Takahiro Izutani

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海外での楽曲使用を収益にしていくには?

イタリアの伝統的な古楽器を演奏するグループEcovanavoceとのコラボレーション作品をまとめたアルバム"Mother Moon"がリリースされました。Ecovanavoceについてはこのサイトで何回か紹介しましたが、実はもう最初にやりとりを始めてから10年近くも経っています。"Mother Moon"に収録されている曲はすでにRaiというイタリアの国営放送局の傘下にあるRai Publicationという音楽出版社で管理されていてEU圏内の国の放送局のテレビ番組などで割と頻繁に使用されています。今回はその楽曲群を各種ストリーミングサービスに使う権利の整理ができたのでアルバムとしてお届けできる運びとなった次第です。
Rai Unesco 19 - Portovenere, Cinque Terre e le Isole Palmaria, Tino e Tinetto

Palermo Renaissance - Documentary - Arté and Rai 1 - Trailer from Andrea Rovetta on Vimeo.

少し前にはDugoのファーストアルバム"Lingua Franca"がドイツの国営放送のドキュメンタリー内で使用されたことをお伝えしましたが、過去に色んな形で出版管理を委託してその後ほったらかしにしてある楽曲たちがあるので、そろそろ統括して正当な権利報酬を得るための行動をしていかねばと考えています。

また他方で先日はゲーム音楽関係の出版管理をしている米国のとあるベンチャー企業から楽曲の管理を申し出たいという旨のオファーを受けたのですが、いまEU圏内ではPlayStation Networkで配信されているタイトルに関して、それが制作時に作曲家が完全買い取りの権利譲渡契約で制作した音楽に対しても著作権管理団体やゲーム制作会社とは関係なくSIE (Sony Interactive Entertainment Inc.) が独自に負担して音楽制作者に報酬を分配する枠組みができているそうです。ゲーム音楽に関しては基本的に制作時の完全買い取り契約が今でも慣例なんですが、最終的にユーザに届く形が音楽サービス同様にストリーミングになってきたりと時代の変化によって従来の法体系の枠におさまらなくなってきた結果、そういった新しい報酬システムができているみたいです。

またドイツの著作権管理団体GEMAでは著作者がたとえ非会員であってもその著作者が信託を与えたドイツの音楽出版社が代理で全世界からロイヤリティを回収できる制度ができたとのことです。これも買い取り契約が基本ゆえに著作権管理団体の会員になれないゲームコンポーザーには画期的な朗報です。これはちょっと専門的過ぎるトピックではありますが、色んなところに網を張っておいてこういう情報にもキャッチアップしていくことが後々の収益に大きな差を生んでくるのかと思います。

どこの放送局でどんな風に自分の音楽が使用されたかを確認するのには自分の場合TuneSatというウェブサービスを使っています。ここで自分が音楽出版会社に委託をしてある楽曲のmp3をアップロードしておくと、それが世界中のどこかの放送局で使用された時に自動検索で探知して実際の使用部分の音と放送局名、番組名、日付けなどが一括で確認出来るんです。あまり知られてないかも知れないですが非常に便利で、音楽出版社側でも調査確認のために使ってると聞きました。また楽曲が使用されたということは、それを気に入って取り上げてくれた人間がいるわけなので、番組名などからたどってLinkedInやFacebookで探しだした担当者に直接アプローチして売り込みをかけることも可能です。自分はまだそこまではできていませんがこういう売り込み方のTipsは洋書の「音楽業界サバイブ方法」みたいな本には頻繁にでてきますw

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TuneSatの画面。こんな風に実際の使用部分の音を再生して確認できます。

話を戻すと"Mother Moon"はEcovanavoceの楽曲を自分がリミックスする形で新しく生まれ変わらせた作品です。こちらの原曲と比べて聞いてみるのも楽しいと思いますのでよろしかったら是非。Ecovanavoceというのは造語だそうですが、回文になっていて「古い文化と新しい文化」「西洋と東洋」などが鏡写しの様に融合したハイブリッドな音楽を目指すというコンセプトで名付けたそうです。このネーミングの粋な感じに共感したのがコラボのきっかけでした。

