Takahiro Izutani

2023年4月

追悼:坂本龍一氏の楽曲を振り返ってみました。

教授がお隠れになったとのことですので、あらためて自分にとって重要な意味を持っていた教授の曲を振り返ってみました。

Happy End (Orchestral version)


これは中学生の時発売日に学校をサボってまでレコード店の開店時間にあわせて買いに行った"BGM"に収録されていたバージョンを聴いたのが最初でした。BGMはYMOがバカ売れして以降初のフルオリジナル・アルバムで奇妙なテレビCMもバンバン流されていて、誰もがソリッド・ステイト・サヴァイヴァーを超えるインテリかつヤンキーにもわかるポップなテクノミュージックを期待されている中リリースされた激コアなインダストリアルテクノのアルバムでした。この曲はその中でもひときわ異様なトラックで最初から最後までフランジャーがかかっていてなんだかわからず、聞きながらポカーンとしつつガッカリを通り越して怒りすら湧いたのを思い出します。実はこのバージョンは教授が中二病を発症して細野さんへのあてつけでそもそも素晴らしかった楽曲をグチャグチャにしたものでした。後に様々なアレンジで再発されたりライブで披露されましたが、自分はこのオーケストラバージョンを聴いて初めてこの曲の全貌を知り、救われたと同時に「今さら!」という感情を抑えきれなかったといういわくつきの曲です。

20210310 (from "12")


教授のラストアルバムより。日記のごとく思いつくままに晩年の記録として制作されたそうですが、どの曲もシンプルなサウンドとアレンジながら丁寧に創られていることが一聴してわかります。なかでもこのアルバム一曲目はアンビエント・ミュージックとしてのひとつの完成形、到達点とすら思えるもので、シンプルなストーリー性にも関わらず何度聴いても発見があります。

The Revenant Main Theme (from "The Revenant OST")

シェルタリング・スカイ系の教授の映画音楽の発展型ですが、The Revenantのサントラはどの曲も実に教授らしく、それでいて奇をてらうことなく作品性とクォリティを一段上に押し上げた様な出来になっています。個人的にはミックスの方向性がもっとワイドな定位で仕上がっていたらもっと聞き込みたいと思える作品でした。

Technopolis (from "Solid State Survivor")


自分はYMOといったらテクノポリス、YMOの教授といったらテクノポリスというくらいこの曲の持つレトロフューチャー的な世界観が大好きなのですが、実は教授本人は売れる曲を作るために筒美京平の曲を研究してピンクレディーのウォンテッドのカウンターとして作ったとのことです。よく比べて聴いてみると確かに曲展開やベースラインなど共通する部分が多々あります。手弾きのアルペジオフレーズとブレイクで解決するところのコード進行のかっこよさは教授が天才であることを確信させてくれます。

Difference (from "B2-Unit")

デニス・ボーヴェルによるミックスやXTCのアンディ・パートリッジが参加したということで有名なアルバムの一曲目です。リアルタイムで聴いた時はなんともつまらんトラックだなと全く興味がわかなかったのですが、後にXTCを知り「Go 2」を聴いてこのアルバムのコンセプトを理解したり、またさらにその後に90年代にテクノが再ブームになった時にリズムとミックスの観点から再評価するきっかけになったりと、シンプルなサウンドながら奥の深い音楽性でした。ちなみにこの曲のドラムは教授本人が叩いているとか。BGMのCueでも教授は自分でドラムを叩いてライブでも披露していましたが、この曲を叩いてる教授の姿を見てみたかったですね。