Takahiro Izutani

2023年1月

映画「モリコーネ」が2時間37分使っても伝えきれない部分

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今日は敬愛するモリコーネ大先生のドキュメンタリー映画を見にBunkamura ル・シネマに行ってきました。実はこの作品(原題 Ennio)はネットのストリーミングサービスで頑張って英語字幕で既に見ていたのですが、せっかくの劇場公開なのでじっくりと2時間37分の再見です。

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この作品のクライマックス部分、例えば、ボツ曲だったものが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に「デボラのテーマ」として採用された経緯や、「ウエスタン」の冒頭20分がミュージックコンクレートだけで構築されている話、「ミッション」がカバー曲ばかり使ってる「ラウンド・ミッドナイト」に負けてオスカーを取れなかった逸話、などはかなり有名なので当然とりあげあれていたのですが、残念だったのは自分にとってのフェイバリット作品「マレーナ」「オルカ」「遊星からの物体X」がことごとく無視されていた件ですw

 「マレーナ」はジュゼッペ・トルナトーレとの黄金コンビでモニカ・ベルッチ主演でグローバルにもヒットして、かつオスカーにもノミネートされていたのに、なぜかこの手のモリコーネの作品紹介のときにはガン無視されます。いつものメチャクチャ感傷的なメロディが「大人の女に恋い焦がれる童貞の中2の思い」を実に的確に表現している素晴らしい楽曲なのにw です。

「オルカ」はディノ・デ・ラウレンティスの動物パニック映画にも関わらず、ヨーロッパ的な陰りのある実に美しい旋律で密かにモリコーネファンの間でも支持が多い作品ですが、作品が地味で「ジョーズ」の二番煎じの印象が拭えないのか、やはりこういうドキュメンタリーやインタビューなどではことごとく無視されがちです。

「遊星からの物体X」はせっかく先生が作曲されたにも関わらず、映画完成前の作曲だったために、完成後にジョン・カーペンターが再録して差し替えになったことで極々一部にカルト的な人気を博している作品です。また一部はタランティーノの「ヘイトフル・エイト」にもスコアが流用されていたりと、ドキュメンタリーとしては盛り沢山の逸話があるにも関わらず、半ばリジェクト作品の様なネガティブな印象も拭えないからか、まず取り上げられることがありません。

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あとこのドキュメンタリーではハンス・ジマーのコメントが頻繁にでてくるのがとても印象的です。ハンス・ジマーの音楽には明らかにモリコーネ先生に通底するものがありますし、彼の実験精神や新しい楽器使用へのチャレンジは先生に倣っているところが大きいと思います。そのジマー作品の中で自分が特に好きな「ホリデイ」ではジャック・ブラック演じる映画作曲家がモリコーネファンで、いかにモリコーネが天才で神なのかを語るシーンがあったり、劇中にでてくる往年の名脚本家が映画協会からの招待を拗ねて拒んでいる描写は'モリコーネがアカデミー賞に対して取ってきた態度とそっくりです。またジマーのテーマ曲はまさにニュー・シネマ・パラダイス的なモリコーネ節全開w いまや大巨匠のジマーがこんなあからさまなオマージュを作るほどモリコーネ先生には傾倒していたということかと。

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最後に、ひとつ映画の中で浮きまくっていたシーンがありオリバー・ストーンだけは「モリコーネ大先生に過去の焼き直しでカートゥーンミュージックを作らせようとしたアホ」として断罪されるような描写がされてましたw