Takahiro Izutani

Level And Gain インタビュー(日本語訳)


10月のメルボルンでの講演に先駆けてオーストラリアのLevel And Gainというメディアからゲームコンポーザーとしての取材を受けました。こちらに日本語訳を掲載しておきますのでご覧になってみてください。

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Bayonetta composer Takahiro Izutani tells us how the game music industry has evolved


・ あなたはキャリアの中でいくつかの人気ゲームタイトルを担当していますが、今日の新しいゲームと2000年代中頃の作品とで作曲に関しての違いはなんだと思いますか?


一番大きな違いはデジタルオーディオやサンプリング音源の発展、進化です。2000年代中頃は現在に比べると一般的なゲームコンポーザーの制作環境はかなり貧弱でした。私の環境も同様でしたが、貧弱な制作環境ながらも、それをなんとか工夫していく過程でオリジナルなサウンドを作ることができたように思っています。


当時は誰もがハリウッドのコンポーザーの様なクォリティの高い楽曲を作るにはどうすればいいのかを模索していた時代で、私もその中のひとりでした。またYouTubeがまだなかった頃にはトップレベルのコンポーザーやレコーディングエンジニアが使ってる機材やソフトウェアの情報もなかなか入手できず、皆が試行錯誤していましたが、逆にその状況が日本のゲーム音楽をおもしろいものにしていた側面もあると思います。


現代はYouTubeやSNSによる情報の共有とソフトウェアやサンプル音源の低価格化によってプロ、アマチュアを問わずコンポーザーの使用するツールは均質化していて、それだけではコンポーザーごとの音楽の差別化につながらなくなっています。その結果ハリウッドのトップレベルのコンポーザーを中心に増々物量的に巨大な制作システムを構築して他のコンポーザーとの差別化をはかる風潮がうまれています。つまりだれでもある程度のクォリティの音楽を作れるようになったので、持っている選択肢の多さや、制作環境と高級機材への投資額で抜きん出ようとしているということです。


私がゲームコンポーザーとして活動するようになったのは2006年からですが、その頃からすでにゲーム音楽の制作方法がハリウッドの映画音楽の制作プロセスを後追いする傾向がずっと続いていると思います。


他方、この7,8年ほどはビデオゲーム創世記のゲーム音楽を再評価する動きが出てきたのが印象的です。これは子供のころに影響を受けたゲーマーがいま成長してゲーム業界で活躍するようになったからという側面と、上記で述べた物量主義型のハリウッド的音楽制作へのアンチテーゼの側面があると思います。また日本のゲーム創世記は音楽制作に関して発音数、サウンドのビットレートの厳しい限界があり、その厳しい状況ゆえに飾りを排除したピュアかつコアな楽曲が多く生まれ、その価値が改めて現在見直されているとも感じます。


私が提携しているBrave Wave Productionsではそういったレジェンドゲームのコンポーザーの作品のリリースや活動のサポートをしていますが、日に日にオーディエンスの反響は大きくなっていると実感します。


私のゲームコンポーザーとしての立場はどちらの部類にも属さないのですが、今は自身の作品をリリースすることによって新しいマーケットの開拓をめざしているところです。2017年にBrave Waveからリリースした私のソロプロジェクトDugoのアルバムLingua Francaがきっかけでヨーロッパのメディアや音楽出版社と新しい事業契約を結ぶことになりました。


・ あなたはいくつかのプロジェクトにおいて日本のゲームコンポーザーとコラボレートしてきていますが、コラボレーションでの作曲についてどう考えていますか?またアプローチを決定する際にどうやって合意に至りますか?


私は元々はアヴァンギャルド系ロックバンドのギタリストで、エレクトロニックミュージックのクリエイターでもあるので、仕事の依頼に関しては「普通のゲームコンポーザーにはないsomething else」を求められることが多いのですが、コラボレーションワークの際もその様な場合が多いです。例えばオーソドックスなオーケストレーションサウンドを作るコンポーザーの曲に、私が電子音や風変わりで複雑なリズムを加えたり、斬新なアプローチのミックスをしたりという形です。私は元々それほどコラボレーションに積極的なタイプの人間ではないのですが、楽曲に何かが足りないと他のコンポーザーやプロデューサーが感じたときに私に声がかかるので、それはとても嬉しいですし充実感と責任を感じます。


「どういうアプローチをとるかについての同意」に関して、私は常にゲーム自体に必要だと思われる楽曲の方向性、サウンドを追求するので、その点で同意できれば問題はありません。まれにですが、具体的な方向性が見えず、特定のイメージもなく、ただ漠然と時間を埋めるだけの楽曲やサウンドを作るようなディレクションをされることもあるので、そういう時にはアプローチの最終的な同意にいたるまでに時間がかかることがあります。


・ Bayonettaシリーズでは大変多くのコンポーザーがプロジェクトに関わっていますが、これはどういう経緯からなのでしょうか?


