Takahiro Izutani

2019年9月

Level And Gain インタビュー(日本語訳)


10月のメルボルンでの講演に先駆けてオーストラリアのLevel And Gainというメディアからゲームコンポーザーとしての取材を受けました。こちらに日本語訳を掲載しておきますのでご覧になってみてください。

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Bayonetta composer Takahiro Izutani tells us how the game music industry has evolved


・ あなたはキャリアの中でいくつかの人気ゲームタイトルを担当していますが、今日の新しいゲームと2000年代中頃の作品とで作曲に関しての違いはなんだと思いますか?


一番大きな違いはデジタルオーディオやサンプリング音源の発展、進化です。2000年代中頃は現在に比べると一般的なゲームコンポーザーの制作環境はかなり貧弱でした。私の環境も同様でしたが、貧弱な制作環境ながらも、それをなんとか工夫していく過程でオリジナルなサウンドを作ることができたように思っています。


当時は誰もがハリウッドのコンポーザーの様なクォリティの高い楽曲を作るにはどうすればいいのかを模索していた時代で、私もその中のひとりでした。またYouTubeがまだなかった頃にはトップレベルのコンポーザーやレコーディングエンジニアが使ってる機材やソフトウェアの情報もなかなか入手できず、皆が試行錯誤していましたが、逆にその状況が日本のゲーム音楽をおもしろいものにしていた側面もあると思います。


現代はYouTubeやSNSによる情報の共有とソフトウェアやサンプル音源の低価格化によってプロ、アマチュアを問わずコンポーザーの使用するツールは均質化していて、それだけではコンポーザーごとの音楽の差別化につながらなくなっています。その結果ハリウッドのトップレベルのコンポーザーを中心に増々物量的に巨大な制作システムを構築して他のコンポーザーとの差別化をはかる風潮がうまれています。つまりだれでもある程度のクォリティの音楽を作れるようになったので、持っている選択肢の多さや、制作環境と高級機材への投資額で抜きん出ようとしているということです。


私がゲームコンポーザーとして活動するようになったのは2006年からですが、その頃からすでにゲーム音楽の制作方法がハリウッドの映画音楽の制作プロセスを後追いする傾向がずっと続いていると思います。


他方、この7,8年ほどはビデオゲーム創世記のゲーム音楽を再評価する動きが出てきたのが印象的です。これは子供のころに影響を受けたゲーマーがいま成長してゲーム業界で活躍するようになったからという側面と、上記で述べた物量主義型のハリウッド的音楽制作へのアンチテーゼの側面があると思います。また日本のゲーム創世記は音楽制作に関して発音数、サウンドのビットレートの厳しい限界があり、その厳しい状況ゆえに飾りを排除したピュアかつコアな楽曲が多く生まれ、その価値が改めて現在見直されているとも感じます。


私が提携しているBrave Wave Productionsではそういったレジェンドゲームのコンポーザーの作品のリリースや活動のサポートをしていますが、日に日にオーディエンスの反響は大きくなっていると実感します。


私のゲームコンポーザーとしての立場はどちらの部類にも属さないのですが、今は自身の作品をリリースすることによって新しいマーケットの開拓をめざしているところです。2017年にBrave Waveからリリースした私のソロプロジェクトDugoのアルバムLingua Francaがきっかけでヨーロッパのメディアや音楽出版社と新しい事業契約を結ぶことになりました。


・ あなたはいくつかのプロジェクトにおいて日本のゲームコンポーザーとコラボレートしてきていますが、コラボレーションでの作曲についてどう考えていますか?またアプローチを決定する際にどうやって合意に至りますか?


私は元々はアヴァンギャルド系ロックバンドのギタリストで、エレクトロニックミュージックのクリエイターでもあるので、仕事の依頼に関しては「普通のゲームコンポーザーにはないsomething else」を求められることが多いのですが、コラボレーションワークの際もその様な場合が多いです。例えばオーソドックスなオーケストレーションサウンドを作るコンポーザーの曲に、私が電子音や風変わりで複雑なリズムを加えたり、斬新なアプローチのミックスをしたりという形です。私は元々それほどコラボレーションに積極的なタイプの人間ではないのですが、楽曲に何かが足りないと他のコンポーザーやプロデューサーが感じたときに私に声がかかるので、それはとても嬉しいですし充実感と責任を感じます。


「どういうアプローチをとるかについての同意」に関して、私は常にゲーム自体に必要だと思われる楽曲の方向性、サウンドを追求するので、その点で同意できれば問題はありません。まれにですが、具体的な方向性が見えず、特定のイメージもなく、ただ漠然と時間を埋めるだけの楽曲やサウンドを作るようなディレクションをされることもあるので、そういう時にはアプローチの最終的な同意にいたるまでに時間がかかることがあります。


・ Bayonettaシリーズでは大変多くのコンポーザーがプロジェクトに関わっていますが、これはどういう経緯からなのでしょうか?


