Takahiro Izutani

2020年9月

ミュージックビデオを安く簡単に作るには?


今回は"Recluse" EPのTrailer#3の紹介とともにどうやってこのミュージックビデオを作っているかについて書いていこうと思います。

昨今では音楽を消費するメディアはCDはおろか最早ダウンロードサービスですらなくSpotifyなどのストリーミングサービスや動画メディアがほとんどになっているわけです。その中でもYouTubeやInstagramでコンテンツが消費されている割合は圧倒的に大きく、もし自分の様な無名アーティストが何かしらのきっかけで多くの人にその存在を知ってもらおうとしたらこれを無視することは到底できません。それと同時にこの場でどう存在感を作れるかが唯一のチャンスでもあるわけです。

ストリーミングサービスではサービス内にアカウントを持っていなくてはそもそも楽曲のページにたどり着けないというわずかな煩わしさが存在するため、アカウントが無くてもリンクからすぐに誰でも曲にたどり着けるという意味でYouTubeに楽曲をアップロードしておくというのはアウェアネスを高めるために極めて初歩的かつ重要です。
また広告のコンバージョンレイトに関して各種ソーシャルメディアが占める割合を見るとザックリとではありますが直近の指標ではInstagramが60%と圧倒的に大きいものがあり次いでFacebook、Twitterなどとなっています。

そんなわけで長年億劫で手つかずだった動画制作に着手してみようと思いたちました。ミュージックビデオの方向性やクォリティは最近は本当に様々あり自分と同じ様な極小規模で活動している様なアーティストでも何らかの動画を制作しているケースがほとんどです。にもかかわらずかなり有名なエレクトロニック・ミュージック系のアーティストでもMVはフッテージのつなぎ合わせ、もしくはエフェクト映像を音に貼っただけの様なものでよしとしているケースもあるので、注力してそれなりにちゃんとしたものを作れば抜きん出るためのきっかけにもなり得そうです。

ここからは自分が動画制作に使っているツールを紹介していきます。

Insta360 ONE X

自分で動画素材を撮りためていくのにまずはこのカメラが圧倒的に役立っています。これは撮影ポイントを中心に360度、周りの風景全てを撮影できるカメラなのですが、撮影されたムービーファイルを専用のソフトに読み込むとどの方向に視点を向けるかを指定できるので、その視点を動かすだけでも動きのある映像として落とし込むことができるんです。例えばこのTrailer#3の最後の部分で自分が写っている場面では下から上空と一緒に自分を写しているだけなのですが、後処理で視点を動かすことによって回転して見えるように2Dのムービーに落とし込んでいます。このカメラではまだまだ工夫次第によって色んな面白い映像が撮れる可能性がありそうです。専用アプリ内にはソーシャルメディア機能がついていて面白い動画をアップし合うコミュニティの様なものも形成されています。またInstagramのInsta360アカウントにもそれらからさらにキュレートされた独創的な映像がアップされていてここは特に自分も参考にしています。

iMovie
今回最初に制作した2つのトレーラーはInsta360で撮影した素材を使ってiMovieで簡単に編集しているだけです。動画制作ソフトに手を出すことへの億劫さからどうしても逃れられず、どうにか一番操作が簡単なこのソフトから入ってみた次第です。細かい色味の調整や複雑なレイヤーを使うのでなければiMovieだけでも充分だと思います

DaVinci Resolve 16
davinci.jpg
今回のTrailer#3からはもう少し微調整ができる編集ソフトを使ってみたいと思い、このソフトを使い始めています。このDaVinci ResolveはAdobe Premire ProやApple Final Cut Proなどと比べるとまだ知名度は低いですがそれもそのはずで十年ほど前はスタンドアローン機として3000万円ほどで販売されていたものなんです。それが数年まえからLite版は無料で使えることになり、しかも使用できる機能の9割近くは有料版(4万円ほど)と同じという素晴らしい仕様になっています。色味の微調整に関しては自分はこだわりを持ってやっていきたいと考えているので、やはりこのソフトから入っていくのが得策だろうと思った次第です。何より無料ですしね。かつては億劫でなかなか始められなかった動画制作もいまや多くのYouTubeのチュートリアル動画のおかげで特にストレスなくはじめられました。音楽制作に比べると動画制作のチュートリアルは日本語で解説されているものが多いようです。

FreshLUTs
Screen Shot 3.jpg
実際に制作を始めると映像のカラーグレーディングが動画制作の楽しいポイントでInstagramのフィルターや音楽制作のプラグインと同様に最初は動画用の色味加工のフィルターが欲しくなります。このFreshLUTsはカラーコレクション用のLUT(look up table)と呼ばれるファイルを共有するサービスで、ここも無料でダウンロードして使うことができます。

Artgrid
Screen Shot.jpg
ここはフッテージのサブスクリプションサービスで高品質かつ高画質の映像が最低月額20ドル程度でダウンロードし放題で使えます。他のフッテージサービスではまだ個別映像ごとの販売のところが多く、しかも4K映像だとひとつだけの購入で数百ドルかかるようなところもあります。YouTubeやInstagramにアップするためのMV用の用途としてなら、ここのサービスで充分かつ最適かと思います。自分の場合は今後も短いものから長いものまで様々なMVを作っていこうと考えているので年間で300ドル程度のサブスクリプションフィーはとても割安に思えます。あとこのサイト内では動画を検索する時にテーマごとに探せたり、関連する動画を薦めてくれたりと、複数の動画を繋いでストーリーを作っていくための提案までしてくれるのがとても便利です。まだ比較的新しいサービスなのでフッテージの総量は少なめですが、今後増えていけばますます便利なサービスに発展していくと思います。