NFTはじめました。


NFTマーケットプレイスの最大手、OpenSeaにてDugoのNFT作品の販売をはじめました。

最初の作品はPrism Remix Collectionという3トラックのセルフリミックスです。Prismというトラックは昨年、緊急事態宣言下に京都の龍安寺金閣寺を訪れた時の体験を元に制作したもので、Dugoのここ一年半の間にリリースされたものの中で最もSpotifyで再生されているものです。今回はこのPrismのテーマとなっている旋律を元にそのバリエーションをリミックスとして制作し、さらにNFTコレクションとしています。

さてその前にNFTとはなんぞやと思われる方、聞いたことはあるけど具体的にはよくわからないという方も多いかと思います。一般的な語義、定義としてはNon-fungible tokenの略で(非代替性トークン)ということですが、要するにブロックチェーンの技術を使うことでデジタルデータの不正なコピーや改ざんができなくなり、データのトレーサビリティも格段に上がったことで、その唯一性が担保されたことにより、物理的な芸術作品などと同等に扱って売買できるようになったデジタルアートなどの総称、ということになります(あってるかな?)

一般的にはジャック・ドーシーのツイートが3億円で売れただの、子供が書いた絵が160万ドルで売れただの、一攫千金的な投機ツールだと見られがちですが、自分はもっと芸術作品にとって本質的に重要な価値と可能性を内包しているものだと考えています。

以前に現代美術家の村上隆さんの著作「芸術起業論」を読んでの感想を本ブログに書いたのですが、その中で語られていたテーマに「芸術のコンテキストに沿っていかに作品のストーリーを組み込むか」というものがありました。例えばアンディ・ウォーホルの「キャンベルスープの缶」はただのスープ缶を作品とすることで当時の抽象主義をアンチテーゼとして揶揄した事がコンセプトの骨子だった様に、NFTも作品は単なるデジタルデータであっても、そこにどんなコンテキストとストーリーを紐付けるかで作品の必然性と価値が決まってくるものです。そしてその思想的な価値やアイデアに対しての共感の証として作品を購入することが購入者の自己顕示欲を満たすものでもあると思います。物理の実体が存在しないデジタルデータの作品であればそれだけコンテキストとストーリー性をいかに作品に色濃く反映させるかが重要になります。今回NFTを始めた一番の理由は自分の創作活動において、その部分にさらに注力していくいい機会になると考えたからです。

かつて、巷では意外なくらい多くのグループ名やユニット名、曲名までもが単なる言葉遊びや語感の響きの面白さで安易につけられていることに違和感を感じていた自分はユニット名に関してかなり真剣に考え、重層的な意味付けを与えながらDugoと名付けました。また曲名とそれに紐づく表現方法についても常にユニークであるように試行錯誤する時間を多くとっています。NFTというフォーマットはそんな自分にとって作品のコンセプト作りをより深く考える必要にせまられるという点でとてもチャレンジのしがいのある新しい場所だと感じています。

他のアーティストの例などをあげると、自分が常日頃から現代のエレクトロニック系ミュージシャンのあるべき形の好例として非常に注目しているMax Cooperも最近、最新アルバムのリード曲のミュージックビデオから切り出したデジタルアートをNFTとしてリリースしています。これはアルバム、ミュージックビデオ、NFTをそれぞれ関連付けて段階的にリリースしてオーディエンスの興味をひくようにするというとても上手いプロモーションの戦略も組み込んでいます。

またMax Cooperと同じレーベルMeshのLlyrというアーティストはフィールドレコーディングのためにボルネオ島に行き、そこで録音したコウモリの鳴き声や鍾乳洞の水滴や水流の音などを大量に集めてデジタルプロセシングしたものを音素材として斬新なエレクトロニック・ミュージックを制作しています。これもまた現代美術的な文脈としてとても訴求力のあるコンセプトだと思います。彼のインスタグラムではボルネオ紀行の際の写真や体験談がシェアされています。それらのサイドストーリーなどを含めて全体として作品が成立しているのがとても現代的でスマートです。彼もまたボルネオ紀行にちなんだ音と画像を組み合わせて映像にしたNFT作品をリリースしています。

