Takahiro Izutani

Soundtrack

追悼:坂本龍一氏の楽曲を振り返ってみました。

教授がお隠れになったとのことですので、あらためて自分にとって重要な意味を持っていた教授の曲を振り返ってみました。

Happy End (Orchestral version)


これは中学生の時発売日に学校をサボってまでレコード店の開店時間にあわせて買いに行った"BGM"に収録されていたバージョンを聴いたのが最初でした。BGMはYMOがバカ売れして以降初のフルオリジナル・アルバムで奇妙なテレビCMもバンバン流されていて、誰もがソリッド・ステイト・サヴァイヴァーを超えるインテリかつヤンキーにもわかるポップなテクノミュージックを期待されている中リリースされた激コアなインダストリアルテクノのアルバムでした。この曲はその中でもひときわ異様なトラックで最初から最後までフランジャーがかかっていてなんだかわからず、聞きながらポカーンとしつつガッカリを通り越して怒りすら湧いたのを思い出します。実はこのバージョンは教授が中二病を発症して細野さんへのあてつけでそもそも素晴らしかった楽曲をグチャグチャにしたものでした。後に様々なアレンジで再発されたりライブで披露されましたが、自分はこのオーケストラバージョンを聴いて初めてこの曲の全貌を知り、救われたと同時に「今さら!」という感情を抑えきれなかったといういわくつきの曲です。

20210310 (from "12")


教授のラストアルバムより。日記のごとく思いつくままに晩年の記録として制作されたそうですが、どの曲もシンプルなサウンドとアレンジながら丁寧に創られていることが一聴してわかります。なかでもこのアルバム一曲目はアンビエント・ミュージックとしてのひとつの完成形、到達点とすら思えるもので、シンプルなストーリー性にも関わらず何度聴いても発見があります。

The Revenant Main Theme (from "The Revenant OST")

シェルタリング・スカイ系の教授の映画音楽の発展型ですが、The Revenantのサントラはどの曲も実に教授らしく、それでいて奇をてらうことなく作品性とクォリティを一段上に押し上げた様な出来になっています。個人的にはミックスの方向性がもっとワイドな定位で仕上がっていたらもっと聞き込みたいと思える作品でした。

Technopolis (from "Solid State Survivor")


自分はYMOといったらテクノポリス、YMOの教授といったらテクノポリスというくらいこの曲の持つレトロフューチャー的な世界観が大好きなのですが、実は教授本人は売れる曲を作るために筒美京平の曲を研究してピンクレディーのウォンテッドのカウンターとして作ったとのことです。よく比べて聴いてみると確かに曲展開やベースラインなど共通する部分が多々あります。手弾きのアルペジオフレーズとブレイクで解決するところのコード進行のかっこよさは教授が天才であることを確信させてくれます。

Difference (from "B2-Unit")

デニス・ボーヴェルによるミックスやXTCのアンディ・パートリッジが参加したということで有名なアルバムの一曲目です。リアルタイムで聴いた時はなんともつまらんトラックだなと全く興味がわかなかったのですが、後にXTCを知り「Go 2」を聴いてこのアルバムのコンセプトを理解したり、またさらにその後に90年代にテクノが再ブームになった時にリズムとミックスの観点から再評価するきっかけになったりと、シンプルなサウンドながら奥の深い音楽性でした。ちなみにこの曲のドラムは教授本人が叩いているとか。BGMのCueでも教授は自分でドラムを叩いてライブでも披露していましたが、この曲を叩いてる教授の姿を見てみたかったですね。

GDC 2023 The Callisto Protocol のサウンドメイキング

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GDC 2023 The Callisto Protocol のサウンドメイキング
Brian White (Finishing Move Inc.)インタビュー 3/23 Moscone West 3F

The Callisto Protocol は日本では発売禁止となった米Striking Distance開発のホラーゲームです。GDCのサウンド関連の授賞式G.A.N.G Award 2023でも数部門でノミネートされ、Best New Original IP Audioを受賞しました。今回のGDCでは本作のオーディオに関するセッションは無かったのですが、コンポーザーチームFinishing Moveとは自分は2019年以来の交流があり、GDC会場に来ていた創立者のBrian White氏とアポが取れたので本作のサウンド制作についてインタビューを敢行しました。

Q: まず基本的なThe Callisto Protocol のサウンドコンセプトについて聞こうと思います。タイトルやストーリーのイメージや視覚的なインパクトは、基本的にサウンドのコンセプトと深い結びつきがあると思いますが、どの様にそれを構築していったのでしょうか?