当時PlatinumGamesの社内コンポーザーチームにカットシーンの作曲に必要なフィルムスコアリングの豊富な知識と経験を持つ人材が少なかったのがその理由の一つだと聞いています。私はBayonetta、Bayonetta2と、ともに多くのカットシーンでの音楽制作を担当していますが、どういった音楽をつけるかが特に難しいと思われるシーンが集中的に私に割り振られました。これは私には量をこなすよりも重要かつ難しいシーンに集中的にリソースをつぎ込んで欲しいという狙いがあったからとのことです。


PlatinumGamesから送られてきた資料には各シーンのカットごとに分と秒を指定して音楽でどういうことを表現してほしいかが詳細に書かれていました。また使用楽器の指定もあり、エレキギターの使用は基本的に禁止でした。これは女性メインキャラクターのイメージにエレキギターのサウンドがマッチしないからというのが理由だったのですが、エレキギターを自分のシグネイチャーサウンドとしている私にとってはちょっと厳しい状況でした。


・ Metal Gear Solidシリーズでの作曲の経験について述べていただけますか?


当時Konamiの社内コンポーザーだった日比野則彦氏はKonamiを退社して自分の制作会社を設立し、その会社によって組織する数人のコンポーザーチームでMetal Gearシリーズの音楽制作を担当することを計画しており、そのチームのメンバーとして数千人もの応募から選ばれた3人のコンポーザーのうちのひとりが私でした。そしてこれが私がゲーム業界に関わることになったきっかけでもあります。


Metal GearシリーズにはKonamiの非常に優秀な社内コンポーザーの方達やHarry Gregson-Williams氏も参加しており、部分的にではありましたが彼らの制作プロセスを知ることができましたし、日比野氏による的確なディレクションによって私はゲーム音楽制作の基本的なスキルを得ることができました。私は最初に関わったMetal Gear Solid Potable OPSにおいていきなりボスステージの曲を数曲担当することになったのですが、日比野氏のディレクション無しでは私には不可能な仕事だったと思います。


そしてこの頃のMetal Gearの制作チームは私の様な新参者を受け入れてプロジェクトを活性化しようというチャレンジ精神に溢れていたと思います。今回私が講演者として参加するメルボルンのHigh Score 2019ではMGS4での私の仕事をマテリアルのひとつとして取り上げます。


・ コンポーザーとしてMetal Gear Solidの制作上において小島秀夫監督と直接関わる機会はありましたか?


残念ながら小島監督と直接関わる機会はありませんでした。Metal Gearの制作チームにはいくつかの階層があり、サウンドチームを統括していたKonamiのサウンドディレクターの方が基本的には小島監督との日常的なコミュニケーションを行う形になっていたようです。


MGS4の制作時、小島氏はメキシコ映画の「Crónicas」という作品の音楽をとても気に入っていたとのことだったのですが、まさに当時私もこの映画を見て、コンポーザーのAntonio Pintoの大ファンになったばかりだったので小島氏の音楽面での情報感度の高さに驚いたことを覚えています。外部コンポーザーとして制作することはある意味プロジェクトから部分的に切り離されている側面もありますが、Konamiのサウンドチームとしては社外コンポーザーをチームに巻き込むことによってプロジェクト内部の政治的な確執にとらわれず自由に制作ができるポジションを作るという狙いがあったようです。


・ 音楽作りの際のあなたの個人的な創作プロセスを教えていただけますか?(いつ作り始めるか、どんなテクノロジーを使うかなど)


私はもともとはポップミュージックのリミックス制作をメインにして日本の音楽業界に関わっていたので、以前はまずリズムループやシンセのコードループを作り、ループを延々と再生しながら頭に浮かぶアイデアを加えていくという作曲プロセスをとっていましたが、いまでは普段から日常的にメロディやコードが頭に浮かんだときにサウンドメモを録音しておきアイデアのストックにしています。


自宅には音響的な改築を施工したプライベートスタジオがあり、そこではそれらのアイデアからメロディやコードを発展させていき、シンプルなピアノの音で全てのノートを書いて曲の基本的構造を完成させます。その後個別のトラックの音を様々な楽器の音に差し替えていきます。


私も他のコンポーザー同様に一応膨大な量のコンピュータソフトウェア、プラグイン、サンプル音源を所有していますが、もはや特殊な制作プロセスや特殊なテクノロジーなどはなく、アイデアの源泉となる自分の脳をどうやって活性化させるかということが私の日常的な課題です。そのために食事、睡眠、運動の質に常に配慮し、世界の最新医学の情報をリサーチして肉体的、精神的なパフォーマンスが最大になるように試行錯誤しています。


強いて楽器や機材の面で私が重要視しているものをあげるとすれば、モニタースピーカーのBarefoot Sound MicroMain27とアコースティックギターのGibson J-50です。この2つの機材が私の音楽制作にとってインスピレーションを得るための核となるような重要な役割を担っています。


・ Bayonetta 3の制作が発表されましたが、私達はあなたが新作にコンポーザーとして参加することを期待してよいですか?


