Takahiro Izutani

NFTはじめました。

NFTマーケットプレイスの最大手、OpenSeaにてDugoのNFT作品の販売をはじめました。

最初の作品はPrism Remix Collectionという3トラックのセルフリミックスです。Prismというトラックは昨年、緊急事態宣言下に京都の龍安寺金閣寺を訪れた時の体験を元に制作したもので、Dugoのここ一年半の間にリリースされたものの中で最もSpotifyで再生されているものです。今回はこのPrismのテーマとなっている旋律を元にそのバリエーションをリミックスとして制作し、さらにNFTコレクションとしています。

さてその前にNFTとはなんぞやと思われる方、聞いたことはあるけど具体的にはよくわからないという方も多いかと思います。一般的な語義、定義としてはNon-fungible tokenの略で(非代替性トークン)ということですが、要するにブロックチェーンの技術を使うことでデジタルデータの不正なコピーや改ざんができなくなり、データのトレーサビリティも格段に上がったことで、その唯一性が担保されたことにより、物理的な芸術作品などと同等に扱って売買できるようになったデジタルアートなどの総称、ということになります(あってるかな?)

一般的にはジャック・ドーシーのツイートが3億円で売れただの、子供が書いた絵が160万ドルで売れただの、一攫千金的な投機ツールだと見られがちですが、自分はもっと芸術作品にとって本質的に重要な価値と可能性を内包しているものだと考えています。

以前に現代美術家の村上隆さんの著作「芸術起業論」を読んでの感想を本ブログに書いたのですが、その中で語られていたテーマに「芸術のコンテキストに沿っていかに作品のストーリーを組み込むか」というものがありました。例えばアンディ・ウォーホルの「キャンベルスープの缶」はただのスープ缶を作品とすることで当時の抽象主義をアンチテーゼとして揶揄した事がコンセプトの骨子だった様に、NFTも作品は単なるデジタルデータであっても、そこにどんなコンテキストとストーリーを紐付けるかで作品の必然性と価値が決まってくるものです。そしてその思想的な価値やアイデアに対しての共感の証として作品を購入することが購入者の自己顕示欲を満たすものでもあると思います。物理の実体が存在しないデジタルデータの作品であればそれだけコンテキストとストーリー性をいかに作品に色濃く反映させるかが重要になります。今回NFTを始めた一番の理由は自分の創作活動において、その部分にさらに注力していくいい機会になると考えたからです。

かつて、巷では意外なくらい多くのグループ名やユニット名、曲名までもが単なる言葉遊びや語感の響きの面白さで安易につけられていることに違和感を感じていた自分はユニット名に関してかなり真剣に考え、重層的な意味付けを与えながらDugoと名付けました。また曲名とそれに紐づく表現方法についても常にユニークであるように試行錯誤する時間を多くとっています。NFTというフォーマットはそんな自分にとって作品のコンセプト作りをより深く考える必要にせまられるという点でとてもチャレンジのしがいのある新しい場所だと感じています。

他のアーティストの例などをあげると、自分が常日頃から現代のエレクトロニック系ミュージシャンのあるべき形の好例として非常に注目しているMax Cooperも最近、最新アルバムのリード曲のミュージックビデオから切り出したデジタルアートをNFTとしてリリースしています。これはアルバム、ミュージックビデオ、NFTをそれぞれ関連付けて段階的にリリースしてオーディエンスの興味をひくようにするというとても上手いプロモーションの戦略も組み込んでいます。

またMax Cooperと同じレーベルMeshのLlyrというアーティストはフィールドレコーディングのためにボルネオ島に行き、そこで録音したコウモリの鳴き声や鍾乳洞の水滴や水流の音などを大量に集めてデジタルプロセシングしたものを音素材として斬新なエレクトロニック・ミュージックを制作しています。これもまた現代美術的な文脈としてとても訴求力のあるコンセプトだと思います。彼のインスタグラムではボルネオ紀行の際の写真や体験談がシェアされています。それらのサイドストーリーなどを含めて全体として作品が成立しているのがとても現代的でスマートです。彼もまたボルネオ紀行にちなんだ音と画像を組み合わせて映像にしたNFT作品をリリースしています。

さらにJon hopkinsは同様に2016年にエクアドルに訪れてフィールドレコーディングした際のデータを用いて、昨年Music for Psychedelic Therapyというタイトルで最高に素晴らしいアンビエント作品をリリースしていました。コロナ以前に収録した素材にもかからわず、2021年にこのタイトルでアンビエント作品を出してくるというのが実にタイムリーです。

これはドイツのエレクトロニック系ピアニストNils Frahmの2018年の作品ですが、録音は旧東ベルリンの1950年代のレコーディング施設「Funkhaus」で行われ、特注のミキシングデスクに至るまで彼が2年がかりで理想の部屋を作り上げたとのことです。一度録音されたピアノはFunkhausのナチュラル・リバーブ・チャンバー(音を投影して再録音するためのコンクリート製の部屋)を利用して再録音したり、またスペインのマヨルカ島にある友人宅の枯れ井戸を利用して自分自身で実験的に再録音して作ったバージョンもあるそうです。今の時代、単にそれっぽい音を作るためだけならコンピュータ上でシミュレートできるソフトウェアが山ほどあるにもかかわらず、膨大なリソースを割いてあえて唯一無二のサウンドを求めるこういった姿勢も歴史的に西欧の美術界、芸術界に通底している、作品のストーリー性を重んじる考え方の発露なんじゃなかろうかと強く思います。

あっ、それとPrism Remix Collectionのコンセプトについてはリンク先のDescriptionに説明してあります。英語記載ではありますがよろしかったらこちらもご覧になってみて下さい(DeepLコピペ推奨)

こちらはPrismオリジナルミックスのミュージックビデオです。