Takahiro Izutani

GameSoundCon 2019 Part 2 (Composing Interactive Music 1 by Tom Salta)

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前回に続いてGameSoundCon2019のレポートです。今回はHalo: Spartan AssaultTom Clancy's Ghost Reconシリーズの音楽で知られるコンポーザーTom Salta氏によるセッションComposing Interactive Music 1を取り上げました。

ゲーム音楽では通常のストリーミングなどのメディアで再生される音楽と異なり、ゲームプレイ中の状況にあわせて連動するようにあらかじめ組み込まれた音楽の再生方法や音楽自体の選択を決定するルールを組み込む必要があり、このためにミドルウェアと呼ばれるゲームエンジンとオーディオファイルの中間に位置してコントロールするシステムが存在します。このセッションではミドルウェアを用いたインタラクティブな音楽再生の仕組みを解説するのが主旨ですが、前半の一時間はまずTomさんの楽曲制作に関するマインドセットとモチベーションの管理の仕方に関する話でした。

ゲームプロジェクトは数年にもなることすらある長丁場の作業なので作曲においてもプロジェクトの段階ごとにそれぞれのマインドセットを作り、作業内容の選択と集中を促すための効率化が必要になります。それを5つの段階にわけて解説されました。

1 コンセプトと美学の決定 (Concept and Aesthetic Developement)

この段階は実際の制作作業ではなくアイデアを集めて方向性を決めるための準備段階だね。例えばただ闇雲に「曲をつくらなきゃ!」と無計画に作業してみたところで大抵は図の様に相当非効率な過程をたどることになるだろ?w
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そこでまずワークフローを創作段階と作業段階にわける。

自由な発想から生まれる良いアイデアは何の制約もないプロジェクトの初期段階にこそ思いつくもの。なのでまずは作品の大枠のテーマとコンセプトを決め、そういった抽象度の高いものから始めてどんどん具体的なところに落とし込んでいくのが良いよ。

この段階では楽曲自体はまだ作らずシグネイチャーになる様なアイデアやサウンドのレシピを確立したり。そのためにクライアントには参考になる様なリファレンス素材は何でもかんでももらえるように頼んだりする。例えばExcelで作ったゲーム構成のディスクリプションシートやデモとして作った楽曲のモックアップをもらえるか聞いてみたり、過去の同じシリーズのゲームをプレイしたり、発想を膨らませるために右脳の創作性の部分を思いっきり働かせるのがこの段階だね。


2 使用する音素材を初期段階で決定する (Define Your Palette Early)

次に実際に使うサウンドや楽器などを決めていくんだ。前段階で膨らませた発想を元に実際にアイデアを出してみる。(Capture random ideas)この段階ではSand Boxで遊んでいる子供と同じで、まだプレッシャーもなく大人になる必要もない。こういう時に出てきた良いアイデアは締め切りに向かって作業をしている時には決して出てこないので思いっきりとにかく遊ぼう。例えば新しく買ったシンセをいじってみたり、エフェクトで変な音を作ってウォーとか騒いでみたりなどなどw で、アイデアが固まってきたら実際に使用するサウンドと楽器を限定していくんだ。特に大事なのはこのプロジェクトの楽器編成には誰がいるのか(Who is in the band?)を想定しながらテンプレートとサウンドのパレットを作ること。カスタムインストゥルメントを作ることなんかもこの段階で決めるんだ。

パレットを限定しておくことで脳が楽器選びやサウンドのチョイス以外で後に創造性に関して働く余地を残しておくんだ。そしてゲームに置いてはステージごと、キャラクターごとのテーマとパレットをあらかじめ決めておくのも重要。こうやって右脳の創作性と左脳の論理性を制作の段階ごとに上手く使い分けるのが制作のプロセスを崩壊させないためのコツ。この段階は制作全体に費やす時間の15%くらいに相当するよ。


3 作曲 (Compose)

作曲の段階で重要な要素はテーマと変奏 (Variation)だね。強力なテーマを作ることは後々の作業に柔軟性をもたらすし、それによってクライアントもコンポーザーもハッピーになれる。転調 (Modulation)もとても有効だけどクリエイティブな転調のアプローチを考えよう。繰り返し(Repetition)も音楽の手法としてはありだけどゲームではプレイヤーは何回も何回も同じ曲をきくことになるからこれもクリエイティブなアプローチを心がける。あとはリズムのヴァリエーションも大事。リズムのヴァリエーションだってもちろんプレイヤーの感情に大きく影響するからね。

Tom氏はオーケストラのConservatory出身ではないので膨大な種類のアーティキュレーションを扱うようなテンプレート作りには興味がないようでした。それでもオーケストラのリアルを体感しておくことは重要だと。子供の頃からジョン・ウィリアムズを聞きまくり、録音物だけでなくライブオーケストラを聞く機会も積極的に得るようにしていたとのことです。またオーケストラに深い造詣があるのであれば膨大な種類のアーティキュレーションを全てロードしておくようなテンプレートも有効ですが、そうでないならば自分にとって「使える!」と思えた音に選択と集中していくほうがより効果的に自分の価値を高められるというポジションだそうです。前回のブログで触れた陣内一馬さんによればハリウッド映画音楽のトップレベルのコンポーザーになると専属のスタッフを雇って24時間立ち上げっぱなしにした機材とPC、そしてそこに立ち上げられた巨大なテンプレートを管理しており、そのトラック数は一万トラックにも及び、PCのディスプレイは第一第二ヴァイオリンのアーティキュレーションだけで上から下まで埋まっているそうです。自分はTomさんと同様に正式な音楽教育を受けてきたタイプではないので非常に共感できる部分が多く、またどこに集中的に自分のリソースをつぎ込むかという視点での話もとてもうなずける部分が多かったです。

4 テストと反復 (Testing and Iterating)
5 ファイナライズとミックス (Finalizing and Mix)

これらについては時間がなくなったため最後にサッと触れて終わりでしたw

セッションの最後にはQ&Aのセクションがあり、具体的にどんなリズム音源を使っているかなどを細かく質問されている方がいたのですが、こういった機材の話になるとどのセッションでもとたんに場違いに感じられる微妙な空気が流れていました。この時にTomさんは音源のことも親切に説明していましたが、むしろそれらをどういう自分なりの工夫で使っているかという点に時間を割いて説明していました。例えば「いまだにStylusRMXはよく使うけど、ループのカスタマイズ機能で使ってるんだ。オリジナルのループを作るために中東製のチープで無名なシンセや、CASIOの昔のシンセで作ったパーカッションの音を手で演奏して録音したものをRMXに取り込んでエディットしたりエフェクトを使って面白いループのオリジナルなライブラリを作ってるんだ」とのこと。どんな機材を使っているかのような情報はもはやシェアする価値がなく、自分なりにどのように機材を活用しているかのレベルで情報をシェアすることに価値がある。もはやこれはクリエーターとしての尊厳に関わる問題で「自分は消費側でなく供給側である」と言う自負からくる意識なんだろうと感じました。

ちなみに使っているリズム音源にしてもTomさんは全部逐一公開していました。もはやそんなことをシークレットにする必要すらないのでしょう。その質問にすら最後にはもはや使ってないサンプルをどんどん消し始めているとおっしゃっていました。

Tomさんは翌日には制作におけるマインドセットの管理についてのみをディスカッションするセッションにも参加されていました。自己管理がいかに最終的な成果物のクォリティに影響するかという点で、これもとても興味深いセッションでした。

Composing Interactive Music 2に続きます。