Takahiro Izutani

Metal Gear Solid

OTAKON 2022 その1

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7月29日から7月30一日までアメリカワシントンDCで開催された東アジアのポップカルチャーファンイベント、OTAKON 2022に参加してきました。

今回はゲームコンポーザーとして1時間半のパネルの枠をいただいたので、 過去に携わったゲームタイトルの中からいくつかをピックアップし、またゲーム音楽のリミックスワークなども紹介して、 それぞれのゲームのファンの方々に自分が普段どんな作業をしているのかを紹介させていただきました。

特に自分のキャリアの中でも思い入れの深い作品だったMetal Gear Solid 4のクライマックスシーンにつけた音楽についての深く掘り下げた解説をメインにパネルを構成しました。

I participated in OTAKON 2022, an East Asian pop culture fan event held in Washington DC from July 29th to July 30th.

I was given an hour and a half panel slot as a game composer, so I picked up some of the game titles I have worked on in the past and introduced my remix work of game music and what I usually do as a game composer to the fans of each game showing what I usually do.

The panel consisted mainly of an in-depth explanation of the music for the climactic scene of Metal Gear Solid 4, which was one of the most memorable games in my career.

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自分が多く関わる様なゲーム音楽ではインプレイ中の音楽とムービーシーンにつける音楽があります。ムービーシーンはゲームの用語ではカットシーンと呼ばれていて、自分はこちらの音楽を担当するケースが比較的多いんです。映画やドラマにつける音楽と違うところとして、カットシーンは短ければ数十秒長ければ数分のムービーの中でゲームの展開や物語の説明に必要な音楽を当てはめて状況を的確に説明し、プレイヤーの気分を盛り上げるというのが役割です。今回取り上げたシーンはクライマックスでメインキャラクター二人が素手で闘うシーンの演出です。MGS4は複雑な国際政治や近未来に登場しうる兵器や技術の描写が特徴的ですが、今回取り上げた作品のクライマックスはそういったクールな描写を全部すっとばして、主人公とその敵役が無骨にも素手で殴り合うだけのシーンですw 

In the kind of game music that I am often involved with, there is music for in-play music and music for movie scenes. Movie scenes are called "cutscenes" in game terminology, and I am often in charge of music for these scenes. Unlike music for movies or TV dramas, the role of cutscenes is to explain the game's development and story in a short movie, which can be several dozen seconds or several minutes long, and to explain the situation precisely to the player and to lift his or her spirits. The scene featured here is the climax of a bare-knuckle fight between the two main characters, and while MGS4 is known for its complex international politics and depiction of weapons and technology that could appear in the near future, the climax of the piece featured here skips over all of those cool elements to show the protagonist and his antagonist in a bare-knuckle fight.

そして監督から与えられた唯一のリスエストは、番長同士が河原で殴り合ったあと土手で大の字にひっくり返り、夕日をバックにして「おまえなかなかやるな」「おまえもな」「ハハハ」とやり合う昭和のアレを演出してほしいということでしたw そして渡されてきたのは未完成の男同士が殴り合うだけの絵コンテの様な映像のみ。

この様な難題が降り掛かった時に自分が頼りにしているのはマインドマップを作成して必要な要素と与えられた状況を全て書き出して、そこから段階を経て具体的なサウンドと使用楽器の選択に落とし込んで行く手法です。このときは数分の映像を4つのシークエンスに分割してそれぞれに役割を与えて最終的に「おまえもな」のところまで感情と状況の変化を演出する流れを構築していきました。

And the only request the director gave me was to direct a Showa-era scene in which the two gang leaders beat each other up on a riverbank, then turn over on their backs on the bank, with the setting sun in the background and say, "You're pretty good," "You too," and "Ha ha ha ha". And all I was given was a storyboard-like image of two men punching each other.

When I am faced with such a difficult task, I rely on the technique of creating a mind map, writing down all the necessary elements and the given situation, and from there, step by step, I put them into specific sounds and instruments to be used. In this case, I divided the several-minute video into four sequences and gave each of them a role, eventually building a flow to produce changes in emotion and situation up to the point of "You too".