さらにJon hopkinsは同様に2016年にエクアドルに訪れてフィールドレコーディングした際のデータを用いて、昨年Music for Psychedelic Therapyというタイトルで最高に素晴らしいアンビエント作品をリリースしていました。コロナ以前に収録した素材にもかからわず、2021年にこのタイトルでアンビエント作品を出してくるというのが実にタイムリーです。

これはドイツのエレクトロニック系ピアニストNils Frahmの2018年の作品ですが、録音は旧東ベルリンの1950年代のレコーディング施設「Funkhaus」で行われ、特注のミキシングデスクに至るまで彼が2年がかりで理想の部屋を作り上げたとのことです。一度録音されたピアノはFunkhausのナチュラル・リバーブ・チャンバー(音を投影して再録音するためのコンクリート製の部屋)を利用して再録音したり、またスペインのマヨルカ島にある友人宅の枯れ井戸を利用して自分自身で実験的に再録音して作ったバージョンもあるそうです。今の時代、単にそれっぽい音を作るためだけならコンピュータ上でシミュレートできるソフトウェアが山ほどあるにもかかわらず、膨大なリソースを割いてあえて唯一無二のサウンドを求めるこういった姿勢も歴史的に西欧の美術界、芸術界に通底している、作品のストーリー性を重んじる考え方の発露なんじゃなかろうかと強く思います。

あっ、それとPrism Remix Collectionのコンセプトについてはリンク先のDescriptionに説明してあります。英語記載ではありますがよろしかったらこちらもご覧になってみて下さい(DeepLコピペ推奨)

こちらはPrismオリジナルミックスのミュージックビデオです。

楽曲の完成にどのくらいの期間、時間をかけるべきか?


12/30にDugoの"Early Works"EPがリリースになりました。以下のSpotifyリンクからお聴きになってみてください。

"Early Works"EP by Dugo

今回のEPはファーストアルバムの"Lingua Franca"以前に制作した未発表曲を集めたもので、最終的な完成の時期はまちまちなのですが、最初のデモが完成したのはもう15年ほど前になります。これほど古い音源をまさか2021年にリリースすることになるとは思いませんでしたが、リリースの限界費用が限りなくゼロになったストリーミングの時代、かつロングテール戦略が当たり前になった今やカタログに加えない理由は何もないので多少のマスタリング的なお化粧直しとカバーフォトを加えて今回リリースすることにしました。

当時の自分はJ-Popのアレンジャー、トラックメーカーとしての仕事がメインで、歌ものへのアプローチが上手くできず苦心していたおり、基礎研究的に自分自身のための音楽制作も同時並行しようと思いDugoという名前をつけてトラック制作を始めたのでした。中にはMac OS9から書き出して完成させたトラックもありますが、意外なほどにさほど音質的な隔世感はないと感じています。完成の時期はまちまちと書きましたが、これらの中には3日程度で完成させたものから、一年以上かけて完成したものまであります。

自分は楽曲制作を「ゴールを探してさまよう旅」の様なものだととらえています。それはある曲では最初のアイデアがどんどん変化していき、全く予想もつかなかった形で完成したり、一瞬で思いついたアイデアを集中して一気に短時間で完成させたり、はたまた数週間、数ヶ月おきに制作して数年かけて完成したりと、完成までの道のりやその間のトラブルはその時々、曲ごとに全く異なる経過を辿るからです。そして旅のさなかに出会うひとや初めて見る風景に影響を受けたり、その旅路で自分自身との対話を経てクリエイターとして成長できることもあります。またこれら完成したものの裏では旅の途中で行き止まりにハマって戻れなくなってしまい頓挫した楽曲が山のように積み上がっています。

