforms, the strategy of continuing to produce "moderate" works in a surprisingly short cycle have become mainstream, but I would like to carefully develop ideas and produce a dense work.

For me, Dugo's tracks are like my own child, so it's not easy to make them. Therefore, I would like to make sure that various people will be pleased with the songs that have been grown over a long period of time and effort when they are released to the world. It might be like a parental feeling toward a child.

Anyway, now I've completed the first self-releasing, but Dugo will continue to release the works regularly, so I'm very glad if you would support me as well. Next time, I'm planning to try different music styles and marketing strategies.

ミュージックビデオを安く簡単に作るには?


今回は"Recluse" EPのTrailer#3の紹介とともにどうやってこのミュージックビデオを作っているかについて書いていこうと思います。

昨今では音楽を消費するメディアはCDはおろか最早ダウンロードサービスですらなくSpotifyなどのストリーミングサービスや動画メディアがほとんどになっているわけです。その中でもYouTubeやInstagramでコンテンツが消費されている割合は圧倒的に大きく、もし自分の様な無名アーティストが何かしらのきっかけで多くの人にその存在を知ってもらおうとしたらこれを無視することは到底できません。それと同時にこの場でどう存在感を作れるかが唯一のチャンスでもあるわけです。

ストリーミングサービスではサービス内にアカウントを持っていなくてはそもそも楽曲のページにたどり着けないというわずかな煩わしさが存在するため、アカウントが無くてもリンクからすぐに誰でも曲にたどり着けるという意味でYouTubeに楽曲をアップロードしておくというのはアウェアネスを高めるために極めて初歩的かつ重要です。
また広告のコンバージョンレイトに関して各種ソーシャルメディアが占める割合を見るとザックリとではありますが直近の指標ではInstagramが60%と圧倒的に大きいものがあり次いでFacebook、Twitterなどとなっています。

そんなわけで長年億劫で手つかずだった動画制作に着手してみようと思いたちました。ミュージックビデオの方向性やクォリティは最近は本当に様々あり自分と同じ様な極小規模で活動している様なアーティストでも何らかの動画を制作しているケースがほとんどです。にもかかわらずかなり有名なエレクトロニック・ミュージック系のアーティストでもMVはフッテージのつなぎ合わせ、もしくはエフェクト映像を音に貼っただけの様なものでよしとしているケースもあるので、注力してそれなりにちゃんとしたものを作れば抜きん出るためのきっかけにもなり得そうです。

ここからは自分が動画制作に使っているツールを紹介していきます。

Insta360 ONE X

自分で動画素材を撮りためていくのにまずはこのカメラが圧倒的に役立っています。これは撮影ポイントを中心に360度、周りの風景全てを撮影できるカメラなのですが、撮影されたムービーファイルを専用のソフトに読み込むとどの方向に視点を向けるかを指定できるので、その視点を動かすだけでも動きのある映像として落とし込むことができるんです。例えばこのTrailer#3の最後の部分で自分が写っている場面では下から上空と一緒に自分を写しているだけなのですが、後処理で視点を動かすことによって回転して見えるように2Dのムービーに落とし込んでいます。このカメラではまだまだ工夫次第によって色んな面白い映像が撮れる可能性がありそうです。専用アプリ内にはソーシャルメディア機能がついていて面白い動画をアップし合うコミュニティの様なものも形成されています。またInstagramのInsta360アカウントにもそれらからさらにキュレートされた独創的な映像がアップされていてここは特に自分も参考にしています。

iMovie
今回最初に制作した2つのトレーラーはInsta360で撮影した素材を使ってiMovieで簡単に編集しているだけです。動画制作ソフトに手を出すことへの億劫さからどうしても逃れられず、どうにか一番操作が簡単なこのソフトから入ってみた次第です。細かい色味の調整や複雑なレイヤーを使うのでなければiMovieだけでも充分だと思います

DaVinci Resolve 16
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今回のTrailer#3からはもう少し微調整ができる編集ソフトを使ってみたいと思い、このソフトを使い始めています。このDaVinci ResolveはAdobe Premire ProやApple Final Cut Proなどと比べるとまだ知名度は低いですがそれもそのはずで十年ほど前はスタンドアローン機として3000万円ほどで販売されていたものなんです。それが数年まえからLite版は無料で使えることになり、しかも使用できる機能の9割近くは有料版(4万円ほど)と同じという素晴らしい仕様になっています。色味の微調整に関しては自分はこだわりを持ってやっていきたいと考えているので、やはりこのソフトから入っていくのが得策だろうと思った次第です。何より無料ですしね。かつては億劫でなかなか始められなかった動画制作もいまや多くのYouTubeのチュートリアル動画のおかげで特にストレスなくはじめられました。音楽制作に比べると動画制作のチュートリアルは日本語で解説されているものが多いようです。

FreshLUTs
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実際に制作を始めると映像のカラーグレーディングが動画制作の楽しいポイントでInstagramのフィルターや音楽制作のプラグインと同様に最初は動画用の色味加工のフィルターが欲しくなります。このFreshLUTsはカラーコレクション用のLUT(look up table)と呼ばれるファイルを共有するサービスで、ここも無料でダウンロードして使うことができます。

Artgrid
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ここはフッテージのサブスクリプションサービスで高品質かつ高画質の映像が最低月額20ドル程度でダウンロードし放題で使えます。他のフッテージサービスではまだ個別映像ごとの販売のところが多く、しかも4K映像だとひとつだけの購入で数百ドルかかるようなところもあります。YouTubeやInstagramにアップするためのMV用の用途としてなら、ここのサービスで充分かつ最適かと思います。自分の場合は今後も短いものから長いものまで様々なMVを作っていこうと考えているので年間で300ドル程度のサブスクリプションフィーはとても割安に思えます。あとこのサイト内では動画を検索する時にテーマごとに探せたり、関連する動画を薦めてくれたりと、複数の動画を繋いでストーリーを作っていくための提案までしてくれるのがとても便利です。まだ比較的新しいサービスなのでフッテージの総量は少なめですが、今後増えていけばますます便利なサービスに発展していくと思います。

Artgridの登録先リンクを貼っておきます。このリンクから登録すると2ヶ月分が無料になるとのことです。


Fiverr
最後にこちらはクラウドソーシングサービスのサイトです。この中には様々なクリエイターが登録していて、動画編集の依頼はもちろんMV制作そのものを発注することもできるうえに、中にはフッテージ編集の簡単な作業だけでよいならわずか数十ドルでMVを作ることも可能です。自分はいまのところ外部発注することは考えていませんが、今後動画制作にハマってきたら単純作業の部分だけをアウトソーシングするのは便利で効率的かもしれません。ちなみにFiverrには音楽制作のクリエイターも多数登録していて、作曲編曲、作詞、ミックス、マスタリングなどありとあらゆる音楽制作の行程に関する作業をアウトソーシングすることもできます。

と、まあこんな感じでついに動画制作に手を出してしまいましたがどうなることやら(^_^;) 制作のプロセスやオンライン上に存在するサービスの質や仕組みなどはほとんど音楽制作のそれと変わらないのでいまのところスムーズに習得できているように思えます。

それと今後は音楽単体だけでのコンテンツとしての訴求力ではなかなか抜きん出るのは難しく、ますます総合的なコンテンツ力と発信力が問われるようになってくると思います。これまで自分が何気なく音楽を聴くことだけで楽しんできたエレクトロニック・ミュージック系のアーティストでも、一旦マーケティング、アウェアネス的な戦略の視点でウォッチしてみると、それがかなり有名なアーティストであっても実に色んな形、色んなプラットフォームでコンテンツ制作やサービスを展開していて、自らのブランドを確立するための活動に相当なリソースを割いていることが見えてきます。ですので自分もこのサイトに来ていただいた方に少しでもお役に立てそうな情報があればできるだけ発信していこうと思います。


Here is the "Recluse" Pre-Save link on Spotify
最後にこちらはRecluseをSpotify上で事前にセーブすることができるリンクになっています。クリックしていただけたら大変うれしいです。
よろしくお願い致します。(^_^;)

"Recluse" EP Trailer #2と今後の活動についてのご報告


"Recluse" EP Trailer #2 by Dugo
Dugo is going to be releasing an EP with 4 new tracks, called "Recluse"on October 9th

Here is the "Recluse" Pre-Save link on Spotify
こちらはRecluseをSpotify上で事前にセーブすることができるリンクになっています。クリックしていただけたら大変うれしいです。よろしくお願い致します。


前回のNewsでお知らせした通りDugoの新作EP"Recluse"のリリースに向けて着々と準備を進めています。2017年のアルバムLingua Franca以降なかなか制作が軌道に乗らず活動が滞りがちだったのですが、今年の4月に自らがCOVID-19に感染したと思われ(断定しないのはPCR検査、抗体検査などを受けていないからですが、感染された方のブログや動画、海外の論文などで発表された詳細な情報による症状の推移、期間などがまさに自分のそれと当てはまっていました。)今後は自分の音楽活動で最もフォーカスしていきたい部分にもっと注力していかないといつか後悔するだろうと痛感したことが再開のきっかけになりました。

またCOVID絡みで言えば、今多くのアーティストがコンサート活動ができずにいるなか今後はコンテンツ制作力の価値が上がり、その需要も高まるだろうという傾向はある意味チャンスにもなり得るだろうと考えたことがもう一つの理由です。今回の"Recluse"EPに関しては全体としてはここ2年ほどの間に作り続けていた楽曲群のまとめですが、かなりの部分は自分の体調が回復した5月以降に作業したものになっています。EPという形をとったのは昨今のストリーミングサービスの趨勢においては、もはや10曲15曲がまとまって完成した後にアルバムとしてまとめてリリースするよりも数曲単位で頻繁にリリースしていくスタイルが主流になっているからです。CDなどのフィジカルでのリリースを考えなければなおさら合理的です。というわけでDugoも今後はコンスタントにEPやシングルのリリースをしていき、それらの集大成としてのアルバムリリースという形をメインの活動にしていこうと考えています。

そんなこともあってコンテンツ制作力の拡充という意味でRecluseのリリースに関しては初めてミュージックビデオの制作にも手を出しています。大規模な予算を組んで大掛かりなMVを作ることなどは当然できないのですが、まずは地道に自ら撮影した素材を自分で編集していく前提で先月8月から都内の色々な場所に出かけて普段趣味にしているジョギングを兼ねて走りながら素材を撮りためていき、いまのところリリース告知用に2本のトレーラーを作ってアップしました。こちらの活動においてもCOVIDの影響があり、どこに出向いても人出が少ないせいで撮影がしやすく、なかなかおもしろい風景が撮れています。

砂粒の様な個人での活動で何の後ろ盾もアーティストしての実績もない自分の様な人間でも昨今はDIYで全ての音楽制作を完結し、ミュージックビデオを作り、果ては昨今のインターネットサービスを駆使すればレーベル運営、マーケティング戦略と、それらを学ぶためのツールすらも10年前の数千分の一、もしくはフリーで運用することができる時代になりました。特にマーケティング戦略の作り方に関しては最近徹底的に研究していて、新しい情報を得るごとに目から鱗が落ちるような驚きを感じているので、今後もしその成果がでたらこちらもまとめてブログで報告してみようと考えています。

GameSoundCon 2019 Part 1 (Keynote by Wilbert Roget, II)

メルボルンに続いて先日はロサンゼルスで近年開催されているGameSoundConというゲーム業界のオーディオセクションに特化したカンファレンスに参加してきました。GDCに比べると分野が特化されているために規模は小さいですが、その代わりにどのセッションも全てサウンド関連のものなので二日間の開催期間中息つく暇もなくセッションに参加しました。今回はその中からCall of Duty WW2Mortal Kombat 11と言ったAAAゲーム作品の音楽も手掛けたWilbert Roget, II氏のレクチャー"Playing the Long Game: My 25-Year Journey to Mortal Kombat 11"をレポートします。

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このレクチャーのメインテーマは音楽のことよりもズバリ「長期的な信頼関係」でした。彼のキャリアの中でいかに友人、知人との長期的な信頼関係が自分のピンチを救い、チャンスを生かし、さらには新しい事へのチャレンジと学習に繋がったかという話でした。そして彼の現在の成功こそがその証明であると。

例えばかつてLucas Artsにインハウスコンポーザーとして在籍していた時代に最もご自身が多くの貢献をしたStar Wars: First Assaultというタイトルでは制作途中でディズニーによるLucas Artsの買収によってプロジェクト自体がキャンセルされてしまい全てのスタッフが解雇されてしまったそうです。プロジェクトはアビーロードスタジオでオーケストラレコーディングを終え、完成まであと一ヶ月のところだったとのこと。しかしこの事がきっかけでフリーランスになった彼はのちにこのプロジェクトの時の同僚を介してCall of Dutyの制作会社であるSledgehammer Gamesに紹介してもらい、COD WW2のコンポーザーとして起用されることになりました。(前回のブログで書いた打楽器を全く使わせてもらえなかったコンポーザーとは彼のことです)さらにCall of Dutyのサウンドデザイナーの1人がMortal Kombat 11の制作に関わってると知り、その彼に自分をディレクターに紹介してもらえるか頼んでみたそうです。そのディレクターは彼の過去の仕事をあまり知りませんでしたが2016年に彼が登壇したGDCでのレクチャーに参加していたことで軽い面識があり、またタイミングがよく彼らは次のコンポーザーをリサーチしていたところでした。そこでオーディションとしてテーマ楽曲のデモをプレゼンする機会を得た彼は楽曲を仕上げたのち、曲のテーマを演奏する楽器のソリスト達を雇い、彼らのレコーディング時の演奏シーンを撮影してデモ楽曲に当てはめたムービーを作成し、それをディレクターにプレゼンしてメインコンポーザーの地位を勝ち取ったとのことです。

また新しい出会いが未来の次の出会いに繋がるのと同様に、目前に立ちふさがった困難やチャレンジの機会が新しい知識を学習するきっかけになり、さらにはその知識が次の機会につながっているという話も大変興味深いものでした。

16歳でFinal Fantasy 7の音楽に感銘を受けてゲームコンポーザーを目指す様になった彼はまず様々な楽曲のmidiへの書き起こしをひたすら続けることで作曲の基礎を学んだそうです。そしてイェール大学を出た後に入ったLucas Artsではインハウスコンポーザーの立場から音楽のインタラクティブシステムを1から作り上げる経験を経たことで、後にフリーランスになってから彼自身がLucas Artsで作ったシステムに影響された他のタイトルに今度はメインコンポーザーとして呼ばれることになったと。この際にはディベロッパーからゲームエンジンとデベロッパーツールが全てインストールされたPCを渡されてまるで新しく雇われたインハウスのスタッフのように扱われることでさらなるインプリメンテーションの知識と経験を得ることになったそうです。

またCall of Duty WW2の制作時にそれまではCODシリーズで必須とされていたシンセサイザーのサウンドメイキングをU-he Zebraを使って徹底的に学んだにも関わらず実際にはシンセサウンドを全く使わない方向性が決まってしまったのですが、その後その際の知識を使ってDensity 2 Forsakenというタイトルではアナログシンセのサウンドを作曲に取り入れ、Mortal Kombatではむしろオーケストラをバックにしてシンセをシグネイチャーサウンドとして使うアプローチを活用し、さらにはCOD WW2で使われていた兵器や乗り物の機械音をシンセサイズ加工してスタンダードなオーケストラパーカッションの代わりに使ってたりもしているそうです。こんな感じで彼のキャリアはチャレンジと学習の連続、そして出会った人との信頼関係が新しい機会に巡り合うきっかけになり、その機会がさらに新たな学習の機会を生み、そこで得た知識が後年の新たな出会いのきっかけになってます。

自分がこのセッションに特に感銘を受けたのは彼が重視する「長期的な信頼関係」と同様に自分が今年参加した日本国外のゲーム業界のカンファレンスでは出会う人達がみな人との出会いに対して長期的視点で投資するマインドを持っていると感じ、Willさんのキャリアはそれを象徴する様なものだったからです。自分がかつて日本国内のイベントや懇談会に時おり参加してた際には肩書きや「誰それと知り合い」などの後ろ盾がなかったからか、なかなか単純に人対人として打ち解けて話をするきっかけが作れず悪戦苦闘していました。それに対してGDCやPAXでもそうでしたが、今回のGSCでは特にWillさん自身から声をかけていただいたり、Finishing Move inc.のお二人から「GDCのときに会ったよね」と声をかけてもらったり、かたや日本のゲームにあこがれてコンポーザーを目指しているという現地の学生の方からも連絡をもらって実際に会ったりと本当に互いの現時点での立場に関係なく話して打ち解けることができました。(日本人の方ではHaloシリーズのメインコンポーザで米在住の陣内一真さん、Platinum Games所属コンポーザーの原田尚文さんや同行されていたサウンドチームの方達と食事する時間を作っていただきました。)このマインドの背景には「長期的視点」つまり今お互いに仕事でつながる関係ではなくても5年後、10年後に実際に協力しあえるタイミングが来るかもしれないという考え方と、肩書きでなく人のファンダメンタルに対して自分の時間を投資するという意識があるんだろうということを感じました。いま実際に自分自身のキャリアを考えるとそれなりにターニングポイントになっているプロジェクトに繋がったきっかけが知り合って10年以上経って初めて実際に一緒に仕事をする方だったなんてこともあります。そしてまた出会う方がみな「いかに自分が持ってるものを他人とシェアできるか」という姿勢でコミュニケーションしてくるんです。「自分はこういう仕事をしてるからこういう情報だったらまかせてくれ」とか自分の住んでる国や街のローカルな事情をシェアしてくれたり、「こういう人だったら紹介できるよ」など。これもシェアすることが回り回って最終的には自分を含む全てのひとの財産になりうるという考え方が根底にあるからなんだろうなと感じました。自分も含めてのことではありますが、もし海外でネットワーキングすることを考えていらっしゃるようでしたら「自分が何をシェアできるか」という準備をしておくと確実にうまくいくと思いますよ。