Artgridの登録先リンクを貼っておきます。このリンクから登録すると2ヶ月分が無料になるとのことです。


Fiverr
最後にこちらはクラウドソーシングサービスのサイトです。この中には様々なクリエイターが登録していて、動画編集の依頼はもちろんMV制作そのものを発注することもできるうえに、中にはフッテージ編集の簡単な作業だけでよいならわずか数十ドルでMVを作ることも可能です。自分はいまのところ外部発注することは考えていませんが、今後動画制作にハマってきたら単純作業の部分だけをアウトソーシングするのは便利で効率的かもしれません。ちなみにFiverrには音楽制作のクリエイターも多数登録していて、作曲編曲、作詞、ミックス、マスタリングなどありとあらゆる音楽制作の行程に関する作業をアウトソーシングすることもできます。

と、まあこんな感じでついに動画制作に手を出してしまいましたがどうなることやら(^_^;) 制作のプロセスやオンライン上に存在するサービスの質や仕組みなどはほとんど音楽制作のそれと変わらないのでいまのところスムーズに習得できているように思えます。

それと今後は音楽単体だけでのコンテンツとしての訴求力ではなかなか抜きん出るのは難しく、ますます総合的なコンテンツ力と発信力が問われるようになってくると思います。これまで自分が何気なく音楽を聴くことだけで楽しんできたエレクトロニック・ミュージック系のアーティストでも、一旦マーケティング、アウェアネス的な戦略の視点でウォッチしてみると、それがかなり有名なアーティストであっても実に色んな形、色んなプラットフォームでコンテンツ制作やサービスを展開していて、自らのブランドを確立するための活動に相当なリソースを割いていることが見えてきます。ですので自分もこのサイトに来ていただいた方に少しでもお役に立てそうな情報があればできるだけ発信していこうと思います。


Here is the "Recluse" Pre-Save link on Spotify
最後にこちらはRecluseをSpotify上で事前にセーブすることができるリンクになっています。クリックしていただけたら大変うれしいです。
よろしくお願い致します。(^_^;)

"Recluse" EP Trailer #2と今後の活動についてのご報告


"Recluse" EP Trailer #2 by Dugo
Dugo is going to be releasing an EP with 4 new tracks, called "Recluse"on October 9th

Here is the "Recluse" Pre-Save link on Spotify
こちらはRecluseをSpotify上で事前にセーブすることができるリンクになっています。クリックしていただけたら大変うれしいです。よろしくお願い致します。


前回のNewsでお知らせした通りDugoの新作EP"Recluse"のリリースに向けて着々と準備を進めています。2017年のアルバムLingua Franca以降なかなか制作が軌道に乗らず活動が滞りがちだったのですが、今年の4月に自らがCOVID-19に感染したと思われ(断定しないのはPCR検査、抗体検査などを受けていないからですが、感染された方のブログや動画、海外の論文などで発表された詳細な情報による症状の推移、期間などがまさに自分のそれと当てはまっていました。)今後は自分の音楽活動で最もフォーカスしていきたい部分にもっと注力していかないといつか後悔するだろうと痛感したことが再開のきっかけになりました。

またCOVID絡みで言えば、今多くのアーティストがコンサート活動ができずにいるなか今後はコンテンツ制作力の価値が上がり、その需要も高まるだろうという傾向はある意味チャンスにもなり得るだろうと考えたことがもう一つの理由です。今回の"Recluse"EPに関しては全体としてはここ2年ほどの間に作り続けていた楽曲群のまとめですが、かなりの部分は自分の体調が回復した5月以降に作業したものになっています。EPという形をとったのは昨今のストリーミングサービスの趨勢においては、もはや10曲15曲がまとまって完成した後にアルバムとしてまとめてリリースするよりも数曲単位で頻繁にリリースしていくスタイルが主流になっているからです。CDなどのフィジカルでのリリースを考えなければなおさら合理的です。というわけでDugoも今後はコンスタントにEPやシングルのリリースをしていき、それらの集大成としてのアルバムリリースという形をメインの活動にしていこうと考えています。

そんなこともあってコンテンツ制作力の拡充という意味でRecluseのリリースに関しては初めてミュージックビデオの制作にも手を出しています。大規模な予算を組んで大掛かりなMVを作ることなどは当然できないのですが、まずは地道に自ら撮影した素材を自分で編集していく前提で先月8月から都内の色々な場所に出かけて普段趣味にしているジョギングを兼ねて走りながら素材を撮りためていき、いまのところリリース告知用に2本のトレーラーを作ってアップしました。こちらの活動においてもCOVIDの影響があり、どこに出向いても人出が少ないせいで撮影がしやすく、なかなかおもしろい風景が撮れています。

砂粒の様な個人での活動で何の後ろ盾もアーティストしての実績もない自分の様な人間でも昨今はDIYで全ての音楽制作を完結し、ミュージックビデオを作り、果ては昨今のインターネットサービスを駆使すればレーベル運営、マーケティング戦略と、それらを学ぶためのツールすらも10年前の数千分の一、もしくはフリーで運用することができる時代になりました。特にマーケティング戦略の作り方に関しては最近徹底的に研究していて、新しい情報を得るごとに目から鱗が落ちるような驚きを感じているので、今後もしその成果がでたらこちらもまとめてブログで報告してみようと考えています。