これはNDA (Non-disclosure agreement : 秘密保持契約書)に関わることなので私の口からはイエスともノーとも言えません(笑) ですがBayonetta3が素晴らしい作品になることを私もとても期待しています!

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High Score 2019 expands to a two-day event exploring music in games

モニタリング環境をアップデート。Updated monitoring environment(2019/09/04 追記)

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Dugoのアルバム制作が遅れながらもようやく終盤にさしかかってきたので、ここでより正確なミックスチェックの環境を作ってみたいと思いメインのモニタースピーカーとして新たにBarefoot Sound Micromain 27を、サブとしてKSdigital C5-Coaxを導入してみました。自分でミックスまでやって完結するプロジェクトの場合にいつも悩みになっていたのが低音の処理でした。散々綿密にチェックしたつもりでもマスタリングスタジオにいって確認すると自宅スタジオでは見つけられなかった低音のピークがわかったりすることがあったからです。ラージモニターでないと把握できないような低音域の状況を、ミッドフィールドクラスなのにもかかわらずこのBarefootのスピーカーではかなり正確にチェックできます。しかもかなり小さな音量で聴いても帯域のバランスが変わらないので作業スペースの防音や吸音をさほど気にしなくても十分その機能の恩恵が受けられるのが素晴らしいです。

新しいモニター環境になったので慣れるために色々な曲をリファレンスで聴いてみましたが、今までに何百回ときいてきたような曲でも全く異なる印象に変わるものもありました。うまく説明できないんですが一般的なモニタースピーカーの上位互換として機能するチェックマシンの様な感じです。本質的にバランスの良いミックスのものは以前と同じ様に聴けるんですが、突出した部分があったりバランスのおかしいものに関してはそれまでは気が付かなかった問題点をハッキリと提示してくれます。それと30hz近辺の帯域で何が起こっているのかは一般的なニアフィールドのモニターではほとんど確認できてないんだなということが良くわかりました。

また色々な曲をリファレンスで聴いているとその辺りの超低域でミックスの工夫を凝らしている曲は全体としても素晴らしいミックスになっている曲がとても多いです。特に最近気に入っているAdele「25」とJustin Bieber「Purpose」 は音の全体像の作り方のアイデアとテクニックの素晴らしさを確認でき、あらためて得られるものが多々ありました。この2枚はまさに「2016年の最新の音」と言うにふさわしい驚異的な作品だと思います。(リリースされたのは去年でしたっけ?)

また今回DAコンバータのLavry DA11からのケーブルもいくつか試してみた後に今まで使用していたBelden 8412から今回はGotham GAC-4/1にしてみました。これまではさほど気になっていなかったケーブルごとの音質の差も今はかなりはっきりとわかってしまいます。様々な楽曲をリファレンスする際に8412ではかなり下の帯域で突然持ち上がるピークがあってそこだけが分離したように聞こえてしまうということがありました。以前にギターのケーブルで試した際にもこの感じが肌にあわずに止めたことがあります。Gothamケーブルだとローミッドからサブベースまでが素直に繋がっているように聞こえます。

KSdigitalの方は迷った時の確認用のサブとしての用途です。長いこと同軸のTannoy Precisionををメインにしてきたので、同軸のニアフィールドで比較的新しい製品の中からこれを選んでみました。こちらもスピーカーのサイズの割にはかなりワイドレンジで奥行きもよく見えます。Barefootで大きな全体像を確認してKSDigitalでもっと近寄った状況での音像を確認する感じです。ただこちらはなぜか電源を入れてからしばらくは低音の出方が暴れて落ち着かないのでちょっとまだ戸惑っていますw まだまだどちらとも設置の仕方から試行錯誤中ですが今のところとてもいい感触がつかめています

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スピーカー両サイドにサブウーファーがあり、全部で5ドライブユニットという個性的なコンセプトです

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スピーカー口径5インチながらかなりワイドレンジです。

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両機種とも国内電圧向けのローカライズがされていないので117vに変換するステップアップトランスのCSE ST-500もついでに組み込んでみました。