最後にWillさんがレクチャーの中で紹介していたオリジナルのKontakt用ストリングスサンプルのダウンロードリンクをこのブログに貼る許可を、ご本人からいただいたので下に載せておきますね。

https://www.dropbox.com/s/p3t932rwyubn1si/StringsOverpressurePatch.rar

これはMortal Konbat 11の制作の際にブダペストで行ったオーケストラのレコーディングセッションの最後の残り2分間で急いで録音したものだそうです。non vibratoとover pressure(弓を弦に強く押さえつけてノイズっぽいサウンド混じりにする奏法)の切り替えをモジュレーションホイールでシームレスに切り替えられるパッチです。これをWillさんはご自身でプログラムしたそうです。それとWillさんは自分がほしいサウンドを追求するために立ち上げたImpact Soundworksというサンプルライブラリーのブランド共同設立者でもあります。


Behind the Scenes of Call of Duty

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Games Weekレポートの最後にPAXで参加したオーディオ系のセッションの中からSledgehammer GamesのサウンドチームによるCall of Duty
シリーズに関するプレゼンテーションの内容を紹介します。

前回のブログで書いたようにPAXではGDCスタイルの様々なゲーム関連のセッション行われていたのですが、その中でもこのセッションは目玉でかなり多くのゲームオーディオに関わっていると思われる人たちが開場前から列をなしていました。

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Sledgehammerサウンドチームの哲学はスタートアップ企業の精神で常に前回とは違う新しいことにチャレンジすることで、プロジェクトごとに個別の成果を出すために決まりきったやり方から脱却して積極的に実験してみること。また即興的にアイデアを試してみること。そしてそういうった試みの中からこそ、それまでとは異なる結果がもたらされるということでした。

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まずは適切なリファレンス環境を共有するためにオーディオチームが作業する全てのスタジオをキャリブレートして同一のモニタリングができるようにしたとのことです。これはチームのメンバー間でデータのやり取りを行っている際にそれぞれのモニタリング環境が異なっていると足りないものを補おうとして徐々に音圧をあげていくような音圧競争(Arms Races)が起こってしまうからだそうです。一見音響の技術的な側面での調整に見えることですが実際は属人的な側面から起こり得る問題を避けるための施策になっているのが実にクレバーです。

またゲームのユーザは今の時代は様々なスピーカー、もしくはヘッドフォンでサウンドを再生することが予想されるのでダイナミックレンジの違いが再生環境でどう変わるかを確認することが必須であると。特にCODの様なゲームの場合は環境音と銃声のバランスが臨場感を演出するのに非常に重要なのでレンジ幅の設定は入念に考慮して決めていったそうです。これは上に書いた音圧競争回避とも密接に関わってくるテーマです。

このバランスを維持して臨場感を演出するためにCall of Duty: WWII ではコンポーザーに対して「楽曲内でドラムとパーカッションを一切使わない様に」との指示をしたそうです。

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「事前にサウンドチームがすべての状況を実際に経験するというコンセプトの元に録音を進めていったのですが、例えば誰かが銃を撃つのをそばで聞いているのと自分で実際に撃つのは全く違う経験です。オーディオチームというのはゲームオーディエンスに対して唯一物理的に接触できる存在で、例えばユーザがプレイの際にサブウーファーを使っていれば、ゲームサウンドがそれをキックすることでオーディエンスは単にサウンドを聞くだけでなく、物理的にそれを体感することができるんです。そこでオーディオチームは実際に音が発生する状況に身をおいて、どう聞こえるかではなくどう感じるかを体験することが必要だったんです

自分自身で実際の銃を撃ってみるだけでなく、頭上15フィートでヘリコプターが通り過ぎるのを体験するのはどんなものか、ヘリの飛行時に空いているドアから外に身を乗り出すのはどんな感覚か、これらの危険なことはCall of Dutyの世界の中では頻繁に起こる状況なので全て実際に体験してみたとのことです。

そして「Recording Small, Designing Big」という考え方を心がけ、例えば周囲で常に爆発が起こっている様なゲームプレイのシーンではプレイヤーの頭上からヘルメットに降ってくる砂の音を環境音の最下層にレイヤーしておくことで臨場感の演出にとって絶大な効果を生み出すことができたんだそうです。

また森の中の戦闘では爆弾の破片よりも爆発によって飛び散る木片のほうが実際は遥かに危険なので、オーディエンスにそれをリアルに認識してもらうためにあえて爆音に対して実際よりも大きめの音量で樹木が破裂して木片が飛び散る音をレイヤーしたそうです。そのために近くの森にハンマーを持っていって枝を揺らして折ったり、家族とハイキングに行くときにもレコーダーを持っていったりと常に素材集めの機会をうかがっていたと言っていました。

Call of Duty Avanced Warfare 3ではフォーリーの録音についてもそれまでの慣習を捨ててスタジオからでて、より実際の状況に近いロケーションで録音したそうです。例えば川を歩く音を録りに浅瀬のプールに行って、その音をスタジオで聞いてみたらやっぱりプールで歩いている音になっていたとw プールの壁の反響音があるうえに、川では川底の深さは一歩一歩すべて違い、それゆえ水の音も一歩一歩全てランダムに異なるものになるからです。

そんな風に日々「いかにリアルな音を探すか」に熱中していたら、ある日、自宅の外で戦車の音がするので驚いて外に飛び出したらゴミ収集車がマシンアームでゴミバケツを掴んで持ち上げてる音だったとw 結局その音はWater Tankのサウンドとして使うことになったとww
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最後に実際に撮ってきた動画をアップしてみました。Call of Duty WW2のクライマックスシーンのひとつに実際の録音状況を重ねて参照したプレゼン動画です。

Melbourne International Games Week その2

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前回に引き続きGames Weekのレポートです。Games Weekでは期間中に様々な団体によるイベントがメルボルン市内で開催されますが、その中でもPAX AUS (Penny Arcade Expo)というシアトル発のゲーム関連のコンベンション、エキジビションイベントが最大の目玉です。今回はスケジュールの手違いでここでの自分のスピーチは決まらなかったのですが、High Scoreのスピーチを見に来ていたオーディエンスがPAX会場で頻繁に声をかけてきてくれたおかげで多くの交流が持てました。今年3月のサンフランシスコのGDCに参加した時には何もつてがない状態でひとりで飛び込んだ様な形だったのでネットワーキングするにも苦労しましたが、今回は得るものが多かったです。前回のブログにも書きましたがシドニーやオーストラリアの他の街や他国から来ているひとの割合が意外に多く、ここでもゲーム産業のハブとしてのメルボルンの価値がこれから上がっていく可能性を実感しました。

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PAXでは正式な形でのビジネスミーティングの様なものはスケジュールに組み込んでなかったので会うひと会うひとと楽しく雑談してまわっていたのですが、ネットワーキングする上で外国の方と最初に打ち解けるにはお互いの国の文化のあるあるネタで盛り上がるのがとても有効です。例えばある人に「何で日本では店先に水を撒いたりするのか」と聞かれ「あれは道が舗装されてなかった時代に飲食店が衛生上行ってた事が慣習化したんだ」と説明したらとても府に落ちた様でした。オーストラリアは昔から水が貴重なのでなぜ日本みたいに街が清潔な国がわざわざ水を無駄にするのか理解不能だったとのことです。

また自分が驚いたのは現地の方がある会話の中で「オーストラリアではカンガルーはペストなんだ」と言ったことです。ペストとはまさに病原菌のペストで、つまりほっとくと増え過ぎて収拾がつかなくなる困った存在というほとんどゴキブリの様な意味で言っていて、さらには「どんどん獲って食べた方がいいけど肉が筋肉質で硬いので食べにくいんだよ」とのことで何とも意外な話でした。せっかくセンシティブな話題が出たのであえて「捕鯨のこととかはどう考えてるの?」と聞いてみたところ「一部の反捕鯨組織みたいな考えのひとはほとんどいないし捕鯨が日本の文化だってことも知ってるよ」と、しかし「でも以前に知り合いの日本人に鯨っておいしいの?って聞いたら特別に美味しいものってわけではないって言ってたんだ、だったらあえて捕る必要があるのかなとは思う」と言われてしまいました。その彼が言いたいのはつまり鯨料理が抜群に美味しければ勝手に広まっていって反対意見なんてねじ伏せてしまうだろうということでした。これには自分も参りましたが「反捕鯨活動は日本人の伝統文化に対するアイデンティティ・クライシスを誘発して逆に捕鯨文化を下支えしてる面もあるんだよ」とも伝えておきました。

High ScorePAXの間に二日間オーストラリア最東端のバイロンベイという美しい海辺の街にも休暇で行ったのですが、そこで高台から沖の海をみると鯨やイルカの群れを見ることができて、それはまさにこの世のものとも思えない程の美しい光景でした。こんなものを日常的にみていたら感情的に反捕鯨に向かう感覚もわからんでもない気がしました。カンガルーの件も含めて感情的にもつれた文化的なコンフリクトは実際に現地で体験しないと実情は伝わらないなと思いました。

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PAX最終日にはCD販売の特設会場を用意していただいたので自ら売り子として精力的に自分のアルバムや他のBrave Waveからのリリース作品を売っていきました。こういう場所ではまだフィジカルの製品は強いのですが、自分が一通り商品内容を説明したあとで実際の音を自分のスマホからSpotifyで試聴して確認してからどれを買うか決める人が多く、今の時代の複雑な音楽業界事情を反映したおもしろい現象だと思いました。購入後は早速パッケージを開けてインナースリーブにサインをするのですが「何か日本語を書いて欲しい」というお客さんには即興でその方の名前を当て字で漢字にして書いてあげてその漢字名の意味を説明してあげました。これは外国では鉄板でウケるんです。

次回、最後はPAXで参加したオーディオ系のセッションについて。

Melbourne International Games Week その1

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今回は先日参加したメルボルンでのGames Weekのレポートになります。まずはKeynote Speakerとして登壇し、パネルディスカッションにも参加したHigh Score 2019というゲームオーディオに特化したイベントから。High Scoreは近年メルボルンの中で新興のゲームデベロッパーが集積するThe Arcadeという非営利目的で組織されたワークプレイスで開催される交流イベントです。The ArcadeのコンセプトはボストンのCambridge Innovation Center(CIC)のやロンドンのLevel39にも似たベンチャービジネス間の容易で頻繁な交流を可能にするための環境ということです。

This is a report of Games Week in Melbourne the other day. First of all, I'd write about the event called High Score 2019 that specializes in game audio, which I took part as a Keynote Speaker and participated in the panel discussion. High Score is a networking and presentation event held at a non-commercial workplace called The Arcade, which is a collective of emerging game developers in Melbourne. The concept of The Arcade is to make an environment that allows easy and frequent exchanges between venture businesses similar to the Cambridge Innovation Center (CIC) in Boston and Level 39 in London.

The Arcadeの位置するメルボルンの南側エリアは中心地の雰囲気とはかなり異なり、いわゆる高層ビルなどはなく明らかな観光目的のための建物や店もなく、落ち着いていながらも新しくビジネスが立ち上がる雰囲気を彷彿させる新興エリアという感じです。というのもオーストラリアの中ではシドニーに比べてまだこちらは不動産価格の高騰がなく、家賃が安く抑えられており、さらにはヴィクトリア州からゲーム産業に対して成長産業としての助成金が投入されていることもあって、オーストラリア中から多くのスタートアップとさらにはそれに付随してビジネスチャンスを求めるゲーム関連のクリエイターも多く移り住んで来ているとのことで、まさに街の雰囲気だけでなく、ビジネス環境的にもかつてのブルックリンやベルリンにとても近いという、今後の成長を予感させる街です。

Melbourne's south area, where The Arcade is located, is quite different from the central Melbourne's atmosphere, there are no so-called high-rise buildings, no obvious constructions or shops for tourist purposes. It feels like an emerging area that is reminiscent of a new business startup atmosphere. This is because there is still no real estate price rise in Melbourne compared to Sydney, the rent is kept cheap, and further, a certain amount of subsidy has been put in from Victorian Government to the game industry. As a result, many startups from all over Australia and many games related creators seeking business opportunities have also moved in. Not only the atmosphere of the city, but also the business environment is very close to former Brooklyn and Berlin. It is a city that gives you a sense of future growth.

自分のKeynote Speechの内容は前回のブログを参考にしてもらうとして、High Score全体の雰囲気はオーディオに特化したアットホームな縮小版GDCという感じです。ただし自分がスピーチやディスカッションの最初にオーディエンスに尋ねてみたところゲーム業界志望の学生の方の割合が多く、さらに登壇後の質問や立ち話で実際に話してみると多くの学生の方は大学で作曲の専攻をとっているだけでなく、デジタル・オーディオの技術的な専門知識や業界のマーケティングまで含めて学習されている方が多く、さらには自身の楽曲を発表するYouTubeチャンネルですでに万単位のサブスクライバーを獲得しているひとまでいました。しかしそれでもなお「どうやったらゲーム業界でコンポーザーとしてのチャンスを得られるのか」を試行錯誤しるようです。またアメリカやカナダなどから参加している方も少なからずいて、近年のゲーム業界の競争の激しさを実感しました。

As for the contents of my Keynote Speech, refer to the previous blog, anyway, I think the overall atmosphere of High Score is like a cozy compact version of GDC specialized in audio. However, when I asked what kind of people was coming there at the beginning of the speech and discussion, there were a large percentage of students who wanted to be in the game industry. In addition to being majored in this field, many of them are studying technical expertise in digital audio and marketing in the industry as well, and some of the YouTube channels where they uploaded their songs already have had over 10,000 of subscribers. However, they still seem to try and error "how to get a chance as a composer in the game industry". In addition, there were a few participants from the United States and Canada, and I realized the intense competition in the game industry in recent years.

High Score期間中の3日間は2回の登壇、ゲーム関連のウェブラジオにABC(オーストラリア放送協会)の番組の計2回、またイベント後のネットワーキングパーティ以外にも主催者宅でのホームパーティや船上パーティなどにもお呼ばれされて色々と興味深い意見交換ができました。中でもホームパーティではアメリカから来ていたゲーム音楽の権利ビジネスのストラテジスト、某超大手オンラインゲームデベロッパーのオーディオコーディネーター(肩書だけではふたりとも具体的に何をやってるのかいまいちわかりませんが^^;)との話は非常に興味深かったです。ゲーム音楽の権利に関してはアメリカの著作権管理団体であるASCAPでは著作者単位ではなく楽曲単位での登録が条件次第では可能になっていることなど、また日本のゲームコンポーザーもすでにJASRACを避けて国外のPROに加盟することによって上手く自曲の管理と従来の日本での譲渡契約の受注を両立させているケースを聞きました(これは個別の条件によって複雑に権利の範囲が変わるので今なお難しい問題だとは思いましたが)またオーディオコーディネーター氏からはプロジェクト内の分業および効果的、効率的な情報のシェアに関する戦略を。また彼らおよび今回自分を招聘してくれたホームパーティの主催者(彼はゲーム音楽のレーベルと制作会社2つのオーナー)は皆もともとはコンポーザー出身ということもあって音楽に対する愛情はもとより、実際の制作環境を理解した上で現在の専門分野のスキルをうまく構築してる点が素晴らしいと感じました。

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During the High Score period, I gave two presentations, appeared on game-related web radios and ABC (Australian Broadcasting Corporation) program. In addition to the networking party after the event, I was invited to the home party at the organizer's house and exchanged various interesting opinions. I was particularly interested in talking with the game music rights business strategist who came from the US and the audio coordinator who works at a certain major online game developer. Regarding game music rights, ASCAP, a copyright management organization in the United States, allows registration in units of music instead of authors, depending on the conditions, etc. I also heard that some Japanese game composers have already successfully managed their songs and received orders for transfer contracts in Japan by avoiding JASRAC and joining a foreign PRO. I think that it is still a difficult problem because the range of rights changes depending on the case. The audio coordinator also spoke about the division of work within the project and strategies for sharing information effectively and efficiently. In addition, they and the home party organizer (He manages game music label and game audio production company) were originally composers, so they love music and have built their current specialized skills well after understanding the actual production environment. I felt that it was wonderful.
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さて、今回High Scoreでは日本からはファミコン時代からゲーム業界で活躍されている作曲家の松前真奈美さんと自分が招待されていたのですが、自分がKeynoteを使ったプレゼン形式のスピーチを行ったのとは対象的に松前さんは実にシンプルにご自身の偉大なキャリアを用意したテキストを読み上げていきながら要所要所のみ参考音源で説明するというスタイルでした。まず日本語で話しながら通訳を入れて英語にしていくという形で、ともすると単調になってしまい大丈夫かなと思って聞いていましたが、聴衆は実に真剣に食い入るように松前さんの一言一言に聞き入っていたんです。多くの聴衆の方が学生やまだ若いコンポーザーであり、ゲームの創世記から音楽を提供している松前さんの言葉は、ある種「神の言葉」と彼らには聞こえていたのではないかと思います。これだけゲーム業界への参入が難しく競争率の高い状況で若い彼らは「神の言葉」からなにかヒントを得ようとしているようにも見えました。と同時にゲーム創世記を作った日本のゲーム業界の歴史の重みと、今なお強い影響力を持つ資産としての強みを実感する光景でした。

By the way, I was invited to the event with composer Manami Matsumae, who has been active in the game industry since the Nintendo era. In contrast to what I gave a presentation-style speech using Keynote, Manami took the style of explaining only necessary points with a reference sound source while reading a prepared text. Firstly, she spoke in Japanese and then Interpreter spoke it in English. I thought it could be monotonous, but the audience seriously listened to Manami's speaking. Many attendees are students and still young composers, and I think the words of Manami, who provided music from the genesis of the game industry, were heard by them as a kind of "word of God". Nowadays It is so difficult to enter the game industry, and the young people seemed trying to get some hints from the words of God. At the same time, I realized the significance of the history of the Japanese game industry that created the genesis of the game and the strength as an asset that still has a big influence.

つづく

High Score 2019のKeynoteファイルとYouTube動画

メルボルンのゲームオーディオイベント High Score 2019で行った講演の際につかったKeynoteファイルをアップロードしましたので興味のある方はダウンロードしてご覧になってみて下さい。英語のプレゼンターノート(アンチョコ)も残してあります。

I have uploaded the Keynote file used during the lecture at the game audio event High Score 2019 in Melbourne, so if you are interested, please download it and have a look. I also left an English presenter note.