BW: 私たちがインスピレーションを得た大きな要素の1つは「感染症」や「病気」という考え方です。ゲーム作品の中で人々はある種の神秘的な「Goo Injection」でテストされ、ゾンビのような病気が蔓延して狂気的な状況になります。そしてグレン(Glen A. Schofield, Director, CEO)は非常に有機的なオーケストラサウンドを作りたいと当初思っていましたが、同時にそれは"超恐ろしいサウンド"でなければなりませんでした。そこで、私たちは、どの程度まで音を曲げたり、壊したり、ねじったり、歪めたりして元の音源を認識できなくすることができるかという考えを始めました。"感染した有機的な音"を徐々に荒々しく、不協和音的に進展させるアイデアを試しました。

Q: Youtubeの動画で紹介されていたApprehention Engine(恐怖を駆り立てるようなサウンドエフェクトを作るための特注楽器)はとてもユニークで興味深かったです。


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Making of - The Callisto Protocol [Behind the Scenes]

BW: そうですね、ですがApprehension Engine以外でも大きな特徴となる特殊サウンドの1つが欲しかったのでそこからたくさんの魔法を使っています。あの箱に入っているものでたくさんの異なる音を作ることができ、また出てくる音は毎回異なります。それらは実際に素材として使う準備ができているわけではありません。もし横に立って演奏したとしても、道具小屋から道具を叩いているような音がするだけで、それらを処理していく必要があります。実際そこからたくさんのソースを得て大量に処理しています。

BW: 私たちは結局、多くのワンショットとサウンドキットを作って、それらを使って音の世界を作り上げました。キュー用にも多くの音楽を制作しており、それは4時間ほどにも及ぶのですが、ジャンプスケアなどのために小さなワンショットもたくさん提供しました。Apprehension Engineを演奏するたびに異なる方法を試してみました。実際に演奏することによってあなたはどのように演奏すればいいかがわかりそれが面白いのです。誰もそれを演奏する方法を知らないため、実際に手に取って試してみるまでわかりません。それを実験的に扱う必要があるんです。他にもいくつか楽器を作りました。その中にはDaxophoneもあります。

Q: それはどんな楽器ですか?

BW: うーん、説明するのが難しいですね、小さな木製のものです、写真で見せましょう。

BW: これは少し変わった楽器で、弓で演奏します。一定のピッチを出すのが特に難しく、演奏するには相当な技量が必要です。弓をどこで演奏し、どのように動かすかによってピッチが変化し、猿の声や時には人間の声のように聞こえます。非常に興味深い楽器ですがホラーの文脈で有用なものにするには多くの加工が必要でした。

Q: これは伝統的な楽器?それとも自作したものなんですか?

BW: これらは実際に存在する楽器で楽器製作者が作ってくれます。実験的な楽器と呼ぶこともできます。自分でそれをやりたいとは思わないです 笑

Q: ちょっとその画面の写真をとってもいいですか?

BW: いいですよ。
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Q: ありがとうございます。

BW: 私たちはまた、金属製の翼の彫刻も作りました。金属工場で大きな鉄板を切り出し、それに異なる長さの針金を差し込んで弓で弾いて異なる音程を出すことができるんです。そしてそれを閉じると非常に金属的な音色が出るようになりました。私たちはHans ZimmerがMan of Steelでやったような感じにインスパイアされたと思います。金属製の球体を使って彼はいくつかの楽器を作ったように記憶しています。それで私たちは「おー!これは本当にクールだ」と思ったんです。それで、私たちも同じことをしました。金属を扱う店を見つけてこれを作ってもらったんです。


Sculptural Percussion by Chas Smith

BW: それで何度もサンプリングしました。またドイツからコントラバス奏者を連れてきました。彼はとても実験的で、エクステンデッドテクニックやマイクの使い方、楽器のセッティングの仕方などとても経験豊富で、私たちは基本的に彼に演奏してほしいアーティキュレーションやワンショット、ベンドなどのリストを渡して「これは私たちが求めている音だ」と、彼に自由を与えたんです。というのもこの曲の多くは、私たちがうまく楽譜にできないようなエイリアンのようなものだからです。偶然性の音楽(Aleatoric)を紙の上でオーケストレーションするのは、あまり得意ではないので「こんな風に曲げてみて、これがリファレンスのオーディオです」という感じでした。

Q: ではコントラバス奏者に「How to Play」を説明するためのスコアもあるのでは?