当時PlatinumGamesの社内コンポーザーチームにカットシーンの作曲に必要なフィルムスコアリングの豊富な知識と経験を持つ人材が少なかったのがその理由の一つだと聞いています。私はBayonetta、Bayonetta2と、ともに多くのカットシーンでの音楽制作を担当していますが、どういった音楽をつけるかが特に難しいと思われるシーンが集中的に私に割り振られました。これは私には量をこなすよりも重要かつ難しいシーンに集中的にリソースをつぎ込んで欲しいという狙いがあったからとのことです。


PlatinumGamesから送られてきた資料には各シーンのカットごとに分と秒を指定して音楽でどういうことを表現してほしいかが詳細に書かれていました。また使用楽器の指定もあり、エレキギターの使用は基本的に禁止でした。これは女性メインキャラクターのイメージにエレキギターのサウンドがマッチしないからというのが理由だったのですが、エレキギターを自分のシグネイチャーサウンドとしている私にとってはちょっと厳しい状況でした。


・ Metal Gear Solidシリーズでの作曲の経験について述べていただけますか?


当時Konamiの社内コンポーザーだった日比野則彦氏はKonamiを退社して自分の制作会社を設立し、その会社によって組織する数人のコンポーザーチームでMetal Gearシリーズの音楽制作を担当することを計画しており、そのチームのメンバーとして数千人もの応募から選ばれた3人のコンポーザーのうちのひとりが私でした。そしてこれが私がゲーム業界に関わることになったきっかけでもあります。


Metal GearシリーズにはKonamiの非常に優秀な社内コンポーザーの方達やHarry Gregson-Williams氏も参加しており、部分的にではありましたが彼らの制作プロセスを知ることができましたし、日比野氏による的確なディレクションによって私はゲーム音楽制作の基本的なスキルを得ることができました。私は最初に関わったMetal Gear Solid Potable OPSにおいていきなりボスステージの曲を数曲担当することになったのですが、日比野氏のディレクション無しでは私には不可能な仕事だったと思います。


そしてこの頃のMetal Gearの制作チームは私の様な新参者を受け入れてプロジェクトを活性化しようというチャレンジ精神に溢れていたと思います。今回私が講演者として参加するメルボルンのHigh Score 2019ではMGS4での私の仕事をマテリアルのひとつとして取り上げます。


・ コンポーザーとしてMetal Gear Solidの制作上において小島秀夫監督と直接関わる機会はありましたか?


残念ながら小島監督と直接関わる機会はありませんでした。Metal Gearの制作チームにはいくつかの階層があり、サウンドチームを統括していたKonamiのサウンドディレクターの方が基本的には小島監督との日常的なコミュニケーションを行う形になっていたようです。


MGS4の制作時、小島氏はメキシコ映画の「Crónicas」という作品の音楽をとても気に入っていたとのことだったのですが、まさに当時私もこの映画を見て、コンポーザーのAntonio Pintoの大ファンになったばかりだったので小島氏の音楽面での情報感度の高さに驚いたことを覚えています。外部コンポーザーとして制作することはある意味プロジェクトから部分的に切り離されている側面もありますが、Konamiのサウンドチームとしては社外コンポーザーをチームに巻き込むことによってプロジェクト内部の政治的な確執にとらわれず自由に制作ができるポジションを作るという狙いがあったようです。


・ 音楽作りの際のあなたの個人的な創作プロセスを教えていただけますか?(いつ作り始めるか、どんなテクノロジーを使うかなど)


私はもともとはポップミュージックのリミックス制作をメインにして日本の音楽業界に関わっていたので、以前はまずリズムループやシンセのコードループを作り、ループを延々と再生しながら頭に浮かぶアイデアを加えていくという作曲プロセスをとっていましたが、いまでは普段から日常的にメロディやコードが頭に浮かんだときにサウンドメモを録音しておきアイデアのストックにしています。


自宅には音響的な改築を施工したプライベートスタジオがあり、そこではそれらのアイデアからメロディやコードを発展させていき、シンプルなピアノの音で全てのノートを書いて曲の基本的構造を完成させます。その後個別のトラックの音を様々な楽器の音に差し替えていきます。


私も他のコンポーザー同様に一応膨大な量のコンピュータソフトウェア、プラグイン、サンプル音源を所有していますが、もはや特殊な制作プロセスや特殊なテクノロジーなどはなく、アイデアの源泉となる自分の脳をどうやって活性化させるかということが私の日常的な課題です。そのために食事、睡眠、運動の質に常に配慮し、世界の最新医学の情報をリサーチして肉体的、精神的なパフォーマンスが最大になるように試行錯誤しています。


強いて楽器や機材の面で私が重要視しているものをあげるとすれば、モニタースピーカーのBarefoot Sound MicroMain27とアコースティックギターのGibson J-50です。この2つの機材が私の音楽制作にとってインスピレーションを得るための核となるような重要な役割を担っています。


・ Bayonetta 3の制作が発表されましたが、私達はあなたが新作にコンポーザーとして参加することを期待してよいですか?


これはNDA (Non-disclosure agreement : 秘密保持契約書)に関わることなので私の口からはイエスともノーとも言えません(笑) ですがBayonetta3が素晴らしい作品になることを私もとても期待しています!

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