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当日の様子をまとめた動画もアップされています。

Level And Gain インタビュー(日本語訳)


10月のメルボルンでの講演に先駆けてオーストラリアのLevel And Gainというメディアからゲームコンポーザーとしての取材を受けました。こちらに日本語訳を掲載しておきますのでご覧になってみてください。

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Bayonetta composer Takahiro Izutani tells us how the game music industry has evolved


・ あなたはキャリアの中でいくつかの人気ゲームタイトルを担当していますが、今日の新しいゲームと2000年代中頃の作品とで作曲に関しての違いはなんだと思いますか?


一番大きな違いはデジタルオーディオやサンプリング音源の発展、進化です。2000年代中頃は現在に比べると一般的なゲームコンポーザーの制作環境はかなり貧弱でした。私の環境も同様でしたが、貧弱な制作環境ながらも、それをなんとか工夫していく過程でオリジナルなサウンドを作ることができたように思っています。


当時は誰もがハリウッドのコンポーザーの様なクォリティの高い楽曲を作るにはどうすればいいのかを模索していた時代で、私もその中のひとりでした。またYouTubeがまだなかった頃にはトップレベルのコンポーザーやレコーディングエンジニアが使ってる機材やソフトウェアの情報もなかなか入手できず、皆が試行錯誤していましたが、逆にその状況が日本のゲーム音楽をおもしろいものにしていた側面もあると思います。


現代はYouTubeやSNSによる情報の共有とソフトウェアやサンプル音源の低価格化によってプロ、アマチュアを問わずコンポーザーの使用するツールは均質化していて、それだけではコンポーザーごとの音楽の差別化につながらなくなっています。その結果ハリウッドのトップレベルのコンポーザーを中心に増々物量的に巨大な制作システムを構築して他のコンポーザーとの差別化をはかる風潮がうまれています。つまりだれでもある程度のクォリティの音楽を作れるようになったので、持っている選択肢の多さや、制作環境と高級機材への投資額で抜きん出ようとしているということです。


私がゲームコンポーザーとして活動するようになったのは2006年からですが、その頃からすでにゲーム音楽の制作方法がハリウッドの映画音楽の制作プロセスを後追いする傾向がずっと続いていると思います。


他方、この7,8年ほどはビデオゲーム創世記のゲーム音楽を再評価する動きが出てきたのが印象的です。これは子供のころに影響を受けたゲーマーがいま成長してゲーム業界で活躍するようになったからという側面と、上記で述べた物量主義型のハリウッド的音楽制作へのアンチテーゼの側面があると思います。また日本のゲーム創世記は音楽制作に関して発音数、サウンドのビットレートの厳しい限界があり、その厳しい状況ゆえに飾りを排除したピュアかつコアな楽曲が多く生まれ、その価値が改めて現在見直されているとも感じます。


私が提携しているBrave Wave Productionsではそういったレジェンドゲームのコンポーザーの作品のリリースや活動のサポートをしていますが、日に日にオーディエンスの反響は大きくなっていると実感します。


私のゲームコンポーザーとしての立場はどちらの部類にも属さないのですが、今は自身の作品をリリースすることによって新しいマーケットの開拓をめざしているところです。2017年にBrave Waveからリリースした私のソロプロジェクトDugoのアルバムLingua Francaがきっかけでヨーロッパのメディアや音楽出版社と新しい事業契約を結ぶことになりました。


・ あなたはいくつかのプロジェクトにおいて日本のゲームコンポーザーとコラボレートしてきていますが、コラボレーションでの作曲についてどう考えていますか?またアプローチを決定する際にどうやって合意に至りますか?


私は元々はアヴァンギャルド系ロックバンドのギタリストで、エレクトロニックミュージックのクリエイターでもあるので、仕事の依頼に関しては「普通のゲームコンポーザーにはないsomething else」を求められることが多いのですが、コラボレーションワークの際もその様な場合が多いです。例えばオーソドックスなオーケストレーションサウンドを作るコンポーザーの曲に、私が電子音や風変わりで複雑なリズムを加えたり、斬新なアプローチのミックスをしたりという形です。私は元々それほどコラボレーションに積極的なタイプの人間ではないのですが、楽曲に何かが足りないと他のコンポーザーやプロデューサーが感じたときに私に声がかかるので、それはとても嬉しいですし充実感と責任を感じます。


「どういうアプローチをとるかについての同意」に関して、私は常にゲーム自体に必要だと思われる楽曲の方向性、サウンドを追求するので、その点で同意できれば問題はありません。まれにですが、具体的な方向性が見えず、特定のイメージもなく、ただ漠然と時間を埋めるだけの楽曲やサウンドを作るようなディレクションをされることもあるので、そういう時にはアプローチの最終的な同意にいたるまでに時間がかかることがあります。


・ Bayonettaシリーズでは大変多くのコンポーザーがプロジェクトに関わっていますが、これはどういう経緯からなのでしょうか?


当時PlatinumGamesの社内コンポーザーチームにカットシーンの作曲に必要なフィルムスコアリングの豊富な知識と経験を持つ人材が少なかったのがその理由の一つだと聞いています。私はBayonetta、Bayonetta2と、ともに多くのカットシーンでの音楽制作を担当していますが、どういった音楽をつけるかが特に難しいと思われるシーンが集中的に私に割り振られました。これは私には量をこなすよりも重要かつ難しいシーンに集中的にリソースをつぎ込んで欲しいという狙いがあったからとのことです。


PlatinumGamesから送られてきた資料には各シーンのカットごとに分と秒を指定して音楽でどういうことを表現してほしいかが詳細に書かれていました。また使用楽器の指定もあり、エレキギターの使用は基本的に禁止でした。これは女性メインキャラクターのイメージにエレキギターのサウンドがマッチしないからというのが理由だったのですが、エレキギターを自分のシグネイチャーサウンドとしている私にとってはちょっと厳しい状況でした。


・ Metal Gear Solidシリーズでの作曲の経験について述べていただけますか?


当時Konamiの社内コンポーザーだった日比野則彦氏はKonamiを退社して自分の制作会社を設立し、その会社によって組織する数人のコンポーザーチームでMetal Gearシリーズの音楽制作を担当することを計画しており、そのチームのメンバーとして数千人もの応募から選ばれた3人のコンポーザーのうちのひとりが私でした。そしてこれが私がゲーム業界に関わることになったきっかけでもあります。


Metal GearシリーズにはKonamiの非常に優秀な社内コンポーザーの方達やHarry Gregson-Williams氏も参加しており、部分的にではありましたが彼らの制作プロセスを知ることができましたし、日比野氏による的確なディレクションによって私はゲーム音楽制作の基本的なスキルを得ることができました。私は最初に関わったMetal Gear Solid Potable OPSにおいていきなりボスステージの曲を数曲担当することになったのですが、日比野氏のディレクション無しでは私には不可能な仕事だったと思います。


そしてこの頃のMetal Gearの制作チームは私の様な新参者を受け入れてプロジェクトを活性化しようというチャレンジ精神に溢れていたと思います。今回私が講演者として参加するメルボルンのHigh Score 2019ではMGS4での私の仕事をマテリアルのひとつとして取り上げます。


・ コンポーザーとしてMetal Gear Solidの制作上において小島秀夫監督と直接関わる機会はありましたか?


残念ながら小島監督と直接関わる機会はありませんでした。Metal Gearの制作チームにはいくつかの階層があり、サウンドチームを統括していたKonamiのサウンドディレクターの方が基本的には小島監督との日常的なコミュニケーションを行う形になっていたようです。


MGS4の制作時、小島氏はメキシコ映画の「Crónicas」という作品の音楽をとても気に入っていたとのことだったのですが、まさに当時私もこの映画を見て、コンポーザーのAntonio Pintoの大ファンになったばかりだったので小島氏の音楽面での情報感度の高さに驚いたことを覚えています。外部コンポーザーとして制作することはある意味プロジェクトから部分的に切り離されている側面もありますが、Konamiのサウンドチームとしては社外コンポーザーをチームに巻き込むことによってプロジェクト内部の政治的な確執にとらわれず自由に制作ができるポジションを作るという狙いがあったようです。


・ 音楽作りの際のあなたの個人的な創作プロセスを教えていただけますか?(いつ作り始めるか、どんなテクノロジーを使うかなど)


私はもともとはポップミュージックのリミックス制作をメインにして日本の音楽業界に関わっていたので、以前はまずリズムループやシンセのコードループを作り、ループを延々と再生しながら頭に浮かぶアイデアを加えていくという作曲プロセスをとっていましたが、いまでは普段から日常的にメロディやコードが頭に浮かんだときにサウンドメモを録音しておきアイデアのストックにしています。


自宅には音響的な改築を施工したプライベートスタジオがあり、そこではそれらのアイデアからメロディやコードを発展させていき、シンプルなピアノの音で全てのノートを書いて曲の基本的構造を完成させます。その後個別のトラックの音を様々な楽器の音に差し替えていきます。


私も他のコンポーザー同様に一応膨大な量のコンピュータソフトウェア、プラグイン、サンプル音源を所有していますが、もはや特殊な制作プロセスや特殊なテクノロジーなどはなく、アイデアの源泉となる自分の脳をどうやって活性化させるかということが私の日常的な課題です。そのために食事、睡眠、運動の質に常に配慮し、世界の最新医学の情報をリサーチして肉体的、精神的なパフォーマンスが最大になるように試行錯誤しています。


強いて楽器や機材の面で私が重要視しているものをあげるとすれば、モニタースピーカーのBarefoot Sound MicroMain27とアコースティックギターのGibson J-50です。この2つの機材が私の音楽制作にとってインスピレーションを得るための核となるような重要な役割を担っています。


・ Bayonetta 3の制作が発表されましたが、私達はあなたが新作にコンポーザーとして参加することを期待してよいですか?


これはNDA (Non-disclosure agreement : 秘密保持契約書)に関わることなので私の口からはイエスともノーとも言えません(笑) ですがBayonetta3が素晴らしい作品になることを私もとても期待しています!

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High Score 2019 expands to a two-day event exploring music in games

モニタリング環境をアップデート。Updated monitoring environment(2019/09/04 追記)

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Dugoのアルバム制作が遅れながらもようやく終盤にさしかかってきたので、ここでより正確なミックスチェックの環境を作ってみたいと思いメインのモニタースピーカーとして新たにBarefoot Sound Micromain 27を、サブとしてKSdigital C5-Coaxを導入してみました。自分でミックスまでやって完結するプロジェクトの場合にいつも悩みになっていたのが低音の処理でした。散々綿密にチェックしたつもりでもマスタリングスタジオにいって確認すると自宅スタジオでは見つけられなかった低音のピークがわかったりすることがあったからです。ラージモニターでないと把握できないような低音域の状況を、ミッドフィールドクラスなのにもかかわらずこのBarefootのスピーカーではかなり正確にチェックできます。しかもかなり小さな音量で聴いても帯域のバランスが変わらないので作業スペースの防音や吸音をさほど気にしなくても十分その機能の恩恵が受けられるのが素晴らしいです。

新しいモニター環境になったので慣れるために色々な曲をリファレンスで聴いてみましたが、今までに何百回ときいてきたような曲でも全く異なる印象に変わるものもありました。うまく説明できないんですが一般的なモニタースピーカーの上位互換として機能するチェックマシンの様な感じです。本質的にバランスの良いミックスのものは以前と同じ様に聴けるんですが、突出した部分があったりバランスのおかしいものに関してはそれまでは気が付かなかった問題点をハッキリと提示してくれます。それと30hz近辺の帯域で何が起こっているのかは一般的なニアフィールドのモニターではほとんど確認できてないんだなということが良くわかりました。

また色々な曲をリファレンスで聴いているとその辺りの超低域でミックスの工夫を凝らしている曲は全体としても素晴らしいミックスになっている曲がとても多いです。特に最近気に入っているAdele「25」とJustin Bieber「Purpose」 は音の全体像の作り方のアイデアとテクニックの素晴らしさを確認でき、あらためて得られるものが多々ありました。この2枚はまさに「2016年の最新の音」と言うにふさわしい驚異的な作品だと思います。(リリースされたのは去年でしたっけ?)

また今回DAコンバータのLavry DA11からのケーブルもいくつか試してみた後に今まで使用していたBelden 8412から今回はGotham GAC-4/1にしてみました。これまではさほど気になっていなかったケーブルごとの音質の差も今はかなりはっきりとわかってしまいます。様々な楽曲をリファレンスする際に8412ではかなり下の帯域で突然持ち上がるピークがあってそこだけが分離したように聞こえてしまうということがありました。以前にギターのケーブルで試した際にもこの感じが肌にあわずに止めたことがあります。Gothamケーブルだとローミッドからサブベースまでが素直に繋がっているように聞こえます。

KSdigitalの方は迷った時の確認用のサブとしての用途です。長いこと同軸のTannoy Precisionををメインにしてきたので、同軸のニアフィールドで比較的新しい製品の中からこれを選んでみました。こちらもスピーカーのサイズの割にはかなりワイドレンジで奥行きもよく見えます。Barefootで大きな全体像を確認してKSDigitalでもっと近寄った状況での音像を確認する感じです。ただこちらはなぜか電源を入れてからしばらくは低音の出方が暴れて落ち着かないのでちょっとまだ戸惑っていますw まだまだどちらとも設置の仕方から試行錯誤中ですが今のところとてもいい感触がつかめています

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スピーカー両サイドにサブウーファーがあり、全部で5ドライブユニットという個性的なコンセプトです

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スピーカー口径5インチながらかなりワイドレンジです。

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両機種とも国内電圧向けのローカライズがされていないので117vに変換するステップアップトランスのCSE ST-500もついでに組み込んでみました。


Barefoot Sound's Masters Of The Craft

2019/09/04 追記
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先日、サブのモニタースピーカーをNeumann KH 80 DSPに変えました。KS Digitalの高域のクリアさと解像度は気に入っていたのですがローだけが分離した様な聞こえ方になってリファレンスとしては迷ってしまうケースがあったためです。

Neumann KH 80 DSPは専用のiPadアプリNeumann Controlからネットワーク経由でスピーカーの設定を細かくコンフィギュレーションできるのが最大ので利点です。また実際に使用してみると周波数帯域ごとのクロスオーバーがとてもスムースに繋がっているためモニターとしてとてもニュートラルなリファレンスができます。メインモニターのBarefootと比べてみると明らかにローミッド(ちょうどベースの音域の中でモワモワしやすい帯域)が認識しやすいです。というか、もしかしたらBarefootは超低域のモニタリングを圧倒的な精度でできる反面、そこより少し上の帯域が沈んでる様にも聞こえることに気が付きました。

やはりモニタースピーカーというものはただハイエンドのものを一択で使えばいいというものではなく異なる評価基準のもとに色々使うことが必要だとあらためて思いました。

The other day, I changed the sub monitor speaker to Neumann KH 80 DSP. I liked the clearness and resolution of KS Digital's high frequencies, but there was a case where only the low sound was heard separated and the reference was lost. The advantage of the Neumann KH 80 DSP is that you can finely configure the speaker settings via the network from the dedicated iPad app Neumann Control. Also, when actually used, the crossover for each frequency band is connected very smoothly, so you can make a very neutral reference as a monitor. Compared with Barefoot as the main monitor, it is clear that the low mid (the band that is easy to mow in the bass range) is easy to recognize. On the other hand, Barefoot can do super-low frequency monitoring with overwhelming accuracy, but I noticed that it sounds like the band above it is sinking. After all, I thought again that monitor speakers are not just high-end ones, but they need to be used under different evaluation standards.

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このNeumann KH 80 DSPですが、コストパフォマンスを考えたら圧倒的に買いです。音量を絞っていっても全体の音像の形が変わらないので、自分の場合は同様の聞き方ができるメインモニターのBarefootと併用しやすいですし、Barefootは奥行きが見えすぎる上に音像のエリアが広すぎるのに対して、もっと近くて小さい音像で聞きたい時にKH80は大変重宝しています。

それと高域から低域までのバランスがとても良いので今のところは周波数に関するサージカルな使い方のときはNeumann。シビアな定位と奥行きの判断はBarefootという使い分けにしています。前述のNeumann Controlに関しては今年中に専用の環境測定マイクキットがNeumannから発売されるとのことなので増々モニタリングの精度があがるのではないかと期待しています。

This Neumann KH 80 DSP is overwhelming if you consider cost performance. Even if the volume is turned down, the shape of the entire sound image does not change, so it is easy to use it together with Barefoot, which can listen in the same way. The KH80 is very useful when you want to hear a closer and smaller sound image. The balance from the high range to the low range is very good, so for now it's Neumann when using surgically about frequency. Judgment and depth of severe localization are used properly as Barefoot. With regard to the Neumann Control, a special environmental measurement microphone kit will be released by Neumann later this year, so we expect that the accuracy of monitoring will increase further.

ベルリン郊外のクロイツベルクのスタジオでの検証動画。クリエイターが複数で共同で活用してるスタジオのようです。クロイツベルクは東京でいうと中目黒、吉祥寺みたいな場所ですね。中規模のクラブやギャラリーなども多いエリアでNative Instruments本社もここにあります。

Verification video in a studio in Kreuzberg, Berlin. It seems to be a studio that creators use together. Kreuzberg is a place like Nakameguro or Kichijoji in Tokyo. There are many medium-sized clubs and galleries, and the Native Instruments headquarters is nearby.

こちらはNeumann Controlを使ってのコンフィギュレーションの説明動画ですが、他のモニタースピーカーを使ってるひとでもこの動画は必見です。自分も実際にやってみましたが、今までのスピーカーの設置に関しての自分の認識の甘さを痛感しました。LRの両スピーカーとリスナーの距離が正三角形になるようにすること、正確な角度、スピーカーから部屋の壁までの距離など、細かい要素をシビアに追い込んでいくことによって劇的にモリタリング精度が改善することを実感しました。

This video is for explaining the configuration using Neumann Control, but this video is a must-see for anyone using other monitor speakers, too. I actually tried it, but I realized a lack of my understanding about the importance of the way of installation of the speakers so far. The accuracy of the mortaring is dramatically improved by making the LR speakers and listeners have a regular triangle distance, precise angles, and the appropriate distance from the speakers to the room walls.