BW: はい。私たちは基本的に求めているオーディオの具体例をたくさんあげます。そしてジョン・ケージのようなテキストをたくさん用意するんです。ちょうど演奏の仕方の説明のようなものです。そしてこれはパンデミックの時ですが彼は遠隔操作で自分の演奏を録音し、それを私たちに送り返してきました。MIDIバーチャル・オーケストラの下に置くとコントラバスが呼吸をし、弓がとてもいい音を出すのでまるで生きているように感じることができます。テクスチャー的な要素もあります。

Q: そして時にはミスや何かの拍子に予想外の音が出ることもありますよね?

BW: その通り!もうひとつ大きかった出来事として、当初ウィーンでレコーディングを行う予定だったのですが、パンデミックとゲームのスケジュールの関係でその後計画が変更になりキャンセルされたんです。

Q: 音楽制作全体に影響を与えるようなことがキャンセルされたのですね?

BW: そうです。

Q: そのおかげと言っては変ですが、結果的に自分のスタジオであらゆる実験ができたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

BW: ええ、私たちがやったことはまさにそれです。私たちは合計4人で仕上げの作業をしています。みんな自分のスタジオにいることが多く、そして自分たちの周りに何があるか?何を作ればいいのか?遠隔操作をしてくれる人に連絡する。それで何人かの友人に実験的なセッションをやってもらったんだ。チェロやダブルベースなど、さまざまな楽器を使って何を演奏できるのか?変な話だけどそういうのを全部集めてみたんだ。そして使用する可能性のあるものだけを選んでいます。つまり・・・

Q: ん、ちょっと待って。4人と言いましたがFinishing Moveは2人組のチームですよね?でもYoutubeの動画で見たのはApprehension Engineのあるステージに3人が立っているものでした。実際は何人編成のチームなんですか?

BW: Brian Trifonと私自身はチームのファウンダーです。そしてチームメンバーであるJとAlexの2人のアシスタントがフルタイムで一緒にいて作曲もしてくれるんです。

Q: それは強力なチームですね。

BW: はい。それと、そうそう、いわゆる標準的なApprehention Engeneは作曲家のMark Korven (映画Cubeの作曲家)によって発明されたものなんです。彼はホラー映画の作曲家として知られています(最近だとNetflixのWitch)彼はこの楽器を発明してコンセプトを決めてカナダのルシアー(弦楽器職人)に作らせたんだ。それで今回その同じ職人に製作を依頼したんですが、僕らのものはのはすごく高くて1万ドルくらいしました。完成までに6~8ヶ月はかかったと思う。プロジェクトチームは本当にこれをやりたがっていたし、奇妙で実験的なことをすることにとてもオープンでした。

Q: YouTubeにアップされているApprehention Engineの動画でもう一つ興味深いことがあるんですが、リバーブサウンドが特徴的で素晴らしいサウンドでした。何らかのプラグインリバーブなどを追加したのでしょうか?

BW: 私たちが演奏している映像のことですか?

Q: はいそうです。

BW: YouTubeに実際にアップロードした担当者たちがどのように編集をし、何をしたかはわかりませんが、元々それはペダルリバーブにプログラムしたデータパッチのものです。その特定のリバーブは、ええと、なんていう名前だったかなあ。

Q: 色や形などはどんなだったでしょうか?