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自分の場合、アイデア出しに困ったときは他にも色々な対処法を持っているのですが、特にマインドマップから落とし込んでいくやり方は自分の思考のプロセスの記録が取れるので、途中でとっちらかっても元に戻ってやり直すのが簡単ですし、中間のプロセスで浮かんだアイデアを他のプロジェクトに転用できたりもします。また実は最近気がついたのですが、Dugoの楽曲制作時にもこのやり方でアイデアをまとめていたところ、思考の記録を残しておくと、例えばミュージックビデオや制作ストーリーのテキスト、別ミックスバージョンなどの派生物としてのコンテンツを作るときなどに非常に役に立つとわかりました。

In my case, when I have trouble coming up with ideas, I have a variety of other ways to deal with it, but in particular, the method of mind-mapping my thinking process makes it easy to go back and start over if I get lost in the middle of the process. I can also use the ideas that come to me in the middle of the process for other projects. I have also recently realized that this way of organizing my ideas when creating music for Dugo is very useful for creating derivative content, such as music videos, production story texts, and alternate mix versions.

以前からここのブログではどうやって様々なコンテンツを最速で大量に生み出して、それらを関連づけていくかというテーマで色々と書いてきましたが、ゲーム音楽制作時に取り入れたこういった手法もとても役に立っています。

I have written a lot in the past on this blog about how to create a large amount of different content as fast as possible and relate them to each other, and these methods that I adopted when creating game music have been very useful.

さて、OTAKONパネルの方は一時間半程の長丁場でしたが、今回は二人のモデレーターの方とのカジュアルな雑談を交えての進行だったので、たくさん集まっていただいたゲームファンの方々にも気軽に楽しんでもらえたのではないかと自負しています。そして最後に、MGS4のパネルで使用したシーンの音楽のリミックスとして今回のOTAKONのために制作したトラック"A Perfect Circle"をライブで演奏して締めくくりました。

The OTAKON panel lasted about an hour and a half, but I am proud to say that it was a casual chat with the two moderators, and I think that the many game fans who gathered for the panel were able to enjoy itl in a relaxed atmosphere. 

The panel concluded with a live performance of "A Perfect Circle," a remix of the music used in the MGS4 panel, which was created just for OTAKON 2022.



その2につづく

High Score 2019のKeynoteファイルとYouTube動画

メルボルンのゲームオーディオイベント High Score 2019で行った講演の際につかったKeynoteファイルをアップロードしましたので興味のある方はダウンロードしてご覧になってみて下さい。英語のプレゼンターノート(アンチョコ)も残してあります。

I have uploaded the Keynote file used during the lecture at the game audio event High Score 2019 in Melbourne, so if you are interested, please download it and have a look. I also left an English presenter note.

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当日の様子をまとめた動画もアップされています。

Level And Gain インタビュー(日本語訳)


10月のメルボルンでの講演に先駆けてオーストラリアのLevel And Gainというメディアからゲームコンポーザーとしての取材を受けました。こちらに日本語訳を掲載しておきますのでご覧になってみてください。

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Bayonetta composer Takahiro Izutani tells us how the game music industry has evolved


・ あなたはキャリアの中でいくつかの人気ゲームタイトルを担当していますが、今日の新しいゲームと2000年代中頃の作品とで作曲に関しての違いはなんだと思いますか?


一番大きな違いはデジタルオーディオやサンプリング音源の発展、進化です。2000年代中頃は現在に比べると一般的なゲームコンポーザーの制作環境はかなり貧弱でした。私の環境も同様でしたが、貧弱な制作環境ながらも、それをなんとか工夫していく過程でオリジナルなサウンドを作ることができたように思っています。


当時は誰もがハリウッドのコンポーザーの様なクォリティの高い楽曲を作るにはどうすればいいのかを模索していた時代で、私もその中のひとりでした。またYouTubeがまだなかった頃にはトップレベルのコンポーザーやレコーディングエンジニアが使ってる機材やソフトウェアの情報もなかなか入手できず、皆が試行錯誤していましたが、逆にその状況が日本のゲーム音楽をおもしろいものにしていた側面もあると思います。


現代はYouTubeやSNSによる情報の共有とソフトウェアやサンプル音源の低価格化によってプロ、アマチュアを問わずコンポーザーの使用するツールは均質化していて、それだけではコンポーザーごとの音楽の差別化につながらなくなっています。その結果ハリウッドのトップレベルのコンポーザーを中心に増々物量的に巨大な制作システムを構築して他のコンポーザーとの差別化をはかる風潮がうまれています。つまりだれでもある程度のクォリティの音楽を作れるようになったので、持っている選択肢の多さや、制作環境と高級機材への投資額で抜きん出ようとしているということです。