GDC 2019 その3 サンフランシスコについて

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今回はGDCセッションではなく現地サンフランシスコ事情について書いてみようと思います。まずGDCの会場になっているMoscone Centerは市内中心地に位置しており、特にこの地に詳しくなくGDCのために訪れるという方なら会場を囲むように隣接しているそれなりに値が張るホテルをとるのが懸命です。というのも近年のサンフランシスコはダウンタウンの中心部で特に急激にホームレスや犯罪が増えてスラム化が進んでいるからです。自分は2年ほど前にもサンフランシスコに来ることがありその時に驚いたのですが、まず一番のこの街のシンボル的な場所になっているケーブルカーの始点があるPowell St駅周辺がすでにホームレスや物乞いで溢れており度々"Spare dollar?"などと声をかけられました。また人通りの多い大通りの路上にレゲエの人たち数人が陣取って豪快にマリファナパーティの様なことになっている光景も見ました。その時は「やっぱアメリカは自由な国だな〜」などとのんきに構えていたのですが、夜になると雰囲気は危険な方向にシフトしだして何かが間違っていることに気づきます。自分はその時は治安のことなど全く気にせずにダウンタウンの中心部で安いホテルが良いだろうと思い適当に予約をしたのですが、実は最も治安が悪いと言われるTenderloinという地区のど真ん中だったのです(笑)ある日はパンパンと夜中に車のパンクの様な音が聞こえてたので何だろうと思っていたら翌日ホテルの従業員から「昨日銃声がしてただろ。外国人は慣れてないから気をつけろよ」と言われて驚きました。言われてみると夜中でも周囲は騒がしく頻繁に怒号なども聞こえていました。

で、今回こそは前回の轍を踏まないようにとそのTenderloinを避けた上で中心部に近く、かつリーズナブルなホテルをとろうと検索してみたところMocone Centerの南西側徒歩10分程度のところに安くて良いホテルをとりました。今度は大丈夫だろうとたどり着くと特に前回と大きくは変わらず様子のおかしな人の数は多く微妙に不穏です。ホテルの近くに向かうに連れてまたもホームレスが増えてきたなと思ったら路上に落ちているゴミや謎の汚物などでカオス度としては前回以上。で部屋についてから調べてみたところこの辺りMission地区というのも最近でこそ改善されつつあるものの元々ヒスパニック系のスラムとして名高い地域だとのことでした。前回来た時はヒッピーの聖地として名高いヘイトアシュベリー (Haight-Ashbury)というエリアに行った際に「歩きタバコ」ならぬ「歩きコカイン」で鼻から上手に吸っているひとを見たのですが、今回は路上でフラフラと歩きながら自分の腕に注射しているというまさかの「歩きシャブ」です (笑) Tenderloinとの違いは、あちらは動きがアクティブでバイオレント系のノリなのに対して、こちらのMission地区はバイオハザードの様な動きの遅いゾンビ系、かつダーティでカオスな世界です(なのでかなり前方の地点からゾンビを避けて素早く移動すれば大丈夫) あとからわかったのですがMoscone Centerを境にして南西側は急激に荒れた地域になっていて、反対に東北側、つまり海寄りに向かうと急激に開けた近代的な都会になっていたんです。

今回わりと直前に渡航を決めたことでホテルも適当にとってしまったのがこの地域になってしまった原因ですが「余計な緊迫感など楽しまずに普通に街を移動したい」という方ならホテルは会場周辺か海寄りにとったほうが絶対にいいです(日本から来てこんなとこに宿をとってるのは自分だけかも知れませんが・・・)まあその半面自分がとった部屋はひとりで60平米くらいのスペースと無駄にクイーンサイズのダブルベッド二台というゆとりがありましたが(笑)スラムではいくつかの衝撃の光景を目撃しましたがここに具体的に書くのは控えておこうと思います。そう言えばサンフランシスコでは今月は4/20にヒッピーとマリファナと大きなフェスティバルがあるのでこれからまたどんどんと変わったひとが集結してくることになるんでしょう。

サンフランシスコの悪いところばかり書いてしまいましたが素晴らしいところももちろん沢山あります。特に食事に関して(自分はいわゆる高級レストランなどには行きませんでしたが)気軽に入れておすすめなのがまずは「Nopa

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ここは中心部からだとUberで10分くらいのAlamo Squareという西側の地区にあるオーガニック中心のメキシカンレストランです(カリフォルニア料理ということだそうですが自分にとってはメキシカンのニューウェーブという認識です)前回来た時にふらっと入ってみて感動したので今回もGDC最終日に来たのですが相変わらず人気な様子で開店30分の時間に行ったにもかかわらず既に超満員で自分のあとにはもう行列ができていました。自分は一人で入ったのでカウンターの席を案内してもらうことができましたが、恐らく通常は予約無しでは入れないんだと思います。

あともうひとつおすすめできるのがFort Mason公園の近くの港の倉庫街の一角を改装して作られた「Greens」というレストランです。ここはその名の通り野菜料理しか出さない店なのですが食材は全てサンフランシスコ郊外の専用農園で栽培されたオーガニックだけを使っていて、野菜だけといってもバリエーションが多彩でとにかく野菜の味がすごく濃厚なのが特徴的です。「そういえば子供の頃に食べていた野菜はこんな味だったと思い出す様な」と言えばわかりやすいでしょうか。こちらもお昼の開店前から人が集まり始めていて、開店して30分もしたら満席でした。恐らくGreensもNopaも地元の人達がほとんどだった様に思います。

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最後に移動手段についてなのですが、前回来たときにはガイド本を見ながら「とにかく書いてある通りにするか」と公共交通機関のパスを買ってバスや路面電車と徒歩だけで移動してたのですが、そのことをアメリカ生活に慣れている友達に言うと「今どきそんなことしてるやつ聞いたこと無いw」と小馬鹿にされてしまいました(笑) 今は簡単にかつ最短時間で移動するにはとにかくUberです。市内どこに行くにしても最大でも5分程度で到着する上にUber Poolという相乗りだと金額も通常の半額程度です。乗り降りの際も自分の名前だけ正確に言うことができればあとは全く英語ができなくても大丈夫です(自分以外ドライバーも含めて全員がスペイン語で会話している状況もありましたが)それともうひとつ今回はじめて使った移動手段にSkipという電動キックボードがあります。これも実に利用は簡単で事前にアプリの登録だけ済ませておけばあとは路上に放置してあるのをアプリのGPSで見つけて本体にあるQRコードをスキャンしてアンロックするだけです。市内のレンタカー移動はパーキングの煩わしさがあるので基本UberとSkipで動くのが個人的にはおすすめです。


また行く機会があったら次回はもうちょっと事前に計画してからにしようと思います。

GDC 2019 その2

前回に引き続きGDCセッションのレポートです。

The Musical Brush: The Interactive Music of 'Concrete Genie'
Samuel Marshall (Composer and Audio Director, Sony Interactive Entertainment, Pixel Opus)


このセッションではSony Interactive Entertainmentからこの春にリリースされる予定のConcrete Genieというタイトルのサウンド制作についてのプレゼンが行われました。Concrete Genieは魔法の筆で不思議な絵を描く力を得た主人公の少年が周りからのいじめや冒険を通して大人になっていき寂れた街を救うというストーリーでビジュアルが素晴らしく美しいという、とてもSonyらしいゲームです。

In this session, there was a presentation about sound production of Concrete Genie, which will be released from Sony Interactive Entertainment this spring. Concrete Genie is a very Sony-like game in which the visuals are wonderfully beautiful, with a story that the protagonist boy who gains the power to draw a mysterious picture with a magic brush becomes an adult through bullying from other boys and adventure, then saves the ruined city finally.

コンポーザーのSamuel Marshall氏はPixelOpusというベイエリアのSonyスタジオでコンポーザー兼オーディオディレクターをされている方だそうで、単に楽曲を提供するのではなく如何にゲームプレイにインタラクティブにサウンドと楽曲を組み込むかに注力したとのことです。とは言え最初にデモをプレゼンした際にはまとめて提出した一時間近くもの量の音楽を一気に全部ダメだしされたとのことで、どう対応したら良いかわからず困惑して途方に暮れていたそうです。

The speaker Samuel Marshall is a composer and audio director at the Sony studio in San Francisco Bay Area called PixelOpus, and focused on how to incorporate sounds and music interactively into gameplay, rather than just providing music. However, he said when he submitted the first demo, all of the music that amount to about one hour was totally rejected, he was so embarrassingly confused that it was not clear how to deal with it.

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そこでまずゲームのストーリーから表現するべき要素を列挙していき、それらの要素を端的に表すサウンドや断片的なメロディ、小曲などを作りだめていき、それらがステムとしてインタラクティブに再生されることで重層的に変化する音楽の構築を目指したそうです。例えば絵を描くことの楽しさと少年の人間的成長を表現する音が同時に再生されるなど、その組み合わせによって複雑な感情表現が可能になります。描かれる絵と同様に音楽もインタラクティブに変化する仕組みをThe musical brush chime systemと名付けたとのことです。

Therefore, first he listed the elements to be expressed from the game's story, then created sounds, fragmentary melodies, and small songs that clearly express those elements, and tried to make them to be played interactively as individual stem audio tracks, aiming to build a multi-layered music that changes depending on the situation. For example, the combination of the fun of drawing and the sound of the boy's human growth can be played simultaneously, which makes possible complex expressions of emotion. He named it as "the musical brush chime system" the mechanism that changes the music interactively as well as the picture drawn.

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また彼はゲーム音楽の常道であるプレイ中のループ再生に苦言を呈していました。「常に音楽が鳴っている状況、しかもToo muchな音が流れていることによって音楽自体の力、インパクトが失われてしまう。音を止めることを恐れてはいけない。きっちりと楽曲のエンディングを作れ」と。この意見とチャレンジには自分も大賛成で、不必要に、また望まれない状況で音楽が流れていれば人々の音楽に対する感情は嫌悪感に向かっていくだけです。個人的に音楽の価値を高める、もしくは人々がより音楽に興味を持つようになるには街のいたるところで流れている無意味で不必要なBGMを減らしていくことが必要だと思っています。話を戻すと「静寂から音楽が入る導入部分こそが最もプレイヤーにインパクトを与えられる重要な部分」との認識で制作したとのことです。

He also complained about playing music loops during gameplay, which is the common way of game music. "The situation where the music is always sounding will definetely weaken the power and impact of the music itself. Don't be afraid to stop the sound. Make the ending of the music exactly " I totally agree with his opinion and the challenge, and if music flows in an unnecessary and undesirable situation, people's feelings for music will only go towards disgust. I think it is necessary to reduce the meaningless and unnecessary background music flowing all over the city in order to enhance the value of music or to make people more interested in music. To put it back, he created it with the recognition that "the introductory part where music enters from silence is the most important part that can impact the game player most".

またSamuelさんは実際にステムを並べたProtoolsのセッションファイル画面を見せながら音を再生してくれました。セッション自体に細かくたくさんの再生ポイントのマーカーがつけられていたのも興味深かったのですが、さらに驚いたのはそのサウンドのクォリティの高さです。その前日に同会場で参加者のデモ音源レビューするセッションがあったのですが、そこでの色々な参加者のデモ曲とSamuelさんの音楽の音質があまりにも違っていたんです。デモセッション参加者の音源は音数が多かったり、過度にコンプレッションされたミックスが多かったからだと思うのですが、Samuelさんの場合はまさにToo muchにしないことによって音の鮮度を保つことに成功している音楽だと思いました。

Also, Samuel played the sound while showing the Protools session file screen where the stems were actually arranged. It was also interesting that the session itself was marked with a lot of markers for playback points, but what was even more surprising was the high quality of the sound. The day before that, there was another session to review the demo song of the participants at the same venue, but the sound quality of the demo of the various participants and Samuel's music was too different. I think that participant's work consisted of a lot of sound, some was also over-compressed in terms of mixing, but in the case of Samuel, it succeeded in keeping the freshness of the sound by not going "too much".

ここでもプレゼン終了後にSamuelさんと少しお話ができたので、彼にゲーム音楽以外でアーティストとしてのリリース音源はないのか聞いてみたのですが、現状仕事の締切が厳しくて個人的な制作の時間がなかなか作れないとのことでした。ただ「もし作る機会があったとしたら僕がギターを弾いたロックの作品になるだろうけどね」と本気か冗談かわからない微妙な回答もいただきました (笑)

I was able to talk with Samuel a little after the end of the presentation, so I asked him if he had ever released any other work as an artist other than game music, but he said the deadline for the current work is tight and It is not easy to for him to make the time for personal music production. However, "If I had a chance to make it, it would be a rock and roll piece where I strum guitars,"  I didn't know whether it was serious or a joke. lol

The Music of 'BATTLETECH': Big Sound on a Budget
Jon Everist (Composer, Everist Sound, LLC)


コンポーザー関連のセッションの中でこれを一番楽しみにしていたのですが開始時間を勘違いして最初の三分の一ほどを経過してから会場に入るという失態を犯してしまいました。このセッションではシアトルで活動するJon Everist氏による「厳しい予算の中でサンプル音源によるモックアップと生オーケストラのハイブリッドをどうバランスをとって最大限の効果を作るか」を彼が音楽を担当したBATTLETECHというタイトルを例にして説明するという意欲的かつ実に実践向けのプレゼンでした。

I was looking forward to this most among composer-related sessions, but I misunderstood the start time and had a misstep that I entered the hall after about the first third. In this session, a composer Jon Everist who is working in Seattle made a presentation of "How to balance between a mockup with sample sound and a live orchestra in a tight budget to create the maximum effect" That was totally challenging and practical presentation for composers, using his recent work "BATTLETECH" as a motif.

途中から話を聞き始めてしまったので自分の中で話の辻褄が合わない箇所がいくつかあるのでこのセッションについては詳しく書くのは控えますが、ひとつとても印象的だったのは生のオーケストラをAwayやFarで録音したデータに対してサンプル音源で肉付けしていく様に構築していき、生録音の部分をリヴァーブのWet成分の様にして使っていた手法です。巨大な予算のプロジェクトではセクションごとに別録りしてそのステムごとに変更を加えたりバランスを変えたりすると聞きますが、このやり方は予算が少ないプロジェクトならではの発想の大転換だと思いました。またプレゼンのやり方もとてもうまく、録音されたRawのデータと音源で肉付けした完成ミックスを交互に切り替えながら実際にオーケストラが演奏しているスタジオ映像にあわせて再生して違いを聴かせてくれました。

Since I started to listen to the story from the middle, I don't write in detail about this session, because there were a few places which didn't make sense to me, but one thing that was very impressive was that he built his specific sound by mixing the live orchestra recorded by the microphone which was placed on "Away" or "Far" setting with sample sound, and used the live recording part as if it was a reverb wet component. Once I've heard that nowadays, orchestra sections tend to be separately recorded in a large budget project, then each stems will be changed or balanced, but I think this is a big change from such a typical way of big budget project in the way of thinking. In addition, the presentation method was very good. While alternately switching the recorded Raw data and the finished mix fleshed out with the sample sound, he played it back along with the movie where the orchestra is actually playing to hear the difference.

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Jonさんはフリーランスでの活動だということで自分は特に共感する部分が多いのですが、話を聞くと元々とはロックやエレクトロニック・ミュージックのミュージシャンとして活動していたとのことで増々親近感がわきました。後日同じくシアトル在住で大活躍されているとある日本人コンポーザーの方から聞いたところによるとJonさんは地元で同業のコンポーザーが集まって情報交換できるように自らパーティを頻繁に主催しているんだそうです。話を聞いてなるほどとその人柄がうかがい知れるような素晴らしいプレゼンでした。

I feel some sympathy with him particularly, as he is active as a freelancer like me,  but after he told me when we talk that he started his career as a rock and electronic musician, that makes me more sympathized with him. According to what I heard later from a Japanese composer who is also very successful in Seattle, It seems that Jon frequently organizes a party so that local composers can gather and exchange information. I realized that his great personality made the presentation so wonderful.

ところでGDCのセッションは後日GDC Vaultというアーカイブにアップされるそうなので、このセッションは後日またじっくり見てみたいと思っています。

By the way, the GDC's session will be uploaded to an archive site called GDC Vault at a later date, so I would like to thoroughly check this session again.

つづく


GDC 2019 その1

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先週はサンフランシスコで開催されたGDC (game developers conference) というゲーム業界の開発者会議に参加してきました。今回はオーディオ、サウンド関連の様々なセッションに参加してゲームオーディオやコンポーザーのソングメイキングについて吸収してきましたので、中でも特に興味深かったセッションを紹介しようと思います。


I attended at a game developer conference called GDC in San Francisco Last week, and then participated in various audio and sound related sessions where the attendee can dive into the profoundness of game audio and composer's song making approach, so I'd like to introduce some of the interesting sessions among them.


The Gangs Bite Back: Music and Sound of 'Crackdown 3'

Brian Trifon (Composer, Finishing Move, Inc.)
Brian White (Composer, Finishing Move, Inc.)
Kristofor Mellroth (Head of Audio, Microsoft Studios Global Publishing)


Microsoftからリリースされている
Crackdown 3というタイトルのサウンドと楽曲の解説に関するセッションです。登壇されたのはMSオーディオ部門トップのKristofor Mellroth氏とコンポーザーチームのFinishing Move2人でした。

This is the session where you can realize the deep inside of the sound structure of Crackdown 3 released by Microsoft.