BW: それはデュアルリバーブで、つまり2つを重ねることができるんです。だからHallからShimmerにしたり、クレイジーなピッチにしたり、ピッチシフトでラインを別のものにしたりできるんだ。家に帰ったらメッセージを送って正確なパネルを教えてあげるよ。そうだね。基本的にあれは数個の信号を組み合わせたものです。(後日届いた彼からのメッセージによるとSource AudioのVentris Reverbだったそうです。)私はあまりスプリングリヴァーブの音が好きではないんです。もっと複雑な響きをするタイプの音の方が重要なので、すぐにそれとわかってしまう様なスプリングリヴァーブは使用しませんでした。

BW: 私たちのサウンドの多くはリバーブ、ディストーション、ディレイ、EQなどのエフェクトで大幅に加工されています。それは必ずしもすごく面白い音ということでもないし、耳をつんざくようなものでもない。実際にはあまり大きな音ということですらないんです。Apprehension Engineにはピエゾピックアップを使用し、ギターペダルを接続することでよりおもしろい音を作り出していきます。通常はその様なプロセスで制作していきました。またマイクでApprehension Engineを録音してコンピュータ上の多数のプラグインで加工することもありました。

Q: なるほど、とても興味深いですね。膨大な量の恐ろしいサウンドがそうやって作られていったと思いますが、それらは基本的にサウンドエフェクトですよね?でもThe Callisto Protocolでは音楽もそのようなサウンドエフェクトと同様の質感や効果を得るために機能しているように思えます。チームの中でそのふたつはどのように差別化しているのでしょうか?

BW: 実はスタジオの責任者であるグレンから「これは音楽か、サウンドデザインか」というような区別はしてほしくないと言われていたんだ。いわば「音楽ではない音楽をデザインする自由」を大いに与えられたんですよ。音楽らしくない音楽、そして「これは音楽なのか」という境界線を押し広げるような。カットシーン以外では子音調和的な素材はあまりありません。なのサウンドデザインとは何か、音楽で本当にやりたかったことは何かということですが、例えば、非日常的ないくつかの探検を体験しているとき、角を曲がったところで何かが聞こえるとしますよね。その時プレイヤーは「あれ?後ろから、あるいは角を曲がったところから聞こえてくる生き物のような音は自分がいる空間の音の一部なのだろうか?それとも音楽なのか?」というような不安な気持ちを作りたかったんです。

BW: その音が音楽か効果音かどうかに関わらず、プレイヤーに与えるインパクトや感情がとても重要なんだ。グレンがずっと言っていたのは、あるキューを作ると「いやこれは音楽っぽすぎる」と。だから彼からのフィードバックは作曲家が通常受けるような「このサウンドは音数が多すぎるね」というようなものではなかったんだ。それはとても実験的なことだった。ホラーでは人々はそのような異世界のものを求めています。音楽においてはホラーはサウンドデザインの限界に挑戦できる数少ないジャンルです。

BW: だから音楽も効果音も、どの音も区別がつかないんです。そうだこんな感じ。あなたはこの世界に生きていてただ恐怖を感じている。主人公はスーパーヒーローではありません。スーパーパワーを持っているわけでもない。ただ本当に悪い状況に置かれている人なんです。そして彼はただ生き残ろうとしている。自分が存在することを証明しようとして。彼は刑務所に入れられた。彼はどうしてこんなことになったんだ?って。突然こんな状況に置かれて不安と途方に暮れているんだ。僕らはプレイヤーに息苦しさや不安を感じさせたいんです。このゲームは楽しい"Campy Horror"ではないからね。笑

Q: いや本当に興味深い話が多いですが、それでは次の質問です。実際のリアルな演奏やエディティングにはどれくらいの時間がかかったんでしょうか?それとこの複雑なApprehention engeneを使って良い音を作る方法については何度もトライしたり学んだりもしなければならないと思いますが、これにも相当な時間がかかったのではないですか?

BW: これは全てのプロジェクトで行っていることなんですが、私たちはツールキット的な作業を前倒しで行うのが好きなんです。つまり、これからどんなプロジェクトに取り掛かるのかを想像するんです。そしてカスタムサウンドライブラリー、カスタムインストゥルメントライブラリー、例えばKontaktインストゥルメントやUVI Falconインストゥルメントを自作して完全にデザインされた多くのソースを作り、それをキューを作るときに素早く引き出すことができたらどんな感じになるだろうか?ですからコンセプト・アートのように前もって多くの作業を行いアイデアを得ることができるのです。そしてそれをどのような場面で使用するかはわかりません。でもプロジェクト用のカスタムミュージックサウンドライブラリーということで準備だけはしておくんです。だから既存の商用ライブラリから引っ張ってくるのではなく、そのIP(Intellectual Property)のために自分たちでカスタムサウンドを作りました。ゲームではよくあることで私たちはいつもそうなのですが、あるものがオンラインになるのがとても遅くて、とても速く完成させる必要があるのです。特にシネマティックなどはそうです。そのためR&D(Research and development)をたくさん行ってたくさんのコンテンツを作り、作業するための材料を用意しておくと組み合わせて作ることによってよりスピーディに作業が進むのです。週の初めに料理の下ごしらえをしておけばその週は単に火を通すだけで食事が作れるだろ?そんなようなことだよ 笑