Barefoot Sound's Masters Of The Craft

2019/09/04 追記
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先日、サブのモニタースピーカーをNeumann KH 80 DSPに変えました。KS Digitalの高域のクリアさと解像度は気に入っていたのですがローだけが分離した様な聞こえ方になってリファレンスとしては迷ってしまうケースがあったためです。

Neumann KH 80 DSPは専用のiPadアプリNeumann Controlからネットワーク経由でスピーカーの設定を細かくコンフィギュレーションできるのが最大ので利点です。また実際に使用してみると周波数帯域ごとのクロスオーバーがとてもスムースに繋がっているためモニターとしてとてもニュートラルなリファレンスができます。メインモニターのBarefootと比べてみると明らかにローミッド(ちょうどベースの音域の中でモワモワしやすい帯域)が認識しやすいです。というか、もしかしたらBarefootは超低域のモニタリングを圧倒的な精度でできる反面、そこより少し上の帯域が沈んでる様にも聞こえることに気が付きました。

やはりモニタースピーカーというものはただハイエンドのものを一択で使えばいいというものではなく異なる評価基準のもとに色々使うことが必要だとあらためて思いました。

The other day, I changed the sub monitor speaker to Neumann KH 80 DSP. I liked the clearness and resolution of KS Digital's high frequencies, but there was a case where only the low sound was heard separated and the reference was lost. The advantage of the Neumann KH 80 DSP is that you can finely configure the speaker settings via the network from the dedicated iPad app Neumann Control. Also, when actually used, the crossover for each frequency band is connected very smoothly, so you can make a very neutral reference as a monitor. Compared with Barefoot as the main monitor, it is clear that the low mid (the band that is easy to mow in the bass range) is easy to recognize. On the other hand, Barefoot can do super-low frequency monitoring with overwhelming accuracy, but I noticed that it sounds like the band above it is sinking. After all, I thought again that monitor speakers are not just high-end ones, but they need to be used under different evaluation standards.

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このNeumann KH 80 DSPですが、コストパフォマンスを考えたら圧倒的に買いです。音量を絞っていっても全体の音像の形が変わらないので、自分の場合は同様の聞き方ができるメインモニターのBarefootと併用しやすいですし、Barefootは奥行きが見えすぎる上に音像のエリアが広すぎるのに対して、もっと近くて小さい音像で聞きたい時にKH80は大変重宝しています。

それと高域から低域までのバランスがとても良いので今のところは周波数に関するサージカルな使い方のときはNeumann。シビアな定位と奥行きの判断はBarefootという使い分けにしています。前述のNeumann Controlに関しては今年中に専用の環境測定マイクキットがNeumannから発売されるとのことなので増々モニタリングの精度があがるのではないかと期待しています。

This Neumann KH 80 DSP is overwhelming if you consider cost performance. Even if the volume is turned down, the shape of the entire sound image does not change, so it is easy to use it together with Barefoot, which can listen in the same way. The KH80 is very useful when you want to hear a closer and smaller sound image. The balance from the high range to the low range is very good, so for now it's Neumann when using surgically about frequency. Judgment and depth of severe localization are used properly as Barefoot. With regard to the Neumann Control, a special environmental measurement microphone kit will be released by Neumann later this year, so we expect that the accuracy of monitoring will increase further.

ベルリン郊外のクロイツベルクのスタジオでの検証動画。クリエイターが複数で共同で活用してるスタジオのようです。クロイツベルクは東京でいうと中目黒、吉祥寺みたいな場所ですね。中規模のクラブやギャラリーなども多いエリアでNative Instruments本社もここにあります。

Verification video in a studio in Kreuzberg, Berlin. It seems to be a studio that creators use together. Kreuzberg is a place like Nakameguro or Kichijoji in Tokyo. There are many medium-sized clubs and galleries, and the Native Instruments headquarters is nearby.

こちらはNeumann Controlを使ってのコンフィギュレーションの説明動画ですが、他のモニタースピーカーを使ってるひとでもこの動画は必見です。自分も実際にやってみましたが、今までのスピーカーの設置に関しての自分の認識の甘さを痛感しました。LRの両スピーカーとリスナーの距離が正三角形になるようにすること、正確な角度、スピーカーから部屋の壁までの距離など、細かい要素をシビアに追い込んでいくことによって劇的にモリタリング精度が改善することを実感しました。

This video is for explaining the configuration using Neumann Control, but this video is a must-see for anyone using other monitor speakers, too. I actually tried it, but I realized a lack of my understanding about the importance of the way of installation of the speakers so far. The accuracy of the mortaring is dramatically improved by making the LR speakers and listeners have a regular triangle distance, precise angles, and the appropriate distance from the speakers to the room walls.