Crackdown 3は機械装備化されたエージェントが暴力と混乱にまみれた街を制圧するゲームで音楽は基本的にシネマティックとダブステップのハイブリッドが中心です。この音楽単体だけでも素晴らしいのですが、オーディオの最高責任者とコンポーザーが同席して解説する必要があるくらいに全ての音が連携して集約された作品になっていることをFinishing Moveの二人は強調していました。例えば各敵のボスキャラクターの曲をまず完成させてからパーツを分解して印象的な音やメロディの断片、テーマを抜き出してそのままアイコン的な効果音としてオープンワールドのゲームプレイ中の場面に散りばめて使ってたり、またプレイ中に音楽が鳴らない場面すら重視して、実際に音楽がない場面から音楽がある場面への移行をスクリーンで提示しながらそれらがゲームの世界観上いかにシームレスにそれぞれ意味を持つように統合してるかを解説していました。このサウンドエフェクトとして散りばめられた曲の断片に関しては結局最終的な曲としての形はエンドクレジットまでプレイヤーは聞くことができないものまであるそうです。こういったアプローチはオーディオディレクターとのやり取りにおいても重要でコンポーザーの彼らが断片的な効果音を使いたい時にそれらの音がそもそもどんな意図を持っているのかを説明するのには曲として完成された形で聴かせるのが一番わかりやすかったとのことです。また彼らはWwiseを使って自分たちで楽曲を組み込むことができるので、それが連携における時間の短縮と実際にゲームプレイ中に反映される音の精度にとっては大きなアドバンテージだと自負していました。


Crackdown 3 is a game where machine-equipped agents control a city covered with mayhem and destruction. Music is basically a hybrid of cinematic and dubstep. The music alone is also great, but Finishing Moves, which is the name of the composer team, emphasizes that both the head of audio and the composers have to be on stage to comment, because all the sounds have been completely combined and converged. For example, they completed the song of each enemy's boss character first and then disassemble the parts to extract impressive sounds, melody fragments, and themes to scatter them in the open world gameplay scene as iconic sound effects. On the other hand, they emphasize even the scene where the music doesn't sound during play, and described how to integrate them in such a way as to make sense on the world view of the game while presenting the transition from a scene without music to a scene with music on the screen.


Regarding the pieces of the songs scattered as a sound effect, some of the final song forms seem to be something that the player can't hear until the end credit. These approaches are also important for interaction with the audio director, and those were completed as songs at first to explain what the composers' intentions were when they wanted to use fractional sound effects. They said that it was the easiest way to get buy-in from directors or sound designers. Also, they were able to use Wwise to embed their own music themselves, so they were confident that it would be a great advantage for the reduced time of collaboration and the accuracy of the sound that is actually reflected during gameplay.


オーディオの責任者Kristoforさんのプレゼンではそれらの曲と環境音との整合性を保つために例えば「環境音が鳴った時にその音の周波数をトリガーとして楽曲の音量レベルを下げるようなプログラムを山程作って組み込んだ」とか、実際の環境音とシチュエーションごとにそれに付随して変化する反響音、初期反射音をDry/Wetで切り替えながら聞かせてくれたりとゲームオーディオが専門でない自分にとってもとても興味深いプレゼンでした。



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In the presentation of the person in charge of audio, Mr. Kristofor,  He said that in order to maintain the consistency between the song and the environmental sound, for example, "We built and incorporates tons of complicated program to lower the volume level of the music triggered by the frequency of the ambient sound when it sounds." It is very interesting even for me who doesn't specialize in game audio, then he showed us the difference by switching between the actual environmental sound and the echo sound or the early reflection sound that varies along with the situation where the playing character is standing.

セッション終了後には登壇者三人と立ち話ができたのですが、Finishing Moveの二人は自分たちのメディアコンポーザーとしてのポジションや音楽性においてかなりNoisiaを意識していると言っていました。事前に聴き込んでおいた彼らのゲーム音楽ではないアーティストとしてのアルバムはこれまた凄まじくソリッドなノイズや現実音をパーカッシブに使った音楽で、ある意味Noisiaを超えてるとも思いました。「モニスピは何を使ってる?」とのユルい質問には「Amphionが最高!」とのことでした。ちなみにNoisiaほどのハイパースタジオではなく自宅を改造したホームスタジオで共同作業してるとのことです。

I was able to talk with the three speakers after the session, then the two of Finishing Moves said that they feel some sympathy with Noisia in their position of media composer and musicality. Since I've actually listened to their albums as an artist (not for any video game) in advance, I also knew that they transcend Noisia in a sense, which is a music that uses meticulously tweaked percussive solid noise and even self-recorded real sounds, too. Finally, I asked an easy question "What do you use for monitor speakers?" then "Amphion is the best!" was the answer. They said they are working together at home studio, which remodeled by themselves. I was very impressed that their strong sound doesn't depend on a hyper super studio like spaceship that Noisia owns. 

長くなったので他のセッションについてはまた次回書きます・・・

イヤホンを変えてみました。

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先日、普段使用しているイヤホンをEtymotic ER4Sから、昨年同社が11年ぶりに新しくフラッグシップとして販売開始したER4SRに変えてみました。イヤホンに関しては以前に二子玉川の蔦屋家電の視聴コーナーでほとんどの製品を試してみても自分にとっては荒々しすぎる音のものしかなく、EtymoticかSonyのMDR-EX800ST以外の選択肢は考えられなかったのですが、MDR-EX800STはすでに普段から使用している定番スタジオヘッドフォンのMDR-CD900STと同傾向ということで、最終的には今回もエティモを選んでみました。ER4SとER4SRは似たような製品名にもかかわらず音の印象としてはかなり異なります。個々の楽器の定位と奥行きをハッキリと把握できながらも極めてクールで地味、録音された音をただただ測定器の様にシンプルに再現していたER4Sに比べてER4SRはグッと前にせりでた音で広がりもあり、ちょっとしたバウンシーで躍動的な色付けすらも感じるという、いわゆる「カッコいい洋楽のミックス」の音になります。普段音楽を楽しむなら断然ER4SRかなと思いますが、全く色付けのないリファレンス用に使えるイヤホンとしてER4Sの価値もさらに高まったと思います。


Ecovanavoceとのコラボレーション

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Dugo / Lingua Francaではイタリアの古楽器奏者アーティストEcovanavoceとも2曲コラボレートしています。彼らとの共同制作は以前にもブログで紹介したことがありますが。今回のDugoのアルバムに収録されたのはそのうちの1曲と、もう1曲はDugoの旧曲を彼らとリアレンジして新しい曲として再構築したものです。

Ecovanavoceというのはいわゆる回文の造語で、彼らいわく古代と現代、西洋と東洋など全く異なる文化の接点になるような音楽性を模索していくプロジェクトだとのことです。ゆえに今では現存しないイタリア及び地中海周辺の古楽器をリイシューし、コンセプトはそのままに現代の楽器として生まれ変わらせ、音楽スタイルも伝統的なスタイルを踏襲しつつ現代的なサウンドアプローチで再現することを目的としています。モダンな音楽を志向する日本人でありながらも欧州の伝統的な音楽への強い興味を持つ自分とは実に波長が合う関係で、彼らにしてみたらまさに自分は彼らの足りないピースにピタッとはまる存在だったのかも知れません。彼らとはLingua Francaの完成後も地道に共同制作を続けており、今年はその成果がイタリアのかなりメジャーなフィールドで形にできるという勝負どころの段階になってきています。彼らとの最初の接点はSoundcouldでしたが、そんなネット上のただの偶然によって生まれた関係性が後々にお互いのキャリアに大きく影響していく時代なんですね。




Sol Ponienteのコラボレイター

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ソロアルバム、Dugo / Lingua Francaは数人のアーティストとのコラボレート、というより彼らがある意味、自分の尻を押してくれたことによって結実した作品なんです。Sol Ponienteという曲でテーマのヴァイオリンを弾いてくれたMonicaは、元はと言えばLanguage Exchangeのウェブサイトから自分のプロフィールに興味をもって連絡してきてくれたという僕の英語の先生ですw まず最初に彼女が言ったのは「あなたがハイレベルな英語学習をしたいのなら、どんな英語教師よりも私が最適よ。なぜなら私は幼児の時からのbibliophage(読書狂)だから」ということでしたw また家族兄弟のうち7人がミュージシャンという彼女は2歳からヴァイオリンを始め現在はオーケストラ、チェンバーアンサンブルからジャズまで、カナダとアメリカを中心に幅広く活動をしています。

彼女は自分への英語のレッスンでは、例えばまず全く違うジャンルの好きな曲を5曲あげさせてそのどこが好きなのかを説明させ、かつその5曲に共通する要素をあげて説明させるという様な、なかなか自分のレベルでは難しい出題形式で訓練してくれました。ですがSkypeを通じて互いに呑みながらの雑談ではお互いの学生時代のバカ話などで盛り上がり、そのうち自然に一緒に1曲作ろうということになったのでした。彼女の人物像に対して持っている自分のイメージをテーマのメロディで具現化した曲、それがSol Ponienteという曲です。これはスペイン語ですが、英語だとSetting Sun、日本語だと「暮れゆく太陽」という意味です。

ヨーロッパ・ツアー 3 FreakShow ヴュルツブルク

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ツアー最終日はドイツのヴュルツブルクに移動してFreakShow Artrock Festivalに出演です。今回のヴェニューはサッカー場に併設されたホールを借りきって使っているので広めの会議室が楽屋になっており、そこから食堂と客席、ステージのまわりにかけて常にオーディエンスがウロウロしてる中でのサウンドチェック。で、用意ができたら即演奏という超ラフなスタイル。機材のセッティングをしながらも話しかけてくるお客さんと世間話したりというなかなか経験できない状況でしたw 今回のツアーを通じて全ての会場がいわゆる営利目的の常設されたものがひとつもなく、イベンター、オーガナイザーのDIYの精神が強く反映されたものばかりなのはとても印象深かったです。また今回のFreakshowはいわゆるフェスとしてはとても小さい規模で、かつオーガナイザー、アクト、オーディエンスが全く対等な立場で接する場になっており、それぞれの立場の人達がみな少しづつ協力し、少しづつ責任を果たしながら全員が少しの利益と大きな喜びを得られる場にしようとしているのがとても素晴らしいと思いました。

今回は僕ら以外は全てヨーロッパ出身のアーティストでしたが、先週のRIOからそのまま移動してきたバンドや、メンバーが入れ替わった別ユニットとしてRIOから移動してきた人もいました。アヴァンロック、プログレのマーケットは世界中にあるとはいえ当然とても小さいものです、しかしながら世界各国に猛烈にマニアックかつ熱狂的なファンの方々がおり、彼らがネットワークを作り遠隔ながらも強固なコミュニティを形成することでアーティストが持続的に活動することを可能にしているんです。これだけCDのマーケットが縮小するなか。今回のたった3回のHFのライブではCDもTシャツも飛ぶように売れており、かつ多くのファンがCDにサインを求めてきてくれました。また「アナログは作らないのか?」というのも何回も聞かれました。

HFが所属するアメリカのCuneiform Recordsは設立から30年、アヴァンギャルド系の音楽ばかり数百タイトルをリリースして今なお安定したセールスを保っているのはこうした強固なネットワークとコミュニティのお陰なんだろうと身を持って知ることができました。それともうひとつ日本の状況と違うのは芸術活動に対する政府からの助成金です。イタリアなどではどんどんカットされる方向にあるそうなのですが、まだドイツ、フランスでは大きなサポート力があるようです。その代わりに著作権管理団体の影響力もかなり強いらしく今回行ったすべての会場でフランスSACEM、ドイツGEMAにそれぞれ全ての演奏曲と作曲者を報告する提出書を作成しました。また売り上げにかかる源泉徴収率も日本よりも遥かに高いようでした。

総括して日本の状況と最も違うと思ったのはバランスのとれた成熟さというところでしょうか。日本のライブシーンはまだまだ若い感覚で動いているシーンで「こういう形でなければダメなんだ」という真面目さが良くも悪くも強いのかなと思いました。もう到底若いとは言えない自分にとってはヨーロッパのシーンはちょっと居心地の良いシーンかも知れないと思えましたw
真ん中がオーガナイザーのチャーリーさん。60過ぎの超ファンキーなオッサンでしたw

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ヴュルツブルクの旧市街は今まで行ったことのあるヨーロッパの街の中でも屈指の美しさ。戦争でほとんど崩壊した街並みを後にそっくりそのままに再現したんだそうです。

ヨーロッパ・ツアー 2 Kafe Kult ミュンヘン

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前回のRIOのあと一旦パリに行き観光や別件の仕事のミーティングを済ませた後に2発目のショーはドイツのミュンヘン、前回とはうってかわってアンダーグラウンド感満点のハコKafe Kultにて。元々この区域一帯はドイツ空軍の病院施設だったところで、そこが開放されてからアーティストやミュージシャンなどが集まるコミューンのような形で人が多く集まる場所になっていったんだそうです。以前ベルリンに行った時のブログで変電所を居抜きで改築したクラブの事を書きましたが、ドイツでは旧東ドイツ時代の施設を利用したヴェニューやギャラリーがとても多いです。Kafe Kult以外にもこの周辺の広い敷地内には何棟かの建物があり、普通に住んでいる方もおられるようでした。オーナーのハーバートさんとは渡欧前に打ち合わせをしたかったのですがネット完全NGな人ということで常に間に人を介しての連絡だったということもあり、筋金入りのヒッピーを想像していたのですが、お会いして色々話していると実に落ち着いた知的な人物で、しかしながら筋金入りの鬼畜系音楽マニアではありました。ハーバートさんは大学ではコンピューター理論を専攻し、かつてはコンピューターの技術系の仕事をされていたそうなのですが、ある日全てを変えたくなりここに居を構えてネット圏外での生活を選ぶことにしたんだそうです。今ではKafe Kultのサイト宛にくるメールも3ヶ月に一度程度しか開かないそうですw

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この日はHFと地元ミュンヘンのテクニカルフュージョンバンド7for4の2アクト。ありがたい事に前回のフランスのRIOフェスティバルからそのままミュンヘンにも僕らを見に来られた方も何人かおられました。

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ハーバートさん、ドラマーナガセ、お名前を失念したイタリア人スタッフの方。

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膨大なジャンルのコレクションがありましたが、なぜか僕には70sのダークアンビエントとサイケの中間みたいのばかりを薦められましたw

Kafe Kult - putting munich back on the map since '99 from mpeG on Vimeo.

ライブ終了後はハーバートさんやお店のスタッフ、常連さんと飲んでマニアックな音楽談義。次の朝も車で市内を少し案内してもらいました。
ミュンヘン中央駅周辺は多人種のるつぼ、例の難民の仮宿泊施設や駅前に陣取る報道関係者などもいてザワザワしていましたが、少し中心部から離れると素晴らしく美しく整然としたヨーロッパの街並みが保たれていました。

つづく

ヨーロッパ・ツアー 1 Rock In Opposition


Happy Family初の海外ショートツアーの一日目はRock In Opposition Festival。フランスのトゥールーズから車でぶっ飛ばして1時間半ほど。アルビとカルモーという街の中間くらいの位置に特設会場と宿泊施設がありました。この場所は鉱山の施設として使われていたそうなのですが、主催者のMichel Bessetさんは二十年ほど前に付近一帯を買い取り、コンサート施設、アスレチックレジャー施設として改装して運営されているそうです。このフェスではアヴァンギャルド系のアーティストばかりがアメリカ、スウェーデン、フランス、ベルギーなど様々な国から集まっていました。お客さんの方も各国から来られてる方が多く、直接話しをしたひとだけでもスペイン、ドイツ、メキシコ、モロッコ、アメリカ、ロシア、チェコなど様々な方がおられました。HFの出演は三日間のプログラムの中で三日目の夕方、機材チェックとサウンドチェックを一時間ほど念入りに行ったあと30分後に一時間のステージをこなしました。ステージ上のモニタリングのし易さとオーディエンスの反応の良さなどもありここ一年ではベストとも言えるライブができました。ライブ後にはプレスカンファレンスも行い、約20人ほどの取材の方を前に活動状況や今後の展望、日本のプログレッシブ・ロック、アヴァンギャルドロックのシーンについて説明させていただきました。今回は演奏すること以上にお客さんやスタッフ、共演者の方々との交流がとても新鮮かつ有意義で、日本のアーティストとしてどういうアティチュードで活動しているのか、日本には他にどんなアーティストがいるのかなども聞かれましたが、このツアーを通じてどの街にいっても必ず日本の政治的な状況、それも原子力行政のことについて聞いてくる人が何人かいました。このRIOの会場では特に質問されることが多く、物販をしている時にあるフランスの老夫婦から質問された際には僕が答えて説明しているうちに周りから興味を持った方が集まってきて、いつの間にか十数人を目の前に演説している様な状況になっていました。昨年Michel Bessetさんが日本に来られた時に「ライブの際に政治について話すことはフランスではごく普通のことだよ」と言われていたことを思い出しました。ヨーロッパではアヴァンギャルドで反商業主義的な音楽家の活動というのは政治的なアティチュードと不可分なんですね。原子力行政の質問をされる際には毎回、日本のエネルギー安全保障、産業コスト、核技術の兵器への技術転用の可能性による軍事的抑止効果、あとはメタンハイドレートなど新資源の可能性について説明しました。質問してきた方の多くは即座に全てを止めるべきという僕とは異なる意見の方だったのですが、それでも日本人と直接意見交換ができたと感謝の言葉をいただきました。全てにおいてヨーロッパの社会、人々の成熟ぶりをズッシリと感じる日でした。


不安だったプレスカンファレンスも何とかこなせました。英語で質問され英語で回答、それをまた司会の方がフランス語に翻訳してアナウンスするという形式でした。

つづく

TOKYO FESTIVAL of MODULARに行ってきました。

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先日のDugoのパーティの際に久しぶりにお会いできたシンセサイザープログラマー、プロデューサーの中山信彦さんから、最近モジュラーシンセサイザーの人気がとても高まっているという話をうかがいました。中山さん自身も電子海面というモジュラーシンセザーザーのみを使って即興的なセッションのライブを行うというユニットで活動されているとのことです。そんなおり、唐突にモジュラーシンセの見本市の様なイベントが行われるということを知り、西麻布のSuper Deluxeに行ってきました。

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DSC02479.JPGDSC02464.JPG クリックで拡大します。

出展ブースにいるのもお客さんも半分は外国人でした。不慣れながらも展示されているシンセをいじっていると操作法や仕組みを親切丁寧に解説してくれました。

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これは右下の回路基板の部分を触るとノイズを加えられるおもしろいタイプでした。しかも基板別にノイズを加える周波数帯域が分かれているという。


CeVIN KEY(SKINNY PUPPY)+ DJOTOのライブ。モジュラー度はほとんどないですが、ライブはとてもよかったです。DJ OTOはRenoiseという比較的最近リリースされたDAWをつかっていました。CeVIN KEYの方はわからず。四種類のオーディオファイルを同時に読み込んで同期させているようでした。


DenshiKaimen Vol.4 "Cluster"
電子海面のライブ。むちゃくちゃクール!