Q: なるほど。The Callisto Protocol が料理だとしたら食材をどのように選択するかが非常に難しいですね。ちょっとグロテスクな料理が出来上がりそうな気もしますが。笑

BW: あはは!そうだね。とにかく私は多くの時間をただただ実験に費やしてきたんだ。タカヒロ、君もおそらく膨大な量の音の実験をしたことがあるでしょう?そのうちのいくつかはただ最悪で捨てるしかないんだ。だから演奏する時間が必要なんです。そして思いつきで作った音がすべてカッコよく聞こえるとは限らないし、弾き方のわからない楽器の音がすべてカッコよく聞こえるとは限らない。だからとにかく遊んで、たくさん録音して、それを加工して、何がどう違うのか、もっともっとギブ・アンド・テイクで行き来する必要があるんだ。例えば君がただ座ってオーケストラ曲を書くとする。これがテンプレートでこれがメロディです。これはすでに知っているもので、ではそれは「ああ、こうしたらどうだろう?あれをやったらどうだろう?ああ、でも、こうやって加工したらどうだろう?ああ、これは本当にクールだって、そうやって実験的でワイルドなサウンドを思いつくんだ。まるで頭の中に何を思いつこうとしているのかさえもわからなくなって、ただ「クールなことをやりたい!」と思うんだよ。

Q: なるほど実にアツい話ですね。ところであなたたちのキャリアの初期のバックグラウンドに実験的なエレクトロニック・ミュージックがあると思いますが、それがその様な挑戦する姿勢につながっているんでしょうか?

BW: Trifonic (Finishing Moveの別プロジェクト。オリジナルなエレクトロニック・ミュージックをリリースしている) は知ってるよね?そこではサウンドデザインや、サンプリングして微調整したカスタムメイドのサウンドなど、多くのサウンドデザインに深く影響を受けているんだ。私たちは古典的な訓練を受けている音楽家ではない。だから「これがオーケストラで、これが私たちの楽器です」というような領域から来たわけではなく「ここなら全部まとめていろんなところから引っ張ってくることができる」というような電子音楽家のような価値観と精神がルーツなんだ。

Q: なるほどそうですね。最近ではギタリストですら何か印象に残る良い音を作るためにプラグインを使ったり、何らかの形で実験したりしますよね。では次はThe Callisto Protocolのインタラクティブ・ミュージックの関して話していただけませんか?

BW: それに関してもさまざまなアプローチを試みました。面白いことに私たちがうまくいくと思ったものは ゲームをプレイし、体験していくうちに最終的には変化していきました。当初コンバットのコンセプトの1つはブロックやパーカッションなどとても重たいものを使うというものでした。そしていくつかモックアップを作ってみたのですが、これがまたカッコよくてみんなに好評でした。そして、サウンドデザインが追加され、骨や血や破砕が加わり、さらに5人の敵が同時に襲ってくるようになったんです。そしてそもそも重たかったキューがほとんど重くなりすぎてしまったんです。あまりに多くのことが起こりすぎたんです。なのでひとまず激しい戦闘の作業は引っ込めました。

BW: それから非常に内向的なドローン音を基盤としたシステムを考え出しました。高いテンションを持つ要素をいくつか取り入れ、徐々に緊張感を高めていきました。また過度に浮ついたパッシブな音響効果が全体を埋め尽くすのを避け、押し寄せるような音響デザインにならないように心掛けました。私たちは怖さを表現し聴衆に強い不安感を与えたかったのです。Shepard Toneもたくさん使いました。常に上昇しているような錯覚をもたらす手法の音です。

Q: Shepard Toneはサブリミナル的な意味合いで使ったのでしょうか?

