Takahiro Izutani

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Happy Familyの新作「4037」がリリースされました。


一年半近くかけて進めてきたHappy Familyの新作「4037」がようやく無事リリースとなりました。

実はこの話は元々、Cuneiform RecordsのSteve Feigenbaum氏から、USのノースカロライナで開催されているProgDayという野外フェスがレーベル40周年の記念イベントとして行われ、そのスペシャルゲストとしてHappy Familyを招待したいという申し出を受けたことが発端でした。しかし、もしフェスが天候の事情で中止になれば、他の代替となるイベントがなくなるというリスクを懸念し、ライブの話は自重。その代わりにバンド側から「だったらCuneiform Recordsの40周年を祝う新作を作るよ」と提案したのが始まりです。

Happy Familyは2015年のヨーロッパツアー以降、ある意味2013年の再結成後の3年間でやりきった感があり、燃え尽き症候群になってしまっていました。それ以降、メンバー同士もほとんど会うことがなくなってしまっていたのですが、今回のプロジェクトをきっかけに再び集まることが増え、バンドが復活できたのもSteve氏のおかげです。

そしてリードトラックの「Pygmalion」は、10年前、自分の曲のディテールの表現について他のバンドメンバーに対して厳しくしすぎてしまった結果、彼らを燃え尽きさせてしまったことへの自分なりの償いを込めたタイトルでもあります。とはいえ、今回もメンバーにとってはかなり注文が厳しい曲だったようですが......。

とにもかくにも、Happy Family史上初のミュージックビデオとなった「Pygmalion」をぜひ楽しんでいただければ幸いです。

Let It Roll 2024

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プラハで毎年開催されている世界最大のドラムンベースフェスティバル「Let It Roll 2024」に行ってきました。日本ではドラムンベースのシーンはあまり盛り上がっていないため、プラハまで行ってようやく大音量の重低音と高速ブレイクビーツの快感に浸ることができ貴重な体験となりました。

会場はプラハ市内から車で約1時間の距離にあるMiloviceと呼ばれる場所の空港跡地で、広大な土地のほとんどがフェスのイベントスペースになっています。入り口からメインステージまで歩いて約3キロほどの距離がありました。ステージは4つのメインステージを中心に、そのほかにも至るところに小さなDJブースやフロアがあり、どこからでもドラムンベースの音楽が流れてきます。その時々の気分やDJに合わせて、音楽を楽しみながら会場を歩き回るといった感じでした。

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自分の場合いろいろなステージを移動しながら楽しんでいたため、iPhoneの万歩計を確認すると、一日の移動距離は4万4千歩、約41キロにもなっていました。来場者は20代30代と見られる若い人が多いのですが、映画「Mad Max」の様なファッションだったり、女性はほぼ半裸のようなコスチュームで踊っている人も多く非常に開放感があり、またとてもフレンドリーで気軽に声をかけあって話ができるような雰囲気でした。

ヨーロッパではオランダやドイツに突出した才能あるドラムンベースプロデューサーが多く、シーンが活性化しています。もともとはUKから発生した音楽ではありますが、特にオランダには大御所のNoisiaや今回Let It Rollに出演していたMefjus, Imanuなど、斬新で複雑かつ緻密なトラックを作るプロデューサーが多く、今のダンスミュージックシーンの中でも最先端を走っているのが、これらのオランダのドラムンベースプロデューサーたちの音楽です。

ドラムンベースの楽しさは複雑で独創的なビートに身体をどう合わせて踊るかという、感覚的な面でのチャレンジにあります。そのビートに合わせて自由に身体を動かすことで自分の創造性が活性化され、頭の中で新たな発想が生まれ、それが後のアウトプットに繋がっていく感覚があります。これが自分がドラムンベースを特に好きな理由です。

一番のお目当てだったCamo & Krooked & Mefjus

90sから活躍してるレジェンド、ED Rush

唯一のライブ演奏だったkimyan law

Netsky 聴きやすくポップで知名度も高いですが割と皆静観してる感じでした。

これも大御所のA.M.C。なんだかんだで一番踊りやすかったです。最終日の一番いい時間帯で実質的なトリです。

女性DJのMandidextrous。ロックっぽいトラックを多くプレイしていて、これもメチャクチャ踊れました。

若手のDisrupta。数小節ごとにトラックが変化する変わったスタイルで常に予想を裏切るおもしろいプレイでした。

Dugoのニューシングル"Embrace"がリリースされました。

約一年ぶりにDugoの新曲「Embrace」をリリースしました。歳を重ねるごとに自分の中の悪い完璧主義が強まっており、一曲を完成まで持っていけるスピードが落ちています(実は制作途中の膨大なストックがあります)もともとDugoはアコースティックギターのリフとブレイクビーツ、エレクトロニックなサウンドを融合させた音楽スタイルをコンセプトとして始めたプロジェクトですが、そういったことにばかりこだわっているとなかなか面白いものが生まれず、今後はもっと色々な形で自分の頭の中に浮かんだ音のスケッチのようなものを発信できるようにしていこうと考えています。

トレーラーのビデオに写っている自分は、昨年夏、日本最北端の島、利尻島の標高1700メートルの利尻山に登ったときの映像です。この時も新しい音楽のアイデアがなかなか浮かばず、ふと思い立って10日ほど、利尻島と礼文島にフィールドレコーディングの旅に出かけたときに録画した映像です。登り6時間、下り5時間の合計11時間に及ぶ登山時の記憶やイメージ、また実際に録音したフィールドレコーディングのサウンドも楽曲に含めながら、ようやく今の時期になって結実したという感じです。