Dugo @AMPcafe Tokyo 09.05.2015

あけましておめでとうございます 2015

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おくればせながら新年のご挨拶になります。昨年はひたすら、再開したバンドのアルバム制作とそれにまつわる事務的な業務と交渉ごとに終始する年になりました。なぜこの期に及んでまだバンド活動などしているのか?自分でも時々不思議に思っていたのですが、一枚アルバムを形にして世に出してようやく気付いたのは「もし今の自分のスキルで、かつて志半ばで挫折したバンド活動を試したらどこまでできるか」という好奇心が自分を動かしていたということです。

自分は最初から職業音楽家をめざしていたわけではなく、ただ漠然と自分の好きな音を作りながら細々と生きていけたらいいとだけ思っていました。そしてどの社会にもうまく適合できなかったからという理由で必死に音楽を作って生き延びているだけの人間です。そしていま、ありがたくも多くの方から頻繁に仕事をいただけているおかげでこんなに自由きままな音楽活動もできる状況にいます。

昨年の具体的な成果として、かつて20代の時に夢見ていたヨーロッパでのライブツアーが今年できることになり、若き日の夢の再現はこれでひとつの帰結をむかえることになります。バンドの活動に関してはこのツアーの後に新たにどういった方向に向かうべきかを決断することになります。

仕事に関しては「どうにか踏みとどまった」という状況です。ですが昨年は多くの新たなビジネスパートナーとも知り合うことができ今年への希望をつなぐことができました。

そして今年はいまさらながら決定的に自分に足りないスキルをいくつか克服したいと考えています。最近本当に痛切に思うのですが、この歳になってもまだ学習しなくてはならないことが多く、また幸か不幸か今それができる状況にあることに呆れながらも心から感謝しています。

この時代に音楽を作る仕事で生き残っていくことはとてつもなく困難なことで、まだまだ自分にはサバイバルするためのツールが不足しています。いままだこのありがたい状況が保てているうちに今年はスキルアップの年にしようと考えています。

皆様本年もなにとぞよろしくお願い致します。

イズタニタカヒロ

MacPro乗り換え日記

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先日のMacPro購入から少しづつ旧システムからの引っ越しに向けた作業を続けていました。まずはUAD-2のプラグインシステムを旧来のPCI-eボードのシステムからUAD Satellite Thunderboltへ移行することから。新MacProに移行する際に一番厄介だったのがこのUAD-2に関することで、このSatellite Thunderboltがリリースされる前は今までのUADシステムを新MacProに接続するにはThunderboltポート経由でエクスパンションシャーシを取り付けねばならず、さらにはそのシャーシと互換性のあるのがUADの中でもフラッグシップ機のUAD Octo Coreのみだったので、このシステムに新調するだけでMacPro本体が買えるくらいの出費がかさむ状況でした。このUAD Satellite Thunderboltがリリースされたことでようやく取ってつけたような建て増し感もなく、少ない出費でUADプラグインのシステムを移行する状況ができました。

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新MacProのポートはUSB3が4つ、Thunderboltが6つ、Ethernet2つ、HDMIがひとつです。これだけのポートに外付けのドライブやディスプレイやキーボード等全てを繋げなければならず、実は結構工夫が必要でした。まずUSBポートにはキーボードとiLokなどのドングルのハブ、そして外付けの光学ディスクドライブを繋ぐ必要があります。いまの自分の状況だとUSB3を使った外付けのHDDも使う必要があり結局は状況に応じてケーブルを抜き差ししなければなりません。このポートの数の設定は暗に「外付けに関しては全てThunderbolt経由でRAIDを組んで使うべし」と言われている様なもので、自分も今後はそうしていかざるを得ないと思います。しかしながら現時点でThunderboltで巨大なRAIDシステムを組むのはこれもまた結構な出費になり、こういうところが新MacPro移行に関しての大きなハードルになっているところでもあります。今回は外付けにひとつだけThunderbolt接続でSSDケースを使って音源庫として使うことにしましたが、Thunderbolt+SSD+MacProのスピードはやはり半端ないすごさです。今までは曲の中で使うのをためらいがちだったCine SamplesやLASSなどのオーケストラ音源のMulti Setも躊躇なく立ち上げることができそうです。

それと今回はハードだけでなくMacOSXに関してもほぼ5年ぶりにメインの音楽制作のシステムとしては移行することになりました。2009年のSnow Leopard以降にリリースされたOSXは音楽制作という点に関してはプラスに作用する事が何もなく、ただ扱いにくくただメモリを無駄に消費するだけの厄介者だったのでアップグレードすることができませんでした。ですが新MacProではMavericks以降のOSで動かすことが必須なので、これも5年ぶりの新調ということになります。色々な検証と各ソフトやプラグインの動作チェックをしつつ移行して今のところは大きな違和感がなく作業できていますが、新MacPro上においてもオペレートの際に多少の体感上のモッサリ感があります。これはもう受け入れるしかありません。

実際に使ってみておもしろいなと思ったのは新MacProの放熱についてなんですが、この円筒上の形態の上の部分からまさに煙突の様に温かい風が吹き出ていてここから放熱しているんです。最初に上からふわ~っとした熱気を感じた時になんとも可笑しい気分になってしまいました。ハイテクなんだかローテクなんだかよくわからないこの仕組みにやけに愛着が沸いてしまいますw
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小さい植木鉢用の棚におさめてみましたw

Rock In Opposition Japan 二日目

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前回の続きでRock In Opposition Japanの二日目のレポートです。

Aranis
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全員アコースティックの室内楽の編成で変拍子の暗く不穏な曲を演奏するバンドです。ロックのテイストはほとんどないですが、プログレのテイストはものすごく強かったです。あとメンバーの女性率が高く、またルックスも良く、さらには今回のフェスでバンドの平均年齢も一番若かったのではないでしょうか。個人的に気になったのはHappy Familyが以前カバーしてCuneiform Recordsのオムニバスアルバムに提供したDeniel Denis氏の楽曲「 Bulgarian Flying Spirit Dances」を彼らがカバー演奏していたことです。僕らのはもろにロックのアプローチだったんですが、本来の室内楽編成のアレンジでのライブが見られたのはとても良かったです。

Happy Family
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いよいよ自分たちの出番。ここまでオーディエンスとして見てきて少し自分たちが場違いのロック野郎どもということがわかってしまったので少しナーバス気味でしたが、まあ始まってしまえばなんとかなるもので、いつもながらのザックリとした演奏でフェスに彩りをそえられたんではなかろうかと思います。

SOLA Lars Hollmer's Global Home Project
このSOLAさんだけ自分たちの演奏後にバタバタしてしまって全く見られませんでした!

Mats/Morgan Band
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このバンドも本当に楽しみにしていました。ドラムのMorgan Agrenさんと鍵盤のMats Obergさんは少年時代からずっと共に演奏してきたコンビで、サポートミュージシャンとして鍵盤とギター担当のStefan Järnståhlさんと、さらにはベーシストは元MeshuggahのGustaf Hielmさんでした。彼らの最新アルバムSchack Tatíは完璧にタイトな演奏をコンピュータ内でエディットや加工を加えてさらに高次元のオリジナルな音楽に昇華させたものなので、これがライブでどうなるのかとても楽しみでしたが、ほとんど原曲のイメージのまま超人的なテクニックの演奏で魅せるタイプの演出だったので期待を超える部分と期待はずれの部分が半々という感じでした。とはいうもののあり得ないほどの難易度の高い楽曲を全くそうとは感じさせずに彼らの世界観に引き込む演奏は本当に素晴らしかったです。鍵盤のMatsさんは恐らく全盲なのだと思われますが、楽屋でも常にMorganさんが手を引いてあげてサポートしていました。本当に仲の良い幼なじみなんでしょう。そういうところから始まってこの奇跡的なサウンドが完成しているのかと思うとまた感慨もひとしおでした。

Present
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おそらくこの日のオーディエンスの大半はこのバンドのライブを見たさに来られた方だったのではないでしょうか。このPresentも70年代から活動している伝説的なカリスマRoger Trigaux (ロジェ・トリゴー)を中心に活動を続けているグループです。先述のAranisにも影響を与えているという本当に独特の音楽性でした。以前、というかもう10年以上前に当時大変お世話になっていたとあるプログレマニアの方と「真のプログレとはなんぞや?」という話になった時に、「暗く、重く、冷たく、そして長い!」のが定義であり、それを象徴するのが後期King CrimsonとPresentだ!という含蓄のある言葉をいただいたことがあり、今もなおその言葉が深く胸に刻まれています。この日はそんなPresentと対バンでライブを生で見ることができるという貴重な機会でした。ロジェさんは足を悪くされているのかずっと車椅子での移動で、楽屋でもずっとケータリングのところにとどまって穏やかな表情で出番までずっとタバコを吸われていました。
そして演奏中は鍵盤を弾かれていましたが、具体的なアンサンブルに貢献するというよりもステージにいることでライブ全体の気をコントロールするというような役割に近かったと思います。Presentのライブはまさに「暗く、重く、冷たく、そして長い!」というものであり、普段は長く冗長な音楽にすぐ飽きてしまう自分がなぜかPresentのライブでは、ロジェさんの気に引き込まれる様にその重苦しい空気に魅了されてしまいました。これこそがライブのマジックなんだと思います。他のお客さんを見てもみんなこの重苦しい演奏にノリノリでした。プログレに疎い自分からするとGodspeed You! Black Emperorにちょっと近いんではないかと思いました。
終演後は会場は大喝采でスタンディングオベーション。二日間色々な個性的なアーティストが出演しましたが、Presentの音楽は不思議と他のどのアーティストの音楽性をも内包し、それでいてどれとも類似性がないという様な本当に稀有なオリジナリティだったと思います。

ところで、初日にはフランスで毎年開催されている本家のRock In Oppositionに来年は我々Happy Familyが参加することがオーガナイザーのMichel Bessetさんからアナウンスされました。来年に向けてまたひとつ大きな楽しみができました。
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Rock In Opposition Japan 初日

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先週は以前お伝えしたRock In Opposition Japanというロックフェスで演奏してきました。二日間にわたって世界各国の多彩なアーティストの演奏が楽しめるイベントで、出演者としてはもちろんですが、オーディエンスとしても楽しみにしていました。自分たちの演奏は二日目でしたがまずは初日のレポートを。

The Artaud Beats
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大ベテラン、イギリスの伝説的なグループHenry Cowのリーダーとして有名なChris Cutlerのドラミングが一番の見所でした。かなりアブストラクトな曲で演奏も恐らくインプロが主体だったと思います。Cutler氏の演奏はドラムと言うよりは何か絵を描いているような動作で、スティックのあらゆる部分を使ってドラムセットのあらゆる部分を叩くというアプローチで、実に多彩を音を出して表現していました。

る*しろう
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日本人アーティストのトリオバンド。ピアノ、ギター、ドラムスというちょっと変わった編成です。事前に抱いていた印象では音量小さめで複雑な楽曲と演奏テクニックを聞かせてくれるバンドかなと思っていたのですが、実際に見ると全然違ってかなり迫力のある演奏でした。お客さんをのせる術もバッチリで大盛り上がりでした。

Richard Pinhas
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70年代後半からフランスで活躍したHeldonというバンドの中心人物で、現在はギターのソロパフォーマンスを中心に活動している方です。ギターのソロパフォーマンスというと最近ではルーパーを使ったひとり多重録音的な演奏がはやっていますが、Pinhas氏の演奏はそれとは違いアンビエント的なものでした。エフェクトもフットペダルをずらっと並べるようなものでなくメインとなっていたのは3Uのデジタルマルチエフェクターでした。自分はプログレのバンドやってますがプログレの文脈にはあまり精通してないので、あえて例えるとすると90年代のMy Bloody ValentineやSeefeelのようなシューゲーザーの進化系に極めて近い音で、これはかなり楽しめました。

高円寺百景
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様々なプロジェクトで活躍するドラマー吉田達也さんが中心となって90年代から活動しているバンドです。90年代当時も数回ライブをみたことがあるのですが、当時とはメンバーも演奏も音楽スタイルもかなり変わっていました。当時よりも洗練されていて、楽曲も完全に独自のスタイルに発展していると思いましたが「これぞプログレ!」と思わせるような部分も随所にあり、しかも演奏はキレッキレの素晴らしさ。70分ほどの演奏でしたが、あっという間に終わったように感じました。

Picchio dal Pozzo
イタリアで70年代から活動しているという、これも大ベテランのバンド。鍵盤が二人、管楽器、ドラムス、パーカッション、ギター、ベース、映像担当という変わった8人編成でした。ギターの人はアンプを使わずにPCに突っ込んでプロセッシングした音をラインで出していました。いわゆるロックっぽいテイストはほとんどなくライトな映画音楽の様な雰囲気です。それと全員が色々と楽器を持ち替えたり、遊び心満載のアイデアを取り入れた演奏でした。映像とのシンクもとてもおもしろく、おそらく日本に到着してから撮影したと思われる寿司屋の内部を撮影した映像を加工したり、曲中にバックでオーケストラの指揮者が指揮をしている映像をマニュアルで演奏に合わせて動かしたり、政治的なメッセージを帯びた映像をシニカルに表現したりと、全てのアプローチが洗練されていてカッコ良かったです。サウンド的にはPenguin Cafe Orchestraのような感じに近いと思いました。映像は今年バルセロナでみたMassive Attackよりもおもしろかったと思います。一番期待していたこのアーティストが予想を超える素晴らしいライブで大満足の一日目でした。

早速オフィシャルのYoutubeチャンネルに当日の映像がアップされてました!カッコイイ!!
 ↓

Cocco-Japan HD   Picchio dal Pozzo official YouTube Channel

ゴミ箱MacProを買いました。(YosemiteからMavericksへのダウングレード)

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メインで制作に使っているMacProを新調しました。今まで使っていたマシンはEarly2009モデルなので約5年ぶりになります。長いこと新しいモデルがでなかったMacProも去年の暮れにようやく斬新なゴミ箱スタイルで登場したのですぐに買おうかと考えていたのですが、全ての環境の互換性を保つには費用がかかり過ぎることでずっと先送りしていました。ところが最近普段から頻繁に使っているプラグインシステム、UAD-2のThunderbolt仕様モデルとなるUAD-2 Satellite Thunderboltが出たことにより一気に移行が現実的でシンプルにできる状況になりました。

で、さっそく待ちに待ったゴミ箱Macを購入してセッティングしてみました。

まず問題になるのはデフォルトでインストールされているOSのYosemiteを消して一つ前のMavericksをインストールしなければならないことです。Yosemiteはまだリリースされたばかりで各ソフト、ハードなどの互換性が確認されておらず、基本動作もそれまでのMacOSXとはかなり異なるからです。そこで問題なのはMacは基本的に購入時にインストールされていたものより前のOSをインストール出来ないことになっている事です。おそらく自分が購入したマシンもYosemiteをインストールした状態で動作確認検証などを行っているはずです。

まずは今までよく行っていたOS復元作業のやり方である、Time MachineというOSXのバックアップシステムから復元するやり方を試してみました。普段、致命的なOSのクラッシュが起こった時にはいつもこのTime Machineを使ったバックアップヴォリュームから戻すことで完全に元に戻せていました。同じやり方でMavericksのバックアップをゴミ箱Macに復元することはできたのですが起動ができません。起動しようとするとディスプレイに禁止のマークが出てきてそれっきりです。

色々と調べて次に試したのは、外部ストレージにMavericksのインストール用イメージを作ってOSをクリーンインストールしてから今までのデータを移行するやりかたです。

OS X YosemiteからダウングレードしてMavericksに戻す方法

これを見て参考にして試してみたところ、今度は無事に今までのシステムを再現できましたが、OSの動作が不安定な上にLogic Pro用にインストールしているプラグインのオーサライゼーションの多くが消えてしまっています。さらにはMac自体の起動も緩慢になってしまいました。

最後に試したのは、旧マシンをターゲットディスクモードで立ち上げ→FirewireケーブルとFirewire-Thunderbolt変換プラグを使ってゴミ箱と接続→ゴミ箱をリカバリーモードで立ち上げた状態からDisk Utilityを使って旧システムのヴォリュームをダイレクトにゴミ箱のストレージに復元するやり方です。

これが見事に大当たりで、復元されたヴォリュームはあっという間に起動し、Logicのオーサライゼーションも全て旧システムと同じ状態。さらにLogic自体の起動もまさに爆速で立ち上がるようになりました。(Iさん何から何までありがとう!)Time Machineを使った復元とDisk Utilityを使った復元では復元されるヴォリューム自体は全く同じだと思っていたのですが完全に同じではないようですね。

ちなみに調子に乗ってSnow LeopardとMountain Lionもこのやり方で立ち上げられるか試してみました。こちらは復元まではできても起動できずでした。

このやり方は最も合理的で、しかも最もシンプルなやり方だと思うのですがなぜか検索しても見つからなかったのでブログに書いてみました。今後ゴミ箱MacProを購入予定の方のお役に立てれば幸いです。

また次回この続きを書こうかと思います。

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電源ケーブルはこんな感じで梱包されてました。

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中身はデス・スター、もしくはハカイダー。

2015/02/16 追記
Time Machineのバックアップからのレストアしたヴォリュームでも一度Macをセーフブートさせると、その後普通に起動できることがわかりました。ただしこのやり方だとDisk UtilityでRepair Disk Permissionをかけるとよくわからないエラーが沢山でるのでやはりダイレクトにレストアするのとでは何かが違っているようです。