BW: ええ、その通りです。すごく小さなレベルで本当にゆっくりとした動きで作ったんです。Shepard Toneのカスタムチャプターをたくさん作りました。UVI Falconでスクリプトを作り、どんな素材でも基本的にShepard Toneとして鳴るようなプログラムです。そしてそのスクリプトを改変していくことでよりリアルなものとなるようにしたんだ。

Q: UVI Falconを使ったということはShepard Tone用にロードするサンプルもいちから作ったのですか?

BW: そうですね、全部違う素材から作りました。テンションの高いハイピッチのストリングスを置いたりせずに。本当にあらゆる素材をサンプルとして使っているんです。私たちはサンプルをキャプチャーして、そしてそれをFalconに読み込ませて、そこからShepard Toneを作るんです。

Q: すごくおもしろいです!自分もOmnisphereのグラニュラーシンセシスを使って似たようなことをやるのでそのことを思い出しました。

BW: グラニュラーシンセシスも色々試したよ。すごくおもしろいよね。

Q: それでは次の質問ですがThe Callisto Prorocolに関する音の中で自分が最も印象的だったのは実はサウンドトラックなんです。映画の類型的なサウンドや電子音楽を模した他のサウンドトラックとは全く違う音になっていますよね。とても深く複雑なリバーブや、時には音が左右へ流れていくようにクロスしたり、またインパクトのあるヒット音や突き刺すようなスティンガーの生々しさが他では聞いたことが無いほど素晴らしいです。そういった音はどのように作られたのでしょうか?ゲーム内のサウンドとは違うのか、それともゲーム内のものからそのまま構成されているのか。

BW: 実はほとんどすべてがゲーム内の素材で構成されているんだけど、かなり巧妙に配置したんだ。つまりほとんど再録音したと言ってもいいくらい。ゲームのために4時間分の音楽を書いたけど全てをサウンドトラックに収録するわけにはいかなかった。長すぎるサウンドトラックは望まれていなかったし自分自身でもそう思っていた。単調にならないように簡潔な体験を提供したかった。ドローン音楽が6分も続くようなサウンドトラックは不要だった。だからゲーム内での体験と同じように直線的に配置したんだけど、ゲーム内の音楽のベスト・オブ的なものにまとめたんだ。リスナーにはゲームを進めているような感覚になってもらいたかったし、何より飽きさせないようにしたかった。シネマティックな瞬間や緊張感、恐怖、不安など、音響的な要素に重点を置いて10時間のゲームから80分の体験を提供するようにした。つまり音楽の編集と再構築をしたんだ。数百の音楽素材から24のトラックを構成したけど、各トラックはゲーム内の4〜5個、多い時は6個の異なるキューから構成されていることもある。それらをつなぎ合わせるためのトランジションも書いた。ゲーム内の全トラックを収録するのではなく、私たちが好きでショーケースに適しているトラックだけを選んで、より緊密な体験を提供するために構成したんだ。サウンドトラックは音楽だけで表現する私たちの絶好の機会だからね。

Q: オーケストラのサウンドは生演奏なのでしょうか?それともライブラリを使用したのでしょうか?

BW: それは私たち自身が演奏したり、他の人に演奏してもらったりしたソロ演奏とKontaktの組み合わせです。部屋に80人がいるわけではなかったですね。パンデミックによるキャンセルで残念ながら私たちはやりたかったような完全なオーケストラの録音セッションを行うことができませんでした。だから個々の楽器の演奏に加えて、大きな編成のものに関してはKontaktを使用したという感じです。そして私たちはいくつかのフックを使って、恐ろしいApprehention Engineの音とオーケストラを組み合わせる方法を考えました。恐らく生演奏でそれを行うことはできないと思います。なぜならサウンドトラックではキューの多くを組み合わせて再構成しているので、そのアセットのヒストリーを調べて組み合わせを試しながら録音するのはほとんど不可能だからです。そしてすべてを私たちの指先の下に置くことで多くのコントロールが可能になることの方が遥かに合理的でした。以前大編成のオーケストラの録音を行ったことがありますが、それは予測不可能な要素が非常に多かったんです。

Q: ではミキシングそのものは誰が担当されたのですか?