"Early Works"の楽曲達は相当以前に形にはなっていましたが、結局は今回のリリースによってようやく長い長い旅を終えたことになります。以前に自分のデモ音源として頻繁に配っていた時期もあるので、もうすでにお聴きになられた方もいらっしゃるかも知れません。自分にとっては今回のリリースはそんな風にしてデモ音源を受け取っていただきお世話になった方々のことを思い出す様な懐かしい機会にもなっています。

最近の自分の制作プロセスは多くの複数の楽曲を同時に進めておいて、それぞれに対してふと閃いたアイデアをその時々で加えていくというものです。上でも書いた様にとにかくリリースの限界費用がほぼゼロなので例え80%の出来でも試しにどんどんリリースしたりして、多くの人の耳に触れる機会を増やすのが重要です。またSpotifyのアルゴリズム的にもこの「チャレンジする回数」というのは大きく関わってきます。もちろん一曲に対してドップリと集中して取り掛かるのもそれはそれで必要な時がありますが、今の時代はまずは楽曲数を増やしていくのが良いと思います。

また場合によっては後々それらをアップデートしたものに差し替えるようなことすら可能です。例えば今回のEarly Works EPの中ではSugar Roadというトラックはかつてひとまずは完成した後に、イタリアの古楽器で現代的な楽曲を制作して活動しているEcovanavoceというクラシックの音楽家集団とのコラボレーションを経てDugoのファーストアルバムにGliding Birdというタイトルでアップデートバージョンとして収録されています。とにかくまずは初期段階のアイデアを大量に集めておいて同時進行で進めていき、決定的な閃きが降りてくる「その時」まで手を変え品を変えて創作の手を動かし続けるのが良いと思います。

そんなこともあってDugoは何とか新曲制作の方も完成したものが積み上がってきています。次回のリリースはまだどういう形にするか検討しているところなのですが、できればアルバムとしてまとまった分量でお聴きいただける形を目指しています。

来年も聴いていただける皆さんにポジティブな貢献できるような音楽を精一杯お届けしていこうと思います!

それではよいお年を。

超初心者に戻ったつもりで勉強し直してます。

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いま恥ずかしながら超初心者に戻ったつもりでAbleton Liveをいちから勉強してます。実は自分はLIve 3からのユーザで以前からライブパフォーマンス用には使っていたんですが、今後は制作用のメインDAWにしようと考えています。長年Logic Proで作曲してStudio Oneでミックスするというスタイルを続けていましたが、Logicはもうコンセプトが古過ぎる上に追加されていく機能が建て増しの温泉旅館の様な非効率なもので、作曲時に新しい発想を喚起するには全く向いていません。ジワジワとLogicへのストレスが溜まっていたおり、いま自分が注目しているエレクトロニック系アーティストはほとんどがAbleton Liveユーザだと知ったので、試しに制作用として久々に使ってみたところ、色々と昔は使いづらいと思っていたところがほとんど改善されている上に、直感的に曲作りするという点において圧倒的に柔軟性が確立されているとわかってしまいました。

一般的なDAWが横スクロールでリージョンを置いていきながらオートメーションデータを書いて行くことを前提とした思考を求めてくるのに対して、Ableton Liveではセッションビューとアレンジビューの連携ができることによってその縛りがないことと、Audio To MIDI機能の進化によってMIDデータ、サンプル、録音した演奏データの境界線もなくなっています。全ての選択肢から最適なものを直感的に選べるようになり、素材の種類の境界線がなくなったことで、逆に制作者に極度に思考力、選択力、決断力を求めるDAWに進化しています。オリジナルなアイデアを積み上げていくにはもってこいでしょう。これはもはやいわゆるDAWと言うよりも超高性能な単体のサンプラーとすら言えると思います。

そしてJon Hopkinsの以前のインタビュー記事での言葉がダメ押しになりました。
"[Logic is] like working in a very small courtyard, whereas Ableton is like this big massive playing field. It's almost as if you can't see the boundaries. 

このMax CooperのライブではAbleton Liveを立ちあげたラップトップからのサウンドを演奏しながら、Max for LiveからはResolume(VJソフトウェア)が立ちあげられた2台の別のラップトップにMIDIメッセージを送って制御しています。

Dugo - 'Dawn' (Official Video)