Happy Family ライブ 140927 ルンバねこ (Cat Riding On Roomba)

Sonar 2014 by Night

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前回に続き今度はSonar by Nightについて。by Nightの方は夜10時からのスタートで比較的大物系のアーティストのライブから始まり、その後朝までDJがメインのクラブの時間帯になります。会場のバカでかさはby Day以上で会場内の一番大きなベニューだとステージから最後尾まで1kmほどもありました。ざっと調べたら幕張メッセの倍くらいですかね。にも関わらず自分が会場に入った11時ころでもう相当な人で埋まっていました。

ここ数年でヨーロッパのクラブによく行っていますが、どこもものすごくエントランスのセキュリティチェックが厳重で驚きます。今回も三重のチェック体制になっていて、入り口には全部で30人くらいの警備員が立っていました。中にはこのひと元傭兵やマフィアの用心棒なんじゃないかってくらいのゴツいひともいます。普通に暮らしてたらまず見かけないだろうというくらいの風貌です。それとその甲斐あってかさらに毎回驚くのがクラブの中の安全な雰囲気です。みんな酒こそガンガン飲んでいますが、泥酔して吐いている輩はいませんし暴れたり喧嘩になっているような光景も全く見たことがありません。ちょっと休憩できるようなスペースに女の子が一人で大の字になって爆睡しててちょっと危ないなあと思って見てましたが、一時間後にまたそこに戻ってきてもまだガッツリ寝てましたw

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Downliners Sekt
どこかのレビューに「Basic Channelと初期Burialが邂逅を遂げたような深淵さ」と書いてあって、まさにその通りと思いましたが、要はブレイクビーツとダブとエレクトロニカのコンビネーションできかせる自分好みの超カッチョイイ音を作る人達です。まだ無名なようですがとても楽しみにしていました。スタジオ音源に比べると少しブレイクビーツの要素が強いライブでした。曲を構成する個々のサウンドが霞がかかったようにくぐもっているにも関わらず全体としてはとてもソリッドなミックスになっているのが実にうまいと思いました。こういう音作りってすごくセンスが問われるんです。

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Massive Attack
自分がこの手の音楽を聴きだすきっかけ、また自分でコンピュータを使って音楽を作る事のきっかけにもなったアーティストです。それから何年も経ち、ようやくライブを見ることができたので感慨もひとしお。と、思っていたのですがライブ自体の完成度は???という感じ。YouTubeなどでライブ映像を見ていたのである程度は予測できていたのですが、色んな意味でイマイチでした。前回のブログに書いたBonoboなどはスタジオレコーディングの素材を使っていかに有機的な演奏に昇華していくかという事に注力していたのですが、こちらは素材のトラックに生演奏をあてただけという印象でした。しかもあまり演奏が上手とはいえない上に、出音のバランスも良くないという。特に低音の出し方が異常なほどで、ベースやキックの音が特定の周波数になると地面全体が振動して足元からそれが伝わってビヨヨーンと下半身全部が震えるくらいでした。この低音が結構曲を台無しにしていて、名曲Unfinished Sympathyの本来メインで聴かせるべき美しいストリングスサウンドが全部この低音でかき消されてました。

昨今では「mp3をヘッドフォンで聴く」のが主流になり制作者もそのことを配慮して不必要な低音を極力排してミックスする事が多くなっていますが、今回のSonarを見てもライブやDJのサウンドでその傾向が強かったと思います。先述のBonoboはベースをハイフレット中心のメロディ楽器として使い、後で述べるWoodkidはベースレスの編成で(チューバ奏者がいますが)両者とも過剰な低音を排しながらも迫力はキープするオリジナルなバランスのサウンドを作っていました。少し不快とも思えるくらいの低音を足元に感じながら、ついにMassive Attackも時代遅れになってしまったのかなとふと感じてしまいました。

しかしながらバックに流れる映像はとてもセンスがよく、色々なものの数値や文字、企業のロゴなどを次々に映していきながらその流れで政治的社会的なメッセージを表すようなものでした。もしかしたらライブの音作りよりももはやほとんどの興味が映像の方に向いているのかもしれないと思いました。

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Woodkid
全く前情報がなく、アーティストの名前すら知らなかったのですが、偶然ライブ開始時にステージ近くに居合わせたことでフルでライブ体験ができました。映画Inceptionの音楽の様な不穏なブラスサウンドのイントロが始まると、それまで人もまばらだったステージ周辺に急激に人が押し寄せてきてライブがスタートしました。Woodkidの音楽は端的にいうと古き良き時代のヨーロッパの映画音楽(ニーノ・ロータ、ミシェル・ルグラン、ヘンリー・マンシーニとかの)の様な楽曲に強烈なオーケストラパーカッションを加えてダンスミュージック化したものといったところですw このライブがあまりにもかっこ良すぎて盛り上がりすぎて、これだけでもSonarを見に来てよかったとすら思えたほどでした。Woodkidの映像は特にメッセージ性はなくサウンドのイメージを具現化した様なものですが照明とのマッチングが素晴らしく独特な空間を演出していました。実際にどんな感じだったかは下に動画のリンクを張っておいたのでよろしければ見てみて下さい。モミクチャにされながら耐えて自分で撮った映像ですw

ライブが終わって照明が明るくなった時に隣で大騒ぎしていたゴッツイ砲丸投げの選手みたいなあんちゃんに何語か全くわからない言葉でまくし立てられて、なぜか最後はガッチリと握手して抱き合って、ライブの感動と興奮を分かち合いましたw あとで調べたところWoodkidはLana Del ReyやKaty PerryのMVも撮るフランス人映像作家 Yoann Lemoineによる初の音楽プロジェクトだそうです。片手間でこんなすごい音楽を作られたら本業のひとはたまらんです。日本の例で例えるとクドカンさんのグループ魂みたいなものでしょうか。あちらも片手間でやられたらバンドマンはやってられんってくらいのカッコ良さですが。 


Woodkid Sonar Barcelona by Night 13 06 2014


Woodkid Sonar by Night Barcelona 13 06 2014 Ending

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むちゃくちゃ混み合っているフロア中を練り歩きながら背中にタンク背負ってビールを売ってるバイト君が沢山いました!
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Four TetのDJ。Massive Attackの前座的な役割だったのでダブばっかりプレイしてました。ある意味貴重かも?


Sonar 2014 by Day

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今年はバルセロナのSonar Festivalにいってきました。Sonarは毎年バルセロナで行われるエレクトロニック・ミュージックとメディアアートのお祭りです。by Dayとby Nightで二箇所の会場でおこなわれていました。by Dayといってもお昼からはじまり、終わるのは夜の10時です。スペインは夜がおとずれるのがほぼ10時ごろからととても遅いんです。

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Nils Frahm
アンビエントやエレクトロニカのテイストを取り入れた作品を多数リリースしているピアニストです。どんなライブになるのか楽しみにしてましたが、ピアノ二台とローズ、それと大きなエコーマシンなどを駆使しつつの壮絶な人力ミニマル・ミュージックの演奏でした。最後は一曲で20分以上もの長尺の曲で汗だっくだくになりながらの熱演で大歓声をあびてました。以前にBrandt Brauer Frickの一時間半ノンストップの人力テクノのライブをみましたが、クールなイメージのあるミニマル・ミュージックのアーティストが肉体を酷使してみせる演奏にはとても感動させられます。

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Trentemøller
このひとの作る硬質でダークな音が大好きなのですが、最近のライブでは歌もののロック寄りな音に傾倒しているようです。

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Matmos
アメリカ出身の実験的なエレクトロニカを作るアーティスト。BjorkのVespertineの頃のサウンドプロデューサー、ライブサポートメンバーとして有名な人たちです。この日のライブでは映像素材にかけるエフェクトに音を連動させたり、普通のメトロノームを走らせながら、その音に即興的な加工を加えたり、またその音をトリガーにして様々な電子音を発音させたりとかなり変わった趣向の演奏でした。「real experiment !」と観客に向かって強調してましたね。

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Bonobo
UK出身、アブストラクトヒップホップの名門レーベルNinja Tuneから数作リリースしてる中堅アーティスト。スタジオ音源からのイメージではもっとクールで抽象的なライブになるのかなと思っていたのですが、すごく躍動的でバラエティに富んだ熱いライブでした。BonoboことSimon Greenはシーケンスやエフェクトを操作したり、小さな鉄琴のような楽器やベースを演奏したりと大忙しです。また曲によってサポートメンバーが入れ替わり立ち代わりなので飽きません。女性ボーカルやホーンセクションが入ったかと思えばドラムとベースのみのセッション、Simon一人だけでDJっぽいライブ演奏など。どの組み合わせでもとても構成や展開が練られている上に演奏の安定感も抜群でした。特にサポートのドラマーの演奏が素晴らしく、いわゆる「打ち込み+生演奏」的なライブのイメージを完全に払拭するほどに有機的なライブでした。このアーティストはもっともっと人気がでてくるような気がします。アリーナコンサートなんかでも映えそうな風格でした。

by DayではアーティストのライブやDJの他にも最新音響テクノロジーやコンピュータソフト、メディアアートの展示会や、McIntoshのオーディオ機器だけで組んだクラブサウンドシステムの小屋も併設してたりと、(これは残念ながら行きそびれました)バカみたいに広い会場のどこにいっても飽きることがありません。

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二回とも見られなかったPlastikman。

マスタリング完了

昨年暮れから始まったHappy Familyのニューアルバムのレコーディングですが、ようやく全ての作業を終えて、マスタリングを完了しました。
15年ぶりのサード・アルバム "Minimal Gods"はアメリカCuneiform Records、日本盤はDisk Unionから9月末頃の発売予定です。

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レコーディング中

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今年に入ってからHappy Familyの新作のレコーディングをはじめています。先日ようやく全てのベーシック録りを終えて、これからは追加ダビングやミックスの作り込み作業に入っていきます。なかなかタイトなスケジュールで、しかも仕事も目いっぱい立て込んでいるので今月来月は時間との闘いになりそうです。

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よいお年を2013

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今年は何よりもバンド活動の復活における前進が大きなトピックでした。2011年に意を決して以来ほとんどリハビリ同然のリハーサルを積み重ね続けてようやく何とか人前で演奏できるくらいの状態にまでこぎつけられました。普段の仕事での音楽の制作では自分とひたすら向き合う孤独な作業の連続ですが、バンドで音を作っていく事によって他のメンバーの成長、挫折、葛藤など全てを含めて変化していく様を受け入れつつ創作していく事で、自分も色々な事を学び気付かされました。

「志のないお洒落な小動物のような」 ものではなく、下手くそでもしっかりと何か聞いた
人の心に突き刺さる力強い音楽を。 そして結束力の強い共同体としてのバンドを作る。


これが再活動の時の決意です。
今年一年でわずか三回のライブですが、何とか当初の決意は形になってきたように思えます。すでに来年に向けての具体的な良い話もいくつかあり、バンド活動に関しては非常にゆっくりとではありますが良い方向に進んでいます。

仕事での音楽制作に関してはいまだに自分が進むべき方向がはっきりとは見えていません。音楽業界、もしくは音楽をコンテツとして必要とするエンターテインメントのビジネスは全ていまは混沌とした過渡期で自分の様な砂粒の様な個人は振り回されて全くどこにたどり着くかわかりません。
この2年ほどは特に停滞気味だったのですが、ようやく今年の中頃以降から新しいお話をいただく事が増え、こちらも来年に向けての新しい展望が見えつつあります。

ということで来年の目標は「記憶と形に残す」です。いつまで今のような音楽に浸った生活ができるかわからない中、来年は自分にとっての記念碑をひとつ作る年にできそうです。

それでは皆様よいお年を。
そして来年もよろしくお願い致します。

イズタニタカヒロ
 

変拍子で踊ろう Vol.12

Happy Family 20131221 いわいづつ (Feu de joie) at Club Goodman Akihabara Tokyo

12/21はHappy Familyの今年最後のライブでした。「変拍子で踊ろう」は90年代から続いているRuinsで活躍しているドラマー吉田達也さん主催のイベントです。今回はその吉田さん率いる是巨人と若手ながら各所で話題のsajjanuと3バンドでの共演でした。


sajjanu
この動画の演奏を見ての通りで、超絶的で複雑怪奇な1曲/45分の演奏でした。10秒ほどの細かいピースを延々と積み上げていくような演奏で、全くもってどうしてこれを記憶できるのか謎です。記憶力がよいというのは優秀なプレーヤーの重要な条件だと思っているのですが彼らはその意味だけでも天才的なレベルに達していると思います。かつて90年代には超絶技巧的な作曲と演奏を駆使するTipographicaという伝説のバンドが存在したのですが、自分がTipographicaの中であまり好きになれなかった部分、譜面くささ、インテリくささといった部分を全部取っ払った完全なストリート発のギターバンドこそがこのsajjanuです。その上センスもテクニックも最高です。この日の演奏では複雑怪奇な演奏の中に5分近くもあるような長いブレイクをいれたり、暗闇の中赤色灯を回転させながらトランス状態で10分以上も反復フレーズを続けてキッカケ無しにピタッと止まるという神業も披露してくれました。まさに記憶力超人です。


是巨人
吉田達也さん、鬼怒無月さん、ナスノミツルさんというそれぞれRuinsBondage FruitAltered Statesというリーダーバンドで活躍するベテランの凄腕ミュージシャンが集まってプログレっぽいプログレをやるバンドです。とはいえ是巨人はこのお三方にしてはかなりライトで演奏も余裕を持った感じです。上記のそれぞれのリーダーバンドの演奏を見た際にはそれこそ神が舞い降りたような鬼気迫る瞬間を何度も体験した事があるのですが、最早そういった経験を踏まえたあとの「達人同志の演奏を通じた語らい」とでもいったような余裕の安定感でした。

今回は三バンドがちょうど一世代づつ違っていて、若い順に演奏していくような形になりました。こんなニッチなジャンルのイベントで会場が満杯だったのは広い世代のオーディエンスにアピールできたからかもしれません。非常にありがたい限りです。
ということでHappy Familyは来月からニューアルバムのレコーディングに入ります。またその模様もちょくちょくお知らせしていきます。
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sajjanuの3人と。左からエーちゃんさん、おれ、コーハンさん、森川さん

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是巨人の吉田さん鬼怒さんと

Happy Family ライブ 130916

Happy Family 暴走機関車 Overdrive Locomotive 130916

映画を3本ほど。

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この10日くらいで3本の映画をみてきました。

Star Trek Into Darkness 109シネマズ川崎 3D IMAX
こちらは前作がむちゃくちゃ面白かったので期待大でした。冒頭シーンの赤い木の林を駆けまわるシーンが特に臨場感があって良かったです。緻密な描写が3D効果によってうまく強調されてます。アバターでも確か似たようなシーンがありましたが。音楽はオーソドックスというか今の時代にしては古めかしいくらいの正統派のスコアです。この作品は音より映像のおもしろさの方が楽しめました。

宇宙戦艦ヤマト2199 第7章 新宿ピカデリー
昔から宮川泰先生の音楽が大好きな作品です。1章から見続けてきて最終章でようやく劇場に行くことにしてみました。ご子息の宮川彬良さんによるオリジナル楽曲のほぼ完全リメイクがとても素晴らしく、現代的なサウンドで名曲の数々をシネコンの音響で聴けるのがとても貴重な体験でした。作品とは関係ないですが平日の昼過ぎだったにも関わらず観客の95%ほどがぱっと見で40代後半と思われる方でした。あとは連れて来られていた子どもで、いわゆる若者っぽいひとはこの回は皆無。うっすらとは予測してましたがちょっと複雑な気分でした


Man of Steel 109シネマズ川崎 3D IMAX
クリストファー・ノーラン監督絡みの作品なので外すわけにはいかないという事でこちらも3D IMAXでの鑑賞。ですが今回は脚本も監督もつとめていなかったからか、あまりノーランぽくない作品でした。それと要所要所に派手なシーンをぶちかましてあるわりには3Dの効果もStar Trekほどではなかったように思います。
むしろこちらは恒例のハンス・ジマーの音楽がまた強烈で、こちらを体感しに行ったようなものでした。Dark Knight ( 以前にブログでレビューしました)あたりから続くオーケストラでの音響実験的な作風がもはや定番になってますが、もうここまでくると音響兵器ですな。ハッキリとしたテーマはあるもののメロディや楽器での演奏表現によるスコアリングではなく反復するフレーズを音響デザインとダイナミクスで変化させつつ映像にあわせている感じ。そして劇場の大音響で聴いてるにも関わらず、完全にリミッティングされて張り付いたような音でも全く耳が痛くなるような不快さがなかったです。IMAX用のミックスってどうやってるんですかね~。
それと例のドラムオーケストラは作品を見てる間は特にどこで使われてるのは気づかなかったです。技術や音楽性と関係なく著名ドラマーを集めてユニゾンで叩かせるという結構成金趣味的な企画だと思いますが、作品の宣伝やブランディングという意味合いもあるんでしょかね。でもメイキング映像は見応えあります。全員共通のワンタムのセットがカッコいいです。

次回は日本で唯一の3Dサウンドが体験できる平和島シネマサンシャインの Imm 3D sound シアターに行ってみようかと思います。


Man Of Steel Soundtrack - Percussion - Hans Zimmer

Hughes & Kettnerのアンプ

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自宅でのギター録音用に、かつ今後ライブが増えてきそうな事もあってHughes & KettnerのアンプTubemeister36Headを買ってみました。いつもバンドのリハスタで使っている同H&K社のTriamp MK2と比べるとこちらはお手軽バージョンなのですが、ちまたの評判ではさほど音に大差ないとの事だったので今回は持ち運びしやすいこちらにしてみました。
で、結論からいうと音はTriamp MK2とは全然違いましたね。こちらのTubemeisterはLeadチャンネルで歪ませた音はMesa/Boogieを優等生的にした音といった感じです。Boogie自体がそもそも優等生的な音なのでそれ以上ってどうなんだ?という気もします。ですがCleanチャンネルはTriampに遜色ない音。いわゆる「全くクセのないクリーン」な音でギター自体の音をそのまま再現してくれるような感じです。自分はもともと歪んだ音はOKKO Dominatorで作るので、このCleanチャンネルで音作りしてからOKKOで歪ませたところバッチリ!いつものリハスタでの音が再現できました。結局アンプの歪みでなくH&KとOKKOの組み合わせでできるディストーションサウンドが自分の好みだったようです。
H&Kはこのようにクセのないサウンドがキモだと思うのですが、ふと思えば自分の使ってる制作用の機材もメインのモニタースピーカーはTannoy Precision、DAがLavry、Audio I/OがRMEといかにもフラットなサウンドのものばかりです。