以前のDugoに比べるとエレクトロニックなサウンドの比率が増え、また曲調もかなり明るくポジティブな感じになりました。こんな感じで自分が経験したことに対するその時々の記憶を楽曲にまとめていくのが楽しくなってきました。皆さんにも同様に楽しんでいただけたら幸いです。

P.S.
今回のブログの文章は全てiPhoneの音声入力で書き、ChatGPTで校正して作りました。作成時間数分ほど。今後の文章作成は全部これでいけそうです。

ホラーサウンド制作用の特殊楽器(Apprehension Engine)を導入しました。

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現在取り組んでいるプロジェクトでのサウンドメイキングのためにApprehension Engineと呼ばれる完全ハンドメイドのホラーサウンド生成楽器を導入しました。この楽器については昨年のGDCに参加した際にCalisto Protocolというホラーゲームの音楽制作で知られるコンポーザーチーム、Finishing Move Inc.のBrian Lee White氏にインタビューを行った際のブログに詳しく書きました。以来入手する機会をうかがってきており、今回ついに入手することができました。

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元々この楽器は映画「Cube」の音楽を担当したカナダの作曲家Mark Korven氏が考案したものですが、自分はネットを介してポーランドのビルダーと交渉して購入しました。中にはスプリングリヴァーブ、4個のピエゾピックアップと2台のプリアンプ、そしてギターにもピックアップがあり、このマシンから出せる全ての音はノイズレスのスーパークリーンな状態でアウトプットできます。また追加のピエゾを入力できるインプットも2箇所設置されています。演奏はヤスリで削ったスーパーボール、バイオリンの弓、E-Bow、音叉、スライドバーなどなど工夫次第で驚くほど多様なサウンドが作れます。現在、独自のサウンドを作り出すために積極的に実験を行っています。



まだまだ練習中ですが動画を撮ってみました。

サンレコフェス2023

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サウンド&レコーディング・マガジン主催のサンレコフェス2023に行ってきました。今回の注目イベントはSonyが開発した360 Virtual Mixing Environment(360VME)を直に体験できる特設ルームで、これは複数のスピーカーで構成された立体音響スタジオの音場を、独自の測定技術によりヘッドホンで正確に再現する技術です。一度スタジオで測定すると、立体音響制作に最適な環境をヘッドホンと360VMEソフトウェアでどこへでも持ち運ぶことが可能になるとのことです。

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早速受付をすませ、特設ルームで説明を受けながら測定をしていきます。ワイヤーが渦巻き上になった形状の小型マイクを耳に仕込み、まずはその状態で各スピーカーから個別にピンクノイズとスウィープ音を出して、その聞こえ方を測定していきます。そして次に今度がその上からヘッドフォンSONY MDR-MV1を装着して同様に測定します。各スピーカーからの再生は一回だけで、測定にかかった時間は装着まで入れても5分程度でした。

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そして今度はリファレンス用の音楽をスピーカーとヘッドフォンの両方から再生していきその違いを比べるのですが、正直自分の聴覚が麻痺してしまったのかと思うくらいに違いがわからなかったです。最初にヘッドフォンをした状態で音楽を再生された時のなんとも言えない違和感、ヘッドフォンで聴いているのに完全にサラウンドで広い空間で聴いているかの様な錯覚は衝撃的でした。MDR-MV1が開放型のヘッドフォンというのもこの感覚を作るのにかなり大きく貢献していると思います。このあとMDR-MV1を普通の再生環境で視聴することもできたのですが、非常にバランスの良い、色付けのないヘッドフォンでした。悪く言ってしまうと特徴がないということになってしまうんですが、立体音響でのリスニングを前提とした製品ということでしょうね。

そのあとは「IK Multimedia × UNIVERSAL AUDIOで組む"手が届く"イマーシブ環境」というセミナーに参加しました。こちらはIK MultimediモニタースピーカーiLoud MTMを11本セットにしたImmersive Bundleと、イマーシブ用のモニターコントロール機能をアップデートで追加したUniversal Audio Apollo x16を併せて構築した環境で体験リスニングができ、またエンジニアのニラジ・カジャンチ氏によるお話も聞くことができました。ニラジさんのお話はレクチャーと言うより「いかにAtmosにハマっていったか」の雑談でメチャメチャおもしろく、あっという間に30分以上が過ぎてしまいました。自分が特に気になったポイントは

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・5.1に見向きもしなかったUSのエンジニア達が、最近は会う度にスピーカーの数を増やしている
・Atmosミックスの正式に依頼をされるようになるまでUSのエンジニアは5年間無償でAtmosミックスをクライアントにサプライズで聞かせ続けてきた。
・Atmosミックスされた作品を分析しまくる際に最重要なのは各スピーカーを個別にミュートできること。
・今はちょっと聞くだけでAtmos作品がヘッドフォンミックス、スピーカーミックスどちらなのか識別できるようになった。
・USではエンジニアが通常のステレオミックスに加えてAtmosミックスをあわせて納品するのがデフォルト化している。

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などなど、他にも興味深いお話がたくさんありました。セミナーのあとニラジさんと直接少しだけ歓談させていただき、その際にソニーの360VMEについてどう思われているかをお聞きしたのですが、ニラジさんにとってはイマーシブ環境はAtmos一択で、なぜならこの趨勢はかつてのビデオカセットのプラットフォーム競争の様なもので、現在音楽シーンに限って言えばDolby Atmos+Apple MusicでAtmosミックスがこれほどまでに手軽に楽しめる状況は圧倒的に強力だからだとのことでした。ニラジさんはすでに242曲ものAtmosミックスを手掛けているそうですが、かつての5.1サラウンドでは担当された曲は一曲だけしかないとのことです。お金をかけてわざわざ5.1のリスニング環境を作らないと楽しめない状況には未来はないと思ったんだそうです。