BW: 私たちは常にプロジェクトに完全にミックスされた製品を提供しています。私はプロのミックスエンジニアとしてのバックグラウンドを持っているため、チームの担当者としてその作業を行っています。『The Callisto Protocol』ではクアッドアセットを提供し、WwiseとUnrealでの初期の実装作業の一部を担当しましたが、スケジュールの都合により、実装作業から退いてStriking Distance Studiosに引き継がれました。一般的に私たちは25%程度のプロジェクトで実装作業を行います。(WwiseとUnrealを使用して)残りの75%のプロジェクトでは完成したミックスアセットまたはステムをゲームスタジオに送り実装作業を行ってもらいます。

ありがとうございました!

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映画「モリコーネ」が2時間37分使っても伝えきれない部分

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今日は敬愛するモリコーネ大先生のドキュメンタリー映画を見にBunkamura ル・シネマに行ってきました。実はこの作品(原題 Ennio)はネットのストリーミングサービスで頑張って英語字幕で既に見ていたのですが、せっかくの劇場公開なのでじっくりと2時間37分の再見です。

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この作品のクライマックス部分、例えば、ボツ曲だったものが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に「デボラのテーマ」として採用された経緯や、「ウエスタン」の冒頭20分がミュージックコンクレートだけで構築されている話、「ミッション」がカバー曲ばかり使ってる「ラウンド・ミッドナイト」に負けてオスカーを取れなかった逸話、などはかなり有名なので当然とりあげあれていたのですが、残念だったのは自分にとってのフェイバリット作品「マレーナ」「オルカ」「遊星からの物体X」がことごとく無視されていた件ですw

 「マレーナ」はジュゼッペ・トルナトーレとの黄金コンビでモニカ・ベルッチ主演でグローバルにもヒットして、かつオスカーにもノミネートされていたのに、なぜかこの手のモリコーネの作品紹介のときにはガン無視されます。いつものメチャクチャ感傷的なメロディが「大人の女に恋い焦がれる童貞の中2の思い」を実に的確に表現している素晴らしい楽曲なのにw です。

「オルカ」はディノ・デ・ラウレンティスの動物パニック映画にも関わらず、ヨーロッパ的な陰りのある実に美しい旋律で密かにモリコーネファンの間でも支持が多い作品ですが、作品が地味で「ジョーズ」の二番煎じの印象が拭えないのか、やはりこういうドキュメンタリーやインタビューなどではことごとく無視されがちです。

「遊星からの物体X」はせっかく先生が作曲されたにも関わらず、映画完成前の作曲だったために、完成後にジョン・カーペンターが再録して差し替えになったことで極々一部にカルト的な人気を博している作品です。また一部はタランティーノの「ヘイトフル・エイト」にもスコアが流用されていたりと、ドキュメンタリーとしては盛り沢山の逸話があるにも関わらず、半ばリジェクト作品の様なネガティブな印象も拭えないからか、まず取り上げられることがありません。

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あとこのドキュメンタリーではハンス・ジマーのコメントが頻繁にでてくるのがとても印象的です。ハンス・ジマーの音楽には明らかにモリコーネ先生に通底するものがありますし、彼の実験精神や新しい楽器使用へのチャレンジは先生に倣っているところが大きいと思います。そのジマー作品の中で自分が特に好きな「ホリデイ」ではジャック・ブラック演じる映画作曲家がモリコーネファンで、いかにモリコーネが天才で神なのかを語るシーンがあったり、劇中にでてくる往年の名脚本家が映画協会からの招待を拗ねて拒んでいる描写は'モリコーネがアカデミー賞に対して取ってきた態度とそっくりです。またジマーのテーマ曲はまさにニュー・シネマ・パラダイス的なモリコーネ節全開w いまや大巨匠のジマーがこんなあからさまなオマージュを作るほどモリコーネ先生には傾倒していたということかと。

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最後に、ひとつ映画の中で浮きまくっていたシーンがありオリバー・ストーンだけは「モリコーネ大先生に過去の焼き直しでカートゥーンミュージックを作らせようとしたアホ」として断罪されるような描写がされてましたw

High Score 2019のKeynoteファイルとYouTube動画

メルボルンのゲームオーディオイベント High Score 2019で行った講演の際につかったKeynoteファイルをアップロードしましたので興味のある方はダウンロードしてご覧になってみて下さい。英語のプレゼンターノート(アンチョコ)も残してあります。

I have uploaded the Keynote file used during the lecture at the game audio event High Score 2019 in Melbourne, so if you are interested, please download it and have a look. I also left an English presenter note.