私がゲームコンポーザーとして活動するようになったのは2006年からですが、その頃からすでにゲーム音楽の制作方法がハリウッドの映画音楽の制作プロセスを後追いする傾向がずっと続いていると思います。


他方、この7,8年ほどはビデオゲーム創世記のゲーム音楽を再評価する動きが出てきたのが印象的です。これは子供のころに影響を受けたゲーマーがいま成長してゲーム業界で活躍するようになったからという側面と、上記で述べた物量主義型のハリウッド的音楽制作へのアンチテーゼの側面があると思います。また日本のゲーム創世記は音楽制作に関して発音数、サウンドのビットレートの厳しい限界があり、その厳しい状況ゆえに飾りを排除したピュアかつコアな楽曲が多く生まれ、その価値が改めて現在見直されているとも感じます。


私が提携しているBrave Wave Productionsではそういったレジェンドゲームのコンポーザーの作品のリリースや活動のサポートをしていますが、日に日にオーディエンスの反響は大きくなっていると実感します。


私のゲームコンポーザーとしての立場はどちらの部類にも属さないのですが、今は自身の作品をリリースすることによって新しいマーケットの開拓をめざしているところです。2017年にBrave Waveからリリースした私のソロプロジェクトDugoのアルバムLingua Francaがきっかけでヨーロッパのメディアや音楽出版社と新しい事業契約を結ぶことになりました。


・ あなたはいくつかのプロジェクトにおいて日本のゲームコンポーザーとコラボレートしてきていますが、コラボレーションでの作曲についてどう考えていますか?またアプローチを決定する際にどうやって合意に至りますか?


私は元々はアヴァンギャルド系ロックバンドのギタリストで、エレクトロニックミュージックのクリエイターでもあるので、仕事の依頼に関しては「普通のゲームコンポーザーにはないsomething else」を求められることが多いのですが、コラボレーションワークの際もその様な場合が多いです。例えばオーソドックスなオーケストレーションサウンドを作るコンポーザーの曲に、私が電子音や風変わりで複雑なリズムを加えたり、斬新なアプローチのミックスをしたりという形です。私は元々それほどコラボレーションに積極的なタイプの人間ではないのですが、楽曲に何かが足りないと他のコンポーザーやプロデューサーが感じたときに私に声がかかるので、それはとても嬉しいですし充実感と責任を感じます。


「どういうアプローチをとるかについての同意」に関して、私は常にゲーム自体に必要だと思われる楽曲の方向性、サウンドを追求するので、その点で同意できれば問題はありません。まれにですが、具体的な方向性が見えず、特定のイメージもなく、ただ漠然と時間を埋めるだけの楽曲やサウンドを作るようなディレクションをされることもあるので、そういう時にはアプローチの最終的な同意にいたるまでに時間がかかることがあります。


・ Bayonettaシリーズでは大変多くのコンポーザーがプロジェクトに関わっていますが、これはどういう経緯からなのでしょうか?


当時PlatinumGamesの社内コンポーザーチームにカットシーンの作曲に必要なフィルムスコアリングの豊富な知識と経験を持つ人材が少なかったのがその理由の一つだと聞いています。私はBayonetta、Bayonetta2と、ともに多くのカットシーンでの音楽制作を担当していますが、どういった音楽をつけるかが特に難しいと思われるシーンが集中的に私に割り振られました。これは私には量をこなすよりも重要かつ難しいシーンに集中的にリソースをつぎ込んで欲しいという狙いがあったからとのことです。


PlatinumGamesから送られてきた資料には各シーンのカットごとに分と秒を指定して音楽でどういうことを表現してほしいかが詳細に書かれていました。また使用楽器の指定もあり、エレキギターの使用は基本的に禁止でした。これは女性メインキャラクターのイメージにエレキギターのサウンドがマッチしないからというのが理由だったのですが、エレキギターを自分のシグネイチャーサウンドとしている私にとってはちょっと厳しい状況でした。


・ Metal Gear Solidシリーズでの作曲の経験について述べていただけますか?