キャビネットもCelestion Vintage30が組み込まれたH&Kのものを同時購入しました。このキャビネットは上から下までバランスよく鳴るものですが、今回購入前にTubemeisterのヘッドに色々なメーカーのキャビネットをつなげて試奏してみたら思っていた以上に全然違うサウンドが作れておもしろかったです。EVHのキャビにつなぐと本当にもろにミドルがブーストされたエディっぽいマーシャルの音になったり、Orangeにつなぐとローがスッキリ整理されてミドルが個性的なOrangeの音になったりと。H&Kがバランスがよく、悪く言えば無個性な音ゆえにこういう結果になってるんだとしたら今後12インチ一発入りのキャビネットを色々と増やしていくのはありかなと思いました。何せいまどきはちょっと高価なエフェクター1個分程度の値段で買えちゃうので。

あとはちょっとまた真空管にはまりそうで怖いです。今回はデフォルトの中国製からElectro Harmonixの手軽に買えるものに交換しただけですが、これはハムキャンセルできるような仕様だとの事で非常にスッキリとした音になりました。ちょっとネットで調べただけですが真空管ってもう中国とロシアとスロバキアにしか生産工場がないそうで、Electro HarmonixやGroove Tubesはそれらのラインを確保して発注かけることと、あとは選別が主な仕事なんだとか。それと何十年も前に作られたNOS(New Old Stock)がロシアの工場などにはまだ大量に眠ってるのでそこから状態のいいものを選んでるみたいです。この辺はいかにもマニアの人達が好みそうな分野ですがハマるとキリがないので見なかった事に。

こちらは次回のライブに手持ちで持っていきます。
すごい大荷物なんで雨降ったらやだな~。


Electro-Harmonix, guitar pedal engineers, vintage sound gadgets

金沢蓄音器館に行きました。

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先日、金沢蓄音器館に行ってきました。蓄音器540台、SPレコード2万枚を所有する音の歴史館です。蓄音機に関する知識は「エジソンが発明した人類初の録音機器」ということくらいしか無かったのですが、館長さんが説明しながらの試聴会や館員さんとの雑談を経て色々とおもしろい経緯を知ることができました。

試聴会では最初期のものから製造年代ごとに10台ほどを試聴させてもらったのですが、最初にエジソンの作ったものは今の円盤のレコード型ではなくて円筒状のメディアを回転させながら外周に刻まれた溝の深さの変化で縦に振動させて録音再生する方式だったんですね。確かにこの方式だと外部の振動による音の乱れは少ないし、円盤状のメディアの様に外周から内周に進むにつれて音質が劣化するという事もなく均等に録音できます。
しかしながら当然円筒状のレコードなどプレスで量産できる円盤状のものとは生産コストでは比較にならない上に原材料費もかさむので次第にシェアが少なくなり淘汰されてしまったそうです。ちょっと昔でいうとビデオテープのVHSとベータ、今だとiOSとAndroidの様な状況が19世紀後半にもすでに起こっていたとうことですね。ちなみに現在の円盤状で横振動方式のメディアを作ったベルリナーという人が立ち上げた会社がグラモフォンなんだそうです。
グラモフォン=ビクター=HMV(例の犬と蓄音機のマークにはHis Master's Voiceと書いてあります)
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この試聴会では最後にCDの音を現在の普通のスピーカーからと蓄音機のラッパからとを切り替えて再生する比較試聴がされました。美空ひばり「川の流れのように」をリファレンスとしていたのですが、ラッパで聴くとスピーカーよりも圧倒的にボーカルのレンジにスポットがあたって聴きやすくはなるんですが、現在のリミッティングされた音源をラッパから再生してもこれがなかなか抜けて来ないんですよね〜。蓄音機の電気で増幅されてない音が何で耳や心に直接ささってくるのか、色々と考えさせられました。
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エジソンのスタンダードモデル Cコンサート用中型ラッパ。
1901年(明治34年)
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米国コロンビア製のディクタフォン
簡易録音用口述筆記具。テープレコーダーが実用化されるまではこれだったそうです。
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右は英国EMG社のもので黒いラッパは電話帳を溶かして作っているそうです。左がビクター社のビクトローラ・クレデンザ。館員さんの話によると東京でもクレデンザの試聴会があるとパッと100人近くは集まるとのことです。

Happy Family ライブ 4/27-2

Happy Family 水中禅問答 (Zen In Deep Water) 130427

Happy Family ライブ 4/27

Happy Family Rock&Young 130427

Production Music Libraryについて

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Full Werks Musik

このサイトからもご覧にになれますようにいくつかの楽曲をSoundcloudにアップしていますが、最近このSoundcloud経由で海外のProduction Music Libraryの会社から楽曲を委託しないかという勧誘のメールが頻繁にくるようになりました。というわけでまずはコンポーザーとして個別にプロモーションを提供してくれるという一社と契約してみました。

いわゆる著作権フリーの楽曲を期間を決めて使用料をとってレンタルするというものですが、最近では規模、システムともにかなり多様化しているようです。たとえばドラマやドキュメンタリーの音楽をつける際に重要なシーンやテーマ曲に関してはカスタムメイドで音楽を発注してもらい、さほど重要度の高くないシーンやちょっとした絵合わせにはライブラリーにアップされている同じ作家の既存曲から使用してもらうというパターンもあるようです。(尺変更のみ対応するようです)この様な作曲の受注とレンタルの組み合わせでバジェットを圧縮して対応するシステムは実にうまいと思いました。さらにこのシステムの中にはMusical Supervisorが介入して自社の楽曲群から対象のプロジェクトに対してどの作風がマッチするかをアドバイスしたり、既存の有名楽曲の使用許諾を得る手続きを行う代行サービスまで含まれているようです。作曲、編曲、選曲、コーディネートの複合的なサービスとして展開してるんですね。欧米人らしい究極の効率化だと思います。

自分の様にゲームやメディア・コンテンツ系のインスト曲を作っているコンポーザーだと各プロジェクトごとの制作過程で結構大量の不採用曲が生まれてしまうのですが、これらは品質的に劣っているというわけではなくても単にクライアントのテイストにあわなかっただけのものもあるので何とかブラッシュアップして再利用できないかと思ってたんですね。楽曲制作は時間との勝負でもあり、また時間をかけて作った楽曲はそのままコンポーザーにとっての資産でもあります。単なるボツ曲を利益を生み出す資産として活用できるならそれに越した事はないという事です。


大手の会社だとこんな人達も提携してるようです

Bill Bruford  Nik Kershaw Evelyn Glennie

Extreme Music 超最大手で超有名人がごろごろ。ハンス・ジマーやらブライアン・タイラーやらまで。

Nitin Sawhneyのインタビューです。90年代にテクノシーンで一旗あげたひと達は現在結構このテリトリーに進出してるようです。

Universal Publishing Production Music - BBC Production Music - Nitin Sawhney Interview 

エフェクターボード

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久々にエレキギターを持ってライブをやることになったのでエフェクターも色々とチョイスしてボードに組んでみました。かつては山の様に使っていたエフェクトペダルもコンピュータでの制作が中心になっていくにつれて全部処分してしまったので全部いちから買い直しです。

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↑ 左上から順に(クリックで大きな画像)

Redwitch Fuzz God II (Fuzz) 

Strymon El Capistan (Tape Echo Emulator) 

Voodoo Lab Pedal Power 2 Plus (Power Supply) 

Okko Dominator (Distortion)

Loop-Master Pedal Custom (Loop Switcher)

Sonic Research ST-200 (Tuner)

Strymon Lex (Rotary Speaker Emulator)

Keeler Designs Stretch (Wah Pedal)

色々と調べたり試奏してみた結果この様な組み合わせのコンパクトなセットになりました。自分がここ10年以上もPCのソフトやプラグインの方面に没頭していた間にエフェクターの流行りや性能も随分変わったと思いました。

まず思ったのはヴィンテージペダルのレプリカや復刻版の隆盛です。自分のセットの中だとKeeler Designs StretchはVOX V846ジミヘンがウッドストックで使ってるやつ)をモデルにしたレプリカです。ギターでもそうなんですがヴィンテージのものは発売当時の電気事情やPAとアンプの音量や性能にマッチングして設計されている面があるために今の時代に使うとバランスが悪い所が色々とでてきます。レプリカものはそういった弱点を克服しながらヴィンテージのサウンドを再現できるという利点から重宝されてるんだと思います。

また、高性能のCPUをこんな小さな箱に納めて尚且つ省電力でアナログ機材のシミュレートサウンドを出すStrymonの様なメーカーがでてきたのも驚異的です。デジタルエフェクターというと高品質な音色を出すためでなく多機能や利便性のためのものという常識は完全に過去のものだと感じます。特にEl Capistanについては自分が今まで使ったことのあるディレイの中では最高だったMaxon AD-900に匹敵する滑らかな音の減衰を表現できるエコーマシンです。しかもルーパーとしても使えたり外付けフットスイッチでプリセットを呼び出せたりとデジタルのいいところもしっかりおさえてます。

そしてネットでの発注が一般的になったことにより、世界中の無数のハンドメイド工房によるペダルが気軽に買えるようになりました。試奏やクーリングオフはできませんが、そういった工房のサイトにはほとんどYouTubeのリンクが貼ってあってペダルの基本性能や音色についての詳細が見られるようになっています。自分のセットでは特にLoop-Master Pedalのループスイッチャーが受注生産品で工房から直送されたものです。スイッチャーやセレクターに関してはセット全体の完成形をどういう物にするかによって規模や必要なIN/OUTの種類が変わってくるので既成品だとなかなかこれっ!というものが見つからずに困っていたところ、とあるこの手の情報に詳しい知り合いの方にこれを教えていただきました。Loop-Master Pedalは日本には代理店も全くないようですが、実際に製品を受け取って試してみても非常に満足のいくサウンドだったので自分からもオススメできます。(発注から受け取りまで2ヶ月もかかったのが少しだけ難点ですが)

と、ここでふと思ったのは選んだものに日本製のペダルがひとつもなかった事です。自分がギターを弾きだして以来エフェクターのシェアは断然国産メーカーのものが多かったのですが、もはやここもグローバル化してきてるようです。(自分のセットだとOkko=ドイツ Redwitch=ニュージーランド 残りはアメリカ)もちろん今の国産にも素晴らしい製品がたくさんあるのは調べたのでわかっており、サウンド、個性、機能性、デザイン、価格など全ての要素で考慮したところで抜きん出るものがたまたまなかったという事なんですが。

先に書いたレプリカものにおいては実はかつての国産エフェクターの名器、Boss OD-1、Ibanez Tube Screamerなどの設計を元にした高級ペダルがたくさんあり、完全に研究しつくされた結果もはやギターでいうGibsonやFenderのようなポジションになっている感すらあるんですが・・・こういうところでも時代が変わったんだなということを強く感じました。

↓ こういう人達にものすごくシンパシーを感じます。

Fuzz: The Sound That Changed The World

こちらも楽しみです。

Beautiful Noise Trailer - My Bloody Valentine influence 2012

レ・ミゼラブルを見てきましたよ。

遅ればせながら現在公開中の映画「レ・ミゼラブル」を見てきました。ミュージカルという事とかなり音楽の分量が多いという程度の事前情報だけで見に行ったのですが、最初から最後までほぼ全編歌いっぱなしでしたので二時間半のミュージックビデオを見たような感覚になりました。

さらにこの映画では役者が自分の芝居のペースとテンポ感で歌ったテイクにあとかぶせでオーケストラをあてており、完全にドライな声にきっちりミックスされたオケがのって同期しており、既存の先録り口パクあわせのミュージカル映画とも舞台のミュージカルとも違うので何とも不思議な感覚になってしまいました。この奇妙な感覚にさせられたせいでストーリーに集中できず「これどうやって同期してんだ?」なんて事ばかり考えながら見るはめになってしまいました。エンドクレジットにStage Pianistという表示があったのでようやく仕掛けがわかったのですが、芝居を見ながらバックステージで伴奏してくれるピアニストの音を役者がイアホンでモニタリングしながら歌い、録音されたピアノをオケに差し替えてるとのことでした。

しかし普通に交わしている会話がずっと歌になっていてさらに三人目の歌が絡んできて最後は三声できれ〜にハモリになったりするとあまりの違和感で笑ってしまいそうになりました。また通常ミュージカル映画では芝居のシーンと歌唱シーンが交互に入り、現実とファンタジー部分をそれぞれ担っていますが、この作品では全てが現実感覚のまま虚構みたいなもので、ある意味「歌で会話する世界」という異次元の話みたいな事にもなってますw 手法が斬新ゆえに見る方の順応力も問われますね。
こっちはメイキングです。役者さんは音聴きながら芝居できるからやりやすかったとのこと。

吉祥寺シアターに行ってきましたよ。

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先日 Newsでお伝えした舞台公演を 吉祥寺シアターに見に行って来ました。
この施設は公益財団法人 武蔵野市文化事業団が運営する文化施設で現代演劇やダンスを中心とした舞台芸術の創造の場として劇場とけいこ場が併設された施設です。以前にこの会場でフラメンコのパフォーマンスを見に行った事がありこの会場の音響の素晴らしさをとても気に入っていました。
今まで自分がミックスまで行ったトラックがそのまま流れる機会はスタジアムやアリーナもしくは小さいライブハウスでしか聴いた事がなく、本格的な音響システムが導入された中規模の劇場で果たしてどう聞こえるのだろうと楽しみにしていました。CD音源のマスターではないのであえてほとんどリミッティングせずにミックスをまとめた楽曲が多く、弦アレンジの曲などは思いっきりダイナミックレンジをとったのですが、ほとんど自宅で聴いていた時の印象そのままで、マスタリングスタジオで聞く様なフラットな音に劇場ならではのアンビエンスを足したような心地良い音でした。
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ここのスピーカーシステムはドイツ d&b audiotechnik社製の Ci-Seriesというものでヨーロッパの劇場などによく採用されているそうです。ベルリンの Berghainでも同様に感じたのですがここも天井が高い会場だということと、壁面には木毛セメント板という畳くらいの大きさの厚さ3センチ位の板をはめ込んである事で(その板の中に塗り込められたリボン状に削られた木の凹凸によって吸音と音の拡散を計算しているそうです)スピーカーの存在を感じさせないナチュラルな音響作りになっていると思いました。生音の響きもとても良かったので演劇に限らずライブ演奏でも良い感じになりそうです。特にアコースティックと打ち込みものやサウンドスケープの共存するようなライブには最適だろうなあと思いました。つーかここでライブやりたいw


イアホンを買いましたよ。

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今の仕事をするようになってから外出時に携帯音楽プレーヤーで音楽を聴く習慣が全くなくなっていたのですが、先日携帯をiPhoneにした上に Etymotic ResearchのER-4Sというイヤホンを購入してから何かと音楽を聴きまくる様になっています。
自分は今まで仕事の際でもヘッドフォンをほとんど使わずに作業しています。ヘッドフォンだと低音の質感がつかめなかったり奥行きも見えづらかったり、あと物理的な装着具合によって定位のバランスまで掴みづらかったりするのが理由です。
ですが、このER-4Sはそれらのマイナス要因を全てクリアしており音源の音質的な質感や音量レベルの差異まで如実に再現してくれるので今後は仕事でも活躍してくれそうです。低音の質感に関してはまだモニタースピーカー無しでは完璧な判断はしづらいですがその他の要素で特に定位に関しては何年も普通に聴いてきた曲の定位ずれをいくつか発見してしまったほどの正確さです。
それと今となっては全部mp3になってしまってますが、最初にリリースされたのがアナログレコードか、CDに完全に以降してからか、Protools以降のものか。大きくわけてこの3つで音量レベルと質感に相当違いがある事にもあらためて気づきました。Protools以降のものについては制作時にタイミング補正がなされてる事の影響も大きいと思います。

そんなわけで「どうせiPhoneで音楽なんか聴かないし」と32GB仕様のものを選んだ事を後悔しているわけですが、32GBパンパンにつめた音源ファイルをシャッフル再生しているうちに次第によく聞くお気に入りアーティストが決まってきました。
まず XTC、若い頃にウォークマンで聴いていた時は中期の Black SeaBig Expressをよく聴いていたのですが、ちょうどむかし自分がウォークマンを使わなくなってからリリースされた Non SuchApple Venusの1と2などの、シンプルなアイデアと構成の中に多彩な色を散りばめたような複雑な展開を作るアレンジ力とアイデアの凄さに唸っています。
それと Brandt Brauer FrickBopのMVカッコよさにやられて今年の来日時に代官山Unitのライブまでいったくらいですが、アルバムの他の曲にはいまいちピンときてませんでした。もともとミニマルな楽曲群なのでさっとチェックするくらいでは意味がないのですが、聴きこむ程に各サンプルやフレーズの磨きこみが際立っているのがわかります。それと楽曲構成とミックスの相関関係が実に複雑で細かく作ってあるのもわかります。
最後に Craig Streetのプロデュースした諸々の作品です。このところフルアコースティックの曲をミックスする機会が続いた事もあってリファレンスでよく聴いていたのですが、ルームリヴァーブをうまく使った楽器同志の距離感と音を必要最小限に削ぎ落した超クールなアレンジがたまらんです。おすすめは Madeleine Peyrouxの最新作、 Gipsy KingsのRootsLizz Wrightのファーストとセカンド(ミックスが Tony Maseratiでマスタリングは Greg Calbi)などです。

世間的には今さらという感じではありますが、iPhoneで生活習慣が変わる感覚を実感しております。おせ~w

ロック・オブ・エイジズをみてきましたよ。