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当日の様子をまとめた動画もアップされています。

映画を3本ほど。

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この10日くらいで3本の映画をみてきました。

Star Trek Into Darkness 109シネマズ川崎 3D IMAX
こちらは前作がむちゃくちゃ面白かったので期待大でした。冒頭シーンの赤い木の林を駆けまわるシーンが特に臨場感があって良かったです。緻密な描写が3D効果によってうまく強調されてます。アバターでも確か似たようなシーンがありましたが。音楽はオーソドックスというか今の時代にしては古めかしいくらいの正統派のスコアです。この作品は音より映像のおもしろさの方が楽しめました。

宇宙戦艦ヤマト2199 第7章 新宿ピカデリー
昔から宮川泰先生の音楽が大好きな作品です。1章から見続けてきて最終章でようやく劇場に行くことにしてみました。ご子息の宮川彬良さんによるオリジナル楽曲のほぼ完全リメイクがとても素晴らしく、現代的なサウンドで名曲の数々をシネコンの音響で聴けるのがとても貴重な体験でした。作品とは関係ないですが平日の昼過ぎだったにも関わらず観客の95%ほどがぱっと見で40代後半と思われる方でした。あとは連れて来られていた子どもで、いわゆる若者っぽいひとはこの回は皆無。うっすらとは予測してましたがちょっと複雑な気分でした


Man of Steel 109シネマズ川崎 3D IMAX
クリストファー・ノーラン監督絡みの作品なので外すわけにはいかないという事でこちらも3D IMAXでの鑑賞。ですが今回は脚本も監督もつとめていなかったからか、あまりノーランぽくない作品でした。それと要所要所に派手なシーンをぶちかましてあるわりには3Dの効果もStar Trekほどではなかったように思います。
むしろこちらは恒例のハンス・ジマーの音楽がまた強烈で、こちらを体感しに行ったようなものでした。Dark Knight ( 以前にブログでレビューしました)あたりから続くオーケストラでの音響実験的な作風がもはや定番になってますが、もうここまでくると音響兵器ですな。ハッキリとしたテーマはあるもののメロディや楽器での演奏表現によるスコアリングではなく反復するフレーズを音響デザインとダイナミクスで変化させつつ映像にあわせている感じ。そして劇場の大音響で聴いてるにも関わらず、完全にリミッティングされて張り付いたような音でも全く耳が痛くなるような不快さがなかったです。IMAX用のミックスってどうやってるんですかね~。
それと例のドラムオーケストラは作品を見てる間は特にどこで使われてるのは気づかなかったです。技術や音楽性と関係なく著名ドラマーを集めてユニゾンで叩かせるという結構成金趣味的な企画だと思いますが、作品の宣伝やブランディングという意味合いもあるんでしょかね。でもメイキング映像は見応えあります。全員共通のワンタムのセットがカッコいいです。

次回は日本で唯一の3Dサウンドが体験できる平和島シネマサンシャインの Imm 3D sound シアターに行ってみようかと思います。


Man Of Steel Soundtrack - Percussion - Hans Zimmer

「最近どんなの聴いてますか?」

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今日はミーティング後の雑談で「最近どんなの聴いてますか?」と聞かれて「うーん特には」としか答えられなかった自分がなんか情けなかった。で、家に帰ってきて最近よく聞いたものを実際にリストアップしてみた。

 Nick Cave & Warren EllisLawless」サントラ
 Antonio PintoSenna」サントラ
 Max RichterRecomposed By Max Richter Vivaldi The Four Seasons
 Amon TobinISAM
 Berghain 05 (Marcel Fengler)
 Brandt Brauer FrickYou Make Me Real
 Animals As LeadersWeightless
 Hans ZimmerThe Dark Knight Rises」サントラ

ということで説明から入らないと通じなさそうな上に話が盛り上がらなそうなものばかりでした。でも同業の人達みんな今でも新譜チェックとかまめにしてんのかな~。あとよく見たら歌モノがひとつもない!

最近歌モノでいいな〜と思ったのはテイラー・スウィフトの「Safe & Sound」とケイティ・ペリーの「Wide Awake」です。アメリカの田舎っぽい感じが残ってるダサめのポップスが大好きです!