当時Konamiの社内コンポーザーだった日比野則彦氏はKonamiを退社して自分の制作会社を設立し、その会社によって組織する数人のコンポーザーチームでMetal Gearシリーズの音楽制作を担当することを計画しており、そのチームのメンバーとして数千人もの応募から選ばれた3人のコンポーザーのうちのひとりが私でした。そしてこれが私がゲーム業界に関わることになったきっかけでもあります。


Metal GearシリーズにはKonamiの非常に優秀な社内コンポーザーの方達やHarry Gregson-Williams氏も参加しており、部分的にではありましたが彼らの制作プロセスを知ることができましたし、日比野氏による的確なディレクションによって私はゲーム音楽制作の基本的なスキルを得ることができました。私は最初に関わったMetal Gear Solid Potable OPSにおいていきなりボスステージの曲を数曲担当することになったのですが、日比野氏のディレクション無しでは私には不可能な仕事だったと思います。


そしてこの頃のMetal Gearの制作チームは私の様な新参者を受け入れてプロジェクトを活性化しようというチャレンジ精神に溢れていたと思います。今回私が講演者として参加するメルボルンのHigh Score 2019ではMGS4での私の仕事をマテリアルのひとつとして取り上げます。


・ コンポーザーとしてMetal Gear Solidの制作上において小島秀夫監督と直接関わる機会はありましたか?


残念ながら小島監督と直接関わる機会はありませんでした。Metal Gearの制作チームにはいくつかの階層があり、サウンドチームを統括していたKonamiのサウンドディレクターの方が基本的には小島監督との日常的なコミュニケーションを行う形になっていたようです。


MGS4の制作時、小島氏はメキシコ映画の「Crónicas」という作品の音楽をとても気に入っていたとのことだったのですが、まさに当時私もこの映画を見て、コンポーザーのAntonio Pintoの大ファンになったばかりだったので小島氏の音楽面での情報感度の高さに驚いたことを覚えています。外部コンポーザーとして制作することはある意味プロジェクトから部分的に切り離されている側面もありますが、Konamiのサウンドチームとしては社外コンポーザーをチームに巻き込むことによってプロジェクト内部の政治的な確執にとらわれず自由に制作ができるポジションを作るという狙いがあったようです。


・ 音楽作りの際のあなたの個人的な創作プロセスを教えていただけますか?(いつ作り始めるか、どんなテクノロジーを使うかなど)


私はもともとはポップミュージックのリミックス制作をメインにして日本の音楽業界に関わっていたので、以前はまずリズムループやシンセのコードループを作り、ループを延々と再生しながら頭に浮かぶアイデアを加えていくという作曲プロセスをとっていましたが、いまでは普段から日常的にメロディやコードが頭に浮かんだときにサウンドメモを録音しておきアイデアのストックにしています。


自宅には音響的な改築を施工したプライベートスタジオがあり、そこではそれらのアイデアからメロディやコードを発展させていき、シンプルなピアノの音で全てのノートを書いて曲の基本的構造を完成させます。その後個別のトラックの音を様々な楽器の音に差し替えていきます。


私も他のコンポーザー同様に一応膨大な量のコンピュータソフトウェア、プラグイン、サンプル音源を所有していますが、もはや特殊な制作プロセスや特殊なテクノロジーなどはなく、アイデアの源泉となる自分の脳をどうやって活性化させるかということが私の日常的な課題です。そのために食事、睡眠、運動の質に常に配慮し、世界の最新医学の情報をリサーチして肉体的、精神的なパフォーマンスが最大になるように試行錯誤しています。


強いて楽器や機材の面で私が重要視しているものをあげるとすれば、モニタースピーカーのBarefoot Sound MicroMain27とアコースティックギターのGibson J-50です。この2つの機材が私の音楽制作にとってインスピレーションを得るための核となるような重要な役割を担っています。


・ Bayonetta 3の制作が発表されましたが、私達はあなたが新作にコンポーザーとして参加することを期待してよいですか?


これはNDA (Non-disclosure agreement : 秘密保持契約書)に関わることなので私の口からはイエスともノーとも言えません(笑) ですがBayonetta3が素晴らしい作品になることを私もとても期待しています!

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High Score 2019 expands to a two-day event exploring music in games